“グレー”なひとときを堪能する、大人の女性にオススメしたい今週の1本【連載:ふらり~女の夕べ】
プレミアムフライデーに、NO残業デー。働き方改革が進み、プライベートタイムは増えたけど、一体その時間に何をする……? 会社を追われ、行き場をなくし街を彷徨うふらり~女たちへ、演劇コンシェルジュ横川良明がいま旬の演目をご紹介します。奥深き、演劇の世界に一歩足を踏み入れてみませんか?
演劇ライター・演劇コンシェルジュ 横川良明
1983年生まれ。関西大学社会学部卒業。ダメ営業マンを経て、2011年、フリーライターに転身。取材対象は上場企業の会長からごく普通の会社員、小劇場の俳優にYouTuberまで多種多彩。年間観劇数はおよそ120本。『ゲキオシ!』編集長
「もしも生まれ変わるなら…」なんて話、誰もが一度はしたことがあるはず。あるいは、「前世のたたり」とか「悪いことをしたら来世では虫になる」なんて話を冗談のように交わした覚えのある人も多いのでは。
もし本当に来世を決める会議があるとしたら……。
それに、自分がかけられたとして、あなたはもう一度人間に生まれ変われる自信はありますか?
そんな妄想を膨らませてくれるのが、今週の1本。劇団ONEOR8の『グレーのこと』です。
劇団ONEOR8『グレーのこと』
Point1:来世は人間か? それともミジンコか? 輪廻転生を決める異色の会議劇
日本で裁判員制度が導入されたのは2009年のこと。すっかりおなじみのものとなった感もありますが、もしも自分が裁判員に選ばれたとしたら、あなたは本当に正しい裁定をできる自信はありますか? 人が、人を、裁く。当たり前のようになっているこの行為の矛盾と限界を改めて突きつけてくれるのが、この『グレーのこと』です。
ただし、あくまでその見せ方はTheエンターテイメント。審議の議題を「輪廻転生」に置き換え、やってきた死者の人生を聴取し、日頃の行いが良ければ人間へ、悪ければミジンコのような下等動物へ生まれ変わらせるという、意表を突いた舞台設定で物語は進みます。審判をくだすのは、神様予備軍の裁判官たち。今日も彼らのもとに、死者がやってくる。果たしてその死者が向かう来世は人間か、それとも――前代未聞の会議の幕が上がります。
Point2:酸いも甘いも知る大人だからこそ分かる“グレー”な世界
裁判と言えば、有罪/無罪という善悪を明らかにさせる場所。けれど、大人になればなるほどわかるはずです、世の中にはそう簡単に白黒つけられない問題が山ほどあるということを。2017年冬に放送されたドラマ『カルテット』も、そんな“グレー”な曖昧さを描き、目の肥えたドラマファンから熱狂的な支持を受けました。誰も自分の人生を肯定してはくれない。先行き不透明な時代だからこそ、今、人は勧善懲悪で切り分けられない“グレー”なものに惹かれるのかもしれません。
本作のタイトルも、大人だからわかる“グレー”の難しさと面白さを想起させてくれますよね。一見すると非道な悪行に見えることも、光の当て方を変えてみれば、善に見える。それが、人間社会というもの。画一的な法や正義感だけでは、人は裁けない。理性と道徳の断崖に立たされたとき、人はどんな決断を選ぶのか。奇抜とも言える設定から炙り出されるのは、そうした人間の本質です。それを熟練の俳優たちが、100席前後の小劇場で演じるのだから、見応えは十分。大人の女性だから味わえる“グレー”なひとときを堪能できそうです。
Point3:実力派女優・羽田美智子が、演劇界の至宝・田村孝裕と初タッグ!
本作を上演する劇団ONEOR8は、1997年旗揚げの中堅劇団。主宰の田村孝裕さんは、演劇界の芥川賞と呼ばれる岸田國士戯曲賞最終候補に過去3度ノミネートした俊英。人間に対する鋭い観察眼、そしてこの日常に漂うやるせなさや切なさを描かせたら天下一品と評判です。それでいて、決して難解すぎたり、高尚すぎたりすることはなし。軽妙な笑いを織り交ぜながら、観客を劇世界へと惹きこんでくれます。つまり、まだ演劇にそれほど詳しくないという読者のみなさんにとっては、演劇の世界へ一歩奥深く踏み込むにはぴったりの劇作家。演劇ならではの巧妙な会話と息を呑む展開をたっぷり愉しんでください。
そして、物語の重要なキーパーソンとなる女性を演じるのは、女優の羽田美智子さん。伊東四朗さんとのコンビが絶妙な『おかしな刑事』やすっかりご長寿ドラマとなった『警視庁捜査一課9係』など人気シリーズでおなじみ。最近は朝ドラ『ひよっこ』でもそのほがらかな笑顔でお茶の間を魅了しました。約30年のキャリアを誇る羽田さんですが、舞台出演は何と12年ぶり。テレビでおなじみの羽田さんの美貌とお芝居を、小劇場という極小空間で見られるのも、今回のポイントです。劇場は今年オープンしたばかりの浅草九劇。浅草観光と併せて観劇を楽しんでみては?
<公演詳細>
■あらすじ
どこかの会議室。そこに集まるスーツに身を固めた人々。
どうも裁判員制度で呼ばれた裁判官たちが、とある事件について議論しているように見える。だが、議論が進むにつれ、どうも様子がおかしいことが伺えた。
裁判官たちは死者について話している。死者が生前おこした事件について。
すると議論を黙って聞いていた裁判長が判決を下す。
「彼の来世は“ミジンコ”である」
スーツの人々は裁判官ではなかった。言うなれば閻魔のような存在で、死者が来世、何に生まれ変わるべきかを話す会議だったのだ。日頃の行いが良ければ人間へ、悪ければ下等動物へと輪廻を遂げる仕組みらしい。
ある日、とある死者について議論が割れた。それは善とも悪とも取れる行いで人間へと輪廻させるかどうかの判断が下せないでいる。間違って独裁者や凶悪犯を生めば彼(女)らはクビを宣告され、神様になる道を閉ざされるからだ。
そのとき、まだ閻魔となって間もない女が根底を覆すような言葉を口にする。
「そもそも、人間に生まれ変わることって幸せなんですか?」
現世とあの世の間にあるグレーな世界。
白か黒か、はっきりと解決できないグレーな問題。
あいまいなこと、グレーなこと。それはきっと、大切なこと……。
■作・演出
田村孝裕
■出演
恩田隆一、冨田直美、伊藤俊輔、山口森広 / 関口敦史、松本亮、長尾純子 / 山野史人、阿知波悟美、羽田美智子
■日程
2017年11月29日(水)~12月10日(日)
■会場
浅草九劇
『ふらり~女の夕べ』の過去記事一覧はこちら
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