【栗山千明】「ちゃんとしなきゃ」をやめたら悪循環から抜け出せた。“脱・人見知り”で圧倒的に変わった働きやすさ

一流の仕事人には、譲れないこだわりがある!
プロフェッショナルのTheory

この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります

変わりたい。そう思っても、なかなか変われない。それが人間というものだ。自分の欠点や課題を自覚していても、それを克服するのは難しい。

俳優の栗山千明さんも、「以前は人見知りが激しくて、仕事の場でも周囲と距離を縮めるのが苦手でした」と照れ臭そうに明かす。

栗山千明

そのオープンな口ぶりからはまったく想像がつかないけれど、どうやって栗山さんは内向的な性格を変え、プロフェッショナルへと成長したのだろうか。

いい仕事をするために、「緊張しなくていい環境」を自分でつくる

映画『鋼の錬金術師 完結編』で“ハガレンワールド”に初めて飛び込んだ栗山さん。

そこで見たものは、超人気原作の実写化という高い壁に挑み、シリーズを支え続けてきた主演の山田涼介さん、そして監督の曽利文彦さんのプロフェッショナリズムだった。

栗山さん

今回は、『復讐者スカー」と『最後の錬成」の2本を同時に撮影していました。体力的にもハードだし、撮影順も時系列がバラバラのため、キャストにもスタッフにも集中力が求められます。

その中で山田さんも曽利監督もピンと気を張りながらも、決してピリピリした雰囲気はなく、途中から入ってきた私に対しても、一緒にやろうぜと温かく迎えてくださった。

そういう空気をつくってくださったことがありがたかったですね。

栗山千明

クールでシャープな印象が強い栗山さんだが、実はかなりのあがり症だという。

栗山さん

今回のように、前作の撮影を経てすでに出来上がっているチームに入るときは、特に緊張します。でも、曽利監督は衣装合わせのときからたくさん褒めて気持ちを乗せてくださって。

山田くんは本来なら座長としてみんなから大事にされる立場なのに、逆にいつも周りに気を配っていらして、その姿勢が本当にすごいなって。

年は私の方が上ですけど、純粋に尊敬できる方だなと思いました。

そう話してから、栗山さんは自分の考えをまとめるように、こう付け加えた。

栗山さん

プロと呼ばれるには、もちろん技術も大事です。でも、それ以上に大切なのは人柄なのかな、と思いますね。

山田くんや曽利監督のように、周りに気を使い、そこにいる人たちが気持ちよく働ける環境をつくること。

そういうチームワークを高めることができるような人柄も、プロとして長く活躍し続ける人の条件だと思います。

栗山千明

栗山さんがそう考えるのも、長い芸能生活の中で感じてきたことが大きく影響している。

栗山さん

10代の頃から仕事をしていますが、以前はすごく人見知りで、現場でも一人でいることが多かったんです。

当時の私からすると、周りはみんな大人。その中でお仕事をさせていただいているので、どうしても「ちゃんとしなきゃ」って構えていたんですよね。

でも、そうすると皆さんとの距離がなかなか縮まらないから、結局ずっと自分が緊張し続けないといけなくなっちゃう。あの頃は、そんな悪循環を抱えていました。

自分に自信がないときほど「ちゃんとしなきゃ」と思いがち。けれど、その生真面目すぎる義務感が、時に足かせになることもある。

栗山さん

なので、ある時から自分から周りに話し掛けるようになりました。そうやって皆さんと交流を持つだけで、だいぶ気が楽になるんですよね。

初対面の人に囲まれる場で緊張するのは、誰にとってもごく自然なこと。でも実は、緊張というのは気質の部分だけでなく、環境によるところも大きい。

鋼の錬金術師
栗山さん

自分が緊張しないですむ環境を自分でつくることで、能力を発揮しやすくなります。

だから私は、チームでいい仕事をするために、一緒に働く人と打ち解けることをとても大事にしているんです。

キャリアを重ね、現場に行けば年下スタッフやキャストも増えた。そんな中で栗山さんが意識するのは、ラフに意見交換ができる空気をつくることだ。

栗山さん

キャリアもだいぶ長くなりましたが、私は強いリーダーシップを発揮するタイプではなくて。主演を務めさせていただくときも、本当に頼りない座長だと思います。

ただその分、周囲の人にオープンマインドで接することで、みんなが頼りない私を助けようとしてくれるんですよね。

結果的にそれが、意見交換しやすいラフな現場づくりにつながっているのかなと思います。

「栗山千明に頼んでよかった」と思われる仕事がしたい

栗山千明

5歳で芸能界入りをし、1999年、映画『死国』で俳優デビュー。『バトル・ロワイアル』『キル・ビル Vol.1』など10代の頃から唯一無二の存在感を放ってきた。

2020年、30年間所属していた事務所から独立し、キャリアも新しいフェーズへ。環境が変わったことで、仕事への向き合い方にも変化が生まれた。

栗山さん

独立したことで、今まで事務所の方たちが陰ながらいろんなことをやってくださっていたんだなと実感できました。

おかげで、自分を支えてくれる人たちへの感謝の気持ちが一層深まりましたし、一つ一つのお仕事に参加する上での意識も高まった気がします。

さらに、仕事ができることのありがたみもよりいっそう痛感しているという。

栗山さん

例えばですけど、以前ご一緒した方からまたオファーをいただけると、少なからず前回の私の仕事を認めてくださったのかなという気持ちになってうれしくなる。

そういう感覚は、独立してから強く感じるようになりましたね。

だからこそ、作品に参加させていただくときも、私でよかったと思っていただける仕事がしたいし、私だからできるものをちゃんと見せたいなと思っています。

栗山千明

この『鋼の錬金術師』では、いかに原作ファンの期待に応えるオリヴィエ・ミラ・アームストロング少将を演じるかが、栗山さんにとっての使命だった。

栗山さん

私自身が『鋼の錬金術師』のいちファン。

原作もアニメも大好きで、私が思うオリヴィエ像というものがあったからこそ、その通りにできたかどうかは観た方にゆだねるしかありませんが、自分なりにできることはやれたのかなと思います。

栗山千明

栗山千明さん演じるオリヴィエ・ミラ・アームストロング少将

実写化は、原作ファンの応援があって実現し得るもの。いち漫画ファンとして、ファンの熱意を知っているからこそ、期待を裏切ることだけはしたくなかった。

栗山さん

アニメのオリヴィエの声が大好きなので、あの声の感じにどうしたら近づけるのかなと工夫したり。現場に漫画があったので、撮影の前にコマをチェックして、体勢を参考にさせてもらったり。

もちろん生身の人間がやることなので、アニメのオリヴィエを再現しきれないところはいっぱいありましたが、できるところは可能な限り寄せたいと思って演じました。

貫いた原作ファースト。栗山千明の演じたオリヴィエを、原作ファンはどう受け止めるのだろうか。

栗山さん

正直に言うと怖いです(笑)

オリヴィエは登場シーンがそんなに多くはないのに、原作ファンの中でも特に人気のあるキャラクターの一人。期待値が高い分、恐怖心はあります。

でも、私自身が原作が好きだからこそ、ファンの皆さんのツボも分かっているつもりです。

同じ『鋼の錬金術師』を愛する者だから演じられたオリヴィエをたくさんの人に見てもらえたらうれしいですね。

居心地のいい場所をあえて出ることで、成長の扉がひらく

栗山千明

独立を決めたのは、35歳の時だった。改めて当時の心境を聞いてみると、そこには迷いながらも前に進んでいく栗山さんだからこそ話せる等身大の思いがあった。

栗山さん

30年間同じ事務所に所属していたのですが、どこか甘えているような気がしてしまったんですよね。

というのも、周りはいい方ばかりでしたし、みんな私のことを考えてくれていた。

すごく居心地のいい場所だったからこそ、このままずっとここにいることが、自分のためになるのかな? と考えて、違う道もあるのかもしれないと思ったんです。

コンフォートゾーンを抜け出すことで、道は開かれる。栗山さんもまたあえて安住を捨てることで、新たな成長の扉をたたいた。

栗山さん

そんなふうに自分のこれまでを振り返るタイミングって、誰にでもあると思うんです。そしてその瞬間こそが、次に進むためのステップなのかもしれない。

それぞれの人生なので軽はずみなことは言えませんが、もし変わりたいと思ったのなら、一歩踏み出す勇気を持つことも大事なんじゃないかなと思います。

人見知りの殻を破り、自分から積極的に周囲とコミュニケーションをとるようになった時も、35歳で大きな決断をした時もそう。栗山さんは、「変わること」を恐れない。

変わり続ける人と、自分を変えられない人を分けるのは、一歩踏み出す勇気なのだと栗山さんが教えてくれた。

栗山千明

栗山千明(くりやま・ちあき)
1984年生まれ。茨城県出身。『ピチレモン』『ニコラ』など、ティーン誌でファッションモデルとして活動した後、1999年、映画『死国』で俳優デビュー。2003年、『キル・ビル Vol.1』でハリウッドデビューを果たす。その後も『下弦の月〜ラスト・クォーター』『鴨川ホルモー』『ハゲタカ』など数々の作品に出演。近作に『ラブコメの掟〜こじらせ女子と年下男子〜』『ファイトソング』『ケイ×ヤク-あぶない相棒-』など。7月1日より主演ドラマ『晩酌の流儀』がスタート Twitter: @chiakikuriyama_

取材・文/横川良明 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)

作品紹介

鋼の錬金術師

映画『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー』大ヒット公開中
映画『鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』 公開日:6月24日(金)

原作:『鋼の錬金術師』荒川弘(「ガンガンコミックス」スクウェア・エニックス刊)
監督:曽利文彦
脚本:曽利文彦、宮本武史
出演:山田涼介、本田翼、ディーン・フジオカ、蓮佛美沙子、本郷奏多、黒島結菜、渡邊圭祐、寺田心、内山信二、大貫勇輔、ロン・モンロウ、水石亜飛夢、奥貫薫、高橋努、堀内敬子、丸山智己、遼河はるひ、平岡祐太、山田裕貴、麿赤兒、大和田伸也、舘ひろし、藤木直人、山本耕史、筧利夫、杉本哲太、栗山千明、風吹ジュン、佐藤隆太、仲間由紀恵、新田真剣佑、内野聖陽
>>公式HP
©2022 荒川弘/SQUARE ENIX ©2022 映画「鋼の錬金術師 2&3」製作委員会