【高野麻里佳】「声優、辞めようか」悩みの時期を乗り越え辿り着いた“胸を張れる”新境地
日々の暮らしの中で、ちょっとしたチャレンジをすること。それが、Woman typeが提案する「Another Action」。今をときめく女性たちへのインタビューから、挑戦の種を見つけよう!
『デジモンアドベンチャー:』の太刀川ミミや、『ウマ娘 プリティーダービー』のサイレンススズカを演じ、2021年2月にはアーティストデビューも果たした声優・高野麻里佳さん。
5月27日配信開始のNetflixオリジナルアニメシリーズ『エデン』では、主人公・サラの吹き替えを務める。高野さんにとって、初の主演作だ。
27歳、声優としてますます活躍の場を広げている高野さんだが、「初主演」というビックチャレジにどう挑んだのだろうか。
初主演でもプレッシャーはなし。仕事の姿勢は常に崩さず
SFファンタジーアニメ『エデン』は、“人間は悪”とされるロボットの世界に突如現れた人間の女の子・サラと、彼女を取り巻くロボットたちの絆を描く物語だ。
制作陣には、『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』を手掛けた入江泰浩監督をはじめ、豪華スタッフが集結している。
そんな中、主演を務めた高野さんだが、意外にも「プレッシャーはなかった」と笑顔で話す。
「これまで声優として7年間、サブキャラクターや準レギュラー、レギュラーなどを演じてきましたが、どの作品においても『私は、作品をつくる一員なのだ』という意識を大切にしてきました。
『エデン』ではありがたいことに主演を任せていただきましたが、仕事に臨むスタンスはいつもと同じです。主演でも、サブキャラクターでも、声優は『作品をつくる一員』であることに変わりはありませんから」
高野さんが演じたのは、ロボットだけが暮らす世界「エデン」に生きる唯一の人間サラ。“人間味”あふれる声で、キャラクターを表現する難しさがあったという。
「最初に台本を読んで驚いたのは、ロボットに育てられたのに、サラがごく普通の女の子だったこと。大人への階段を上る一歩手前にいる、人間らしくて、純粋で無敵な女の子。そんなキャラクターです。
私は役づくりの際に過去の実体験を反映することが多いのですが、今回も、自分が幼い頃に持っていた『自分は何だってできる』という万能感を思い起こしながら演じました」
一流から学んだ、固定観念に縛られない演技手法
今回、主演ということ以外にも初挑戦があったという高野さん。それは「一人の人間が赤ちゃんから大人になるまでの過程」を演じたことだ。
「赤ちゃんを演じたのも初めてでしたし、少女から大人の女性へと成長していくキャラクターを演じさせていただくのも初挑戦。とても貴重な経験をさせていただきました。
声優はいろいろな役柄を演じる機会がありますが、赤ちゃん役に関しては、できる人も限られていると思います。だからこそ、しっかり勉強して臨まなくては、と責任を感じましたね。
そこで、親戚の赤ちゃんを観察して、どんな声を出すのか、どんな息遣いなのか、真似て研究しました(笑)」
今作には、日本を代表するベテラン声優の山寺宏一さんも出演している。初共演だったという高野さんは、山寺さんの“プロの仕事”に胸を打たれたという。
「山寺さんが水を飲むシーンで、ご自身の水筒にお水を入れて実際に飲んで演じられたんです。普通はアフレコ中に水を飲むことはないのですが、そんなふうに演じることもできるのかと驚き、感動しました。 自分が『演技はこうすべき』という固定観念にいかにとらわれていたか気付くことができたんです。
演技の場以外でも、現場のスタッフや周囲への配慮を忘れない方で、そのお人柄からも学ぶことがとても多くて。『一流の背中』を見せていただきました」
誰かの笑顔のために、“楽しさのサイクル”を回す
サラと高野さん自身の共通点について聞くと、「それが、全然無いんです」とはにかむ。
「サラはすごく前向きで自分の考えをはっきり言えて、興味の湧いたことに真っすぐ向かっていきます。一方、私は物事すべてにおいて石橋をたたいてしまう慎重派。だから、サラのように自分の心のままに生きている人に憧れますね」
実は、高野さんが声優を目指したきっかけも、「自分がなりたいと思ったから」ではないと明かしてくれた。
「声優になったきっかけは、『家族が喜ぶ笑顔を見るのがうれしい』と思ったからでした。正直なところ私自身は、自分が演じたり、歌ったりしている声を聞くのが苦手なタイプ。出演作品も、気恥ずかしくて見返さないことが多いんです(笑)」
今も、ステージに立ち続けるのは「誰かのため」だと高野さんはきっぱり言い切る。自分のためにする仕事より、誰かの笑顔のための仕事の方が、チャレンジの原動力になるという。
「ただ、自分が楽しんでいなければ、人を楽しませることもできないという思いもあります。ですから、『自分が楽しむと、相手も楽しんでくれて、結果また自分も楽しくなる』という良いサイクルをつくっていくことを心掛けていますね」
#継続こそが、最大のチャレンジ
そんな高野さんだが、ごく最近、「声優を辞めようか」と思う出来事があったという。彼女の声優としてのキャリアを一番応援してくれていた、祖父を亡くしたことがきっかけだった。
「私の応援隊長のような存在だった祖父を亡くし、喪失感でいっぱいになってしまい……。一時的にですが、仕事が手につかなくなってしまって。『声優を続けられないかも』と本気で悩んだんです。
でも、そんな中でも思い出されるのは、私の声優業を心から応援してくれていた祖父の笑顔。
今辞めたら、祖父に申し訳ない。それに、この世界のどこかに祖父と同じように私を応援してくれている人がいるなら、その人たちにももっと笑顔になってほしい。そう思えるようになっていきました」
うまくいかなかったり、落ち込んだり。漠然と不安になるときでも、自分のことを思ってくれる人が近くにいるかもしれないーー。そんなふうに考え方を変えてみると、だんだんと勇気が湧き、前を向けるようになったという。
先に「自分の声を聞くのは苦手」と語った高野さんだが、少しずつ自分自身の演技にも胸を張れるようになってきたと誇らしげな笑顔を見せる。
その自信は、声の仕事を「継続してきたこと」によって生まれたものだ。
「チャレンジって、何かを新しく始めることだけじゃない。“継続すること”も、大きなチャレンジの一つだと思うんです。
この仕事だって、続けていくためにはただ現状維持をすればいいわけではありません。常に自分を進化させていく必要があります。たとえつらいことがあったとしても、それを乗り越えて。
まだまだ“一流の声優”への道のりは長いかもしれない。でも、今まで演じてきたキャラクターに関しては、私にしか演じられないものだと思えるようになりました。プライドと責任を持って演じてきたキャラクターたちが、私の自慢であり、声優としてのすべてです」
「誰かのため」を原動力に、継続というチャレンジを重ねてきた高野さん。穏やかに微笑む瞳の奥には、幾多の困難を乗り越えてきたからこそのしなやかな強さが見えた。
<プロフィール>
声優・高野麻里佳
1994年2月22日生まれ。2014年、ufotable徳島スタジオ制作の情報番組『おへんろ。』にて主役の一人である、めぐみ役を演じたことで一躍、人気声優に。15年、TVアニメ『それが声優!』で小花鈴を演じ、初のTVアニメ準主演を務める。18年、メディアミックスコンテンツ『ウマ娘 プリティーダービー』にてサイレンススズカを演じ、さらに注目が高まる。21年2月24日、1stシングル「夢みたい、でも夢じゃない」でソロアーティストとしてデビュー。21年5月27日より全世界同時配信をスタートするNetflixオリジナルアニメ『エデン』にて主人公・サラを演じ、アニメ作品初主演を果たす
作品情報
Netflixオリジナルアニメシリーズ『エデン』
Netflixオリジナルアニメシリーズ『エデン』5月27日(木)より全世界独占配信。
数千年後の未来を舞台に、唯一生き残っていた人間の子供を育てるロボットの物語を、「鋼の錬金術師」の入江泰浩監督と「イノセンス」の3D CGクリエイターが贈る。
<あらすじ>
物語の舞台はロボットしかいない自然豊かな完璧な世界<エデン>。
農業用ロボットとして暮らしていた E92 と A37 はある日、サラという名の“人間の”赤ちゃんが入ったカプセルを偶然発見し眠りから目覚めさせてしまう。しかし人間が“悪者”であるとされるこの世界<エデン>ではサラが危険だと考えた2体は、安全な場所に隠しながら密かに育てることを決意する。
充電はできない、楽しいときに笑う――お父さん=E92 とお母さん=A37 として手探りでサラを育てるうちに、2体のロボットとサラはお互いを想い合い家族のような“絆”を育んでいく。
やがてサラは好奇心いっぱいの少女に成長した。“なぜ人間は自分だけなのか、ほかの人間たちはどうしてしまったのか……”と疑問を持つ彼女は、ある日ロボットしかいないはずの<エデン>で遠くから自分を呼ぶ声に気づく――
一方で、この世界を統括し、人間を憎むロボット ゼロは人間サラの存在に気づいていた。サラと家族の運命は?そして<エデン>に隠された巨大な謎とは何なのか? 大きな運命に翻弄されながらも、互いを思いやる“絆”が全世界の心を揺さぶる。感動SFファンタジーが今、ここに誕生した!
<キャスト・スタッフ>
出演:高野麻里佳 伊藤健太郎 氷上恭子 山寺宏一
監督:入江泰浩
キャラクターデザイン:川元利浩
脚本:うえのきみこ
コンセプトデザイン:クリストフ・フェレラ
アートディレクター:クローバー・シェ
音楽:ケビン・ペンキン
プロデューサー:ジャスティン・リーチ
アニメーション制作:CGCG
取材・文/上野真理子 撮影/堤博之 ヘアメイク/伊佐千秋 スタイリスト/原田幸枝
『私と仕事のいい関係』の過去記事一覧はこちら
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