尾野真千子&真木よう子『そして父になる』特別インタビュー【今月のAnother Action Starter Vol.12 Special】
『そして父になる』は、第66回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞。カンヌでの初披露の際には、スタンディングオベーションが鳴りやまなかったという。
実は、尾野さんも真木さんも、海外の映画祭に縁がある。尾野さんはデビュー作がカンヌのカメラ・ドールを受賞したほか、海外映画祭で主演女優賞を受賞。真木さんも主演した映画がモスクワ国際映画祭に出品され、審査員特別賞を受賞した経験がある。
スタッフ全員で喜びを分かち合った審査員賞
観客の反応を直接感じられるのが一番の喜び
――カンヌで受賞した作品に出演したということは、女優人生にどういう影響を与えると思われますか?
尾野:賞をいただいたことだけではなく、カンヌ映画祭に参加できたということにすごく幸せを感じています。観客の方に見ていただいて直接感想を聞ける場というのは、演じ手として一番のご褒美だと思うんですよね。映画が披露され、その場ですぐに拍手という表現で感想をいただき、笑ったり泣いたりされている観客の方々の様子を直に見られるのは、本当に嬉しくて。これからももっともっと、自分なりに伝えていきたいなと思いました。
真木:“審査員賞”をいただけた日本映画のチームに加われたという嬉しさはあります。監督賞とか、個人賞とは違って、携わってきたスタッフの皆さんと喜べる賞ですから。こういう風に評価される日本映画が存在するということ自体も、これから女優として演じていく上での希望になると感じました。
――それぞれの役柄で、特にここに注目してほしいというシーンがありましたら教えてください。
真木:“ゆかり”は家族とわいわいやっているシーンが多いので、見ているお客さんをホッとさせられるところがあると思います。台本を読んだときから好きなシーンは、他人に育てられた実の子を初めてギュッと抱きしめるシーンです。実はわたし、複雑な気持ちになってしまって、うまく抱きしめられなかったんです。いろんな想いがこみ上げてきてしまって……。でもそれもあえて見てほしいですね。
尾野:“みどり”を演じていて印象に残っているシーンは、そうですね・・・。夜、ベランダで「実の子にだんだん情がわいてきた」という複雑な心情を吐露するシーンがあるんですけれど、あそこは胸が痛かったですね。夫役の福山雅治さんがそっと背中をなでてくれるのですが、それが、母親役の樹木希林さんが背中をさすってくれるシーンとリンクして、同じようにあたたかさを感じました。一つの重要なシーンでもあるのでぜひ注目してほしいですね。
――福山雅治さんや、リリー・フランキーさんとの共演はいかがでしたか?
尾野:役柄になり切って成長し、変わっていく福山さんがすごくステキで。こんな風に人って変わっていけるんだなって見ていて感じました。ストーリーが進むにつれて、子どもとの接し方もだんだん変わっていかれるんです。それがとても勉強になりました。
真木:リリーさんは、さすがだなって思いました。ああいうお父さんって実際にいそうですけど、現実のリリーさんは父親じゃないんですよ。なのに、子どもたちがどう動くか分からないなかでの対処もすごくお上手でした。実は、リリーさんって全然セリフを覚えない方なんですが(笑)、それが逆に、是枝監督みたいなリアルさを追求する撮影の仕方にぴったりはまるんだなって思いました。
「芝居が好き」という気持ちがなくなったら
女優を辞める
――いろいろな役柄を演じてこられたと思いますが、女優というお仕事にはどんな気持ちで取り組んでいらっしゃるのですか?
尾野:ドラマでも映画でも全く同じ役というのはありません。似たような役であっても、必ずどこかが違います。ですから、一つ一つの芝居を大事に。とにかく、大事に、大事に演じていくしかないんですよね。
ときには複数のお仕事が重なることもありますが、切り替えはどうしているのか、自分でもよく分からないです。その現場に行くと、いつの間にかその役になれるという感じ。周囲の人に支えられて演じられていますね。
真木:どんな作品でもそうですけれど、大前提として、自分がやっている芝居という仕事が好きだという気持ちがなくなったらそれでおしまいだと考えています。だから、好きだという気持ちは絶対に持ち続けていようと思っています。
ときどき逃げ出したいとか、セリフを覚えたくないとかあるけれど、好きで始めた仕事ですから。好きな気持ちがなくなったら、辞めるしかない。でも、できるだけ長く続けていきたいと思っています。
ドラマや映画を見て、ほかの俳優さんの演技を勉強したりもしますが、仕事を好きでいるコツは、自分に「芝居が好きだ」と言い聞かせること。言い聞かせることは、とても大切です(笑)。
――同世代の女優同士、お互いにリスペクトしている部分がありましたら聞かせてください。
尾野:これまた、面と向かって言うのは恥ずかしい質問ですね(笑)。
わたしは全部。だって、わたしとよう子とは違うから。似ているところもあるかもしれないけれど、やっぱりぜんぜん違う。
わたしもよう子みたいにかわいくなりたいなとか、こんな芝居が出来たらいいなとか思います。目指すところはいっぱいあり過ぎるし、リスペクトするところもいっぱいあって、同世代としてすごくいい刺激をもらっているんです。だから、いいお友達で、いい仕事仲間でもあり続けたいなと思える人です。
真木:そうなんですよね。真千子にはわたしにないものがたくさんあるし、勉強になるところもたくさんある。わたしがやったらこうはできないなとか、敵わないなと思うところもたくさんあります。だから、真千子、本当にいてくれてよかったよ。
尾野:うん、愛してる。
真木:・・・うん(笑)。
女優という仕事に日々真摯に取り組んでいる尾野さんと真木さんも、Woman type読者と同じ世代の働く女性。ときには役柄に悩んだり、仕事を投げ出したくなったりすることだってある。
二人の微笑ましいやりとりに、切磋琢磨し合える仲間の存在が大きな仕事の達成に繋がる秘訣が垣間見えた。
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