26 MAR/2019

Short story. 自分らしく生きることを決めた女の目に涙【山内マリコ新作『あたしたちよくやってる』より転載】

3月15日に発売となった山内マリコさんの新刊『あたしたちよくやってる』。”女性はこうあるべき”という呪いのような社会の決めつけが社会に溢れる中で、「本当の自分はこうじゃない」ともがいている女性たちに、優しく寄り添うような一冊だ。

短編とエッセイで構成される本書の中から、「Short story. 自分らしく生きることを決めた女の目に涙」を公開する。

>>エッセイ「ライク・ア・ガール」

※以下、山内マリコさん新刊『あたしたちよくやってる』より転載

Short story. 自分らしく生きることを決めた女の目に涙

あたしたちよくやってる

勝手にわたしを男に紹介するのはやめて。

いくら友達でも、善意でやってるつもりでも、売られた気分になるからやめて。

わたしはわたしのものだから。誰のものでもないんだから。

「ね、言ったとおり美人でしょ⁉」

彼女はわたしを自慢げに紹介する。

「ああ。目元が涼しげな和風美人だね」

初対面の男は、わたしをそう評した。

一重まぶたってだけで、涼しげ涼しげってうるさいよ。濃いめのアイシャドウで強調したキツい目は、男に好かれるはずがない。きっとこの男も、ほどよく女らしい子が現れるのを期待していたんだろう。マスカラたっぷりの二重まぶたに、淡い色のぺらっとした服を着て、髪をふわふわ巻いた女─昔のわたしみたいな女が。

「またずいぶんバッサリいったよね」

久しぶりに会ったとき彼女は、わたしの変身に驚いていた。

思春期以来ずっと悩みだった一重まぶたを隠さず、すっきりしたショートに髪を切った。気分はすごくよかった。やっと自分を取り戻せた。ううん、生まれてはじめて自分自身になれた感じ。

だけど苦しいのは、なぜ?

好きなように生きてるだけで、苦しい。

自分らしくあろうとするだけで、なにかと闘うことになる。男とも、女とも。

「勇気あるよね。すごく似合ってるよ」

うん、わたしもいまのわたしは好きよ。

だけど、誰かの期待に応えられていないことに、わたしはなんでこんなに、落ち込んでいるの?

>>【山内マリコさんインタビュー】あたしたちよくやってる。小説家・山内マリコが“若さという檻”に閉じ込められている20代女性へ送るメッセージ


あたしたちよくやってる

『あたしたちよくやってる』(幻冬舎)
誰かの期待に応えられなくても、無理して笑うのは、もうやめよう。

女性と年齢、結婚、ファッション、女ともだち――

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