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MAR/2019

あたしたちよくやってる。小説家・山内マリコが“若さという檻”に閉じ込められている20代女性へ送るメッセージ

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女性活躍だ何だと言われたって、女性が自分らしく、思うように生きていくのは難しい。彼氏より年収が高いことを気にするのも、独身であることに焦るのも、料理や家事ができないことに後ろめたさを感じるのも、元を辿っていった先にあるのは、”女性はこうあるべき”という社会の決めつけだ。

「女の子はちょっとバカなくらいがかわいい」
「女の幸せは結婚でしょう」
「女性は家庭的なのが一番」

たとえ本人が気にしなくとしても、こうした考えがはびこる世の中で、自分らしく生きていくには体力がいる。

山内マリコさんの新刊『あたしたちよくやってる』は、そんな女性たちに優しく寄り添うような短編集だ。「本当の自分はこうじゃない」と今まさにもがいている20代の女性たちに、山内さんからのメッセージを送ろう。

山内マリコさん
1980年生まれ。富山県出身。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒業。2008年に短編『十六歳はセックスの齢』で第7回R-18文学賞・読者賞を受賞後、12年に『ここは退屈迎えに来て』(幻冬舎文庫)で鮮烈デビュー、各界から称賛を浴びた。主な著作に、『アズミ・ハルコは行方不明』、『さみしくなったら名前を呼んで』(ともに幻冬舎文庫)、『パリ行ったことないの』(集英社文庫)、『かわいい結婚』(講談社文庫)、『東京23話』(ポプラ文庫)、『あのこは貴族』(集英社)、『メガネと放蕩娘』(文藝春秋)、『選んだ孤独はよい孤独』(河出書房新社)など

「若くていい時期」のはずなのに、納得のいかない20代

ここ数年、「呪い」がキーワードだなと思っています。女性が知らず知らずのうちにかけられている呪い。年齢にしろ結婚にしろ、女性としての役割にしろ。無数の「女はこうあるべき」という押し付けを、多くの女性が「呪い」と見抜けるようになった。

そういう呪いを解く呪文みたいな言葉が、この本のタイトルには相応しいなぁと思って、いろいろ候補をあげたら、同世代の編集者さんが「これがいいです!」と選んでくれて。『あたしたちよくやってる』……本屋さんでこのタイトルを見かけた女性全員の心に、祝福の言葉として響けばいいなと思います。

今回の本は、30代前半で作家デビューしてから、いろんな雑誌や新聞に発表した小説やエッセイを新たに構成したもの。それぞれは単発の仕事だけど、当時の自分の状況、感覚、悩みや屈託みたいなものが、真空パックされてるんですね。30代女性の心の旅路になってて、自分でもけっこう面白いなと。

多くの人にとって20代は恋愛そのものが主題ですが、30代になると、男性は一緒に暮らす相手になってくる。これがけっこう難題で。それから、結婚によって女友達と距離ができることへの複雑な気持ちとか、あとは年齢のことなんかをよくテーマにしていました。

年齢というと、女性にかけられた呪いの最たる例ですよね。新刊の中に『もう二十代ではないことについて』という短編小説が入ってるのですが、思えば30代ってずっと、もう自分が20代じゃないってことと、折り合いをつけ続けている期間かも。

かと言って、20代が最高に楽しくて、20代の自分が輝いていたかというと、全然そうじゃない。どんな仕事をすべきかもがいてる段階で、社会的地位はないに等しい。金銭的にはカツカツ。恋愛もぐちゃぐちゃ。あと、自分のビジュアルにも納得いってなかったです。「え、これがピークなの? 噓でしょ!?」って(笑)。

40歳が近くなってきた今見ると、20代の女の子って普通にめちゃくちゃ可愛いんですね。でも、自分が20代のときは、とてもじゃないけど自分のことをめちゃくちゃ可愛いとは思えなかった。アラばっかり目に入って。なにしろ若いと目がよく見えるから(笑)。あと鏡に近づきすぎだし。

これってすべてにおいて言えて、自分自身や人生と向き合う時に、近視眼的というか、すごく狭いところを、ミクロな目でしか見えていなかったなと、振り返ってみて思います。20代って、物事を俯瞰して見られない年齢なんですよね。本人は20代後半にもなれば、けっこう達観してるつもりなんだけど、まだまだ自意識過剰で。自意識過剰って、すごく疲れるんです。

夢はほぼ叶うし、仕事は楽しい。20代でモノにしようと焦らないで

自分は何になりたいか。20代はずっとそのことを考え続けていました。25歳のときにやっと「私は小説家になりたいんだ」と、自分の心に正直になれた。それまでライターの仕事や、映画レビューのお手伝いなんかもしたのですが、本心では小説が書きたかった。しかも、文筆だけで生活できる人になりたかった。

私が青春を送った90年代って、夢至上主義の時代だったんです。夢を追いかけることが正義だという、強迫観念めいた風潮があった。そんな御大層なものでなくても、母親から「手に職を!」と言われてる子も多かったと思う。専業主婦の立場しか選べなかった母親に育てられた世代だから、社会に居場所を作らなきゃと、刷り込まれていた気がします。

で、私の世代は夢いっぱいなんだけど、当然ものになる子は少ない。大半は20代で軌道修正して、今はお母さんという人が多い。その揺り戻しみたいな感じで、私より下の世代は、若い時から専業主婦願望が強いですよね。上の世代の惨状を見て、夢なんて叶わないものだと思っているかもしれない。それどころか、仕事はつらいのがデフォルト、という認識かも。

夢って名称だとふんわりしすぎているけど、ようは好きな職業に就くっていう意志ですよね、大事なのは。あと、向き不向きを見定めること。例えば私は、中学時代は映画監督になりたいとも思ってました。で、大学の映像学科に進んだけど、集団で何かを作り上げることがまったく向いていなかった。いろいろトライして、最終的にたどり着いたのが小説でした。

山内マリコさん

そう考えると、夢はピンポイントじゃなくて、ちょっと幅を持たせてあげるといいのかな。私の場合「表現欲求を解放できる仕事」なら、なんでもよかったのかもしれない。脚本家の野木亜紀子さんのウィキペディアを読んだら、彼女も最初から脚本家を目指していたわけではなくて、いろんなことをされてきたみたいなんです。「そうそう、そうやって人は夢にたどり着くんだ!」と胸が熱くなりました。

それに、20代で完成しようと思わなくていいんですよ。この間、女優の木野花さんのトークイベントに行ったんですが、木野さんは一度地元で美術教師になられて、辞めて上京して演劇の世界に飛び込んでらっしゃるんですね。で、演劇をするためにずっとアルバイトしてた。20代でものになりたいなんて不遜なことは考えてなくて、それどころか「30代はバイトよ!」っておっしゃっていて。

20代はカッコつけたい年頃だから、早く結果を出したいし、自慢できるような肩書きがほしいと焦る。一人前になりたい気持ちは痛いほど分かるけれど、そんなに早くモノになるなんて、思わない方がいい。自分は早熟の天才じゃないし、特別な人間じゃない。そのことを自覚して、年を食いながらじわじわ成長するしかない。

女の子が自分の人生を、自分のことだけ考えて生きられる期間は一瞬しかない

女性って結婚すると、旦那さんの社会的地位=自分の地位みたいに思う人もいて。だけど私は自分の力でつかみ取りたいタイプなんですね。人にモノを買ってもらうのも好きじゃない。なぜなら、あとで「買ってやったバッグ返せ」みたいなことを言われないようにするために、男の人の顔色うかがいながら生きるのが嫌だから。男女関係でも、男性を尊敬して尽くす、上下関係があるのは性に合わなくて、対等であることがいちばん心地いいです。

こういうスタンスも、20代の頃からはっきりしていたわけではなくて、むしろ失敗を経験してはじめて、「私はそういうタイプじゃないんだ」と発見する。自分の心に正直になって、直感に従って、本当に手探りで進んできました。20代はずっとそうでした。

でも、そういうことができる時間って、本当に短いんです。20代は、思いっきり自分のために時間を使える時期。もちろん結婚したって子どもが産まれたって遅くはないけど、今の社会では、女の子が自分のことだけ考えて、自分のために生きられる期間は、実は打ち上げ花火のように一瞬しかありません。

なぜなら女性は結婚すると、「夫や子どものためにどれだけの犠牲を払えるか」を求められてしまいがちだから。その貢献度が、女としての偉さ、みたいにされてきました。よく考えたらこんなひどい差別、ないですよね。そりゃ女性は生きづらいはずだ。

若さは重荷。20代の女の子は、とにかく自分を大切に!

ただ、同時に若さは重荷でもあります。

ジブリ作品の『ハウルの動く城』の中で、ソフィーという主人公が、若い時は自分の意見が言えない内気な性格だったのに、おばあさんになった途端にイキイキし出して、ガンガン自己主張できるようになる描写があるけど、あれ、すごくリアルだと思うんです。若さという檻に、自分を閉じ込めてしまっているんですよね。

山内マリコさん

檻というと、もう一つ。就職も決まらないまま、大学を卒業したときのことです。学生っていう肩書きがなくなったのもショックだったし、学校って緻密にプログラムやスケジュールが組まれてるから、いきなり完全に自由になると、何していいかわからなくて、檻に戻りたくなるんですよ。同じ境遇だった子と一緒に大学の聴講生の試験を受けたりもしたな(笑)。で、また大学に行ってみて我に返ったんです。私、学校嫌いだったのに、何やってんだろうと。

学校って、何をするにも他のみんなと一緒だから。個じゃなくて、全員が同じ立場の集団の中にいる。小中高大と16年間も学校に浸かってると、自由であることにすごく怯えてしまうみたいで。檻から放たれたあと、どう生きればいいのか見当もつかなかった。すごく心細くて、「あ〜結婚してぇ〜」とか思ったりもしました。しなくて本当によかったけど(笑)。

この檻って、会社にもいえるし、人と同じライフコースをとりたがる姿勢にもいえる。20代で結婚して子どもを産む、というライフコースなんか無視していいんだと思ったら、それこそ呪いから解き放たれたみたいになると思う。かく言う私も、20代のときは結婚に焦りまくって自分を見失ってたから、偉そうなこと言えないけど。

若い女性って、期待されることが多いんですよ。親からは「自慢の子」になってほしいという期待をうっすら感じる。それは社会的な成功ってことでもあるけど、同時に「孫」みたいなものでもある。このダブルバインドはきついですよね。男子からは「かわいい女子キャラ」を、社会に出れば「若い女の子の理想像」が求められる。私もおじさんに対して、どうも接待っぽいリアクションをとってしまう癖がなかなか抜けない(笑)。本当はそんなことやらなくていいのに、おじさんから期待されているであろう役割を、勝手に演じてしまっているんですね。

女の子が笑いたくもないのに笑っている世の中は変だし、女性が犠牲を払うことを美徳とされる価値観は勘弁してほしい。その期待にこたえるのも、抗うのも、どっちも大変。そういう世界で生きている、それだけで「あたしたちよくやってる」。もう、この言葉に尽きるなと思います。

取材/天野夏海 撮影/竹井 俊晴


あたしたちよくやってる
『あたしたちよくやってる』(幻冬舎)
誰かの期待に応えられなくても、無理して笑うのは、もうやめよう。

女性と年齢、結婚、ファッション、女ともだち――

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