【俳優・満島真之介】「たった3秒の勇気」でチームが変わる! 一流の仕事を生むオープンマインドなコミュニケーション術
今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります。
チームで仕事を進める場合、メンバー同士のコミュニケーションが大事なのは、業種や職種を問わない鉄板の法則。もちろん映画やドラマなどモノづくりの世界も同様だ。
多様な立場の人々が集う現場では、細やかな意思疎通と信頼構築が作品の出来を左右する。
その中で、持ち前のオープンマインドであっという間に周囲の心を掴むコミュニケーションの天才がいる。それが、俳優の満島真之介さんだ。
これまで数々の映画、テレビドラマ、舞台に出演。『Instagram』で見せるユニークな表情の数々と共に、そのハイテンションなキャラクターは多くの人から愛されている。否応なしに注目を浴びる芸能界という場にいながら、なぜ満島さんはこんなにもフランクでいられるのだろうか。最新出演作『東京ヴァンパイアホテル』(Amazonプライム・ビデオ)への想いと共に、満島さん自身が徹底してこだわる、「いい仕事を生み出すためのコミュニケーション術」を解剖する。
やりたい仕事は自分で掴む! 「雑用でも何でもします」1通のメールから始まった師弟関係
『東京ヴァンパイアホテル』は、地球滅亡を図る吸血鬼たちと人類の戦いを描いたオリジナルドラマだ。総監督・脚本を務めるのは、鬼才・園子温。今や多くの俳優が彼の作品に「出たい!」と熱望するビッグネームだが、満島さんにとって「園子温」という存在はまた特別な意味を持つ。なぜなら、まだ俳優を志す前、高校を卒業して間もない満島さんが初めて映画作りの現場に関わったのが、園子温監督の『ちゃんと伝える』だったからだ。
「当時、僕はドキュメンタリーを撮りたいと思っていたんです。そのためにはもっと映像について知っていく必要がある。そこで頭に浮かんだのが、園さんの名前でした。きっかけは、園さんが監督をされた『HAZARD』という映画。僕はそれまでほとんど映画を観たことはなかったんですけど、あの作品に強烈な影響を受けました。上京する直前、園さんのホームページに『雑用でも何でもしますから、一緒に働かせてください!』って直接メールを送ったんです」
当時はまだ10代だった満島さん。その向こう見ずな本気が買われたのだろう。上京1週間後、園さんと念願の対面を果たした満島さんは、以降、助監督として濃密な修行期間を過ごした。
「撮影現場にいる園さんだけじゃなく、部屋で執筆中の園さんの姿も僕は側で見つめてきました。だから、このお話をいただいたときは、『ついにこの時が来た』と胸が高鳴りました。二人ともパワーがみなぎっているこの時期に、今度は役者と監督として作品づくりができるということは、僕にとって今までのどの仕事とも違う喜びがありました」
今はキャリアの分岐点。新しい自分の側面をもっと出していく必要がある
十年来の仲だけに、園監督とのクリエイションは一層パッション溢れるものとなった。満島さん演じる山田のキャラクターは、監督との共同作業によって生まれたのだとか。
「マントを羽織って、襟を立てて、顔は真っ白。そういう従来のヴァンパイア像は一切やめよう、というのが僕と監督の共通認識でした。そこで僕が提案したのが、山田のヘアスタイルです。僕も監督もHip Hopが好きだし、クオーターの僕がドレッドヘアーにしたら面白いんじゃないかなって。試しに髪型をドレッドにしてみたら監督も気に入ってくれて、その場でOK。そこから衣装やいろんなことをどんどん試していきました」
満島さん演じる山田は、鋭い眼光と個性的なパンクスタイルを引っさげ、第1話から過激な銃撃戦を披露。以降、時にファンキーに、時にクレイジーに表情を変え、物語をかき回していく。役づくりの難しさを問うと、満島さんは「今回、演技面で苦労したところは一切ないです」と笑顔を浮かべた。
「僕の中にはまだ今まで開けていないドアがあって、今回それを一つ開けたような感覚です。たぶんそれは園さんとだからできたこと。自分にしかできないヴァンパイアをつくれた自信があるし、今このタイミングでこうして新しいドアを開けられたことは、今後の僕にとって大きなキャリアの分岐点になると思います。これからも自分のいろいろな面を発信して、仕事の幅も広げていけたら」
「握手をすれば心はつながる」少しの勇気で仕事がしやすい環境はつくれる
俳優業はもちろん、バラエティーでの自由過ぎるトークでも人気を集める満島さん。撮影の現場でも、陽気なムードメーカーぶりは変わらない。映画『無限の住人』では初対面の木村拓哉さんに開口一番「よろしくお願いします!」と握手を求め、意気投合。昨年出演したドラマ『恋愛時代』でも相手役の比嘉愛未さんに対して毎朝「グッモニスタ!」と独特の挨拶で声を掛け、打ち解けたという。事実、今回のインタビューでもスタジオに到着するなり真っ先に満島さんが取った行動は、取材陣全員との力強い握手だった。
「僕にとって握手は『ちゃんと出会いましたね』という確認の合図。70億もの人がいる中で、今日この場で出会えたことは、それだけで奇跡みたいなもの。その喜びをパワーに変えたいんです」
知っている人でも、知らない人でも、握手をすれば心がつながる。そう満島さんは主張する。出会ってすぐの全力の握手は、人と人とのつながりを大事にする満島さんらしい「自己開示」の表れなのだ。また、自己開示をしてしまえば、その後はチームで進める仕事が非常にスムーズになるのだという。
「相手が自分のことをどう考えているのか分からないというストレスは、仕事上のコミュニケーションにはつきもの。映画の現場みたいに毎回たくさんの人が出入りする現場では、そういう不安を皆が抱きがちです。でも、たった一度握手をするだけで、不思議と心の距離は近くなる。本音で意見を言い合っても角が立たない、そういう雰囲気ができるんです」
チームのメンバーがお互い遠慮し合っていては、一流の仕事はできないというのが満島さんの考え方だ。だが、内向的な人が多い日本人にとって、握手はややハードルが高いかもしれない。真似をするには相当な勇気がいりそうだ。そんな戸惑いを察知したように、満島さんはこう後押しする。
「握手をするのに必要なのは、3秒の勇気だけです。たった3秒、勇気を出して握手をすれば、後はずっと自然に感情を出せるようになるし、相手のこともスムーズに受け入れられるようになります。でももしそこで勇気を出せずにいると、それからずっと『この人は何を考えているんだろう』、『こんなことを言っても平気かな』とあれこれ気を使わなきゃいけない。ほんの3秒の勇気で、その後チームで仕事をすることが格段に楽になる。そう考えたら、やらない手はないです」
満島さんも最初は握手をするまでにためらいがあったそう。しかし、意識をして継続していくことで、今ではごく自然に手が伸びるようになったと証言する。
「僕は以前学童保育で働いていました。赤ちゃんも子どもも触れられると驚くほど笑顔が増えます。つまり、人間って本質的にスキンシップが嬉しい生き物なんですよ。こちらから手を差し出して断る人はほとんどいません。僕も今まで一度も断られたことはないです。どんなに目上の方でも、握手をすれば気持ちの面で対等になれる。普段の仕事仲間でも、1日の始まりに愛情を込めて握手をして、改めて自己開示し合ってみるといいと思いますよ」
そうにこやかに締め括って取材を終えた。もちろん最後にはとびっきり温かい握手と共に。飾らず、構えず、誰とでもオープンに接する。“ちょっとの勇気”を携えたコミュニケーションの天才は、本音でぶつかり合えるチームをつくる天才でもあった。
取材・文/横川良明 撮影/竹井俊晴
『東京ヴァンパイアホテル』
2017年6月16日(金)からAmazonプライム・ビデオで配信!
予告編:YouTube
『プロフェッショナルのTheory』の過去記事一覧はこちら
>> http://woman-type.jp/wt/feature/category/rolemodel/professional/をクリック