「他人から見て変でも構わない、自分自身が幸せなら」ミレニアルズの幸福論【りゅうちぇる・椎木里佳ほか】
「女性だから料理ができなくちゃ」「男なのに弱々しい」。私たちの周りにあふれている「女らしさ」や「男らしさ」に、息苦しい思いをしている人は少なくないだろう。ソーシャル・イノベーションフォーラム2018での講演『「性別」ってなんですか?』の中から、性別や年齢といった「枠」に縛られずに生きていくためのヒントを探る。

登壇者はタレントのりゅうちぇるさん、株式会社AMF代表取締役の椎木里佳さん、ダイバーシティー推進に取り組むコンサルタントの蓮見勇太さん。モデレーターはハフポスト日本版の井土亜梨沙さんが務めた。
他人が決めた幸せが自分に当てはまるとは限らない
井土:皆さんの周りに、「枠」をつくってしまっている人っていますか?
蓮見:SNSの「いいね」の数を気にしている人たちですね。私のベルギー人の友人で、シングルマザーの女性がいますが、彼女は「My day」をつくって、5歳の息子をベビーシッターに預けて買い物に行ったり、ボーイフレンドとデートをしたりするんです。前のパートナーとの関係がギクシャクしていたとき、子どもがふさぎ込んでしまったことがあって、その経験から自分が幸せじゃないと子どもに良くない影響を与えてしまうと思ったそうなんですね。
周囲の人からは「母親なのに遊びに行って、子どもがかわいそう」と言われることもあるけれど、彼女はそれを全く気にせず、自分の幸せを考えている。他の人がどんな生き方をしていてもいいじゃないっていうスタンスで、一緒にいてとても居心地がいいんです。彼女みたいに自分のものさしで幸せを図れている人は、枠を超えているなぁと思います。

りゅうちぇる:一度きりの人生なんだから、自分の色に染めてしまっていいと思うんです。でも皆、他の人の考えで生きている。「しっかりした人に見えるからスーツを着よう」とか「金髪にしたら明るい人に見えちゃうかな」とか。せっかくの自分の人生なのに、もったいないなって思います。
「お昼にパンケーキの写真をSNSに載せてたら幸せそうに見られるかな?」みたいな人を僕は幸せそうとは思わないし、逆に、ちょっと他の人とズレていたとしても「自分にとってこれが幸せ!」って言えるものを持っている人はキラキラして見える。
例えば僕はメイクをしている時がとっても幸せなんです。でも、皆がメイクをしていたら幸せっていうわけではないし、他の男の人からしたらそれは「変」かもしれない。でも「僕はこれで幸せなの!」って言えたら、それが一番じゃないですか? だからその人にとっての幸せを追求したらいいと思うんですよね。

井土:性別も一つの「枠」ですが、仕事に性別は必要だと思いますか?
椎木:私は必要だと思います。そもそも起業するときに「若くて女の子で大学生」であることが他の企業との違いで、そこに可能性を感じてガールズマーケティングをやろうって決めたんです。「女性だから」という理由で嫌な思いをしたことがないわけではないけれど、仕事をする上で女性であることが障壁になると感じたこともあまりないです。
井土:起業家の世界は男性社会というイメージがあります。「男だったらよかったのに」と思うことはありますか?
椎木:例えば飲み会に行くと、風景が変わっちゃうんです。「女の子が来た」「華やかになるね」みたいな感じになってしまう。もし私が男だったら、起業家仲間として対等に見てもらえるのかなって思うことはありますね。
蓮見:僕も性別は必要だと思っています。例えばLGBTの方を対象にした保険がありますが、現状、性別の枠があることによってサービスを享受できない人がいる。だからこそ、既存の枠にビジネスチャンスやイノベーションがあるのではないでしょうか。
性別はただ後ろからついてくるもの。一番大切にすべきは自分らしさ
井土:今日のテーマである「性別って何ですか」ということを、改めて皆さんに聞いてみたいと思います。
蓮見:私にとって性別とは、これまでも、これからも、付き合っていくアイデンティティーの一つ。社会には男らしさ、女らしさというものがまだまだ残っていて、そういったものとどう付き合っていくのかはこの先も考えていかなければいけないですね。
ダイバーシティーの推進を7年ほどやっているんですが、ダイバーシティーには多様性だけでなく、「多彩性」も加わると思っています。性別や年齢、人種など、多様性は目に見えて分かりやすいですが、自分らしさや考え方、働き方などの多彩性は目に見えにくい。この多彩性を忘れずに、多様性と多彩性が生かされた状態がダイバーシティーのあるべき姿。そんな社会を目指そうと思って仕事をしています。
椎木:私が小学6年生の時にスマホが出たんですけど、私より下の世代は自分の考えがまとまっていない小学生のときから、SNSでいろんな価値観を見ている。だからこそ自分と全く違う考え方をする人がいても、「そういう意見もありだけど私はこう思う」といったように、多様性を受け入れていると思います。
性別は個性だと私は捉えているんですけど、女性に生理があったり、男女で明らかに違う部分はあると思っています。男性として生まれてきた、女性として生まれてきたっていうことを一度考えて、それを利用する。そんな考え方もありなのかなと思っています。
りゅうちぇる:「性別って何だろう」っていうテーマだけど、僕の中で答えは決まっていて、性別はただついてくるもの。一番大切にするのは自分らしさで、性別はただ後ろからついてくるものって認識です。
Q&A
「性別が分からない」「トランスジェンダーの友達の悩みを理解したい」
イベントの後半では、来場者やネット配信動画でイベントを聴講している人からの質問が上がった。ここでは性別についての質問に対する登壇者の回答を紹介しよう。
聴講者:同性婚や同性パートナーについてどう思いますか?
椎木:私は賛成です。むしろ何で今まで禁止だったのかが分からないですね。反対している人の意見を私の周りの人からは聞いたことがないです。

りゅうちぇる:恋愛には「2人でするもの」っていうルールしかないので、同性カップルは自然なことだし、僕も何で問題視されるの? って思っちゃう。「同性婚」っていう枠をつくること自体に違和感があるなって思います。同性婚っていう枠をつくったからOKってことじゃなくて、男女の結婚の中に普通に入れてほしいって思ってます。
聴講者:自分の性別が分かりません。性別ではなく、“私自身”として見てもらうためにはどうしたらいいでしょうか?
りゅうちぇる:ちょっとふざけた感じで「どっちなの?」って性別を聞かれた時、僕は「キャンディーボーイです」って答えてるんです。女の子が好きで、ぺこりんが好きで、僕が思う男らしさでぺこりんを守ってあげたい。だからボーイではあるんだけど、かわいい感じでキャンディー、みたいな感じ。
男と女なんて、昔の誰かが決めたことじゃないですか。だから自分で自分だけの性別をつくっちゃっていいと思います……って言いたいところなんだけど、僕はりゅうちぇるだし、芸能人だからできるところもあるはず。実際学生時代に「僕はキャンディーボーイです」って言ったら「はぁ?」って感じだったと思うんです(笑)
だから性別を聞かれたときに「男の子です」「女の子です」ってその時は答えたとしても、自分の中で自分だけの性別を描いて、それを出せるタイミングで打ち出せばいい。TwitterでもInstagramでもいいから、「ここなら出せる」っていう自分の居場所を決めて、そこで表現する。ただ、皆に理解してもらうのは難しいですよね。僕だって、嫌いな人はいるし(笑)。皆に対して本当のことを打ち明ける必要はなくて、どうにかして自分の居場所をつくって、そして自分を愛してあげるってことが大事なんじゃないですかね。

聴講者:友達がトランスジェンダーで、「つらい」「怖い」「こんな見た目の自分が嫌だ」と言っていて。私は理解者になりたいけれど、当事者じゃないから気持ちが分からないんです。友達の枠をどうやったら広げられますか?
りゅうちぇる:僕は男性に告白をされたことがあるんですけど、「気持ちは嬉しいけど、僕は女の子が好きだから。でもありがとう」って答えて、その後も友達でいたんですね。実は彼に同じような相談をされたことがあって。悩みは違うけれど、僕も居場所がないことがつらかったから、居場所を見つけたらいいんじゃないかな。
「ここで生きてかなきゃいけない」なんて決まっていないから、違うところに行ってみて、いろんな世界を見てみたらどう? って話をしたんです。そうしたらその子は留学して、そこで自分と同じような人たちに出会って彼氏もできて、今ハッピーなんですよね。だからまずは、狭い世界を飛び出して、自分がしっくりくる「居場所」を見つけてみたら? って思います。
【登壇者プロフィール】
タレント
りゅうちぇるさん
95年生まれ。原宿に上京後、ショップ店員の傍ら読者モデルとして活動。15年にTV出演を機にブレイク。18年より「自分の色を取り戻そう」をテーマに音楽活動を開始。
Instagram: ryuzi33world929
twitter:@RYUZi33WORLD929
株式会社AMF 代表取締役
椎木里佳さん
1997年、東京都生まれ。 中学3年時に起業し、「JCJK調査隊」を率いたマーケティング業務を提供。SNS世代代表としてメディアにも多数出演。慶應義塾大学在学。
Twitter:@rikashiikiamf
Diversity & Inclusion Evangelist/NPO法人GEWEL 理事/米日カウンシル エンゲージメント委員会
蓮見勇太さん
企業においてダイバーシティ&インクルージョン日本&韓国地域統括責任者を経験のち、現職。産学官の架け橋としてグローバルに推進する。早稲田大学院 経営管理修士修了。
ハフポスト日本版「Ladies Be Openディレクター」
井土 亜梨沙さん
1990年生まれ。ハフポスト日本版で「Ladies Be Open」のプロジェクトを立ち上げ、女性のカラダにまつわるさまざまな情報を発信している。
取材・文・撮影/天野夏海