08 AUG/2022

「人脈、経験、資金…何もなかった」23歳女子が単身ガーナで“チョコレート起業家”になれた理由【田口愛】

特集:サヨナラ“私なんて”

「私なんて……」つい口にしてしまうこの言葉。それを「私ならできる」に変えたなら……? 本特集では、常識にとらわれないチャレンジで自分らしいキャリアを切り開いた女性たちのストーリーをお届けします

何か新しいことに挑戦しようと思っても、「まずは経験を積んでからじゃないと……」と二の足を踏んでしまう人は少なくない。そんな「諦め癖」が付いてしまっている人に、この人のキャリアを紹介しよう。

田口愛さん

Mpraeso合同会社のCEOの田口愛さん、ガーナに単身渡航し現地でチョコレート工場を作った23歳(2022年8月時点)の女性起業家だ。起業当初は、社会人経験もない、資金もない、人脈もない……そんな普通の女子大生だった。

しかし現在はガーナでチョコレート工場長を務めるだけでなく、チョコレートブランド『MAAHA CHOCOLATE』を立ち上げるなど「カカオ革命」を起こすために奮闘している。

「何もなかった」はずの彼女はなぜ、世間をあっと驚かせるような挑戦ができたのだろうか?

チョコレートの裏にある現実を知り「革命を起こしたい」

そもそも私がガーナに渡航しようと思ったきっかけは、大学受験に失敗したこと。2回も挑戦したのに、第一志望の大学に合格できなかったんです。

とりあえず別の大学に進学したものの「これから、どうすればいいんだろう」と燃え尽きたような気持ちでいる私に対して、周りの同級生は入学直後から「このゼミに入りたい」など、すでに先を見据えている。

その姿を見て、「大学入学がゴール」になっていた人生を仕切り直して、自分が「わくわくすること」に目を向けたいと思うようになりました。

田口愛さん

自分が一番わくわくすることは何か。そう考えた時に思い浮かんだのが「チョコレート」です。

落ち込んだとき、楽しかったとき、これまでの人生の節々でチョコレートに勇気をもらってきたことを思い出しました。

その時はとにかく何か行動を起こしてみたかったので、チョコレートの生産現場をこの目で見てみようと単身でのガーナ渡航を決めたんです。

しかし現地に行って目の当たりにしたのは、想像以上に深刻な、カカオ農家が抱える課題。

児童労働などの問題はもちろん、カカオ豆は政府の取り決めで「重さ」をベースに取引されており、品質が問われないんです。そのためおのずと取引価格が安くなり、農家さんの所得は低いまま。

「この仕事には誇りを持てない」と話すカカオ農家の方も多くいて、日ごろ私たちが目にする宝石のようなチョコレートとはかけ離れた現実がそこにありました。

でも、嘆くだけでは何も変わらない。品質を上げて、農家さんへのリターンが増えるような仕組みをつくればいいんじゃないか?

そう考えた私は、カカオ豆を加工する工場を現地に建設して品質と価格をコントロールすることで、農家さんの暮らしを変える——そんな「カカオ革命」を起こしたいと思うようになりました。

田口愛さん

でも、カカオに関する知識もないし、経験だって人脈もない。

両親や友達からは「女の子なのに危ないよ」と言われましたし、「その活動を続けて、就活はどうするの?」とも言われました。本当に何もなかったんですよね(笑)

でも私は、ガーナで生まれて初めて「自分が納得できる道」を見つけたように思えて。これまでは両親が敷いた“安定した人生”のレールに従ってきたけれど、ここからは自分で歩き出したいんだと。最後は半ば強引に、再びガーナへと飛び立ちました。

まずはカカオ農園にアポを取って、現地の現状やカカオ豆の加工について詳しく知ることから始めて。ガーナ以外の現状を知るためにタンザニアやインドネシア、台湾など世界中のカカオ農園も回りました。

その中で知り合った日本のNPOの方々や、現地の関係者に話を聞いてもらったり、協力してもらったりするうちに活動の幅がどんどん広がっていって。活動を始めて1年経つころには、カカオ豆を加工するためのミニファクトリーを建設するまでになりました。

そこで私は工場長を任せてもらうようになり、日本でもガーナのチョコレートに関するワークショップを行うなど、一歩ずつ着実に「カカオ革命」に近づいていった感覚がありましたね。

コロナ禍で現地に行けないからこそ「仕組み」をつくった

このまま順調に活動が進んでいくといいな、そう思っていた矢先に、大きな壁が立ちはだかりました。

コロナ禍の到来です。

田口愛さん

ガーナへ渡航することができないのはもちろん、当時日本で開催していたチョコレートのワークショップの多くが中止に。八方ふさがりの状況に、くじけそうになりました。

それでも、「カカオ革命を起こす」という夢はどうしても諦めきれなかった。それなら落ち込んでいてもしょうがないので「とにかく、できることをやろう」と気持ちを切り替えました。

そこからは、試行錯誤の日々でしたね。2020年8月には新工場を建設するためのクラウドファンディングを開始。万全の体制でプロジェクトを推進できるよう、合同会社も設立しました。

結果、クラウドファンディングは400万円以上の資金調達に成功したのですが、それでも、現場はうまく回らないことがたくさんありました。私が現地に行けないので、工場で指示を出せる人がいなかったんですよね。

そこで力をいれたのが「現地の人が自走できる仕組みづくり」です。

コロナ禍で活動が制限されているからこそ、オンラインでコミュニケーションを取れるようにしたり、現地の農家さんの中からリーダーを育成したり、現地とリモートで関わる方法を模索していきました。

「田口愛」の物語から、「みんな」の物語へ

ガーナに初めて単身渡航した時の私は19歳で、お金も人脈も経験も、何もありませんでした。

それでもなぜ私が挑戦し続けられたのか。そこには、私が何よりも自分の「わくわく」を優先して行動してきたことと、一緒に働いてくれる「仲間」の存在があったからだと思っています。

田口愛さん

私が元々持っていたのは、「カカオ革命を起こしたい」という熱意だけ。だから、それをアピールするしかない。そう考えた私は、まずはSNSで「一緒に働きたい」と思える仲間をスカウトしていきました。

事業開発、デザイナー、ショコラティエ……今ではさまざまな仲間が集まってくれて、合同会社のメンバーとして一緒に働いていますが、みんな初めから「カカオ革命を起こしたい」と思っていたわけではありません。

ただ、それぞれが「自分の得意を生かして、やりたいことがある」という情熱を持っていた。それが私のミッションと共鳴して、だんだんとチームになっていきました。

仲間になってくれたのは彼らだけではありません。SNSや店頭を通じて興味を持ってくださる方も、このプロジェクトの仲間になって応援してくれました。

それまでの私がSNSで発信してきたのは、あくまでも「田口愛」の物語。自分がガーナで体験した「警察に不当に拘束されてつらいよ〜」とか、「今日はカタツムリを食べました」とか(笑)。あくまでも、「私」に興味を持ってもらうための発信をしていたんです。

だけど、商品を購入してくださる方には、「私」を応援してもらいたいわけじゃない。私の活動を通じて、カカオ農家さんを取り巻く環境を知ってもらいたいのです。

だから、SNSでの発信方法も変えました。「日本で生産されているチョコレートに使われるカカオは、8割がガーナ産なんです」と豆知識をつぶやいたり、「だから、カカオ農家に起きていることは、皆さんにも関わりのあることなんですよ」と呼び掛けたり。時には、農家さんの陽気な様子を共有したりして。

すると、いろんな方が私の「カカオ革命」に興味を持って応援してくれるようになったんです。

そんなある日、SNS上で西武デパート池袋の催事担当者から「来年のバレンタインフェアに出店しないか」と声をかけてくださったこともありました。終息が見通せないコロナ禍でも、「負けずにがんばろう」と思えた出来事でしたね。

SNSを見てくださっている方や、『MAAHA CHOCOLATE』のチョコレートを買ってくださった方、みんなに当事者意識を持ってもらうことで、「田口愛」の物語が「みんな」の物語へと変わっていったように感じられました。

挑戦は「今の自分」にとらわれないでいい

田口愛さん

「カカオ革命」は動き出したばかりで、やるべきことはまだまだあります。まずは何よりも、クラウドファンディングで集めた資金をもとに、新しい工場を完成させること。建物の完成は今年 (22年) 8月ごろを予定しており、秋ごろには機械類の整備も完了する予定です。

それが終わったら、今度は工場を少しずつ大きくしていって、現地での加工体制を整え、カカオ豆の品質を上げられるようにしていきたいです。

現状ではチョコレートの販売価格のうち、農家さんに届く報酬はわずか2〜3%ほどだそう。カカオ豆の品質を高めるとともに、加工することで70〜80%くらいに引き上げることができれば。貧困が解消されるだけでなく、農家さんが自身のお仕事にもっと誇りを持てるようになるはずです。

田口愛さん

それから、私個人の目標としては、世の中にもっと「チャレンジする人」を増やしたいと思っています。

私には知識も経験もなく、もちろんお金も人脈もなかった。それでも思い切って挑戦して、いろんな人に応援してもらえるようになって、ここまで来られた。「情熱さえあれば、初めから持っているものにとらわれることなく可能性を広げられるんだよ」ってことを身をもって証明したいです。

今振り返ると、自分がわくわくすることに対して、良い意味で「わがままになること」ってチャレンジする上でとっても大切なことだなと思います。

だからみんなももっと、自分の感情に素直になって、自分らしい人生をつくっていけたら。

「私なんて……」と自分のやりたい事や将来の夢を抑え込まず、オリジナルの道を切り開ける人が増えていったらいいなって、そう思います。

田口愛さん

<プロフィール> Mpraeso合同会社 CEO 田口愛(たぐち・あい)

1998年、岡山市生まれ。19歳でガーナを初訪問し、カカオ農家の抱える課題を目の当たりにし「みんなが笑顔になれるチョコレートを作る」と決意。2020年、Mpraeso合同会社を設立。クラウドファンディングで資金を調達し現地チョコレート工場を建設中(22年8月完成予定)。21年、チョコレートブランド『MAAHA CHOCOLATE』を立ち上げる
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文/夏野 かおる 撮影/赤松洋太 取材・編集/大室倫子・柴田捺美(ともに編集部)