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AUG/2014

退職時に有給消化をする従業員は「身勝手」なのか?

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退職時に有給消化をする従業員は身勝手なのか

社会保険労務士の仕事をしていると、経営者の方から「社員が退職時に有給を何十日も消化して辞めていくことを防げないのか。」という相談を受けることがある。逆に、従業員の方から「会社を辞める予定なのだが、退職前に社長が有給消化を認めてくれない。」という相談を受けることもある。

このように、労使で主張が真っ向から対立し、落し所に頭を悩ませる「退職時の有給消化のあり方」について、本稿ではその望ましい姿を検討してみたい。

有給休暇についての労働基準法上のルール

まず、我が国の有給休暇のルールについて確認しておこう。

労働基準法では、前年度の出勤率が8割以上であれば、勤続年数に応じ、1年に最大で20日間の有給休暇が付与されるというルールになっている。また、有給休暇の権利は1年に限り翌年度へ持ち越すことができるので、従業員は最大で40日間の有給休暇を持つことができるわけだ。

そして、従業員は手持ち日数分の有給休暇を原則として好きな日に取得できるが、会社には業務に支障がある場合、有給休暇の取得日を変更させる「時季変更権」が認められている。通常は40日もまとめて有給休暇を申請されたら、会社は時季変更権で却下をすることができるが、退職時の有給消化に関しては、この時季変更権を行使することができないのは会社にとっては辛い所である。

従業員は堂々と有給消化すべし

このようなルールに基づくと、従業員が退職届の提出と同時に40日分の有給完全消化の申請をしてきたら、会社は認めざるを得ない。

「勘弁してくれ・・・」というのが会社側の本音であろう。

しかし、私は従業員が退職時に有給休暇を消化するのをためらう必要はないと考えている。その理由は、有給休暇は労働者の過去の勤務実績に対する恩典として、事後的に与えられるものだからである。法律で定められた出勤率を満たすべく、1年間真面目に働いたからこそ、有給休暇の権利が付与されたのである。また、退職時に40日間有給休暇が耳を揃えて残っているのも、有給を使わずに会社のために精勤してきたからこその結果といえよう。

我が国においては、有給消化に後ろめたさを感じる方も少なくないようであるが、自分の勤労の結果得た権利として、堂々と有給休暇を消化すれば良いのではないだろうか。

有給消化には道義的配慮が必要

だが、退職時に有給休暇を消化するならば、充分な余裕を持って会社に届出をし、「引継ぎ」を行う期間を確保した上で、有給消化に入るべきなのは、お世話になった会社に対する「道義的」な配慮なのではないかと私は考えている。

例えば、6月末日付での退職を希望し、退職前に有給休暇を40日分消化したいと考えているならば、遅くとも3月末には会社に退職願を提出し、4月いっぱいは引継ぎを行い、5月・6月に有給を消化する、というイメージだ。

「立つ鳥、後を濁さず」である。

配慮のない従業員への会社側の対策

しかしながら、会社が腰を低くして引継ぎをお願いしても、最低限の引継ぎさえも行おうとしない、道義のない従業員がいるのも悲しい事実だ。そこで、私は顧問先の会社を守るために、主に次の3つの助言をしている。

第1に、引継ぎの義務を果たさなかった場合には、退職金が減額となるルールを就業規則に織り込むことである。退職金は通常の賃金とは異なり、任意恩恵的な賃金であるから、その支給ないし不支給については、会社に幅広い裁量権が認められている。

そこで、退職にあたり引継ぎの義務を果たさなかったという事実をもって、退職金を減額ないし不支給とすることを就業規則上のルールとして定めれば、通常の人は、退職金を減らされたくないと考えるから、引継ぎを見込んだ退職日を設定し、有給消化と引継ぎの両立を図ってくれる。言い方は悪いが、退職金を「人質」にして、身勝手な退職を予防するということである。

第2に、休日出勤命令である。かたくなに有給取得だけを優先し、引継ぎを行おうとしない従業員には、休日出勤を命じることができる。休日は労働日ではないので、そもそも、有給休暇の対象とすることができないからだ。そして、有給消化に入っている従業員であっても、再三の休日出勤命令を拒否した場合は、懲戒解雇の事由にもなりうる。

休日出勤に対する割増賃金は発生してしまうが、どうしても引継ぎをさせなければならばならない場合には、強制力を伴う数少ない出勤督促手段である。実際に懲戒解雇までは行わないにしても、それを示唆することで、退職日の調整や引継ぎを促す効果が期待できる。

第3に、有給休暇の買取りである。有給休暇の買取りは本来違法であるが、退職時に任意恩恵的に会社が買い上げることまでは禁止されていないというのが厚生労働省の見解である。そこで、転職先への入社日が既に決まっているなど、従業員がどうしても退職日を後ろ倒しできない場合には、会社と従業員で話し合って双方が合意したならば、有給消化を諦めて引継ぎをしてもらうかわりに、残った有給は買取るということも実務上の対応として可能であろう。

もっとも、個人的な意見としては、引継ぎを考えないまま、次の会社の入社日を早々に決めてしまうような従業員は、どこへ行っても大成しないと心配になってしまうのだが。

総括

ここまでの論旨をまとめると、従業員は正当な権利として退職時の有給を消化できるが、その権利を行使する場合には、お世話になった会社への最低限の「道義上の配慮」として、引継ぎだけはしっかり行うべき、というのが私の意見である。

すなわち、退職時に有給休暇を消化すること自体は決して身勝手ではないが、引継ぎも行わずに権利だけを主張する有給休暇の消化は身勝手だ、ということである。

会社側の目線で言えば、従業員の有給休暇を消化する権利は尊重しつつ、ただし、最低限の配慮さえしてくれない従業員に対しては、法律上の技術を駆使して予防線を張っておく、というのが、退職時の有給消化については最も合理的な「落し所」ではないだろうか。

文/特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵
※2014年7月に取材・執筆された記事を原文ママ転載しております。

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 榊 裕葵さん

著者プロフィール
榊 裕葵

1981年生まれ。愛知県出身。地元の高校を卒業後、東京都立大学法学部へ進学。大学卒業後は上場企業の海外事業室・経営企画室へ勤務し、事業戦略の立案、グループ企業の業績評価、ジョイントベンチャープロジェクト推進など、企業経営における様々な基幹業務に携わる。社会保険労務士、CFPの資格も取得した。2012年4月、東京都トラック協会にて労働法セミナーの講師を担当。また、学生時代の塾講師経験と専門家としての知識を生かし、オンライン予備校「seep」にて社会保険労務士試験受験講座の講師を担当。
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