今一番とやかく言っちゃいけない女優・綾瀬はるかに(小声で)物申す!天然女という地雷 【連載:ビバ!ばら色人生から学ばせて Vol.15】
慢性化する経済不況、崩壊する社会規範……か弱き女にゃなんとも生きづらいこの21世紀。しかしながら親も学校も、ましてや会社の先輩や上司なんてなおさら、この世をサバイブする方法を教えてはくれません。そう、嗅覚を張りめぐらせながら学んでいくしかないのです。
そこで、昨今話題のあんな方やこんな方の生き方をお手本に、麗しき労働女子がより良き人生を送るための方法論を探っていきましょう。罵声や非難をものともしない図々しくもたくましき女たちの“生き方探訪”。
当コラムをお読みくださる奇特な方であれば共感していただけますでしょうか。「天然」が好評価につながることへの激しい疑問。特に女性は天然な同性に対して大海のような深い懐を見せることが「女の余裕」と捉えられるきらいが多く、全くもってポイズンです。しかし、私は反町さんになり代わり敢えて言いたい。世間様が何と言おうと、天然女、それはアタイらの地雷です!
分かっています。今、綾瀬はるかをとやかく言う=「なでしこジャパンを応援しない日本人」と同じ扱いになることを。後ろからジャイアントコーンを投げつけられるかもしれません(SK-Ⅱを投げつけられたらそれは全力でキャッチします)。
そもそも、この「天然であれば全てが許される」という風潮はどこからやってきたのでしょうか。100%保身の為に申し上げますが、綾瀬はるかがイヤなのではなく、「かわいいのに天然(だからイイ!)」というこのロジックに異議を唱えているのですよ。綾瀬さんは本当にステキな女優さんですからね!
「綾瀬 天然 エピソード」でググれば、それはまぁ神がかった伝説がてんこもりで出てきます。大阪城を「キレイなお寺……いや、神社?」と言い放った“プリンセス・トヨトミ、政教分離を一刀両断”事件、映画「あなたへ」で共演した高倉健御大からもらった手紙を「(ホテルの部屋にフルーツの差し入れとともに置いてあったから)料理長さんからかと……すごく達筆で読めなくて」と謎の言い訳カマした“ラブレターfrom網走番外地”事件、俳優のベンガル氏に「ハーフですか?」と尋ねた“本名は柳原晴郎だよ!”事件etc。
そして、今や綾瀬さんを代表する一発ギャグとなった「コケ」。この人はとにかくよくすっ転んでます。『ひみつのアッコちゃん』の初日舞台挨拶でつまづいて香川照之に追突するというハプニングでは「己の野心の為なら憎き父親を利用することも厭わないでお馴染みの香川さんにアンタなんてことを……」と震えたものですが、周囲は「また~(カワイイやつめ)」という牧歌的な反応だったようで。よくよく考えてみたら初日舞台挨拶に「コケる」なんて沢尻エリカのギャートルズ並みに不吉だと思うのですが、その辺りを指摘することも、現在霊長類最強を誇る綾瀬さんに対してはのれんに腕押し、糠にクギ、林真理子の耳に念仏。
もはや構成作家が付いてる疑惑が起こってもおかしくない、綾瀬はるかの無双ぶり。本当に天然なの?という疑問より、御年27歳の彼女に「それはおかしいよ」と指摘しなかった社会が、あたしゃ憎い。
ドリフの「もしもシリーズ」で妄想してみてくださいよ。もしも綾瀬はるかがカフェ店員だったら、間違いなくスーツにコーヒーぶっかけられますね。もしもコンビニ店員だったら、発注の数ゼロ一個間違えて廃棄がとんでもないことに。もしも綾瀬はるかがOLさんだったら、3日に一度はコピー機ぶっこわすでしょう。もしも綾瀬はるかが同僚だったら、こちとら彼女がやらかした尻拭いで残業させられてるっつーのに当のご本人はニコニコと缶ビール差し出して……そりゃ向井理だって惚れちゃうはずだよね!
どうでしょう、半径5mの綾瀬はるかはこんなにも地雷感満点。これでも貴女は「カワイイからイイ」と言うのですか?「天然だからイイ」と言っちゃうのですか?海は死にますか?山は死にますか?「天然」、それは自意識渦巻く現代社会に、全てを赦す免罪符として人間が生み出した幻想に過ぎません。そんな「天然」が、いつしか己の持つ強大な権力を自覚し、善良なる非天然モノである私たちの生活を脅かしているのです。まるで『モダンタイムス』で人間が作り出したはずのマシーンに人間が支配されるようなこのアイロニー。
しかし最も深刻な問題は綾瀬はるかが天然うんぬんではなく、「綾瀬はるかを好きって言っとけばとりあえず丸く収まるんじゃねーか」という私たちの逃げの気持ちです。その問題先送り感がメディアでの“綾瀬はるかバブル”を生み出し、女性誌をめくればパンかじりながらダッシュしている朝のOLさん風綾瀬はるか、テレビをつければ嬉しそうに綾瀬はるかの天然エピソードを語るおっさん俳優、ハイ今日も綾瀬さんはコケてましたよ~といういらぬ情報……正に「綾瀬はるか・キル・ミー・ソフトリー」。
天然に「NO」と言える勇気、これこそが自らの身を助ける唯一の方法です。気分的には「ベンガル・イズ・ジャパニーズ!」という立て看板を掲げてデモのひとつでもしたいところですが、まずは身近なところから。天然ちゃんが何もないところでけっつまづいたら「ふらつきは病気のサイン」と真顔で受診を勧める優しさから始めましょう。
綾瀬はるかを「天然マジ神」と崇め奉る陰謀集団には「天然の鮎は岩場の苔をかじり取るから養殖に比べて顎が張っている。だからといって綾瀬はるかを天然と決めつけるのはいかがなものか」と論理的に立ち向かうのですよ!
イラスト/村野千草(有限会社中野商店)