育休期間は「キャリアの足かせ」になる? 長く働きたい女性に必要な“規格外”を楽しむ力【クレディセゾン 栗田宏美さん】

「産休育休中でも、仕事から完全に離れないやり方を模索していました」

そう語るのは、株式会社クレディセゾンでWebプロモーションの仕事を手掛けてきた栗田宏美さん(33)。同社が運営する、オウンドメディア『SAISON CHIENOWA(セゾンチエノワ)』の立ち上げ人だ。

クレディセゾン セゾンチエノワ 

株式会社クレディセゾン
デジタル事業部 デジタルマーケティング部 データビジネス課
栗田宏美さん

新卒で地域密着型メディアの広告企画営業、その後第二新卒としてWeb広告代理店に転職、コンサルティング業務に従事。2014年9月にクレディセゾンに入社し、同社オウンドメディア『SAISON CHIENOWA』を立ち上げサイト運営のプロジェクトマネージャー、編集長を兼任。6ヶ月の産休育休を経て、かつてのポジションに復帰。18年4月に異動し、現職

クレディセゾンには、現在およそ3000人の社員がいるが、その約8割が女性社員。そのうち、年間100名以上が、産休に入るという。そんな環境にいてもなお、女性にとって産休育休で職場を離れる際には、焦りや不安がつきまとう。

では、これからの時代に女性がライフステージの変化を経ても、長く働き続けるためには……?
『SAISON CHIENOWA』を通じて働くママ、パパへの情報発信を続け、自身も産休育休を経て職場復帰を果たした栗田さんのキャリアから、その秘訣を学びたい。

「大好きな広告にずっと関わりたいから、紙からデジタルにシフトチェンジした」

私のファーストキャリアは、紙媒体でした。もともと広告に携わりたいと思っていて、本や新聞も好きだったので選びましたが、紙媒体業界においても、「いかにデジタル化をしていくか」が問題になっていて、そして当然うまくいってませんでした(笑)。

パソコンは嫌いだったし、大学でも情報系の講義はサボってばかりいたのに、好きなこととなると俄然興味が湧いて。長いこと広告に関わっていきたいのであれば、デジタルの知識やスキルを身に付けた方がいいと、直感的に思いました。それで、Web広告代理店に転職したんです。

そこではコンサルタントとして、クライアントのWeb施策のPDCAをまわすサポートや、サイト制作のお手伝いを経験しました。4年半で、累計100社以上は担当したと思います。Webサイト制作やリスティングなどのWebプロモーション、SEOやデジタル連動キャンペーンの知識がある程度身に付いてきたところで、今度は事業主側で広告の仕事がしたいと思い始め、8社くらいのエージェントに登録して転職活動を開始。書類選考では50社以上エントリーしましたね。

転職する上で大事にしたかったのは、やりたいことを突き詰めながらスキルアップできるかどうかと、子どもができても長く働ける環境があるかどうかです。この二つを満たすと感じたクレディセゾンに、最終的に入社を決めました。クレジットカードに特別興味があったわけではなかったけれど、自分にとって身近なものだし、ユーザーとしての気持ちが分かるから、扱うサービスとして面白いなと思ったんです。

クレディセゾン セゾンチエノワ 

入社して2カ月が経った頃、とある社内戦略会議でオウンドメディア構想のプレゼンテーションをしました。それが、働くママ向けのWebメディア『SAISON CHIENOWA』です。チーム体制からサイトコンセプト決めなど、ゼロから創り出した仕事だったので、サイトの公開までには1年を要しました。カードを持っていない人たちと、当社が接点を持つ場になればという期待を込めて作ったサイトでもあり、インナーコミュニケーションの活性化も狙っていました。当社では、産休育休を取得する社員がすごく多いので、子育ての経験を強みに変えられないかなと。育児経験で学んだことをアウトプットする場としても、『SAISON CHIENOWA』は機能すると思いました。

私たちはクレジットカード会社で、消費者の消費行動をサポートする企業だというアイデンティティーがあります。消費行動ってなんだろう?とみんなで考えてみると、「働くことと暮らすこと」だなという結論にいたりました。じゃあ、「働くことと暮らすこと」に役に立つヒントを発信することが出来ればいいねと。クレディセゾンには働くママがたくさんいますから、運営側のインサイトと読者のインサイトが限りなく近ければ、運営側の課題感をそのままアウトプットすることが読者のためにもなりますよね。もちろん、私たちはメディア作りのプロというわけではないので、試行錯誤は多々ありましたが、その試行錯誤も含めてオープンにしていくことに意味があると思っています。

産休育休期間を“キャリアの足かせ”にするか・しないかは自分次第

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そんな信念を込めた『SAISON CHIENOWA』を、多くの人と一緒にゼロから創りあげた身としては、自分が産休に入って仕事を離れる時は、やっぱり寂しさと、不安を感じました。でも、お休みを取るからといって、それがキャリアの足かせになるかどうかは、自分次第かな、という気もしていて。まず、上司に無理を言って、産前テレワークにトライさせてもらいました。里帰り出産だったので出社することは物理的に出来ないけれど、頭は使えると思ったからです。出産の二週間前まで、テレワークさせてもらいました。

出産した後は、これまでを振り返ってみて、自分に足りていないことは何だろうって考えてみることにしました。そこで思いついたのが、デジタルにおける技術領域の知識不足です。サイト運営をしていると、システム開発を行ってくれるエンジニアの方々と話をすることがよくあるんですが、私の知識不足ゆえ、自信を持って決断を下せなかったり、うまくコミュニケーションが取れなかったりするケースがよくあったんです。

運良く保育室が見つかって慣らし保育をする期間が出来たので、休み期間のうちに新しい武器を手に入れよう。そう思って、『TECH::CAMP(テックキャンプ)』というプログラミング教室に通うことにしました。

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栗田さんがプログラミング学習時に使っていたノート

最初は1カ月のつもりでしたが、思ったより手ごわくて(笑)、結局2カ月間みっちりやりました。その時に勉強したことは、復職してから多いに役に立ちました。今でも、自分の強みのひとつだと思っています。

いざという時に使える武器をより多く揃えよう

復職して1年半が経ち、今年の4月に部署異動をしました。プログラミングを勉強して、デジタルマーケターとしてオウンドメディア以外の知識も身につけたいと思えたことと、新しいチャレンジに対する恐怖心がなくなりました。「オウンドメディア作りができるよ」っていうだけじゃなくて、もっといろいろな経験を積んでスキルを身に付け、自分の“芸の幅”を広げたいと思っています。

これからの世の中で働き続けていくためには、女性、男性問わず、「掛け算」のスキルが重要だと思うんですよね。一つのことをずっとやって深めていく素晴らしさもあるけれど、「専門性+αの知識」がある人がこれからますます重宝されていくような気がしていて。その+αの部分としてプログラミングを学べば、市場価値を高めることも夢ではないんじゃないでしょうか。だって、ITが関わらない仕事は、今の時代ほとんどないですからね。エンジニアになるわけじゃなくても、一緒に働くエンジニアが何を言っているか理解できるっていうだけで、私の場合はコミュニケーションの質がかなり高くなったと感じます。

一方で、「そこまでして働くべきなのか?」という議論もありますよね。それは、いろいろな価値観があっていいと思います。働くことへのスタンスやコミット度合いは、本当に人それぞれ。私自身もたくさん失敗して、今のスタイルに落ち着きました。好きでやっていることだから、「プライベートが無い」というストレスが全く無いんです(笑)。仕事に縛られている感覚もありません。

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そして、これからは「やりたくない仕事」「面倒な仕事」はどんどんAIがやるようになっていくと思っているので、好きなことをどんどんやっていこう、と思っています。でも、あくまでこれは私の考え。自分がよく考えて行き着いた答えであれば、どんな生き方を選んでもいいはずです。

一番避けたいのは、自分との対話をさぼった結果、「妥協した道」を選んでしまうこと。何を守り、何を切り捨てて生きていくか、よく考えないまま周りに流されて生きてしまうと、いつか後悔する時がやってくるのではないでしょうか。

こんなことを偉そうに言っていますが、私も人生に迷うことは多々あります。直近では、夫のイスラエル赴任が決まっちゃってパニックです(笑)。私もついていくの? 日本に残ってワンオペで育児するの? せっかく新しい挑戦ができるのに?って思いながら、自分と家族と周囲にとって最善の選択を模索しています。もがいているうちにだんだんもう答えは見えて来たんですけどね。

既存の枠に自分を当てはめて考えるときついけど、そうじゃなくて、もっと自由に生き方を考えて、自分が実験台になっちゃえ! と思っているところもあります。今までになかったようなキャリアの道筋をつくっていくのも、楽しそうじゃないか、と。もちろん、家族や周囲としっかりコミュニケーションをとりながら、決してひとりよがりにならないようにすることが前提ですが。子育てしながら、マーケターとしてイスラエルと日本の架け橋になることができたら面白いんじゃないか、と妄想しています。

人生には想定外の出来事が不可避だから、“規格外”の生き方を楽しめるマインドがある人は強いですよね。失敗してもそれは、長い目で見ると“芸の肥やし”。今「足かせ」だと感じることも、将来は「強み」になるかもしれない。そんなモチベーションで、生きていけたらいいなと思います。

取材・文/栗原千明(編集部) 撮影/吉永和久