スパイス・ガールズ再結成記念!ケツでかガールたちが放つ“図々しさ”という閃光 【連載:ビバ!ばら色人生から学ばせて Vol.14】
慢性化する経済不況、崩壊する社会規範……か弱き女にゃなんとも生きづらいこの21世紀。しかしながら親も学校も、ましてや会社の先輩や上司なんてなおさら、この世をサバイブする方法を教えてはくれません。そう、嗅覚を張りめぐらせながら学んでいくしかないのです。そこで、昨今話題のあんな方やこんな方の生き方をお手本に、麗しき労働女子がより良き人生を送るための方法論を探っていきましょう。罵声や非難をものともしない図々しくもたくましき女たちの“生き方探訪”。
西澤千央(にしざわちひろ)
フリーランスライター。雑誌『散歩の達人』(交通新聞社)、『クイックジャパン』(太田出版)などで酒場を巡ったり芸人さんにしつこくしたり。Web『サイゾーウーマン』にて女性誌レビューも担当。世間に疎まれながら執筆中。
みなさん、ロンドンオリンピック(まだ引っ張るか……)閉会式はご覧になったでしょうか。お茶の間的にはあまり馴染みのないミュージシャンやらが大挙して出て来てしまい、中継を担当していたNHK鈴木奈穂子アナは大混乱。演奏中に全く関係ない話(「○○選手は帰ったらお母さんのカレーが食べたいそうで~す」など)をペラペラしゃべって怒られてました……ケイト・モスやナオミ・キャンベルをまとめて「モデルさん」と表現するなんてさすがエース級。
さて、そんなウブな鈴木アナがかろうじて「この方は……ベッカムさんの奥様ですね!」と判別出来た、公共放送的にもゴイスーなグループが今回の主役。タンクトックから浮いたビーチクは女の勲章、スパイス・ガールズ(Spice Girls)さんです。五輪閉会式で奇跡の再結成を果たしたのであります。
若い読者の方はご存じないかもしれませんが、このスパイス・ガールズ、アルバムとシングルのトータルセールスは約7500万枚、世界中を席巻したと言っても過言ではないスーパーアイドルグループです。
メンバーは5人。簡単にご紹介しますと、スナックのママ的な貫禄を魅せる年齢詐称上等な赤毛がジェリ・ハウエル(愛称はジンジャー)、バッキバキに割れた腹筋がトレードマークのメラニーC(愛称はスポーティー)、笑わない研ナオコでおなじみのヴィクトリア・ベッカム(愛称はポッシュ=気取り屋)、この子誰の子エディ・マーフィーの子?を身ごもったことでも話題になった褐色美女がメラニーB(愛称はスケアリー=おっかない)、全世界のぽっちゃりさん希望の星がエマ・バントン(愛称はベイビー)。
デビュー曲「wannabe」のPVでは5人の下品な女たちが上流階級のパーティーに乱入して大騒ぎ。テーブルクロスをひっくり返し、おっさんの膝に座り、好き勝手にキスしまくって、挙げ句テーブルの上でバク転。もう、森光子センセイがでんぐり返しするのと同じくらいの衝撃でした。
歌詞もまた言いたい放題でして「アタシの貴重な時間を無駄にしないでよね」「カレシになりたいなら、友達ともうまくやんなきゃダメよ」「うだうだぬかしてるなら、サヨナラするだけだし」と、叶恭子お姉さま状態。恭子さまの場合は「メンズになりたいなら、美香さんともうまくやんなきゃダメよ」ですけどね。まぁ日本であれば「ぶっさいくのクセに何言ってんだコイツら」と、童貞くせぇ男たちとブスを自認する自意識の捻じれた女たちにボコボコにされそうな内容で。
私、恥ずかしながら昔「女性学」的な学問をちょっぴりかじっておりまして、エライ先生たちのおっしゃる「男に負けるな、オマエたちは差別されとる!」という煽りに「センパイの言うとおりっす!」とヘッドバンギングする一方、「でも、男にモテたい」という本音が体の芯をズキズキさせるような、非常にアンバランスな青春時代を送っていたのですよ。
そこに突如現れたスパイス・ガールズ。日本人のアイドル観からは大きく外れる、腹筋割れケツでか化粧ゴッテゴテ愛想ワルの調子こいた女たちが「アタイと付き合いたきゃ、カラダ張んなよ!」と歌い踊っているわけです。そして私は気づきました。私は考え過ぎていたのだと……。それからというもの、ほとんど何も考えずに生きて現在に至ります。
さてさて、現代は「プロデュースの時代」などと言われていますね(ごめんなさいね唐突に)。某AKMT先生が大真面目な顔で「自分の魅力は自分じゃ分からない。誰かの(俺の)意見に身を任せるべき」とかヌかしちゃうご時世。アイドルじゃなくても自分の中にAKMTを飼い、セルフプロデュースという名のフレイムワークに余念がありません。そうでもしないと会社に埋もれ、フェイスブックに埋もれ、TLに埋もれ、人生にも埋もれて、糸井重里も探さない徳川埋蔵金になってしまいそうな不安がありますから。
「いつもキラキラ人生をエンジョイ!ポジティブに生きていきたい」って、ツイッターのプロフに書いている人は、なかなか「マジ殺意」とは呟けない。「明日セロが会社ごと消してますように……」ともね。しかしスパイス・ガールズは「フレンドシップネバーエンド!」とか言いながら、いともあっさり仲違いして脱退したり解散したり。自分で設定した自分の掟に足を取られてすっ転ぶくらいなら、これくらい図々しくヤルのも一つの手です。
「男なんていらないよね☆」と誓い合った女子会仲間に「カレが出来たって言えない……」とお悩みのアナタ、どうせなら「コイツ釣ったったわ!」と松方弘樹が巨大カジキ釣り上げた位のテンションでカマしてやりましょう。「これだから……マグロはやめられねえ……(※『松方弘樹世界を釣る』より)」の名言とグラサンを忘れずに!
「図々しく生きる」というのは、自分の人生の舵を手放さないということなんですねえ。誰かに「ジャカルタ行け」って言われて行くのとは違います。裏を返せば人生への責任を持つということだから、結構難儀。
スパイス・ガールズがBBAになって再結成してもあまり悲壮感がないのは「アタイら好き勝手やって好き勝手に集まって、また好き勝手に解散すっから!」という図々しさが随所に見え隠れするからかもしれません。やっぱ女は調子こいてナンボ……。
イラスト/村野千草(有限会社中野商店)