「私には無理」「どうせ変わらない」キャリアの可能性を狭める四つのアンコンシャスバイアス

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どんな仕事をして、どんな働き方をして、どう生きていきたいのか。

「こういう人生が幸せ」「こう生きるのが普通」といった価値観が世の中にある中で、それにまどわされず自分の本心を知るのは難しい。

フラットに自分のキャリアを考えるには、まずは「こうあるべき」と決めつけていないかを振り返る必要があるのではないだろうか。

そこで、無意識の思い込み「アンコンシャスバイアス」をテーマに活動する、アンコンシャスバイアス研究所の代表理事・守屋智敬さんに「キャリアの可能性を狭める思い込み」について話を聞いてみた。

プロフィール

一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所 代表理事/株式会社モリヤコンサルティング 代表取締役 守屋 智敬さん

1970年大阪府生まれ。神戸大学大学院修士課程修了後、都市計画事務所、コンサルティング会社を経て、2015年、株式会社モリヤコンサルティングを設立。管理職や経営層を中心に8万人以上のリーダー育成に携わる。18年、ひとりひとりがイキイキする社会を目指し、一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所を設立、代表理事に就任。アンコンシャスバイアス研修の受講者はこれまでに8万人をこえ、育成した認定トレーナーは、100名をこえる。21年より、小・中学校でのアンコンシャスバイアス授業をスタート。22年には、がんと共に働くを応援するための共同研究「がんと仕事に関する意識調査」報告書を発表。著書に、『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント』『シンプルだけれど重要なリーダーの仕事』(かんき出版)、『導く力』(KADOKAWA)など

「こういうものだ」という思い込みは、未来を限定することにつながる

編集部

アンコンシャスバイアスについて教えてください。

守屋さん

アンコンシャスバイアスとは、「無意識の思い込み」のことです。人や物事に対して、実際とは別に「こういうものだ」と無意識に思うことを指します。

例えば、ある人の属性を聞いた時に、「この人はこんな人だろう」と、よく確認もせずに決めつけてしまったことはありませんか?

編集部

「子育て中の女性だから、残業はできないだろう」と勝手に判断してしまう、みたいなことでしょうか。

守屋さん

まさにそれがアンコンシャスバイアスです。

アンコンシャスバイアスは誰にでもあるもので、日常のさまざまな場面に潜んでいます。

必ずしもネガティブな影響を及ぼすとは限りませんが、中には相手に対してネガティブな影響をおよぼしたり、自分の可能性を狭めるアンコンシャスバイアスもあります。

編集部

どういうことでしょう?

守屋さん

「こういうものだ」という思い込みは、選択の幅を狭めます

「こういう働き方はできないだろう」「この業務は向いていないに決まっている」と決めつけてしまうことは、未来を限定してしまうことにもつながるのです。

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編集部

自分で選択肢を減らしてしまっているのですね。

そもそもの質問ですが、なぜこのようなアンコンシャスバイアスを抱いてしまうのでしょうか。

守屋さん

要因はさまざまですが、これまでに見聞きしてきたことや自身の経験、「あなたに〇〇はできない」と他者から言われたこと、職場での低評価などが、ネガティブなアンコンシャスバイアスの根底にあることは多いと思います。

編集部

「女性にハードな働き方はできない」「女性は家庭を優先すべき」といった社会の固定観念も影響しそうですね。

守屋さん

そういった固定観念を聞く機会が多いほど、「そういうものなんだ」と思い込んでしまうことはあるかもしれません。

可能性を狭める思い込み1.「私には無理」

編集部

キャリアの可能性を狭めるアンコンシャスバイアスの例を教えてください。

守屋さん

まずは、新たな仕事を打診された時に「私には無理」ととっさに思うことです。

編集部

それもアンコンシャスバイアス……!?

守屋さん

実際にやってみたらできるかもしれないのに、「私にはできない」と無意識に思ってしまうわけですから。

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編集部

本来は「やったことがないから、できるかどうか分からない」ですもんね。

守屋さん

やってみたら意外とどうにかなる可能性は十分あります。

頭で考えているだけでは自分の想像の域をなかなか出られないですから、とにかく一歩踏み出してみることが大切です。

編集部

とはいえ「自分には無理」と思ってしまっているわけで、その勇気はないんですよね……。

守屋さん

そういうときは人と対話をしてみましょう。

自分とは違う考え方に出会い、「本当に無理なのか」を自分に問う、良い機会となるかもしれません。

編集部

客観的に、自分の可能性を確かめるわけですね。

守屋さん

それに会話をすることで「そのやり方ならできそうだな」と、新しいアイデアが得られるかもしれません。

最初から無理だと思い込んでしまうと、「どうせ否定されるだろう」と相談もしなくなってしまいます。

アンコンシャスバイアス自体はなくすことができないものだからこそ、「できるかも」という発想を頭の片隅に置くことを意識してみてください。

可能性を狭める思い込み2.「今更変われない」

守屋さん

「せっかくここまでこの会社にいるのだから転職はできない」「この仕事を10年間やってきたからキャリアチェンジはできない」など、「今更変われない」と思ってしまうアンコンシャスバイアスもあります。

編集部

キャリアを重ねるほど、そう思いがちですね。

守屋さん

何かを変えるには「やめる」「捨てる」が必要になることもあるだけに、これまでの経験や環境を変えることで「何もできなくなるのではないか」という不安に駆られてしまう面はあるでしょうね。

編集部

もちろん本人の状況によるという前提ですが、これも変えようと思えばいつでも変えられる……?

守屋さん

そうですね。

編集部

ただ、「やっぱりやらなければよかった」という結果になる可能性もあるわけで……。

だからこそ「今更変われない」と自分に言い聞かせてしまうこともある気がします。

守屋さん

まずは、自分の思いを口に出してみましょう。その上で、その思いに関連するイベントに参加して情報を得たり、いろいろな人に話をしたりすることで、「こういう世界もあったんだ」という発見があるかもしれません。

そして、それが「変われるかも」という自信につながるように思います。

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可能性を狭める思い込み3.「みんなが〇〇だから、それに合わせなきゃ」

守屋さん

「周りに合わせなければいけない」もアンコンシャスバイアスです。

例えば、「職場に女性の管理職がいないから、自分もなれないだろう」「周りが管理職になりたがっていないから、自分も手を挙げるのはやめておこう」などですね。

編集部

「ロールモデルがいないから無理」と思ってしまう背景にも、「周りと違うことはできない」という思い込みがあるのかもしれませんね。

守屋さん

「多くの人がやっていること=正しい」と思いたくなる心理は多くの人にあるものです。だから「他の人がやってないから私もやらない、やれない」と思ってしまうのかもしれません。

ただ、結果として、そのままでは自分の望む道を選べなくなってしまいます。

編集部

どうやって気持ちを切り替えたらいいでしょうか。

守屋さん

「本当にそうなのかな?」と疑いつつ、「私」を主語にすることが大切です。

「周りに合わせなければいけないと思い込んでいるかも」と思えるだけでも、「じゃあ自分なりの意見は何だろうか」と考えたり、実際にそれを発言したりといった「私」を主語とした行動につながります。

編集部

できる範囲で少しずつ「私」を主語に行動していく。自信にもつながりそうですね。

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守屋さん

私たちが思う「当たり前」は、過去にやってきたことの積み重ねです。

それが暗黙のルールになっていることもあるので、まずは当たり前を疑うことから始めていただければと思います。

そして、「それは当たり前ではないのでは?」と発言をすることで、自分と周りの当たり前が上書きされていくきっかけとなるかもしれません。

可能性を狭める思い込み4.「どうせ変わらない」

守屋さん

これまでお話ししてきたのは自分に対するアンコンシャスバイアスの例でしたが、「この人たちに言っても無駄だ」「どうせこの会社は変わらない」といった、周りの人や環境に対するアンコンシャスバイアスもあります。

編集部

言われてみれば、たしかに……!

守屋さん

人や環境に対するアンコンシャスバイアスにとらわれてしまうと、「どうせ変わらない」と決めつけることになり、その結果、環境を変えられる可能性を自らつぶしてしまう。

勝手な思い込みが自分の悩みごとを生み出してしまうこともあり得ます。

編集部

人や環境が本当に悪いケースもあるけれど、「頭ごなしにダメだと決めつけていないか」という冷静かつ客観的な視点を持つ必要があるわけですね。

守屋さん

その通りです。「私はこの会社でどう働きたいのか」を考え、それに対して「自分に何ができるのか」を考えましょう。

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編集部

例えば、古い体質の企業の中には女性だけがお茶を出すなど、「女性だから」の役割が課されているところもありますよね。

そういうアンコンシャスバイアスも「どうせ変わらない」ではなく、変えることができる……?

守屋さん

女性社員だけがお茶を出すという決まりは、ただ昔からの慣習が続いているだけかもしれません。

「なぜ女性だけがお茶だしをするのか」と口に出すことで、あっさり変わることもあると思いますよ。

編集部

特別な意図や悪意があるわけではなく、何となくで続いてしまっている。そういう職場の慣習やルールはたくさんありそうですね。

守屋さん

大切なのは「私はこうしたい」と伝えることです。

話さなければ分からないことはありますから、「察してほしい」ではなく、「私」を主語に声を上げることにトライしましょう。

「『どうせ聞く耳を持ってくれないだろう』という思い込みはないだろうか」と自らを省みて、まずは周りの人に相談をしてみるなど、できる範囲で一歩を踏み出すことが未来を変えると思います。

アンコンシャスバイアスと向き合えば、自分らしい生き方が見えてくる

編集部

お話を聞くうちに、なんだかあらゆることがアンコンシャスバイアスなのではないかという気がしてきてしまいました……。

守屋さん

たしかにアンコンシャスバイアスから逃れることはできませんし、思い込みは日常にたくさん潜んでいます。

重要なのは、「気付いてよかった」と思えるために、アンコンシャスバイアスと向き合い続けること

頭ごなしに決めつけずに、「できるかもしれない」を大切にする。アンコンシャスバイアスと向き合うことは、明るい未来を描くことにもつながるのだと思います。

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編集部

「私の人生、こんなもんだし」というのもアンコンシャスバイアスですもんね。その思い込みをやめるだけでも人生が明るくなりそうです。

ただ、アンコンシャスバイアスは無意識だからこそ気づくのが難しいなと思います。何かコツはありますか?

守屋さん

「決めつけ言葉」や「押し付け言葉」が出たら要注意ですね。

「当たり前」「こうあるべき」「これが普通」「どうせ無理」「そんなはずはない」といった言葉です。

これらの言葉が浮かんだときは、ぜひ「本当かな?」と考えてみてください。

編集部

一方で、「女性なんだから仕事をそんなに頑張る必要はない」「女性だから子どもを産まなければいけない」など、アンコンシャスバイアスを押し付けられてしまうこともあります。

その影響を受けないためにできることはありますか?

守屋さん

「自分がどう生きたいのか」という軸をしっかり持つことが理想です。まだその軸が分からない人は、違和感を大切にしましょう。

編集部

違和感?

守屋さん

「女性は仕事を頑張らなくてもいい」という発言に違和感があるのなら、自分の本心はそれとは違う生き方を望んでいるのかもしれません。

そうやって違和感から「こういう生き方をしたい」が見えてくると思います。

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編集部

アンコンシャスバイアスと向き合うことは、自分らしい生き方を考えることにもつながりそうですね。

守屋さん

まさにそうだと思います。

自分のアンコンシャスバイアスに気付くことで、気持ちが軽くなったり楽になったりと、何かしらの変化もあると思います。

そうやって気持ちがポジティブになれば、次の一歩を踏み出す勇気にもつながりますよ。

企画・取材・文/天野夏海