21 AUG/2013

代官山の店応援記念! 辺見えみりのおしゃれ夢芝居を考えてみる

ビバ! ばら色人生から学ばせて
ランチタイムのお慰みコラム
ビバ! ばら色人生から学ばせて

慢性化する経済不況、崩壊する社会規範……か弱き女にゃなんとも生きづらいこの21世紀。しかしながら親も学校も、ましてや会社の先輩や上司なんてなおさら、この世をサバイブする方法を教えてはくれません。そう、嗅覚を張りめぐらせながら学んでいくしかないのです。
そこで、昨今話題のあんな方やこんな方の生き方をお手本に、麗しき労働女子がより良き人生を送るための方法論を探っていきましょう。罵声や非難をものともしない図々しくもたくましき女たちの“生き方探訪”。

西澤千央(にしざわちひろ)
フリーランスライター。雑誌『散歩の達人』(交通新聞社)、『クイックジャパン』(太田出版)などで酒場を巡ったり芸人さんにしつこくしたり。Web『サイゾーウーマン』にて女性誌レビューも担当。世間に疎まれながら執筆中。ときどきつぶやくツイアカ→@chihiro_nishi

真夜中に「I am GOD’S CHILD…」的なポエムを書き散らし、目覚めて読んでは枕に顔を埋めてバタバタしたこと、健全なる中二であれば誰しもが経験することではないでしょうか。親への不満、社会への憤り、イケてる友達への逆恨みが激しい自己愛へと昇華される神々しいまでのセルフィッシュタイム。ちなみに筆者は中学時代、寺尾関(現錣山親方)への愛をひたすらに綴ったその名も「寺尾へ」という日記をつけていました。「鬢付け油に抱かれたい」とか、過去の自分を問いただしたい…。

まぁそんな「やっちまったな~」を繰り返して人は大きくなるのでしょうが、ごくたまに、大人になってもおかしな自己愛妄想に取り憑かれている方がいらっしゃるものです。あの頃のこっ恥ずかしさを鮮烈に思い出させてくれた、とあるセレクトショップのブランドコンセプトをまずここにご紹介したいと思います。

辺見えみり

『モダンなPARISに住みながら、生まれ育ったLAの高い空と青い海を想う、29 歳の女性が、断捨離を通して自分に必要な物が見えてきた。シンプルだけどずっと愛せるものと、新しいものとの出会いも大切に、その時の環境、季節、気分で少しづつ成長していくブランドです…』(『Plage』 HPより)

読めば読むほど脳内に喚起されるのは「ファッションセンターしまむら」な、このブランドコンセプト、いや、これはもう壮大な叙事詩か。

このコンセプトが発表されるやいなや『Plage』をネット検索する人が続出、しかしトップに登場するのは同名の理容チェーン店というズッコケたオチまで提供するというホスピタリティ。

今回のコラムの主役こそ、この『Plage』のブランドコンセプターであり現代を代表するオシャレ吟遊詩人、辺見えみりさんであります。

しかし、エスプリ漂うパリと、LAのキラキラした空と海、そしてそれらを全て断捨離しちゃうという斬新過ぎるコンセプトが庶民に理解されるのは難しかったようで、代官山の梨花の店前にドーンとオープンした床屋さんじゃないほうの『Plage』に閑古鳥が鳴いていると報道されたのは先月末のこと。

ネットでも「高い」「中途半端」「通販でありそう」「これこそ断捨離したい」など辛辣なご意見が噴出していました。確かに辺見えみりの顧客層がどの辺りにあるのか、正直検討がつきません。腐っても表紙モデルの梨花に比べ、「(パリ+LA)×断捨離=しまむら」という奇跡の方程式を無条件で受け入れてくれる熱狂的ファンがそもそもえみりはんにはいなかったのでしょう。

筆者は奇しくもえみりはんと同い年。だからまぁなんとなく分かるんです。ロスジェネさん特有の「カッコつけ」が。ダサイことはしたくない。ガツガツしてると思われたくない。だけど人とはちょっと違うと思われたい。この中身の入っていないシュークリームのような、渇望。その実何がダサくないのか、何がカッコいいのかはよく分からないのですよ。だからこのブランドコンセプトのように四方八方に保険をかけた「オシャレっぽいもの」が出来上がる。えみりはんを象徴しているのはまさにその部分で、「パリジェンヌっぽい」「大人っぽい」「カワイイっぽい」「高級っぽい」のポイポイ祭りなわけです。

そんな空虚なポエマーえみりは、案の定というか何というか、プライベート方面でもその手の方々をアツくさせているようで、特に妊娠してからの弾けっぷりは「ポスト辻ちゃん」の異名を取るほどです。

「私の中では“赤ちゃん”も“ベビちゃん”も何か違う」と、お腹の子供を“赤さん”、夫は旦那はん、自分のことは妊婦さんと呼んではファイヤー、胎児の3Dエコー写真をUPしてはファイヤー、出産後すぐにダイエットしてはファイヤー、最終的には「子どもとの写真がわざとらしい」「インテリアが演出過多。こんなんじゃダンナも気が休まらない」など火のないところにまで煙が立つ始末。

辺見えみり

このような妊婦ハイ出産ハイ、いわゆる「お花畑脳」は多かれ少なかれ誰にでもあるものです。

ではなぜえみりはんがこんなに叩かれるのでしょうか。辻ちゃんのネタ感とも長谷川理恵の図々しさとも違う、笑えないこの感じ。たとえるなら、観客のいない舞台でひとり「幸せ」という叙事詩を吟じているような虚しさと痛々しさ、そんなことをえみりはんから感じ取ってしまうのではないでしょうか。

誰も聞いてない、気にしてないのに、延々と続けられる幸せ夢芝居……そりゃもう梅沢富美男もビックリなね……。

もしかしたらえみりはんの「人とはちょっと違う私」病が自分により身近だからこそ近親憎悪を抱くのかもしれません。だって辻ちゃんやハセリエには絶対になれない(ならない)自信はあるけど、えみり的小さな勘違い集積所は日常に結構ありますからね。

そう、あなたもえみり、私もえみり。だからお願い。あなたが己の暮らしの充実っぷりを演出過多なオシャレ雑貨にのせて誰かに見せつけたくなったらどうぞ当コラムを思い出して。そのオリジナルな物言い、痛いよ!

最後に、このコラムを書くためにさまざまなえみり情報を漁っていたら「えみりmeetsやずやの香酢」CMに出くわし、新たに「(パリ+LA)×断捨離=しまむら/やずや」という公式が完成したことをお伝えして今回のところはお開き。

イラスト/村野千草(有限会社中野商店)