【天海祐希】若手と“対等”に向き合うリーダー論「力を引き出してあげたいなんて、おこがましい」
今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります。
史上最年少で宝塚歌劇団月組トップスターに上り詰め、退団後も俳優として第一線を走り続けてきた天海祐希さん。
多くの調査で「理想の上司」に選ばれ続け、パブリックイメージ通りのリーダーシップがたびたび話題に上がる存在でもある。
共演者やスタッフに与える安心感や包容力。チームの士気を高める振る舞い──。数々の現場を座長としてけん引してきた彼女は、なぜ常にチームのパフォーマンスを高める存在であり続けるのか。
天海さんのリーダーシップの根幹にあるマインドを聞くと、マネジメントに悩むすべての女性に届けたい、愛あふれるメッセージがそこにあった。
天海祐希さん
1967年生まれ、東京都出身。87年に宝塚歌劇団に入団し、93年に月組トップスターに就任。退団後は映画・ドラマ・舞台と幅広く活動している。主なドラマ出演作に『離婚弁護士』(フジテレビ)、『女王の教室』(日本テレビ)、『BOSS』(フジテレビ)、『トップキャスター』(フジテレビ)など。映画では『最高の人生の見つけ方』(19年)、『老後の資金がありません!』(21年)などがある。舞台でも『蒼の乱』(14年)、『修羅天魔〜髑髏城の七人 Season極』(21年)、緊急取調室 THE FINAL(25年)ほか、多くの話題作に出演。第45回日本アカデミー賞優秀主演女優賞(『老後の資金がありません!』)など受賞歴多数
8年ぶりの声優への挑戦「監督の設計図に沿わせていくのがベスト」
今回天海さんは、1月30日(金)に公開される東野圭吾氏の長編小説『クスノキの番人』のアニメーション映画に参加した。約8年ぶりの声優へのチャレンジだ。
本作は、人生につまづいた青年・玲斗が伯母の千舟と出会い、「クスノキの番人」としての役目を与えられることで、人々の思いに触れながら自らの人生を見つめ直していく物語だ。
天海さんが演じるのは、玲斗の伯母であり、物語の鍵を握る柳澤千舟。大企業・柳澤グループの発展に寄与してきた敏腕経営者としての顔も持つ人物だ。
弱さを見せず、自らの意思で人生を切り開いてきた千舟のまっすぐな背中に、天海さんの凛とした声はぴたりと重なる。
東野先生の作品は、たとえ悲劇的なストーリーであったとしても、読後に温かさや心に染み入るような切なさが残ります。そんな魅力的な東野作品のアニメーション映画化にあたり、お声がけいただきとても光栄でした。
『メアリと魔女の花』のマダム・マンブルチュークをはじめ、『崖の上のポニョ』のグランマンマーレ、『ミニオンズ』のスカーレット・オーバーキル、『名探偵コナン 暗黒の悪夢(ナイトメア)』のキュラソーなど、声優としても確かな評価を得る天海さん。
それでも、声で演じる仕事は毎回新たな挑戦だと語る。
柳澤千舟という女性の生き方を想像し、なぜこの言葉を選んで発しているのかを考えながら声を調整していきました。
声の仕事をするときは、自分なりのイメージは作りつつも、選択肢をいくつか用意しておき、監督にイメージに近いものを選んでいただけるようにしていて。
監督の頭の中には設計図があるので、それに声の高低や抑揚を沿わせていくことが、ベストな方法だと思っています。
アニメーションは、“目で見る部分”はすでに完成している。そこに声を沿わせることで監督のイメージをかたちにしていくのが自分のやるべきことであると、天海さんは自身の役割を分析する。
最後の玲斗と千舟が対峙するシーンは、映像に向かうのではなく、玲斗を演じる高橋文哉くんと向かい合う形で演じさせてくださいました。
その時に「そうそう、この感じ……!」と自分たちのフィールドに来た感覚があって。
言葉に心が宿る掛け合いのシーンだったので、役者としての強みを生かせるやり方を試行錯誤してくださったのは、とてもありがたかったですね。
声の仕事のプロフェッショナルたちと比べるとまだまだ経験不足の私たちを、監督が引っ張り上げてくださったなと感じています。
根底に愛情があれば、思いはいつか伝わる
本作において、夢や目標を持てず、人生の選択を運任せに生きてきた玲斗は、千舟の厳しくも的確なリーダーシップに導かれるように、自身の世界に色を見いだしていく。
私は昭和の時代に、厳しい世界に身を置いていました。それこそ、厳しいことを言われても「へこたれずについてこい!」という世界。
千舟さんのようなリーダーシップにもたくさん触れてきましたが、今の時代だと好意的に受け止められない方も多いかもしれないなとは思います。
ただ、アプローチが厳しかったとしても、どういう思いでそうしているのか、根底にある愛情が伝わればきっと大丈夫じゃないかな。
物語の中で、人々はクスノキに大切な人への思いを託す。そして、それを受け止める準備や覚悟ができた人だけが、託された思いを受け取りに行く。根底に両者を結びつける絆があれば、思いは正しく伝わるはずだ。
例えば子どもの頃に周りの大人に言われた言葉で、そのときには理解できなかったことってありますよね。でも10年、20年経ったある時、ストンとその意味が理解できたりする。
たとえすぐには届かなくても、根底に愛情があれば、受け取る準備ができたときにちゃんと相手に届くのだと思います。
それが正しいコミュニケーションの方法かもしれない、と天海さんは言う。
しかし今の時代、思いを伝える側はどう伝えれば正しく受け取ってもらえるかを難しく考えてしまいがちだ。
部下とのコミュニケーションに悩む上司も多いだろう。厳しい態度で臨めば萎縮させてしまうかもしれないし、かといって伝えるべきことを遠慮してしまったら成長を促せない。
座長として多くの若手と接してきた天海さんに、彼らのパフォーマンスを引き出す上での心掛けを聞くと、意外な答えが返ってきた。
私が力を引き出してあげたいなんて思うこと自体が、おこがましいと思うんです。どんな作品でも、出演者は常に横並び、対等だと思って臨んでいます。
ただ、私のような大の大人が全力でぶつかっていく姿勢を見せれば、彼らにも「ここは全力で表現していい場所なんだ」と思ってもらえると思うので、それは毎回心掛けています。手加減することこそ、失礼になりますから。
「私はバンバン好きにやるから、あなたも自由にやってね」というのを、言葉にせずとも感じ取れる現場は理想的ですよね。
もちろん、彼らが全力で投げてきたボールはちゃんと受け止めて、投げ返す。それさえできれば、いつか必ず思いは通じ合うと思っています。
年齢や経験に関係なく、対等な立場でぶつかり合う。その言葉のとおり、天海さんは玲斗を演じた高橋さんに対しても、敬意を惜しまない。
コミュニケーションの根底に愛情を持ち、全力でぶつかっていく。返ってきたボールは、必ず受け止める。
立場や年齢に関わらず、誰とでもそんなコミュニケーションを取ってきた天海さんだからこそ、どの現場でも絆が芽生え、チームのパフォーマンスが高まってきたのだろう。
リーダーだって、気持ちを解放していい
本作の終盤において、大きな責任を背負い、自分の気持ちを理性で押し込めてきた千舟が、玲斗と出会ったことで、次第に押し殺していた気持ちを解放していく姿が描かれる。
千舟は、結婚もせず、子どもも残さなかったけれど、大きなものを創り上げたと自負しています。
ひとりの女性としては、小さな幸せをいくつもいくつも切り捨ててきたのかもしれないけれど、立場上そうするべきだと、納得して選択したのでしょう。
それでも人生の終幕が見えたとき、ようやく自分がやり残したことと向き合えた。
玲斗くんを見つけ出したことは、押し殺してきた気持ちを解放するための第一歩になったと思うんです。きっと千舟さんにとって、プレゼントのような出会いだったんでしょうね。
スマートフォンの中で、顔の見えない1対多数のやりとりが当たり前になっている現代。だからこそ、1対1のコミュニケーションになると、必要以上に相手の受け取り方ばかりが気になって、本音でぶつかることが難しい。
しかし、伝えようとしている意図を一生懸命汲んで、受け止めようとしてくれる人もきっといるはず。
そう考えると、リーダーだからといって肩肘をはらずに、もっと素直に気持ちを解放してもいいのかもしれない。
最後に、長年第一線を走り続けてきた天海さんにとって「プロ」とは何かを聞いてみた。
私たちの仕事は、「これをやりたい」と言っても、簡単にできるわけではありません。どなたかに声をかけていただけない限り、仕事として成り立たないんです。
ですから、「これを天海にやらせたい」とか「天海と仕事をしてみたい」と思ってもらえるような人間で居続けることが、プロだと思います。
そのためにも、「今回はこの程度でいいか」と思うようなことはしたくない。常にどうしたら作品がもっと良くなるかと考え、諦めずに追求していきたいと思います。
「この作品がおもしろかった」って言っていただくことが、私にとっては何よりのご褒美なんです。
「天海祐希の演技がよかった」と言われるよりも、「この作品がおもしろかった」と言われたい。自分が全力で演じることで作品全体の評価が高まれば、その成果が共演者やスタッフ一人ひとりの評価を押し上げ、実績となっていく。
彼女が妥協せずに全力で仕事に向き合うことは、作品に関わった人たちの可能性を広げることにもつながるのだ。
天海祐希さんの周囲には、常にこうした好循環が生まれている。
文/宮﨑まきこ 撮影/笹井タカマサ 取材・編集/光谷麻里(編集部)
作品情報
映画『クスノキの番人』1月30日(金)公開
依頼人の指示に従うなら、釈放する――突如現れそう告げる弁護士の条件を呑んだ玲斗の前に現れたのは柳澤千舟。大企業・柳澤グループの発展に大きく貢献してきた人物であり、亡き母の腹違いの姉だという。「あなたに、命じたいことがあります」それは、月郷神社に佇む<クスノキの番人>になることだった。
キャスト:
高橋文哉 / 天海祐希
齋藤飛鳥 宮世琉弥 / 大沢たかお
原作:東野圭吾「クスノキの番人」(実業之日本社文庫刊)
監督:伊藤智彦
脚本:岸本卓
キャラクターデザイン:山口つばさ 板垣彰子
音楽:菅野祐悟
美術監督:滝口比呂志
美術設定:末武康光
色彩設計:橋本 賢
衣装デザイン:高橋 毅
CG ディレクター:塚本倫基
撮影監督:佐藤哲平
編集:西山 茂
スーパーヴァイジングサウンドエディター:勝俣まさとし
リレコーディングミキサー:藤島敬弘
制作:A-1 Pictures / Psyde Kick Studio
配給:アニプレックス
【主題歌】
Uru「傍らに月夜」
作詞・作曲:清水依与吏
編曲:back number
(c)東野圭吾/アニメ「クスノキの番人」製作委員会
公式サイト / 公式X / 公式Instagram
『プロフェッショナルのTheory』の過去記事一覧はこちら
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