12
OCT/2020

コロナ禍、妊婦が孤立しがち? これから妊活を始める人が知っておきたいこと【医師・宋美玄×スリール堀江敦子】

妊活

「子どもは欲しい。でも、今から妊娠してよいものか……」。新型コロナウイルス感染拡大の収束が見えない中、妊娠を先延ばしにするか悩む夫婦が増えているという。

実際、第二子の妊娠を希望していた女性のうち約3割が妊娠を延期または諦めていることが、子育てアプリなどを運営する株式会社ベビーカレンダーの調べで分かった。

とはいえ、女性には出産適齢期がある。思い描いていたライフプランを崩したくない人もいるだろう。

あらゆることが「今まで通り」とはいかないwithコロナ時代だが、妊娠・出産についてはどう考えていけばいいのだろうか。

9月末に『医者が教える女体大全』(ダイヤモンド社)を出版したばかりの宋美玄先生と、女性のキャリアや働き方の意識変革を行うスリール株式会社の代表でもあり、10月末に出産予定の堀江敦子さんに、これからのライフプランニングについて話を聞いた。

宋美玄さん

産婦人科医、医学博士 
宋 美玄さん

1976年、兵庫県神戸市生まれ。2001年に大阪大学医学部を卒業し、大阪大学産婦人科に入局。2007年に川崎医科大学講師に就任。その後、ロンドン大学病院留学で胎児超音波を学ぶ。2010年から国内で産婦人科医として勤務し、2017年には丸の内の森レディースクリニックを開業。臨床医を務める傍ら、テレビや雑誌などで妊娠、出産、性などについての啓蒙活動を行っている。二児の母。『医者が教える女体大全』(ダイヤモンド社)『産婦人科医が伝えたいコロナ時代の妊娠と出産』(講談社)など著書多数

堀江敦子さん

スリール株式会社代表取締役社長 
堀江敦子さん

日本女子大学社会福祉学科卒業。大手IT企業勤務を経て、25歳で起業。両立支援や意識改革を得意とし、企業の研修・コンサルティング、大学・行政向けにライフキャリア教育を実施。「子育てしながらキャリアアップする人材・組織を育成する」をテーマに、人材育成事業を展開。内閣府 男女共同参画会議専門委員、厚生労働省 イクメンプロジェクト委員、東京都文京区 ぶんきょうハッピーベイビー応援団委員など、複数行政委員を兼任。千葉大学教育学部の非常勤講師も務める。著書に『自分らしい働き方・育て方が見つかる 新・ワーママ入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある

不安はゼロじゃない。でも、出産を先延ばしにしたくない

−−コロナの影響で、妊活を遅らせる女性がいることが民間の調査結果で明らかになりました。宋先生の実感はいかがですか?

宋さん

そうですね。確かに緊急事態宣言が出ていた4月~5月は妊活の相談が一時的に減りました。でも、6月以降は通常に戻ってきています

−−そうなんですね。では、現在はコロナ禍の妊娠に対する不安の声はそこまであがっていないのでしょうか?

宋さん

もちろん全く不安の声が聞こえてこないないわけではありません。

4月~5月ほどではないにせよ、新型コロナウイルスが妊婦や赤ちゃんにどう影響を与えるウイルスなのか、まだ医学的に分かっていないことが多いことは事実なので。

ただ、現段階ではまだ胎児への影響は報告されていませんし、同時にコロナ禍は長期化するのも目に見えている。だから、「不安はゼロではないけれども、やっぱり子どもが欲しいからつくろう」と、選択する方が増えたのでしょう。

−−なるほど。医療現場は元に戻ってきているのですね。堀江さんは、現在妊娠中ですが、コロナ禍での妊婦生活はどうですか?

堀江さん

コロナ禍ということもあり、医療機関は感染拡大を防止するために、多くの制限を行っています。 人命を救うためには当たり前のことだと思いますが、そのことによって、今の妊婦はあらゆる情報や機会が失われていると身をもって感じます。

例えば、私が出産する予定だった総合病院では、平時では当たり前だった「健診時の夫の付き添い」や「両親学級」、「立ち合い出産」、「入院中の面会」ができなくなりました。

総合病院という特性上、病院が院内感染を恐れるのは理解できますし当たり前の対応かと思います。

堀江さん

ただ、私にとっては初産という事もあり、健診への夫の付き添いや立ち合い、両親学級が無くなることで、夫と出産のことを共有しづらくなったり、出産の情報が得にくくなっていると感じました。

このままでは、出産までに心が疲れてしまいそうになったので、主治医と相談した上で転院を決意しました。

妊活

−−転院とは思い切りましたね。

堀江さん

はい。ただ、皆さんに転院をおすすめしたいわけではありません。

私の場合、経過が良好で且つ主治医の賛同を得られたため、分娩時の夫の立ち合いができ、小規模で個別に出産までの経過をケアしてくれる産院に転院することができました。

今考えると、心が疲れてしまったのは、自分たちが出産において大事にしたいと思っていたことが実現できなくなったことが原因だったと思います。

宋さん

ここで大事なのは、総合病院がいいか、クリニックがいいか、助産院がいいか、といった話ではなく、堀江さんのように体の経過を確認しながら、「自分たちが出産において大事にしたいこと」を軸に病院を選んでいる点ですね。

まずは、妊産婦さんの安全が第一ではありますが、病院ごとに方針はそれぞれあります。

転院は最終手段だと思うので、まずは不安な点を解消するために気になることがあれば、医師や看護師に遠慮せず話を聞いてみるといいですよ。

産後入院中の面会は7割減。妊娠・出産環境が様変わり

堀江さん

今の妊婦たちはコロナ前までは当たり前だった「妊娠・出産環境」が奪われてしまっています。でも、この事実はあまり表に出ていないし、当事者以外の人たちにはほとんど知られていません。

だからこそ、ちゃんと「見える化」しなくてはと思い、スリールではNPO法人 ファザーリング・ジャパンさんと共同で「コロナ禍の妊娠出産に関するアンケート」を8月に行いました。

−−アンケートでは、どのような傾向が見えたのでしょう?

堀江さん

私と同じように、環境が様変わりしたと感じている妊婦が大半でした。

具体的に言うと、妊婦健診の同伴は55%減、病院・産院の両親学級が58%減、立合い出産が47%減、産後入院中の面会が71%減という結果でした。

妊婦の事情
妊婦の事情
妊婦の事情
妊婦の事情

出典:「コロナ禍前後の妊娠出産アンケート結果(完成版)

−−なるほど、そんな変化が起こっていたんですね。

宋さん

今はどちらかというと、医療現場が妊婦さんのケアよりも感染対策の方に過剰に揺れている印象はあります。でも、これから徐々に見直されていくと思いますよ。

堀江さん

はい。感染対策をとった上で、出産の立ち会いなどが再開されることも増えてきそうですよね。実際、オンライン立ち合いや、オンライン両親学級などの取り組みも出てきていますし。

宋さん

ただ、オンラインの立合い出産では、陣痛時に腰をさすってもらえませんし、手も握ってもらえません。立ち合い出産に完全に代わるソリューションではないですね。

堀江さん

ええ、全てオンラインにすればいいってわけではないですよね。でも、先日ファザーリング・ジャパンさんと共同でオンライン両親学級を開催してみて、この代替案はありだと思いました。

同じような状況の中、同じような不安を抱いている者同士で集まって話す。ただそれだけで、ホッとする参加者の方がとても多かったんです。

−−コロナ禍の妊婦は不安や孤独をより感じやすいかもしれませんね。また、妊娠出産の「当たり前」が失われたことで、他にはどんな影響が出ていますか?

堀江さん

妻の妊娠期間中に、夫の「育児スイッチ」がオンになる機会も著しく減少していると思います。
例えば、これまでであれば、健診に同伴してエコーを見たり、両親学級に参加して妊婦体験をしてみたり、出産時に子どもが産まれる瞬間に立ち会うことで、父親になる準備ができた。

でも、今はその機会が失われた上に、里帰り出産や産後の両親のサポートも減ってしまっている。要するに、妻にとっては、産後に頼れる人が夫だけになってしまっているんです。

宋さん

なるほど。一方で、今は夫婦でリモートワークをしている方も増えているので、夫がいつも家にいてサポートしてくれるし、心強いと話す女性たちもいます。

これまでなら、仕事を休まないと家にいられなかった男性たちが、自宅にいて肉体的にも精神的にも支えてくれる。これはいい変化かもしれません。

堀江さん

たしかに、そういう面もあります。

実際、アンケートでも男性の育休取得については、実現率が向上していました。ただ、いずれにしても、妊婦や産後の女性を支える役目が夫にだけ集中してしまっている現状については、注意が必要です。

妊活
堀江さん

このように、今までは普段の生活の中でマタニティエクササイズや両親学級、産休中の友人とのお茶会などで自然と得られていた情報や、里帰りで得られていたサポート、必要であれば受けられた産前産後のケアのサポートも、全てコロナ禍で失われてしまっているのです。

これは、あまり重要なことではなく感じるかと思います。

しかしながら、オンライン両親学級で当事者同士で話しているのを体感することで、妊娠中のマイナートラブルや、やるべきことなど、知らず知らずの内に生活の中で共有されていた情報が、いかに不安感を低下させているのかということに気付いたのです。

堀江さん

私は職業上、他の初産婦の方より「妊娠・出産・育児」に関する情報が入ってきやすいし、ネットワークにも恵まれていると思いますが、そんな私ですらコロナ禍の妊婦生活では孤独を感じることがありました。

でも、この図を作ってみて、その理由がすっきりしました。こんなに平時と違う状況に置かれていたから不安だったんだ、と気付いたんです。

人とのつながりを掘り起こし、“孤育て”リスクを回避

−−先ほど、今は妊娠中の女性たちが「孤独」に陥りやすいというお話がありました。どんな対策が必要だと感じますか?

宋さん

まずは、構造的な課題として、医療機関や行政などが妊婦を孤立させない仕組みをつくっていくことは欠かせませんね。


また、妊婦さん個人ができることとしては、今まで以上に「頼れる先」を確保しておくことが大事。

親、夫、家族だけでなく、職場の同僚や友人とのコミュニケーション機会を増やすこと、SNSなどで仲間を見つけること、自分から人とつながりを持つよう意識することですね。

宋さん

もちろん、以前から核家族化による“孤”育ては社会問題ではありましたが、withコロナの時代では、孤立する母親がさらに増える可能性があります。

それを防ぐためには、これまでの人生で築いてきた友人関係など、人とのつながりを棚卸しして、その中で頼れそうな人を探すのは一つの手だと思います。

–堀江さんは、自身の経験を踏まえて、プレ妊婦にアドバイスはありますか?

堀江さん

たぶん、これからの妊活は「なんとなく不安」と思っている人が多いと思うんです。

でも、「なんとなく不安」だからという理由で、妊娠を延期したり、諦めてしまうのは勿体ないと思います。そのためには、まず「不安」の正体を理解することが重要です。

ファザーリングジャパンさんと共同で、「新しい妊娠出産環境を整えるためのチェックリスト」を作成しました。こちらのチェックリストを見て、コロナ禍で何が失われたから不安なのかを考えてみるといいと思います。

チェックリスト
堀江さん

コロナ禍での妊娠・出産の正しい情報が無いから不安なのか、出産に対しての情報やサポートが無いから不安なのか。不安の原因が明らかになれば、対策することができます。

妊娠出産への情報が足りない、サポートが足りないということであれば、オンラインの両親学級を受講したり、訪問ケアを行っている場を探してサポートを強化するなど、方法はいくらでもあります。

宋さん

夫婦間で本音を話し合えないまま、妊婦さんが漠然とした不安を抱えているというケースはよく目にします。夫に対しても、医師に対しても、不安に思っていることや気になっていることはどんどん口にしてほしい!

堀江さん

ちなみに、私たちは夫婦で出産・子育てについて話し合うために「夫婦合宿」を決行しました。都内のホテルに部屋をとって、妊娠・出産にまつわる情報を共有するスライドも作って、2人で学んだり話し合ったりする日を決めたんです。

——スライドまで(笑)、でもそうやってイベント化するのは気分転換にもなってよさそうですね。

堀江さん

楽しかったですよ。また、今回改めて思ったのは、「妊娠・出産・育児情報」は、バランスよく得ていくことが必要だということです。

——バランスよく得ていくとは?

堀江さん

私は、3つの情報源から情報収集することを意識しています。一つ目は、宋先生のような専門家から。二つ目は先輩ママパパ。三つ目は妊娠中の仲間たちです。

宋さん

バランスはすごく大事ですね。ネットだけ見ていても不安になるし、専門家の知識もしっかり活用してほしい。たまに、「病院で聞きたいことが聞けない」と仰る方がいるのですが、遠慮しなくていいですよ。

話しかけにくい医師も時にはいるのかもしれませんが、自分が信頼できる医師、看護師を見つけてどんどん疑問をぶつけてみてください。

妊活

——主体的に情報を取りにいくことが大事というわけですね。

宋さん

ええ。妊婦が孤立しやすい今、自ら人とつながりにいく、コミュニケーションをとりにいく、そんな積極性はますます大事になっていくと思います。

そして、医療関係者の立場からお伝えしておきたいのは、先輩ママの体験談を鵜呑みにし過ぎないで、ということ。

先輩ママの体験談は、すごく少ないサンプル数に基づくアドバイスです。その人の経験が、他の人にあてはまるとは限らない。「そうなんですね」と返事しつつ、聞き流すことも時には必要です。

また、コミュニケーションを取るときに、あらかじめ役割を意識しておくといいかもしれません。

——役割、というと?

宋さん

例えば、専門家には医学的な見解を聞く、先輩ママパパには使いやすい育児グッズを聞く、妊娠仲間とは不安や喜びを共感し合う……といった具合に、誰からなんの情報を得るかはっきりさせておきましょう。

妊娠出産には迷信みたいなものがたくさんありますから、巷の噂に流されないでほしいです。専門家からのアドバイスと噂レベルのものをごちゃまぜにしてしまうことで、妊婦さん自身が混乱しやすいんですよ。

今は平時ではないからこそ、雑多な情報に惑わされず、心の健康を保つ術を身に付けておきたいものです。

宋さん

本当にバランスと役割は大事ですよね。正しい情報にアクセスするためのリテラシーが求められていると思います。

宋さん

自分の不安にうまく対処することも大事ですが、何より大事なのは健康的に、安心して出産の時を迎えること。分娩にリスクはつきものですから、医療環境含めて、総合的に自分にとってベストな出産環境を選んでほしいです。

取材・文/児玉 真悠子

書籍情報

医者が教える 女体大全 オトナ女子の不調に効く! 自分のカラダの「取扱説明書」

『医者が教える 女体大全 オトナ女子の不調に効く! 自分のカラダの「取扱説明書」』(宋 美玄著/ダイヤモンド社)
人気産婦人科医として、丸の内にクリニックを開業する著者が、働く女性からよく聞かれる質問について、何が間違いで何が正しいのか、どうすれば不調や心配事が解決するのか、「女性の身体についていまの医学のわかっているほんとうのこと」だけをベースに、正しい解決策を教えます。

『自分らしい働き方・育て方が見つかる 新・ワーママ入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)<br />

『自分らしい働き方・育て方が見つかる 新・ワーママ入門』(堀江敦子著/ディスカヴァー・トゥエンティワン)
新時代のワーキングマザーのバイブル登場!200名以上のベビーシッター経験、1000名以上のワーキングマザーとの出会い、仕事と子育てに悩む方1万人以上への研修や講座から導き出した自分らしく働いて、もっと楽しく子育てをする幸せにまわりを巻き込むハッピーレッスン!

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