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APR/2018

ママ社員にイラっとする、子なし女性の本音――「分かり合えなくて当然。ママの脳は出産前と全くの別物です」【脳内科医・加藤俊徳さん】

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職場内に時短勤務のママ社員が増えると、子どものいないフルタイム勤務の女性との間に目には見えない“軋轢”が生まれがち。

「お先に!」と急ぎ足で職場を去っていくママ社員の姿を見て、「保育園のお迎え、大変そうだなあ」と思いながらも、心のどこかで「私も早く帰りたいのに……」なんて思ってしまったり。時短で働くママ社員の仕事をカバーして残業が続いたりすれば、「何で私がここまでやらなきゃいけないの?」とイライラしてしまうこともある。声を大にしては言えないけれど、それが子なし女性の本音かもしれない。

また、産育休から復帰したママ社員の“変貌ぶり”に唖然とするケースもある。休みに入る前まではキレキレだったのに、職場復帰後はぼーっとしていたり、ミスが増えたり。「やる気がないのかな?」と思い始めると、周囲の人の心中は穏やかではない。

「仕事と子育ての両立は大変なことだ」と、頭では分かっている。でも、出産経験のない人からすれば、ママ社員に一体何が起きているのか、リアルに想像するのは難しい。

そこで今回は、そんな“分かり合えなさ”の理由を脳科学の観点から解明すべく、脳内科医の加藤俊徳先生を訪ねた。そもそも、出産を経験すると、女性の体、特に脳には何が起こるのだろうか。

ママ社員にイラっとする、子なし女性の本音――「分かり合えなくて当然。ママの脳は出産前と全くの別物です」【脳内科医・加藤俊徳さん】
脳内科医/脳の学校代表
加藤俊徳さん
脳内科医/医学博士/脳科学者。株式会社「脳の学校」代表。加藤プラチナクリニック院長。昭和大学客員教授。米国ミネソタ大学放射線科MR研究センターでアルツハイマー病や脳画像の研究に従事した後、慶應義塾大学、東京大学などで脳の研究に従事。2006年、株式会社「脳の学校」を創業。2013年、加藤プラチナクリニックを開設。発達障害グレーゾーン、認知症疑いなどの診断・治療だけでなく、MRI脳画像を用いて社会人の脳が成長する脳トレ医療を実践。著書に『脳の強化書』(あさ出版)、『才能の育て方』(小学館)『脳を強化したければ、ラジオを聴きなさい』(宝島社)などがある。

妊娠、出産を経て女性の脳は再構築される。まるで別人のようになる人も!

加藤先生は、「妊娠・出産は、女性の脳と体に“生涯の中で一番”と言えるほどの変化をもたらします」と話す。

「大前提として、女性は自分の体を変化させ、子どもを産む準備をします。その体の変化がなぜ起こるかといえば、脳が刺激を出すからです。具体的に言うと、脳下垂体のホルモン分泌が大きく変わり、幸福感や恍惚感をもたらすオキシトシンや、母乳が出るよう促すプロラクチンが大量に分泌されるようになります。人によってはそれがMRI画像にも現れるほどです。そうやって脳がホルモンの分泌を変え、授乳のために胸が大きくなるよう指令を出し、赤ちゃんを育てる体へと変えていきます

そして、出産を経て授乳が始まってからも、女性の脳と体はまだまだ変化を続けていく。

出産後4~5年の間は、お母さん本人も戸惑ってしまうくらい、性格も体質も別人レベルになってしまうことがあります。例えば、妊娠・出産が引き金になって、攻撃性が強くなる人もいるし、鬱っぽくなってしまう人もいる。逆に、『子どもを守らなきゃ』という母性本能から、これまで抱えていた不調がふっと無くなる人もいて、変化の仕方は人それぞれです。いずれにせよ、そうした出産前後での違いは、女性の脳の変化と、それに付随するホルモン分泌の変化が関係しているのではないかと考えられています」

疲れ、貧血、頻尿……。出産は女性の体に大きな負担を与える

ママの脳は出産前と全くの別物
では、妊娠・出産を経て脳が変化することで、仕事にはどんな影響が出やすくなるのだろう。
「全員に該当するとは言いませんが」と前置きした上で、加藤先生は次のように話す。

「母親の脳は『子育てが最優先』になる傾向があるので、独身時代とはまるで“物事の優先順位”が変わってしまう。以前まではバリバリの仕事人間だった女性でも、1番目が子どもの世話、2番目が子どもを育てる環境を整えるための家庭づくり、3番目にようやく自分のことを考えるようになります。その中で、仕事のことは一体何番目に入ってくるのか、という話です」

子どものいない女性たちがママ社員にイラっとするのは、この変化が分からないからという場合も多いのではないだろうか。産育休を終えて職場復帰を果たす女性たちは、見た目には大きな変化はない。姿カタチは妊娠する前のままだ。それゆえに、周囲は「仕事においても対等であるべき」「以前と同様に仕事してほしい」と考えてしまいがち。しかし、それこそがストレスの元となる。

「体型は妊娠前と同じでも、出産後の女性の脳は以前とまるで違うものなんです。そして、出産そのものが女性の体に掛ける負担は非常に大きく、疲れやすくなるし、貧血になりやすくもなる。また、骨盤の位置が下にズレて、頻尿になる人もいます。その場合、仕事中何度もトイレにいく必要が出てきますから、さぼっているように思われてしまうケースもあるかもしれません」

さらに、授乳を続けている間は、2~3時間おきに赤ちゃんに起こされるため、慢性的な睡眠不足になって脳の疲労が取れない日々が続く。すると、昼間の時間帯に脳が安定稼働しなくなってしまうのだ。

「子どもが夜にしっかり寝てくれるようになるまで、お母さんたちはいつも寝不足状態。周囲からすれば、仕事に集中せずぼーっとしているように見えてしまうかもしれません。でもそれは、仕方がないことでもあるのです」

「出産してすぐに復帰」は全く美談ではない。本来、職場復帰まで1年半は待つべき

こうした体調面の変化を鑑みると、「本来的には、妊娠・出産から職場復帰までの期間は、1年半程度は持った方がいい」と加藤先生は話す。一昔前には出産後すぐに職場復帰を果たした女性の話が美談として語られることもあったが、それによって女性の体には大きな負荷がかかっていることは紛れも無い事実。無理は絶対に禁物だという。

また、子育ては個人的な問題であり、仕事とは関係ない話だと考える人もいるかもしれない。しかし、出産や子育てによる脳や体の変化は、本人の意思で制御できるものではなく、生物の本能的なメカニズムとして発生するもの。どうしようもない変化にさらされているママ社員本人こそが、最も苦しんでいる可能性だってある

一方で、「じゃあ、いつまでママ社員のサポートを続ければいいの?」という不安の声も聞こえてきそうだ。それに対して加藤先生は、「ママ社員本人が、『今の自分には、どこまでできるのか』、『何ができないのか』を定期的に周囲の人に説明する努力も必要です。職場の人に気持ちよくフォローしてもえるように自分の状況を積極的に話してみましょう」とアドバイスする。

出産経験のある女性とない女性。見た目に違いは無くとも、その間には、脳の変化という意味で大きな違いがあることは確かだ。その「違い」を知るだけでも、お互い寛容になれるのではないだろうか。その上で、ストレスを抱えないために必要なコミュニケーションも取れるよう、心掛けておきたい。

取材・文/上野真理子


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