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MAR/2018

「皆バラバラだから、逆に一体感がある」不妊治療に600万をかけ、里子を迎えた夫婦が描く“幸せな家族”のカタチ

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いつかは夫婦で子供をつくりたい。そう願っていても、さまざまな巡り合わせによって叶わないこともある。漫画家・古泉智浩さんと妻ユリコさん(仮名)も、そんな夫婦の1組だった。約6年間の不妊治療を経て2人が選択したのは、里親制度の利用。里親制度とは、育てられない親の代わりに、一時的に子供を預かって養育する制度のこと。夫の古泉さんの漫画『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』(イースト・プレス)では、里子として迎えた息子“うーちゃん”との微笑ましい日々とともに、特別養子縁組が実現するまでの体験談が描かれている。

『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』(イースト・プレス)
『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』(イースト・プレス)より

血縁関係がない”バラバラの家族”である古泉一家。しかし、「血の繋がりがない子供を育てる」という選択をした2人が築いたものは、”幸せな家族”そのものだった。

「まるで地獄」……6年間で600万円を費やした不妊治療

古泉さん夫妻が不妊治療を開始したのは、ユリコさんが32歳の時。当時は別居婚で、ユリコさんは東京で正社員として働きながら一人暮らしをしていた。

ユリコさん:「タイミング法、人工受精、体外受精と、不妊治療が段々エスカレートしていきました。体外受精は毎日注射を打たなきゃいけないので、それを機に仕事を辞めて夫がいる新潟に引っ越しました。35歳からの体外受精の成功率はガクッと下がるけど、『34歳までにやれば絶対にできる』そう思っていました。でも、現実は全然うまくいかなかった」

不妊治療を続けた32歳から38歳までの6年間を、ユリコさんは「地獄のようだった」と振り返る。

ユリコさん:「当時の私はちょっと狂っている感じでした。何かしなければいられなくて、整体や鍼(はり)に通い、子授かり神社にも行きました。アルコールはもちろん、お茶やコーヒーも一切飲まずにカフェインも絶って……。でも、不妊治療自体は病院でしかできない。無職になってからは他にやることもなくなったので、ただ悶々と『何でできないんだろう』って考えていました。まるで“産む機械を目指す女”。でも産めない。本当に、何だったんだろうと思います」

「子供をつくろう」――そう決めて結婚した2人。「不妊治療を受けていた当時は夫婦関係もギスギスして、離婚という言葉がチラつくこともあった」と古泉さん。ユリコさんも「子供ができないことに加えて離婚までするのは嫌だ。そう考えると、必死だった」という。“子供が欲しい”という純粋な動機が、少しずつねじれていく日々。厄介なのは、不妊の原因が分からないことだった。

ユリコさん:「実は29歳で一度流産の経験があって、その時は自然妊娠だったんです。だから、医学的にみたら“妊娠できる人”という扱いになっちゃって。不妊治療を始めたのは32歳の時だったし、高齢というわけでもなかった。血液検査の結果を見ても、何も異常がない。頭にくるんですけど、体は本当に健康そのものだったんです」

女性の第一子出産時期は年々後ろに倒れている。1990年時点の第一子出産の平均年齢は27歳だったが、2015年では30.7歳。都心部にエリアを絞れば、さらに年齢は上がる。こうした時代の変化を考えれば、「不妊」はより多くの女性たちが直面する悩みとなる。

古泉さん:「不妊治療は成功例ばかりニュースになるので、失敗例の統計もちゃんと出してほしい。結局、『次はできるんじゃないか』の繰り返しで、気がつけば僕らも総額600万円を費やしていました」

里子として迎えた”うーちゃん”は、特別養子縁組で「長男」に

2人が里親の登録をしたのは、ユリコさんが38歳のとき。不妊治療も続けていたが、10回目の体外受精も結果が実ることはなかった。2人に里子の連絡が来たのは、そんな折のことだった。そうして出会ったのが、古泉さん夫妻の息子、うーちゃんだ。初めて会ったときのことを「不思議な感じがした」と古泉さんは話す。

古泉さん:「最初に沐浴をするんです。すごく泣きますよって言われていたのに、うーちゃんは全然泣かなかった。でも翌日以降は大泣きしていたから、最初はよそ行きの顔で『ぼくは泣かない子だよ』って頑張っていたのかも」

「かわいかったねぇ」とユリコさんは顔を綻ばす。祈るような気持ちで不妊治療中の娘を見守っていたユリコさんの母親は、里子がくることが決まった時、泣いて喜んだという。

うーちゃんが古泉家にやってきたのは生後5カ月の時だったが、生まれた家庭のことをしっかり覚えている子を里子として受け入れるケースも多いそうだ。

古泉さん:「『男女問わず、3歳まで』って希望は伝えましたが、本当に赤ちゃんが来るなんて全く想像していなかった。そもそも里親登録をしてすぐに子供を預かれると思ってなかったくらいです」

うーちゃんを迎えた2年後、「特別養子縁組」が実現。里親制度の元では里子の親権はあくまで実親にあるが、特別養子縁組では里親に親権が認められる。

『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』(イースト・プレス)
『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』(イースト・プレス)
『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』(イースト・プレス)
『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』(イースト・プレス)より

こうしてうーちゃんの古泉家での戸籍上の表記は「養子」から「長男」へと変わり、名実ともにうーちゃんは古泉夫妻の息子となった。

『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』(イースト・プレス)
『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しましたた』(イースト・プレス)より

「むしろ血が繋がっていなくてよかったかもしれない」

2018年1月、古泉家は0歳の女の子を新たに養女として迎えた。

古泉さん:「普通はママのお腹が大きくなって赤ちゃんが出てくるけど、うちは乳児園に行って『うーちゃん、妹だよ』って、急に新しい家族が現れた。うーちゃんは乳児園に行くと赤ちゃんが貰えると思っているんじゃないかな(笑)」

昨年、ユリコさんは「最後にもう一度だけ」と決めて不妊治療を行ったが、やはり子どもはできなかった。古泉さんは「むしろそれでよかったのかも」とつぶやく。

古泉さん:「もし子供ができていたら、うーちゃんだけ血縁がなくて仲間外れになっちゃう。でも、新しい子も、うーちゃんも僕ら夫婦も、皆血はつながっていない。“バラバラなのが普通”っていうある意味一体感溢れる家庭になれました」

ユリコさん:「うーちゃんは、私たち夫婦には良い意味で全然似てない。うーちゃんはすごく活発だけど、私たちは全然(笑)。それに、お尻がキュッと上がって、スタイルが良くて、髪もサラサラ。私たちの血を引いた子だったらこんなにカッコ良くなかったかも。変な言い方かもしれないですけど、自分の子がこんなに完璧ですごくラッキー」

「うちにスターが来ちゃった。輝きがすご過ぎる」と二人は熱を込めてうーちゃんのことを話す。だが、出る杭は打たれる日本。まだまだ珍しい里親ゆえに、今後への不安は残る。最も気になるのは、うーちゃん本人が心ない言葉をむけられ、傷つくことがないかどうかだ。

ユリコさん:「児童相談所からは『物心がつく前に子供には必ず養子であることを言うように』と言われています。思春期で急に知るよりも受け入れやすいから、小学校に入る前までに告げる人が多いみたい。うちもすでに話してはいるけど、まだ理解はできていないと思う。この先、学校でいじめられないといいな」

あからさまに否定的なことを言われることは滅多にないというが、それでも「多様な家族の形」がもっと認められる社会であればと願う。離婚のこと、片親家庭のこと、養子のこと……マイノリティーと呼ばれる当事者たちがもっと声を大きくして自分たちのことを語れるように。

不妊治療中の女性にかけられる言葉は、何もない

2人の里子を迎えて幸せな家庭を築く古泉家だが、ユリコさんは「若いうちに出産できる期間に終わりがあることを知っておきたかった」と振り返る。

ユリコさん:「こんなことを20代の方に言ってもピンとこないかもしれないけど、実際、年齢を重ねるほど妊娠って難しくなります。不妊治療は成功例とは比べ物にならないくらいの失敗事例があるんです。『子どもが欲しい』気持ちがあるなら、早いうちに産んでおいた方がいいと思う」

若くして子どもを産めば、体力もあるし自分の親から援助を受けられることも多い。仕事を一度離れることになっても、取り返しはつく。「産めるときに産む。それもなるべく早く。経験上、それが本当に大切だなと思う」とユリコさん。しかし、人生はいつだって思い描いた通りにはいかないもの。もし今、なかなか子供ができずに苦しんでいる女性に声をかけるとしたら……? そんな問いに「当時の私ってことですよね?」とユリコさんは考え込み、「かけられる言葉は何もない」とポツリ。

ユリコさん:「どうすれば子供ができるのか。これ以外の情報はいらないんですよ。不妊治療中の女性に里親の話なんかしたら、怒られるかもしれません。実際に私も里親の話を夫にされたときは乗り気じゃなかったですから」

そんなユリコさんの価値観が変わったのは、ある一冊の本との出会いだった。

ユリコさん:
「大島弓子さんの『グーグーだって猫である』っていう漫画を読んで、里親もいいかもと思ったんですよ。野良猫を見返りもなくお世話をする愛情深い話で、血縁どころか種族も違うのに、ちゃんと家族になっているんです」

古泉さん:「絵本原作のアニメ映画『おまえうまそうだな』もいいですよ。主人公のティラノサウルスは里子で、その後里親にもなる。どちらの立場も経験している傑作です。あとは『最愛の子』や『光をくれた人』も素晴らしい里親映画ですね」

白黒テレビだった人生が急に4Kになった感じ

『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』(イースト・プレス)
『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』(古泉智浩著/イースト・プレス)
本当の親ってなんだろう? 里親登録をして赤ちゃんを預かって2年。「パパ」「ママ」と呼んでくれるようになったけど、戸籍上は「うちの子」ではない……。そんなときに突如訪れた「特別養子縁組」の話! 「新しい家族のかたち」として注目を集める制度の仕組みや手続き、実親との関係、真実告知、男親の育児などを正直に綴ったコミックエッセイ。大反響を呼んだ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』の著者による、「特別養子縁組」体験コミックエッセイ。>>Amazonで購入する

6年と600万円を費やすほどに欲しかった我が子を迎え、「こんなに子育てが楽しいなんて知らなかった」と話すユリコさん。古泉さんは「それはうーちゃんがすごく愉快な子供だからだよ」と幸せいっぱいの笑顔で返す。

ユリコさん:「うちの子が可愛すぎるせいかもしれないけど、私はやっぱり、子供のいない人生は考えられなかった。子育てを始めてから白黒テレビだった人生が急に4Kになった感じです」

取材後、古泉さんは保育園の発表会で踊るうーちゃんの動画を見せてくれた。「うちの子だけ、ポケットに手を入れてスカしてるんです」と微笑む姿は、“普通の父親”と何も変わらない。

動画に映っているのもまた、どこにでもいる“普通の男の子”だ。その子供を「スター」と呼ぶ夫婦の姿は、見事なまでに“普通の親バカ”だった。

2016年の里親委託率の全国平均は18.3%。同年末には「養子縁組あっせん法」が成立し、国を挙げて養子制度を拡充させるための取り組みが行われている。「児童相談所の手厚いバックアップがあったり、里親も育休が取得できるようになったり、今はすごくチャンス」とユリコさん。

子供を持つ手段は、自ら産むことだけではない。既存の家族像に左右されるのではなく、自分にフィットした家族を目指したっていい。どんな形であれ、そこに愛があれば家族になれるということを、古泉一家が体現している。

>>Vコミにて「漫画うちの子になりなよ」配信中

取材・文/天野夏海 イラスト出典/『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』(イースト・プレス)

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