18 OCT/2012

出稼ぎ女優・中山美穂に学ぶ「パリというビョーキをなんとかしなくっちゃ」 【連載:ビバ!ばら色人生から学ばせて Vol.17】

ビバ! ばら色人生から学ばせて
ランチタイムのお慰みコラム
ビバ! ばら色人生から学ばせて

慢性化する経済不況、崩壊する社会規範……か弱き女にゃなんとも生きづらいこの21世紀。しかしながら親も学校も、ましてや会社の先輩や上司なんてなおさら、この世をサバイブする方法を教えてはくれません。そう、嗅覚を張りめぐらせながら学んでいくしかないのです。
そこで、昨今話題のあんな方やこんな方の生き方をお手本に、麗しき労働女子がより良き人生を送るための方法論を探っていきましょう。罵声や非難をものともしない図々しくもたくましき女たちの“生き方探訪”。

西澤千央(にしざわちひろ)
フリーランスライター。雑誌『散歩の達人』(交通新聞社)、『クイックジャパン』(太田出版)などで酒場を巡ったり芸人さんにしつこくしたり。Web『サイゾーウーマン』にて女性誌レビューも担当。世間に疎まれながら執筆中。ときどきつぶやくツイアカ→@chihiro_nishi

日本人の三大疾病といえば、悪性新生物(ガン)、急性心筋梗塞、脳卒中。どれも放っておけば死に至る恐ろしい病気ですね。では「オンナの三大疾病」とは何でしょう。女性、特にアラフォー近辺の女性がかかると重篤化する恐れがある病。ナチュラル志向、福山雅治ときどきスガシカオ、そしてパリ。

その中でも最も恐ろしいのが「パリ」という病気です。これはもう日本人が逃れらない運命、国民病と呼んで差し支えありますまい。「このドレスはおフランス製ざぁ~ます」と鼻の穴膨らますのがかつての金持ちババアのデフォルトであったように、フランスは長らく日本人における“物欲の終着駅”的役割を担ってきました。よく分からないけどヌーヴェルヴァーグを語りたいし、記念日はフレンチじゃなきゃイヤだし、パリコレ出演モデルは無条件にスゲー。今回ご紹介するのは、そんなパリ病を患って早10年の中山美穂さんでございます。

中山美穂

映画『新しい靴を買わなくちゃ』で主演を務める中山さん。フリーランスライターがバナナの皮的なもので(※多少フェイクあり)すっ転んだ所に偶然イケメンカメラマンが居合わせるという、おそらく今世紀中には誰も思いつかないであろう奇想天外なストーリーで、上映前から話題騒然です。映画の舞台もパリ。もちろん中山さんは設定上もパリ在住。芸術の都・パリで、吉本新喜劇ばりのベタなコケを披露するあたり“演技派ミポリン”ここにあり。

いつからでしょうか、パリ在住という肩書きが、経歴をきれいさっぱりロンダリングする免罪符となったのは。中山さんの『WAKUWAKUさせて』な過去も『JINGI愛してもらいます』な過去も帳消しにしてくれる街こそ、パリなのです。

中村江里子は『どうーなってるの?!』で小倉さんのアシスタントをしていたのがそんなにツラかったのか、雨宮塔子は毎週「巨匠、星いくついただけますか?」と聞くのがそんなに苦痛だったのか、まぁそんなこんなでパリに住めば女性誌でしゃらくせえコラムの一つや二つ持つことが可能になります。

パリで生まれ変わった(と思い込んだ)女たちはしばらくすると「高尚なことを言いたくなる」症状を呈するようになるのですよ。中山さんのツイッターもかなりハイレベルな周波数。難解です。

「記憶は時間との戦いなのかな。記憶って本棚に並んでるようなものなのかな。そうとも言えるしそうじゃない。ふと」

これは「TSUTAYAに並んだビーバップと毎度おさわがせしますのDVDを廃棄してくれ」という意味でしょうか。さらに

「人のはしゃぎっぷりを見て痛いと思う人ってどれだけ達観しているんだろう。世の中痛いことだらけよ。痛みが分かるって易しいことだけれど、つまらぬ浅い痛みを重ねられても困る。って何だかね。今にも戦争が起こりそうじゃない。じゃんけんしてる場合じゃないのに。痛い。イタイ。いたい」

中山美穂

おお!これはご自身の映画に対する深い自己省察と考えて間違いないでしょう。この事例は中山さんに限ったことではなく、雨宮塔子が某誌インタビューで「原稿は必ず原稿用紙に手書きで。それをFAXで送ってます」とビックリ発言していたことからも察するに、初めて地上波のゴールデンに出た若手芸人が「尖ったことを言わなくちゃ」と気負うのと同じような症状が出てしまうものなのでしょう。パリ在住芸人か。

アラフォー女性たちがいとも容易くパリ病を発症する背景には、幼い頃に受けた「ベルばらショック」が大いに関係あると思われますが、稀代の名作故、こればかりはどうにも対処法がありません。ただ厄介なのは、パリ病患者が病を認識せず「パリってこんなにステキ、っつーかパリに住んでる私がステキ」という妄言を振りまく、いわば新たな感染源となっていること。パリ病患者は帰国という名の出稼ぎを繰り返しますから、病原菌は蔓延する一方……。

しかし今回、パリという幻影を吉本新喜劇の手法で暴く、ゴダールも泡吹いちゃう斬新な映画『新しい靴を買わなくちゃ』ワクチンのおかげで、相当数のウィルスは死滅するはず。「アンドレの声は志垣太郎」という事実から目を背け続けてきた女性たちも、さすがに「これはない」と気づくでしょう。パン屋をブーランジェリー、ジャムをコンフィチュール、かまやつひろしをムッシュと言いがちな貴女、早めの受診否鑑賞をオススメします。

中山さんの真の功績とは、ググると「辻仁成 気持ち悪い」が先頭に出てくるジンセー先生とご結婚されたことよりも「パリはおっかねえとこだ」ということを世に知らしめたところにあるのです。

イラスト/村野千草(有限会社中野商店)