ブランクが怖い、復職が不安…「育休の悩み」なくす特効薬は、自分のテーマを決めること【育休コミュニティ『MIRAIS』栗林真由美さん】
出産後も働き続ける女性は増えたけれど、育休後のキャリアには何となく不安がつきまとうもの。「育休期間をどう過ごすべき?」「復職後もやりたい仕事を続けるにはどうしたら…?」 本特集ではそんな疑問に答えていきます。
子育ての不安、孤立する不安、そして今後のキャリアへの不安……。
あわただしく育休に入り、目の前のことに追われているうちに、何となく時間が過ぎていき、モヤモヤばかりが募っていく――。
そんな「なんとなく育休」をなくしたい!と、育休コミュニティ『MIRAIS(ミライズ)』を立ち上げた、栗林真由美さん。

育休コミュニティ『MIRAIS』代表
栗林 真由美さん
1982年生まれ。IT事業会社勤務。2014年2月に第一子を出産。育休中にママボノプロジェクトや、育休プチMBA勉強会の運営に携わる。復職後は社内初となる時短勤務での昇進を果たす。18年2月に第二子を出産。育休中の同年8月に育休コミュニティ『MIRAIS』を立ち上げる
「私」が変われば、育休が変わり、社会の意識も変わっていくはず。『MIRAIS』の活動を通じて、栗林さんがつくっていきたい未来について聞いた。
子育ては「留学みたいなもの」
『MIRAIS』を立ち上げたのは2018年8月、第二子の育休中でした。
『MIRAIS』では、「なんとなく過ごす育休をなくそう」というミッションを掲げてさまざまな活動をしています。これは私自身の経験を踏まえてのことです。
実は、私も最初の妊娠が分かった時は、「これでもうキャリアは終わりだ」ってパニックに陥ったんですよ(笑)
仕事が好きで、それまでバリバリ働いていたのに、もう思い切り仕事することはあきらめなくてはいけないと思ったからです。
ところが出産前に、たまたま参加したキャリアイベントで「子育ては留学みたいなもの」という話を聞き、はっとしました。
なるほど、そう考えれば、育休もステップアップにつながるのかもしれない。そう気付いたんです。

そこで、育休期間は「子どもがいても思い切り働くための準備期間」というテーマを設定して、いろいろなことにチャレンジすることにしました。
どんどん外に出ていって、仲間と一緒にMBA勉強会を立ち上げたり、ママだけのチームでNPOの社会課題の解決に取り組んで活動をしてみたり。
育休中にテーマを持って過ごしたことで、忙しくても、とても充実した期間を過ごせたと思います。
そして実際、職場復帰してからも「思い切り働く」という当初のテーマを実現することができました。
時短勤務で復帰しましたが、いわゆるサポート的な仕事に就くつもりはまったくなかったので、復職の面談の際には「仕事のやり方は自分で考えて工夫するので、労働時間ではなく、成果で評価してください」と上司にははっきり伝えました。
ちょっと生意気っぽく思われるかもしれませんが、ここではっきり自分の意思を伝えておいてよかったと思います。
復職後、新規事業の立ち上げに携わることもできたし、仕事ぶりを評価してもらい、時短勤務として社内で初めて昇格もしました。
「やっぱり仕事は楽しいな。私は仕事が好きなんだな」と、復帰して改めて感じましたね。
「機会」「役割」「仲間」が提供できるコミュニティに
第二子を妊娠した時には、もう育休に対する不安はありませんでした。自分軸を持って臨めば、有意義に過ごせることは分かっていましたから。

なので、この時はむしろ自分のことよりも、周りのことが気になりました。
第一子を出産してから4年経っていましたが、働く女性と産休育休をめぐる状況は、何も変わっていないように感じて、ちょっとがっかりしちゃったんです。
復帰後の仕事に対する不安、育休をどう過ごしていいか分からないモヤモヤ……何となく育休期間を過ごしている女性たちを、たくさん目にしました。
自分だけでなく、もっと多くの人が育休を有意義なものにできたら、世の中も変わっていくはず。何とかこの状況を変えていきたいと真剣に考えました。
そもそも育休に入ると、なぜモヤモヤしてしまうのか。
会社に行けば、上司や同僚がいて、自分がやるべき仕事があり、期待もかけてもらえる。それが育休に入った途端、すべてなくなってしまうのです。
これでは、頑張れと言われてもどうしたらいいか分からないのは当然でしょう。
会社の中では当たり前にあった「機会」、「役割」、「仲間」を提供するプラットフォームがあれば、みんながもっと楽しく充実した育休を過ごせるのではないか。
そこから、オンラインを中心とした育休者向けのコミュニティという構想が生まれました。
そうして一人で告知文を作って、申し込みフォームを作って、会員規約を作って……。それでも「誰も集まらなかったらどうしよう」と、最初はなかなか勇気が出ませんでした。
思い切ってFacebookで「参加者募集」の告知を投稿してみたら、どんどんシェアされて、一気に50人くらい参加者が集まりました。

「自分が育休中にこういう場が欲しかった」という復帰した方の声もあり、そう思っているのは自分だけじゃなかったんだと感動したことを覚えています。
自分が本当にやりたいことを、とことん考える機会に
『MIRAIS』は2018年9月から本格的な活動を開始し、これまでに累計で約200人が参加しました。
会社員だけでなく、フリーランサーや自分で会社を立ち上げた人など、多様なメンバーが集まっています。
6カ月単位で活動を一区切りしていて、現在は第3期のメンバー、約90名が活動中です。
年齢的には子育て世代である30代が大半を占めています。もちろん、育休中であれば、男性の参加も歓迎しています。
活動はメッセンジャーやWeb会議システムを使ってオンラインを中心に行うので、全国どこからでも参加できます。過去には海外在住の人も参加していました。

MIRAISでWeb会議に参加するメンバー
『MIRAIS』の活動のメインとなるのが、育休中の「テーマ設定」です。どんな育休を過ごしたいか、一人一人テーマを決めていきます。
私も全メンバーと一対一で向き合って、「なぜそうしたいのか」「それが本当にやりたいことなのか」を深掘りしながら、テーマをブラッシュアップしていきます。
この機会に本当に自分のやりたいことをやり切るために、とことん自分の気持ちに向き合ってもらうのです。
そうして出てきたテーマは、本当に人それぞれです。キャリアに限らず、パートナーシップや子育てに関するテーマを掲げる人もいます。
例えば、「人生最後の夏休み」というテーマを掲げたメンバーがいました。二人目を出産し、おそらくこれが最後の育休になると思うから、「目一杯遊ぶ」ことを目標としたのです。
テーマを決めると、月に一度振り返りを行うのですが、そのメンバーは毎月本当にアクティブに過ごしていましたね(笑)

でも、ただ何となく遊びほうけているのではなく、きちんと自分で「遊び切る」というテーマを決めて行動しているので、罪悪感はない。むしろ、達成感や充実感が湧いてくるのです。
他にも、「復職後、自分らしく働くための準備期間」というテーマを掲げ、パラレルキャリアに向けた土台作りをした人もいましたし、「脱べき論」を掲げ、より柔軟な思考ができるように自分を変えていこうとした人もいました。
育休テーマの設定・実践以外には、チーム活動もあります。イベントチーム、広報チーム、会計チームなど、7つのチームに分かれて、自分たちでコミュニティを運営していくのです。
どのチームに参加するもしないも、参加者の自由。経験の有無は全く関係ありません。そのため興味のある分野にいくらでも挑戦することができるようになっています。
また、4人以上仲間を集めれば部活動も自由にできます。これまでは、アート部や、旅行部、英語部、断捨離部などがありました。 えほん部の皆さん
特に今期のメンバーは部活動に積極的で、「えほん部」「資格取得応援団」などユニークな部活がたくさん立ち上がっています。
過剰な配慮を生まないために。自分の希望をしっかり発信しよう
卒業したメンバーはすでに職場復帰をしていますが、その快進撃には目を見張るものがあります。
職場と交渉して希望の部署に異動した人もいれば、時短勤務しながら昇進した人もいる。本当に自分のやりたいことに気付き、転職を果たした人もいます。
育休というのは、実はじっくりと自分自身に向き合うのに最高の機会。職場という日常からしばし離れて、普段とは違う価値観に触れたり、いろんな属性の仲間とのネットワークを広げたりすることで、改めて気付くことも多いはずです。

育休のとらえ方は人によっても違いますし、育休者の扱いも会社によってさまざまです。だからこそ、「自分がどうしたいのか」が大切です。
そこで『MIRAIS』では、子どもを主語にするのではなく、参加者に「私」を主語に話をしてもらうようにしています。
いわゆる子育てサークルとは違うので、メンバー同志は交流を深めても、最後までお互いの子どもの名前を知らなかった、なんてことも起こるのです。
「○○ちゃんのママ」ではなく、「私」という一人の大人の個性、関わり合いを大切にしているんです。
設立から2年が過ぎ、『MIRAIS』のメンバーはどんどん増えていますが、今後さらにネットワークを広げていきたい。
そして、個人的には、「あきらめない女性」をもっともっと増やしたい。そうして世の中を変えていければいいなと思っています。
そのためにも、皆さん一人一人が「自分はどうしたいか」を声にしていってほしいです。家庭の中でも、職場でも。
ただ、その時に注意すべきは感情的にならないこと。会社で自分の希望を通すなら、それなりの理由が必要です。
「私がこうしたいからするんだ」じゃなくて、「私はこれまでの経験上、復帰後もこういう仕事ができます。だから、◯◯の部署で◯◯の成果を指標に評価してもらえたら、こんな働きで貢献できます」といった具合に。
会社を動かすために会社の視点に立ったメリットをロジックを意識して話をするべきです。

一方で、遠慮してしまって自分の意志を伝えられない女性も多くいます。でも、その遠慮が、周囲の人を「どうしたらいいか分からない」状態にさせてしまうんです。その結果、不要な配慮が生まれてしまうことも多いと感じています。
例えば、「復帰直後の人は働き過ぎは嫌だろうから、サポート系の仕事にした方がいいんじゃないか」みたいな配慮。
復帰後どう働きたいかは人それぞれなのに、「きっとその方がいいだろう」という仮説で人事が進んでしまうことがあります。
会社なので全てが希望どおりにいくかというと絶対ではありませんが、後々になって「こんな待遇は望んでいなかった」と怒ったところで、自分の意志を伝えていなかったらもうあとの祭り。
こうなると、あなたも会社も不幸です。ですから、自分の意見を伝えるプロセスを軽視しないようにしてください。
ライフステージの変化を経ても女性がやりがいのある仕事をしていくためには、周囲の人たちと丁寧にコミュニケーションを重ねて、理解してもらう努力を続けていくことが大事です。
一人一人の「こうしたい」という意思と発信が、世の中をより良く変えていくと思いますね。
取材・文/瀬戸友子 編集・撮影/栗原千明(編集部)
『特集:「私らしい育休」って何だろう?』の過去記事一覧はこちら
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