長谷川理恵の暴露本に学ぶ、「自分語り」という名の大きすぎる墓穴 【連載:ビバ!ばら色人生から学ばせて】

ランチタイムのお慰みコラム
ビバ!ばら色人生から学ばせて

慢性化する経済不況、崩壊する社会規範……なんとも生きづらいこの21世紀。しかしながら誰も、この世をサバイブする方法を教えてはくれません。そこで、いま話題のあんな方やこんな方の生き方をお手本に、労働女子がより良き人生を送るための方法を探っっていきましょう。罵声や非難をものともしない図々しくもたくましき女たちの“生き方探訪”

著者:西澤千央(にしざわちひろ)
フリーランスライター。雑誌『散歩の達人』(交通新聞社)、『クイックジャパン』(太田出版)などで酒場を巡ったり芸人さんにしつこくしたり。Web『サイゾーウーマン』にて女性誌レビューも担当。世間に疎まれながら執筆中

 

長谷川理恵の『願力』、お読みになりましたか?

妊娠&入籍報道後ものらりくらりとマスコミ取材をかわしていたのは、この暴露本……じゃないライフスタイル本で全てを語るため。

溜めて溜めて溜めてェェェっから吐き出しただけあって、『願力』、凄まじい内容でした。

ちょいちょい出してくるマイナスイオン高めワード(マラソン、オーガニック野菜、ヨガ、サーフィンetc)で、滲み出るドス黒い復讐心を相殺しようと思ったのかもしれませんが、コレが全然消えてない!

散々恨み節をかましながら、最終章「幸せ探し」では突然“スピリチュアルな私”を語り出すし、本当に貪欲なお方です。

オンナの自意識ダダ漏れ本としては、この上ない出来なのではないでしょうか。西川史子センセイからは「女の賞味期限切れ」と揶揄され、Amazonコメントは☆ひとつの嵐。

そもそも、長谷川理恵という人が何者なのか、一般人には全くもって不可解なのです。私も「石田純一の元カノ」という切り口だけでここまで生き延びるってスゴイくらいの認識でした。

長谷川理恵

本書によると、ミス・キャンパスに選ばれたのをきっかけとして『CanCam』デビューした長谷川さん。

いきなり別冊付録のハワイBOOKでモデルを任され、「単なる読者モデルの女子大生が単独で、一冊まるまるモデルを務めたことが赤文字系ファッション雑誌界では前代未聞と騒がれていたらしい」とのこと。へぇぇ。

デビューから4か月後には表紙を飾り「当時の『CanCam』の表紙はタレントさんに決まっていて、専属モデルとはいえ素人の女子大生が表紙に登場するのは9年ぶり」だというから、またへぇぇ。

長谷川さんから語られる「みんな知らないかもしれないけど、私モデルとしてすごかったんだから!」という魂の叫びに、心のへぇボタン連打しまくりでした。

長谷川さんはおそらく、自己評価と一般認識の差に常日頃からイライラしてたのでしょうね。

「赤文字系ファッション誌の専属モデルになりたいからと一生懸命オーディションを回り、自分でモデル事務所を探して頑張っている女性もたくさんいた」当時、スカウトされ、いきなり大仕事を任され、いわば“才能を見染められた”モデルであったはずの私。

それなのに、社会の認識は「石田純一との不倫でブレイクした女」ですから。長谷川さんの臍をかむ思いが行間からぽたぽた滴り落ちています。

人気絶頂にあったJリーガーからの誘いを「彼らの手中に収まるような女ではないという自負」で一蹴したというエピソードや、よそ者扱いだった『Oggi』で見事表紙モデルに抜擢された経緯、自ら「破局を選んだ」という石田純一との恋バナ、マラソンと野菜で変わっていく私……もう、もう分かったから勘弁してくだせぇ。

さらにはモデルとしての成功と本当の自分を評して「独り歩きしていた長谷川理恵という名前に私自身が置いてきぼりにされ、名と実がマッチしない状況がただ居心地悪かった」とか言っちゃうもんですから「ど、どんだけぇぇ」と心のIKKOが人差し指ぶんぶん振る始末。

モデルとしてはマイナスであろうデブだった過去を告白し、本業がパっとしなくなるやいなやマラソンに挑戦、野菜ソムリエ資格の取得、もちろん「石田純一との不倫騒動」「神田正輝との結婚騒動」という全身全霊のリアクション芸もありました。

長谷川理恵という存在、お笑い芸人に例えるなら出川哲朗氏もしくはダチョウ倶楽部といった、いわゆる「体を張って笑いを取る」系なのですよ。

今まで散々体を張って「笑い」ならぬ「話題」を稼いできたのに、「私本当はネタも書けるしコントも出来る」みたいな宣言をしちゃったのが、この『願力』です。そこに一般人から「おいおい暴露本だろコレ」とツッコまれるというオチ。

例えるなら出川の哲っちゃんが突然「練った笑いで勝負したい」と言いだして、最後は結局落とし穴に落ちる……といったところでしょうか。

せっかく「なんだかよく分からんが色々頑張る人」という評価を受けていたのに、もったいないですね、長谷川さん。

スキャンダラスな熱愛報道と、マラソンや野菜ソムリエなどの「自分磨き」が全く噛み合わないのがこの人の面白さだったのに。

この本のせいで「なるほど、石田純一との不倫があってマラソンにのめり込んで……」と点と点がつながっちゃいました。残念!

長谷川理恵

「自分を語る」というのは本当に難しいことです。やたらと生い立ちやら彼氏とのなれ初めやら学生時代の武勇伝やら語りたがる人がいますが、アレはかえって己の底の浅さを見せつけるだけ。

「自分語り」とはすなわち「言い訳」。他人の人生のエクスキューズを聞かされて楽しいはずがございますまい。長谷川さんは海外生活が長かった故ご存知ないかもしれません。

言わぬが花の国、JAPANにおける最高にイカした「自分語り」とは、「自分、不器用っスから」コレですよ。

日本人は「自分、不器用っスから」の向こう側に、言い知れぬ苦労や涙なしには語れない感動ストーリーを勝手に妄想する民族。

「自分語りはチラシの裏に~」と言われてしまう前に、高倉健御大から頂いたこの有難いフレーズを唱え、自重したいものですね。

ただ長谷川さんのように「自分、不器用ッスけど」という前置きの後に「こんなにモテてこんなに仕事出来て~」って言っちゃうのが、同性から一番嫌われるので何卒ご留意ください。

イラスト/村野千草(有限会社中野商店)