【最終回】これからの時代に女性たちが自分らしく働くために覚えておくべき三つの心得/田中美和

田中美和さん連載 ニューノーマル時代のLive Your Life!
田中美和さん

「働く女性たちへ向けてコラムを書いてみませんか?」ーーそんなふうに声を掛けていただいてWoman typeさんに毎月連載を書かせていただくことになったのは2020年5月のこと。

4年半におよんだ連載も今回がいったんの最終回となります。ここまで長く続いたのも読者の皆さんのおかげです。本当にご愛読ありがとうございます!

今回はこの4年半で日本の働く女性たちに起きた変化を振り返りつつ、女性たちがより良い働き方を実現するために何ができるのか、具体的なアクションについてお伝えしていきます。

暗いニュースが目立つけれど、着実に「良い変化」も起きている

ミーティングをする女性たち

私は長年、女性のキャリア支援を行ってきましたが、働く女性たちが置かれている状況は、依然として課題が山積しています。

女性の労働力率(※)は、結婚・出産期に当たる年代にいったん低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇するいわゆる「M字カーブ」を描くことで知られていますが、近年、M字の谷の部分が浅くなってきていると言われています。

(※)15歳以上人口に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合

これは、女性が継続的に働くようになったことの表れであり、一見良いニュースに見えますが、前回の記事でもお話ししたように、多くは短時間の非正規労働者。

家事や育児の負担の女性への偏りや、日本の税や社会保障の仕組みから、女性たちが非正規雇用を選ばざるを得なくなっているのです

これは、女性管理職比率が12.7%と低いことや、国際的に見て男女の賃金格差が大きい問題にもつながっています。

このように、働く女性たちが直面する現実が厳しいのは事実。

しかし、私がこの連載を続けてきた4年間を見ていると、働く女性を取り巻く環境には“良い変化”も起きています。

特に大きな変化は以下の三つです。

【1】コロナ禍でリモートワークが浸透し、働きやすくなった

リモートワークをする女性

過去4年間で、働く女性を取り巻く環境に起きた大きな変化の一つが間違いなく「コロナ禍によるリモートワークの浸透」でしょう。

私は2013年からリモートワークやフリーランスなどの時間・場所にとらわれにくい柔軟な仕事を女性に紹介する会社を経営しています。

2013年当時からリモートワークを求める女性は多かったのですが、コロナ前はリモートワークOKの会社員の仕事がほとんどなく、リモートワークをしたいのであれば「フリーランスになるしかない」状態でした。

そうした女性たちの課題を少しでも解決したくて自分たちで会社をつくったのですが、コロナ禍によりリモートワークが急激に浸透したのです。

東京都によれば都内企業のテレワーク実施率はコロナ前は20%台でしたが、緊急事態宣言期間に最大で65%にも達し、直近でも43%台の水準を維持しています(下図)。

テレワーク実施率の推移を表すグラフ

東京都産業労働局調べ

しかも、直近でも「週3日以上(テレワークを実施)」という企業が全体の45.6%を占めており、リモートワークが一般的になっていることが分かります。

これは、育児や介護などで働くことを諦めざるを得なかった女性にも働くチャンスが増え、自分らしいキャリアを築く女性が増える良いきっかけだったと言えるでしょう。

【2】法改正で、多くの企業が女性活躍推進に取り組むようになった

管理職として活躍する女性

2022年の女性活躍推進法(※)の改正も、女性にとっては力強い後押しになっています。

(※)女性の個性と能力が十分に発揮できる社会を実現するために定められた、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律

対象企業が拡大され、 従来は常時雇用する労働者が301人以上の企業が対象でしたが、101人以上の企業にも適用範囲が拡大。これにより、より多くの企業が女性活躍推進に取り組むことが求められるようになりました。

情報公開の強化により、企業は女性に関するさまざまな情報を公開することが義務付けられました。具体的には、男女間の賃金格差、女性管理職の割合、育児休業取得状況などがあげられます。

これにより、企業の女性活躍推進の取り組みが可視化され、社会全体の意識改革を促すことが期待されています。

さらに企業は、女性管理職の割合や女性社員の割合など、具体的な数値目標を設定し、その達成に向けて取り組むことが求められるようにもなってきています。

【3】「人的資本情報の開示義務化」も追い風になった

働く女性たち

加えて2023年3月期決算から約4000社の上場企業を対象に「人的資本情報の開示」が義務化されました。「人的資本情報」とは、従業員のスキル、経験、能力、多様性などのことをいいます。

企業の価値は、もはや有形資産だけでなく、人材などの無形資産にも大きく左右されるという認識が高まっています。人的資本情報は、企業の将来的な成長性や競争力を評価する上で重要な指標となるため、投資家やステークホルダーがより正確な判断を行うために、開示が義務化されたのです。

人的資本情報の開示は、女性活躍にも大きな影響を与えています。

女性の雇用比率、管理職比率、離職率などの具体的な数値を開示することで、企業の女性に対する取り組みが可視化されますし、情報開示により女性を含む多様な人材の育成と活躍が促進されているかどうかも分かります。

こういった変化により、女性たちが働く環境は着実に改善している部分もあります。

これからの時代、女性たちはより自分らしく働けるようになっていくと考えた時、何を意識してキャリア形成をしていったらいいのでしょう?

これからの時代、自分らしく働くための三つのヒント

働く女性

ポイント1.
キャリアは「ジャングルジム」で考えよう

女性のキャリアは育児・介護・配偶者の転勤など外的要因を受けやすく『ジャングルジム型』とも言われます。ジャングルジムは、上へだけでなく、横へ、斜めへと自由に移動できます。

女性のキャリアも、結婚や出産など、ライフステージの変化に合わせて、柔軟に働き方を変えていくことが自分らしい生き方・働き方を実現することにつながっていきます。

上へ上へと、上りつめるだけではない多様さや柔軟さをむしろポジティブにとらえて、ジャングルジム型のキャリアを楽しみましょう

その時に、多様な「ロールモデル」をぜひ知っておいていただきたいと思います。この「多様さ」はコロナ禍をへてますます加速しています。

働き方はオフィス勤務だけではなく、リモートワークやそれらを組み合わせたハイブリッド型など多様な形が現れてきています。

正社員、契約社員、パート・アルバイトなどの雇用形態にとどまらず、特定の会社に所属せず、個人で仕事を受注して働くフリーランスも珍しくありませんし、株式会社など法人を設立して事業を行う人もいます。

ポイント2.
ロールモデルが見つからなかったら、「パーツモデル」を見つけよう

最近は、働く形態の「ボーダーレス化」も進んでいます。

例えば、会社員として働きながらフリーランスとして副業の仕事をしている人もいますし、もともと会社員だった人がライフステージの変化とともにフリーランスになり、また数年して会社員へと戻っていく人もいます。

「こうでなければならない」
「この道を選んだら元には戻れない」

圧倒的な「正解」や「間違い」があるわけではない、本当の意味で100人いれば100通りのキャリアがある時代になってきたと感じます。

「身近なロールモデルがいない」と悩む女性もいることでしょう。

キャリアにおける「パーツモデル」という考え方を聞いたことはありますか? 従来の「ロールモデル」のように、一人の人物を丸ごと模倣するのではなく、さまざまな人からそれぞれの「良い部分」や「スキル」を「パーツ」として取り出し、それらを組み合わせて自分だけのキャリアを構築していく考え方です。

ぜひ「パーツモデル」の考え方も取り入れながら多様な生き方・働き方のお手本を探していきましょう。社内で見つからなければ社外へ目を向けるのも手です。

ポイント3.
「偶然に身を任せる」ことも大切にしよう

面接を受ける女性

最後に「偶然に身を任せること」こともぜひ大切にしてください。

自分のキャリアを主体的につくる「キャリアデザイン」はとても大切です。そうすることによって自分が興味・関心のある情報やネットワークにアクセスしやすくなります。デザインすることで、その領域にアンテナが立つようになるんですね。

「カレーが食べたい」と思っていると、道を歩いていてもカレー店が目に入ってくるのと似た論理です。

一方で、自分らしい生き方・働き方をつくっていくという意味においては偶然の存在も大きいものです。

皆さんは「計画された偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」を聞いたことはありますか?

これは非常によく知られたキャリア理論の一つ(私も大好きです!)で「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される」というものです。

たまたまその場所に行ったこと、たまたま人と出会ったこと、たまたま異動(転勤)したこと…人生はまさにそんな「たまたま」の出来事によって決定されていきます。

だったらキャリアをデザインすることに意味はないのか?ーーそんなことはありません。

「計画された偶発性理論」では予期せぬできごとが起きた際に行動できるだけの準備をしたり、偶然のできごとにフレキシブルに対応したりすることで、チャンスが生まれるのがポイントです。

描いて、手放して……新たなスキルや経験を得て自分自身をアップデートしながら人生100年時代を自律的に歩むことが、個人の充実感へとつながっていきます。

一連の連載が皆さん一人一人の「自分らしいキャリアづくり」に少しでもお役に立てていたようでしたらうれしいです。

書籍情報

田中美和 自分らしく働くための 39のヒント Live My Life

『Live My Life 自分らしく働くための 39のヒント』
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大切なことは歩んできた道のりをしっかり振り返ること、その結果として自分の手の中に何があるかを正しく理解すること、そして今後どんな人生を歩みたいかを考えて行動へつなげていくことです。
すべてが今につながっているし、振り返ればたどってきた道がある。

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田中美和

【この記事を書いた人】
Waris共同代表・国家資格キャリアコンサルタント
田中美和

大学卒業後、2001年に日経ホーム出版社(現日経BP社)入社。編集記者として働く女性向け情報誌『日経ウーマン』を担当。フリーランスのライター・キャリアカウンセラーとしての活動を経て2013年多様な生き方・働き方を実現する人材エージェントWarisを共同創業。著書に『普通の会社員がフリーランスで稼ぐ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。一般社団法人「プロフェッショナル&パラレルキャリア フリーランス協会」理事