23 MAR/2015

理論重視のスーパー高学歴女子とは京成線沿いの飲み屋へGO!?/『デート ~恋とはどんなものかしら~』藪下依子の扱い方

ビバ! ばら色人生から学ばせて
ランチタイムのお慰みコラム
ビバ! ばら色人生から学ばせて

慢性化する経済不況、崩壊する社会規範……か弱き女にゃなんとも生きづらいこの21世紀。しかしながら親も学校も、ましてや会社の先輩や上司なんてなおさら、この世をサバイブする方法を教えてはくれません。そう、嗅覚を張りめぐらせながら学んでいくしかないのです。
そこで、昨今話題のあんな方やこんな方の生き方をお手本に、麗しき労働女子がより良き人生を送るための方法論を探っていきましょう。罵声や非難をものともしない図々しくもたくましき女たちの“生き方探訪”。

西澤千央(にしざわちひろ)
フリーランスライター。雑誌『散歩の達人』(交通新聞社)、『クイックジャパン』(太田出版)などで酒場を巡ったり芸人さんにしつこくしたり。Web『サイゾーウーマン』にて女性誌レビューも担当。世間に疎まれながら執筆中。ときどきつぶやくツイアカ→@chihiro_nishi

信愛なる働く女性の皆様、ご無沙汰しております。いやお前知らねえしという方、初めまして。三度の飯より好きなものは夜中に食べる飯、西澤です。

ドラマの登場人物をあれこれ妄想するというこちら『ドラマチック処世術』、栄えある第一回のテーマは『デート~恋とはどんなものかしら~』の主人公、藪下依子です。やはりね、腐っても月9。普段朝ドラと昼ドラくらいしか観ない私ですが、たぶんおそらく初回に『花嫁のれん』の矢田亜希子はダメなんでしょう。それが資本主義ってもん。

依子は東大大学院を卒業し、国家公務員として内閣府の研究所で働くスーパー高学歴女子です。効率を徹底的に重視し、人生も全て計画通りに運ばねば気が済まない四角四面オンナ。そんな依子が30歳までに結婚するという計画を遂行するため、婚活に励むというから、穏やかじゃありません。まさに365日恋の本場所、月9ドラマ。

第一回 『デート~恋とはどんなものかしら~』の藪下依子

第一回 『デート~恋とはどんなものかしら』から、杏さん演じる藪下依子

依子は超高学歴でありながら恋愛偏差値はゼロ。しかし「何事も努力をすれば成し遂げられる」という、受験戦争を勝ち抜いた猛者ならではの信念を持っていますから、婚活のために片っ端から読み漁ったモテ雑誌から間違ったアヒル口を習得し、メールに意味不明な絵文字を賑やかし的にまき散らし、ガチなサンタコスプレで登場して相手を引かせ続けます。

しかし、実際にこんな女の子がいたらかわいいじゃねえか! いじらしいじゃねえか! その証拠に奇跡の当て馬アクター、中島裕翔演じるさわやか熱血スポーツマン、鷲尾にモーレツアタックをかけられます。おいおいうらやましいじゃねえか! しかし依子の目的はあくまで「契約としての結婚」ですから、恋愛感情をぶつけてくる鷲尾をあっさりと袖に。このドラマを「袖にされる鷲尾」目的に観てる人、絶対に多いはず。

依子はおそらく「自分は高学歴である」「賢い」ということを大して意識していないのでしょう。東大出身女性と話していてよく感じるのですが、割と「突き抜けている」方が多いというか、「頭がいい」など「今日朝ごはん食べた」と同じくらいの意味しか持っていないような印象。「私が高学歴だから上司とうまくいかないのかな」とか「男の人ってやっぱりちょっとおバカな子の方が好きなんだよね」とか、溜息つきながら思わせぶりに飲み屋のカウンターで愚痴ったりしなさそうですもんね、依子は。それは「うまくいかないのは自分の努力が足りないからだ」と思う依子の謙虚さでもあり、そんな依子に鷲尾は魅かれ、また袖にされる。鷲尾!!

なんだかんだで「可愛げがない」というイメージを持たれがちな高学歴女子ですが、依子は仕事はきっちりし過ぎるほどやるし、同僚であればむしろ有り難い存在なのではないでしょうか。表面サバサバ女のお仕着せ姉御感(例:RIKACO)もなく、変わってるって言われる私、どう? 感(例:吉高由里子)もなく、同性としては極めてストレスの少ない相手かと。ただ空気を読まずに上司にも取引先にも正論をぶつけると思われ、現場の敗戦処理はなかなか大変そう。そんな依子とは、世の中四角四面ばかりじゃ生きられない、理論を超越したところで生きている人間もいる……ということを体感できるアミューズメントパーク、京成線沿いの飲み屋へGO! 「痛風で膝いてえんだ~」と言いながらモツ焼きを食ってる矛盾まみれのミッキーマウスたちに触れさせてあげましょう。NOプリン体、NOライフ。免疫と偏見のない依子タイプは痛風おじさんと恋に落ちちゃうかもね~。痛風おじさんにも負けちゃう、鷲尾!

スーパー高学歴女子の依子も、実は幼いころに亡くした母(すんげえ数学者)に追い付かない自分にもがき苦しんでいたりして、そういうところもキュンとするこのドラマ。努力で成し遂げられないことはないと信じながら、努力でどうにもならないことがあるのも分かっている。賢い人というのは、自分より賢い人がいることを知っているんですよねえ。高学歴もモテないことも、自虐にするでもキャラにするでもなく、自分という人間と付き合い、ちゃんと苦しみなさいと依子及びこのドラマは教えてくれている気がします。

そして依子を演じる杏の、父母の泥沼離婚、母の借金などを乗り越え人気者になった今も飢えたボクサーのような絶望感ほとばしらせるあの目ですよ。「精神一到何事か成らざらん」という我々の戦後マインドをビンビンに刺激する杏と依子。そしてますます「何とかせいよ鷲尾!!」という思いに震えるのであります。

理論重視のスーパー高学歴女子とは京成線沿いの飲み屋へGO!?/『デート ~恋とはどんなものかしら~』藪下依子の扱い方

イラスト/村野千草(有限会社中野商店)