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MAR/2020

「自分の人生から生理を消し去りたい」スプツニ子!が、生殖医療プロジェクトを立ち上げる理由

アーティストのスプツニ子!さん。『生理マシーン、タカシの場合』や『ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩』など、テクノロジーとジェンダーに関して問題提起するアート作品を生み出してきた。

そんな彼女は現在、生殖医療に関するプロジェクトの立ち上げに向けて準備を進めている。背景には、彼女のアイデンティティーに根差した問題意識があった。

スプツニ子!
スプツニ子!(@5putniko
1985年東京都生まれ。東京藝術大学デザイン科准教授。ロンドン大学インペリアル・カレッジ数学部を卒業後、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)で修士課程を修了。2013年からマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教としてデザイン・フィクション研究室を主宰、2019年より現職。RCA在学中より、テクノロジーによって変化する社会を考察・議論するデザイン作品を制作。最近の主な展覧会に「Cooper Hewitt デザイントリエンナーレ」(クーパーヒューイット、アメリカ)、「Broken Nature」(ミラノトリエンナーレ2019,イタリア)など。VOGUE JAPAN ウーマン・オブ・ザ・イヤー2013受賞。16年 第11回「ロレアル‐ユネスコ女性科学者 日本特別賞」受賞。17年 世界経済フォーラムの選ぶ若手リーダー代表「ヤング・グローバル・リーダー」、19年TEDフェローに選出。著書に『はみだす力』。共著に『ネットで進化する人類』(伊藤穣一監修)など
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人類は月にも行けるのに、なんで生理だけずっと変わらないの?

私は今、生殖医療に関するプロジェクトを立ち上げようとしています。まだ詳細はお話できないのですが、このプロジェクトに取り組もうと思った背景には、私のアイデンティティーが強く影響しています。

両親が数学者だったこともあり、私は小さい頃から数学が得意でした。中高生の頃からプログラミングをやっていて、高校3年生の時に飛び級でインペリアル・カレッジという、イギリス版のMITのような大学に進んでいます。

大学でまず気付いたのは、女性の少なさです。特にコンピューターサイエンス学部は100人のクラスに女性は9人しかいない。教授も男性ばかり。

これまでに世界ではさまざまなテクノロジーが生まれ、世の中を変えてきたけれど、その現場に女性がほとんどいない事に危機感を抱いたんです。

疑問に感じて調べれば調べるほど、歴史の中で女性のニーズや課題が忘れ去られてきたことが明るみに出てきました。

スプツニ子!

良い例が低容量ピルです。実は休薬期間を設けずに低容量ピルを飲み続けることで、生理の回数って減らせるんですよ。

ただ、1960年代にアメリカで低容量ピルが市場に出始めた時、「生理がなくなると女性が不安になる」と懸念して、あえて休薬期間が設けられた。

しかし当時から40年経っても「ピルを飲み続けることで生理を減らせる」という情報はほとんど広まらず、2000年初頭に学生だった私も、自分で調べるまでその事を知らなかったわけです。

そもそも先進国の多くは1960年代に低容量ピルを承認する中、日本で承認されたのは国連加盟国で最も遅い、1999年でした。

これは北朝鮮より5年遅れての承認です。決定を下す立場の男性たちによる「女性の性生活が乱れるんじゃないか」などの反対意見で、こんなにも時間がかかってしまったのです。

一方で、明らかに男性の性生活に乱れを起こしそうなバイアグラはたったの半年足らず、世界でも稀に見るスピードで承認されています。当時100人以上もの死亡例があったのにも関わらず、です。

こういう事実を知った時、私は思ったんです。

「テクノロジーは進化し、人間は月面に降り立って、遺伝子を編集するようになった。薬を飲んで薄毛やEDまで治している。それなのに、私の生理はなぜ原始時代から野放しなんだろう?」って。

だって、生理を止めるよりも月に行く方が難しくないですか(笑)? なんで生理だけずっと変わらないんだろうって、ずっと疑問でした。

「無自覚な差別」を起こさない。スプツニ子!の人生のテーマ

自分で言うのもなんですが、私は子どもの頃から勉強がすごく得意だったし、アートや音楽もやりたいことがたくさんあって、エネルギーあふれる女の子だったんですよ。

でも、日本で育ちながらメディアや上の世代を見ていると、「なぜ大人の研究者も政治家も経営者も男性ばかりなんだろう。私は女性に生まれちゃったから、私の才能はいつかゴミ箱行きになるのかな」みたいな気持ちになったこともあって。

イギリスの大学に留学した時は、日本より社会のジェンダー意識が良かったので、すごく解放感がありました。

特に日本社会では、女性は「家庭的な方がいい」と言われることがあったり、医大の入試でも当たり前のように減点されたり、就職活動で不利になったりすることもある。

自分の生き方を社会に堂々と制限されている感覚があったんですよね。本当に貧乏くじを引いたなと思っていた時期もありました。

最近だと、人工知能もこうした格差を広げる可能性があると、その危険性が指摘されています。現在と過去のデータをもとに学習をする人工知能は、人間の差別意識やバイアスも学んでしまう。

例えば米アマゾン社が採用に使っていたAIツールは、女性の応募者に対して男性よりも低い評価を付けていました。

なぜなら過去にあまり女性を採用していなかったため、人工知能が「女性は採用しない方がいい」と学習してしまっていたから。

こういった「無自覚な差別」に、私は最も関心があります。テクノロジーやサイエンスが、いかにマイノリティーを無視して進化してきたか。世の中を良くするどころか、不公平な世界をつくりかねないわけです。

そこに目を向けて、差別が起きないようなシステムをつくる活動に私はエネルギーを注ぎたい。これは私の人生のテーマでもあります。

自ら研究者になる道も考えましたが、私は中高生の頃からアートにも関心があって、特にローリー・アンダーソンやミランダ・ジュライといったテクノロジーアーティストが好きでした。当時、彼女たちは作品やパフォーマンスを通して、社会課題を提起していて。

それで大学卒業後に美大へ進んで、これまで話してきたような問題意識を全部ぶつけて2010年に作った卒業制作が『生理マシーン、タカシの場合』です。

ネットで話題になって、後に東京都現代美術館やニューヨークのMoMAでも展示されました。

33歳で卵子凍結したら、気持ちが変わった

最近では女性の健康を応援する「フェムテック」の領域が盛り上がっています今、まさにテクノロジー界に無視されてきたニーズが掘り起こされつつありますよね。

私は今年35歳ですけど、一回り下の女性たちが社会に出て、どんどん起業をするなどアクションを起こし始めているのが本当にうれしくて。

ここ2~3年のMeToo運動以降の空気の変化って、私が学生時代からずっと待ち望んでいた状況で、ちょっと感動ものなんですよ。あんまりこういう話をして、お姉さんぶりたくはないですけど(笑)

ソーシャルメディアで多くの女性が本音を言えるようになったり、知識を共有するようになったりというのも、すごくいい動きだと思っています。

女性が意見を言うことに対して批判的な人もいますけど、一般的だとされている価値観を変えようとするとき、それをよく思わない人は必ずいます。

かつての黒人の権利や女性の参政権を勝ち取るための運動だって、当時はきっと自分本位だと言われたのだろうと思います。

私が今取り組んでいる生殖医療プロジェクトだって、リリースすれば反対意見もたくさん出るでしょう。

でも、私が声を上げることで、必要な人が賛同してくれたり、興味を持ってくれたりする人もきっといる。だからこそ、自分の意見に納得して、応援してくれる人と向き合うことが大事だと思っています。

例えば、私は33歳で卵子凍結をしました。卵子凍結って潜在的なニーズがすごくあるものだと思うんですよ。でも女性自身がタブーに感じてしまっていたりして、「やりたい」とおおっぴらに言えなかったりする。

ただ、私は卵子凍結したことで、めちゃくちゃ気持ちが変わったんです。卵子凍結は100%ではなく、保険やお守りみたいなものだけど「この技術は人類にとって本当に大事な第一歩になる」と思いました。

私は生殖のタイムリミットが、女性に存在する最後のガラスの天井だと思っているので、女性が現代のキャリアやライフスタイルに合わせて自由に妊娠・出産のタイミングを選べる未来のために、この技術は絶対に進化していくべきと思っています。

もちろん自然に生理が来て、自然に妊娠して出産するのが一番だと言う人もいるでしょう。そういう人に私はテクノロジーを無理に勧める気はありませんし、それはそれで一つの考え方だと思っています。

ただ、もしとても悩んだり我慢してしまっていたりする人がいるならば、私みたいな考えの人を見て、「私も試してみようかな」って背中を押すこと事をできたらうれしいですね。もっと女性の生き方の選択肢が広がるといいなと思います。

最近だとTwitterで犬山紙子ちゃんやハヤカワ五味ちゃんとミレーナの話題で盛り上がりましたが、それを見て、生理のしんどさを我慢してる女性たちが「私もそっちに入りたい」って自然と思ってもらえたらいいかな。

※ミレーナは子宮内に直接入れる器具。過多月経や生理痛などの症状を和らげ、避妊の効果もある。治療目的であれば保険が適用でき、1万5000円で施術可能。

ハヤカワ五味さんのツイート
犬山紙子さんのツイート

多くの人はロジックじゃなくて、「あっちの方が楽しそう」で動くと思うんですよ。

だから今取り組んでいるプロジェクトをリリースしたら、楽しんで使ってくれる人たちの姿をたくさん見せたい。それだけで、人って勇気が出るんじゃないかと思っています。

取材・文/天野夏海

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