花を育て、観察し、作品を作る。「研究者みたいで、マニアック」な豊島の草木染め作家さん
渋谷の会社勤めから一転、瀬戸内海の小さな島に移住して「自分のしごと」づくりに励む著者が、年齢もさまざまな地域暮らしの先輩たちに、ライフワークを訪ねてまわります。当たり前の日常を飛び出し、外の世界に目を向けてみると、本当に自分を豊かにする「暮らし」と「しごと」のヒントが見つかるかも

男木島民/麦麹食品店準備中
石部香織
1988年生まれ、東京都出身。早稲田大学卒。2013年より都内制作会社で、WEBサイト制作を中心としたプロジェクトの企画ディレクションを行う。2016年12月、香川県高松市の男木島へ、地域おこし協力隊として単身移住。島内で、麦麹食品店と大麦畑を準備中。料理を教わることと、写真が趣味。
Instagram:@ishibekaori
Twitter:@ishibekaori
香川県の島、豊島(てしま)は、岡山、高松、小豆島や直島などの島々に囲まれた、人口800人ほどの島。
瀬戸内国際芸術祭の舞台として現代アート作品が点在する文化的側面、緑に包まれた住環境を兼ね備えたこの島で、魅力的な作品づくりをしている女性がいると聞いて、私は島を訪れました。
草木染めの花々でアクセサリーを作る、Veriteco(ヴェリテコ)の浅田真理子さん。東京での作家活動を経て、2015年、夫婦で豊島に移住しました。その作品は、摘んできた花や実をじっくり観察し、指で花びらの一枚一枚を形にする、自然と浅田さんが共に作り上げる宝物のよう。それらの作品が生まれる場所、窓からの自然光が柔らかいアトリエと、自ら手入れをする小さな花畑の中で、彼女の日々について話を聞かせてもらいました。

採ってきたものを、デッサンするみたいに、作っていくことが多くて。
これは、檀山(だんやま)へ行く途中で採りました。実を摘んで、集めてきて、それを見ながら作ってる。
採ってきた花びらを、花には申し訳ないんだけど解体して、どういう風になってるかを観察しながら刺繍の図案を描いたり。
この作業台の上は、今の私の頭の中。アクセサリー用に摘んで来たアジサイと、刺繍図案のためのアザミ。咲いてたから、ちょっと研究しないとと思って、採ってきました。思いついたらこうやって絵を沢山書いたりしながら、時間をかけて作っていきます。


花びらに曲線をつけるのは全部、手でやっていて。熱を加えて曲げる、コテっていうのを使えばすごく綺麗に曲がるんだけど、どこか規則的になっちゃう。植物って絶対に、おんなじには生えてないから、それは違うなって思って。2012年に初めて本を出版したときから「コテを使わずにリアルな花を作る」というのを研究しだして、今は全部コテを使わずに作るようになりました。指の張り具合とか、ボンドの硬さとか、自分の加減だけでリアルな花を再現してます。


Veritecoっていうブランドは、もともと私一人の作家活動というスタンスで来て、デザインや制作は基本私なんですが、今は夫婦で旅しながらいろんなイベントに出展したりしています。
旦那さんは、アパレルでパタンナーをしていた人。特別なイベントの時は手伝ってくれたり、大きい染物は二人で染めたり。この間、東京のスパイラルで個展をやって、これより広い一部屋を作品で埋め尽くすことになって。私がアクセサリーなどを作って、旦那さんがバッグや服を作って、展示をしました。
会場装飾とか、ディスプレイの仕方とか、そういうのは全部旦那さんに任せられるから、私は一個でも多く作れるように、制作に集中できるんです。ずっと私が隣で作ってるのを見てくれていたので、作品をよく魅せる方法とか、世界観の作り方が、たぶん、わかるんだと思う。
田舎暮らしは、あるきっかけで、旦那さんと「体が柔軟なうちにやろう」って言って始めたんですよ。そのとき、私は作家活動7年目くらいだったのですが、いろんなデパートに売りに行けるようになったり、仕事として成り立つと自信がついてきたときだったんです。「年に何個くらい売れたらこれが収入になるな」っていうのが見えて来た。
畑を自分で作ったりもできるし、家賃とか家のローンとかもないわけだから、お金のかかり方も全然違うよね。
私の物作りはどこにいてもできるし、むしろ自然の中に住んでいた方が草木染めの材料が手に入る。東京にいたら染料は、染料屋さんでしか買えない。よもぎとか、わざわざパックになっているのを買ったりしていたことも、今思えば「お金を出さなくとも自然に沢山あるのに」と思います。

この仕事って、私の研究結果を見てもらうみたいな、マニアックな世界。
売れたか売れないかは、ただの結果なんだけど、「好き、かわいい、ほしい」と思っているくれる人がいるから、売れるわけで。
結局、作ったものをいいと思ってくれる人がいてくれるからこそ、作り続けていける。
お仕事をいただく主催の方にとっても、もちろん、売り上げっていうのが結果にはなるんだけど、それ以上に、世界観をだして「素晴らしいイベントになってよかった、見てよかった、楽しかった」って言ってもらいたい。新作を楽しみにわざわざ遠くからきてくれるファンの人もいるって考えると、商品が全然なくてがっかりさせないように、作ることに集中したくなるから、イベント前の3〜4ヶ月はこの部屋にこもりっきりです。
アトリエでは日々黙々と製作していますが、外に飛び出してイベントなどのお仕事で人に会ったりすると、物作りを通して沢山の方に出会えているのだなあと実感します。
特別な時や、ウエディング、人生の節目…何も変わらない日常の中でも様々なシーンで身につける方の人生に寄り添っていられるものを作って、喜んでいただけること、お客様の笑顔を見られることがやりがいです。


昔からファンでいてくれている方が、「10周年おめでとう」とプレゼントしてくれた手作りの針山
「働いてる感」がそもそもがないって言ったら変ですけど、基本的に人から拘束されていない。でも代わりに、自分の中の拘束というか、目標がある。作りたいもの、見せたいものは自分の中から生まれるもの。目標の形にならなかったとしても、誰かに何かを言われるわけでもない。でも、思ったような結果が出ないと納得いかないから、自分で自分をコントロールするんですよ。
お花のアクセサリーだから、春に向けて作品をつくる冬も、忙しいですね。入学式とか卒園式につけたいお母さんとか、気分的にもつけたくなる季節なので。スケジュールが立て込んでいるときや作る調子が乗っているときは、ちょっとリビングで2時間くらい仮眠をとって、むきって起きて、朝までやってることもありますよ。でも、前の日遅くまでやってても、朝は7時とか、遅くても8時までには起きるようにしてる。起きて朝ごはんを食べたら、一刻も早く制作をしたいので、9時くらいにはひととおりの仕事ができるように、家事を済ませる。それで、畑をやりたい日は畑に行ったり、染めたいなって日はキッチンで染めたり、材料を取りに行ったりします。Instagramの投稿も、朝することが多かったりする。1日の始まりの習慣ですね。そんな朝の時間が好きだし、頭の中を整理するのに大事なんです。

都会にいるときはもっと数字に縛られていたけど、変わってきたのは、やっぱりここでの暮らしに理由があるかな。作風にも、ものすごい影響してきていると思う。昔やっていたお仕事じゃない仕事が入ってきたりもするし、逆に、昔やっていたことが続けられなくなったりもする。不思議なことに、自分がこういう風に生きたいかな、と思っていた方向に仕事が来るので、あんまり悩んだりすることなく、楽に進んで行っている気がします。たぶん、見ている人は、見てくれているんじゃないですかね。
「つけてて気持ちがいいもの」は、本物だと思うんですよ。
アクセサリーって「気持ちでつけるもの」だなって、お客さんを見ていると教えられる。「これをつけてたら褒められたんです」とか、きらきらってした顔で言ってくれるから。
絶対に必要なものじゃないけど、心に必要なものであってほしいなと、思う。つけてるだけでその人の自信になったり、お守り代わりになったり、気持ちがしゃんとしたり。

今、島に暮らしていると、ずっと誰にも会わなかったりとか、畑にいたら泥がつくのが心配だったりとかで、アクセサリーは正直、私の生活の中に必要なものじゃなくなっています。家に飾る花だって、花屋さんに買いに行かなくても、美しい花がそこら中に咲いていて…自然の中で本物の花に触れるだけで心が豊かになる。
でも、20年くらい東京に住んでいたときは、電車でゆられて、会社に行って、全部箱から箱への移動。公園に行かないと緑はないし、常に人と比べられるし、特に女性は、結婚して子供ができたり、男性よりもライフスタイルが変わっていく中で、他に求める場所がなかなかなかったりする。
だから、主に都会の人に売りに行こうと思うんです。花のない場所に住んでいても胸元に実がついている、耳に花が咲いてることで、ちょっと癒されたりとか、気分的にふわっと柔らかくなったりとかね。
本当は、「みんなこっちに住んだらいいのに」って思うんだけど(笑)。

「歳を取ってもずっとやっていけるのかな」って考えると不安になるんですけど、「形を変えて続けていけるからいいんじゃない」って、旦那さんが言ってくれるんです。
目先のイベントとかには集中して一生懸命にやるけど、すごーく先のこととかは、自然に任せていければいいんじゃないかな。
いろいろ先が見えなくておもしろいですけど、とにかく今は、こんな小さなところに住んでいても見つけてもらえるように、自分たちで発信したいと思ってます。商品だけでなく、暮らしの背景とか豊島の景色とか、そういうのも含めて知ってもらって、Veritecoを好きになって欲しい。
どんどんイベントに出て人に会いに行くし、この手から生まれる草木染めの小さな花々を一人でも多くの人に知ってもらいたいな、と思っています。

本連載著者の、男木島での暮らしはこちらからご覧いただけます。
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