稼ぎ過ぎない夫の方が妻は働きやすい?! 同じ世帯年収でも夫婦の年収バランスで変わるワーク&ライフ【FP監修】

ファイナンシャル・プランナー 氏家祥美さん
ファイナンシャル・プランナー 氏家祥美さん ' description='専業主婦、会社役員を経て、2010年に女性のためのお金と仕事の相談室「ハートマネー」を設立。家計管理とキャリア&マネープランを得意とし、女性に向けての個人相談のほか、講演、セミナーなどを積極的に行っている。女性の自立と自己実現を応援する「キャリア35」のメンバーとしても活躍中
http://www.career35.com

女性の生涯賃金は2億5700万円。一方、出産をきっかけに退職して子どもが小学校に上がってパートに出た人は4900万円とその差は2億円を超える
結婚・出産後も働き続ける女性が増えている一方で、20代の専業主婦志向が強まっている。2012年の内閣府の世論調査によれば、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」と考える20代女性は43.7%に上り、2009年の調査より約16%増加している。だが夫の収入だけで、子どもを産んで育てていこうと考えるのは現実的なのだろうか。
「子育て世帯が実際にどれくらいの収入や支出で生活しているかは、統計の数字を見ると目安になりますよ」と教えるのは、ファイナンシャルプランナーの氏家祥美さん。
総務省による家計調査報告(平成24年)によると、勤労者世帯のひと月当たりの消費支出は、3人家族で約29万円。これを「夫婦+子ども1人」の世帯と考えれば目安になるだろう。同様に、4人家族で31万7000円、5人家族で33万5000円、6人家族で33万8000円となっている。
子どもが1人以上いる家庭が生活していくには、少なくとも月に30万円以上のお金が必要になりそうだ。
「ちなみに幼稚園から大学までの教育費は、子ども一人当たり1000万円が目安。中学や高校から私立に行った場合にはもっとかかります。子どもが18歳になるまでに大学の費用を積み立てながら、小学校から高校を卒業するまでは年間50万円ずつ目先の教育費として支出があると考えてください」
さらに、勤労者世帯の平均年収を見ると、3人家族で590万円、4人家族で650万円、5人家族で674万円、6人家族で657万円。ただし氏家さんによると、「このデータは全国平均なので、住居費が約2万円とかなり低い額で計算されている」とのこと。都市部での生活を想定するなら、その差額を加えて考えることが必要だ。
例えば家賃12万円の部屋に住みたいなら、この平均値に月10万円の差額、年間120万円が加わる。3人家族なら710万円、4人家族なら770万円ほどの年収が必要になると考えるべき。
しかし、この額を一人で稼げる男性と結婚すれば専業主婦になれるかというと、一概にはそうとも言えない。なぜなら、夫一人の収入源に頼るということ自体がそもそもリスキーだからだ。
「給与の高い大企業であっても、景気の影響で収入やボーナスが大きく減ることもありますし、リストラにあえば、夫の収入だけでそれまでの生活を維持するのは難しくなります。その時に慌てて働きに出ようとしても、ブランクの長い女性が即座に正社員として再就職するのはハードルが高く、パートやアルバイトとして働くこともなかなか難しいのが現状です」
さらに氏家さんは出産後も仕事を辞めずに働き続けた女性と、出産・育児のため一度退職した女性の生涯賃金について言及する。
「平成17年版『国民生活白書』によると、大卒女性が育児休業を2回取得しながら定年まで正社員として働き続けた場合、生涯賃金は2億5700万円。それに対し、第一子の出産を機に仕事を辞めて、子どもが小学校に上がってからパート勤めに出た人の生涯賃金は4900万円に留まります。つまり、出産を機に退職した場合、その瞬間に約2億円の生涯賃金を失うことになるのです」
同じ世帯年収でも
夫婦の年収によって生活スタイルに大きな差が
こうした現実を知ると、夫の稼ぎだけに頼るのではなく、妻も働き続けた方が、安心して子どもを産み育てることができるといえそうだ。とはいえ、「本当に育児や家事と仕事を両立できるの?」という不安もあるだろう。その点に関しては、夫婦それぞれの働き方や稼ぎ方によっても変わってくる。
ここで結婚当初の世帯年収が800万円の2組の夫婦を例にシミュレーションしてみよう。1組は夫と妻が年収400万円ずつ稼いでいるAさん夫婦、もう一方は夫が500万円、妻が300万円を稼ぐBさん夫婦だ。夫婦の年収バランスの違いで、ライフスタイルや将来的なお金の面でどのような差が生まれるのだろうか。
Aさん夫婦は共に中堅企業に勤める正社員で、それぞれの年収は400万円ずつ。Aさん夫婦に子どもができたのは30歳の時。共働きなので保育園にも優先的に入れて、妻も1年間の育休取得後すぐに仕事復帰できた。繁忙期はあるものの普段の仕事の忙しさは夫婦だいたい同じ程度。子どもの送りは夫が、迎えは妻が担当し、家事も分担している。子どもが急に熱を出した時も、時間に余裕がある方が対応するなど協力体制ができているので、妻も育児と仕事を両立できた。
保育料は夫婦の所得で決まるので、育児休業明けは月7万円の保育料がかかることに驚いたが、子どもの年齢が上がるごとに保育料は安くなり、3歳になるころには月2万円台に。子どもが大きくなるごとに負担も減って、働きやすくなるのを実感できた。
その後夫は34歳、妻は36歳で課長に昇進し、役職手当やボーナスの上昇で年収もぐんとアップ。夫婦で協力しながら、仕事と育児を続けたおかげで、30代半ばで世帯収入1000万円の大台に乗ることができた。
Bさん夫婦は、夫が大手企業に勤める正社員で年収500万円、妻は結婚後、仕事をスローダウンしたいと派遣社員になり年収300万円。Bさん夫婦は、夫の仕事が忙しく、深夜まで残業続きなので、家のことは派遣社員の妻がほとんど担当している。30歳の時に子どもができたが、派遣先に妊娠を報告すると、次の更新は難しく無職に。出産後は子どもを保育園に預けて仕事に復帰しようと考えていたが、いったん無職になったため入園の優先順位が低くなり、保育園になかなか入れない。結局、子どもが3歳になるまで専業主婦を続けた。
3歳になってようやく子どもを幼稚園に入れることができたが、幼稚園代が月に3万5000円で、同年齢の子どもの保育園料よりずっと高いことにびっくり。それでも子どもを幼稚園に預けている間、派遣で短時間勤務の仕事に復帰したが、多忙な夫に送り迎えを頼むわけにもいかず、育児はすべて妻が担うことに。段々と両立がつらくなり、そこまで苦労して働くほどの給与をもらえていないと、結局はまた仕事を辞めて専業主婦に。
その後夫は30代半ばで、年収800万円に増えていたが、妻はゼロ。世帯年収は結婚当初と変わらぬ800万円のままで推移している。
稼ぎすぎない男性の方が
妻は仕事を続けやすい?!
「上の例は極端なケースかもしれませんが、結婚当初は同じだった2組の夫婦の世帯年収に差がつく結果になっています。夫婦の働き方や生活スタイルから、夫の年収が高ければ必ずしも万事安泰というわけではないことがわかるのではないでしょうか。収入が良い業界や職種は総じて労働時間も長く、家事や育児の負担は女性に偏りがちです。また、大手企業ほど転勤も多く、妻が仕事を辞めて夫について行かざるを得ないケースも少なくありません」

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さらに氏家さんは「平均的な年収の男性で、収入や働き方が妻と同等である事実を受け入れ、家事や育児も平等に分担しようという意識を持っている人であれば、女性は仕事を継続しやすい」と話す。そのような働き方をする男性の方が家族との時間を共有できるので、そこに幸福感を得られる女性も多いだろう。
また、女性も正社員として長く働けば、いずれ役職が付いて収入が大きく上がる可能性もある。夫が1人で頑張るよりも、夫婦が両方とも正社員で働き続けた方が、将来の世帯年収の上昇率は高くなっていく。
2児の母である氏家さんも、「確かに第一子を産んだ直後は、保育料は高いし、子どもの送り迎えや急病への対応が大変で、女性が仕事を辞めたくなるのもわかります。でも、夫婦が力を合わせて最初の3年間を何とか乗り切れば、その後はお金の面でも、体力的・精神的な面でも、非常にラクになります」とアドバイスする。
自分にとって理想的な将来の生活スタイルとはどんなものだろうか。ライフイベントや日々の暮らしを、夫と2人で協力し、分かち合いながら充実させていきたいと考えるのなら、夫となる相手の志向や性格だけを吟味するのでは片手落ちになる。夫婦2人のキャリア・お金・時間の使い方という視点も加味して理想像の実現方法を考えてみる必要がありそうだ。
取材・文/塚田有香