“大人になる一歩手前の女性” を演じて出会えた新しい目線の自分【 今月のAnother Action Starter vol.2市川実日子さん】

another action starter
市川実日子

自分自身と役柄が重なったとき
新しい自分が生まれる

どこかとらえどころのないサヨコは、市川さん自身のキャラクターに近いイメージがある。
演じる中で、サヨコとの共通点を感じる部分はあったのだろうか。印象に残っているシーンを聞いた。

「サヨコと猫たちとの暮らしを体感していくうちに、台本に描かれている以上にサヨコは猫に愛情を抱いているということを感じました。サヨコにとって、猫は暮らしに欠かせない存在であり、どの猫にも分け隔てなく愛情を注いでいます。撮影が進むにつれ、サヨコの愛情深い性格がよく分かりましたね。共通点というか、自分もこうありたいと思ったという意味で印象に残っているのは、光石研さんが演じる単身赴任中の中年男とのエピソード。その中で、サヨコは大切な猫を手離す決断をするのですが、その潔さがすごいなと思ったんです。本当の私にはできない行動。けれど、自分自身とサヨコが重なり、サヨコの潔さが自分自身に溶け込んだというか、もし自分にそういう出来事が起こったら、受け入れられる潔さを持とうと思えるようになりました」

自分が大切にしている存在が、他の人にとっても同じぐらい大切で欠かせない存在だと分かったら……?
自分の想いだけでなく、それをとりまく周囲との関係性を見渡せる視点をサヨコから学んだという。
市川さんの眼差しはいつでも印象的だけれど、このシーンにはそんな想いが秘められている分、眼差しの強さを増しているように見える。ぜひスクリーンで確かめてほしい。

過去の自分を形作ってきたものを整理し
今の自分を見つめ直す

市川実日子

彼女は、いま、自分の棚卸しというAnorher Actionに取り組んでいるという。

「30代になり、若いころと比べて、いろいろなことの感じ方が少しずつ変わってきていることを実感しています。そんな中で、いま自分が好きだと感じていることが分からなくなっているような気がしているんです。本当の私は、何を見たいと感じ、何を知りたいと思っているのか? 改めて自分の目線をとらえなおし、整理することが良い時間の過ごし方になっています」

たとえば、日常の暮らしの中には、過去の自分が大好きだったモノが残っていたりする。
それは決して色あせてはいないけれど、いまの自分は当時と同じように輝きを感じることができない。
そのモノは、今の自分にとって本当に必要なモノなのだろうか?
モノだけではない。
仕事に対する考え方や感じ方も、過去の自分といまの自分とでは違う。市川さんはそういった違いから目をそらさず、いまの自分にとってどういうものなのかを見つめ直している最中だという。

「大人になるにつれて若いころとは違う目線を身に付けているはずなんですが、過去のものに囲まれていると、今の自分が分からなくなってしまう気分になるんです。暮らしも仕事も自分というベースがあってこそだと思いますから、その根本を見つめ直す時間は大切にしたほうがいいなって」

年を重ねるということは、単純に経験を積み重ねていくだけではない。
これまでとは違う目線を育み、少しずつ違った嗜好を身に付けていくということだ。
「読者のみなさんにも、自分の身の回りの見直しをオススメします! ってまとまったのかな、これ(笑)」と明るく笑った市川さんの姿に、淡々と自分の道を歩み続けるサヨコの強さが重なって見えたような気がした。

レンタネコ
「寂しいヒトに、猫、貸します」と呼びかけながら、人と猫の出会いを手伝う主人公、サヨコ。でも、誰にでもレンタルできるわけではありません。“猫を貸すことにふさわしい条件が揃っているか”の審査付き。幼い頃から、猫に好かれていたサヨコは、彼らの気持ちを汲んで、心寂しい人たちと猫を引き合わせていきます。 脚本・監督:荻上直子『かもめ食堂』『めがね』『トイレット』 出演:市川 実日子、草村礼子、光石 研、山田真歩、田中圭、小林克也 サイト:http://rentaneko.com/ 2012年5月12日(土)より、銀座テアトルシネマ/テアトル新宿ほかにて全国ロードショー

取材・文/朝倉 真弓  撮影/竹井俊晴

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