
いきなり気を失うリスクも? 働く女性に多い「かくれ熱中症」のセルフチェック法【医師監修】
連日、10年に一度と言われるほどの猛暑日が続いています。そこで気を付けたいのが熱中症です。
熱中症は誰でも起こりうる症状ですが、「私は外に出ることも少ないから大丈夫」と思っている20~30代の女性も多いのではないでしょうか。
しかし女性はもともと熱中症にかかりやすく、特に初期症状が分かりづらい「かくれ熱中症」は、オフィスワークやリモートワーク中に進行しやすいため、決して油断はできません。
毎年、5万人以上の人が搬送されていて、重症化すると命の危険を伴うことも……。
後遺症が残る可能性もある「かくれ熱中症」に、20代~30代の女性がかからないためにはどんな対策をすればいいのでしょうか。イシハラクリニック副院長の石原新菜先生に教えてもらいました。

イシハラクリニック副院長 石原新菜先生
ヒポクラティック・サナトリウム副施設長。健康ソムリエ理事、ロングライフラボ理事。1980年長崎県生まれ。2006年帝京大学医学部卒業。同大学病院で2年間の研修医を経て、父、石原結實のクリニックで主に漢方医学、自然療法、食事療法により、種々の病気の治療にあたっている。 クリニックでの診察の他、わかりやすい医学解説と親しみやすい人柄で、講演、テレビ、ラジオ、執筆活動と幅広く活躍中。著書は 13万部を超えるベストセラーとなった『病気にならない蒸し生姜健康法』をはじめ、『「体を温める」と子どもは病気にならない』など70冊を超える。 日本内科学会会員。日本東洋医学会会員。日本温泉気候物理医学会会員 ■Instagram/オフィシャルサイト
仕事中にいきなりダウン?無自覚に進行する「かくれ熱中症」の怖さ

「熱中症は屋外で起こるもの」というイメージがありますが、「かくれ熱中症」はオフィスや自宅など、屋内にいても発症します。
自覚症状がないまま体温が上昇し、集中力の低下や判断力の鈍りといったパフォーマンスの低下から始まり、いきなり頭痛、吐き気、けいれん、意識障害といった深刻な症状が現れるのが特徴です。
特に女性は、もともと冷え性で汗をかきづらく体内に熱がこもりやすい人、生理痛や片頭痛で、だるい、頭痛、吐き気がしたりする人するが多いので、これがいつもの症状なのか、かくれ熱中症なのかを判断するのが遅くなってしまいがちです。
重症の場合は緊急搬送される場合もあるので、リモートワークの方でも要注意です。
寝不足だったり、その日の体調が悪かったりすると、特に熱中症になりやすいので、そんな日は特に部屋のエアコン温度を気にしたり、こまめに水分を取ったり、体調の変化を見逃さないようにしましょう。
また、通勤時に屋内外の温度差に身体が対応できずに「かくれ熱中症」になることもあります。
「いつもと何か違うな……」と少しでも違和感を感じたら、まずはセルフチェックをしてみてください。
仕事中でもすぐできる!「かくれ熱中症」3秒セルフチェック
①手の甲の皮膚をつまんでみる
手の甲の皮膚をハンカチを拾うようにつまんですぐに放し、3秒以上経っても戻らなかったら脱水症状の疑いがあります。これは医師も必ずやるチェックで、水分が足りないと皮膚は戻らず、しわしわのままです。
② 手のひらが冷たくなっていないか
脱水症状で血圧が下がると血行が悪くなり、手足の冷えにつながります。めまいやふらつき、吐き気などの症状を感じたら、手のひらで自分のほほやあごに触れてみてください。暑いはずなのに冷たかったら要注意です。
➂ 舌が乾いていないか
脱水症状になると舌は白っぽく乾くので、鏡を見てチェックしてみてください。また、唾液がネバネバして出にくくなって来たときも要注意です。サラサラの唾液が出ている間は、水分は足りています。
④尿の色が濃くなっていないか
トイレに行った時には尿の色をチェック。尿の色が濃くなればなるほど水分が足りてない合図です。また、尿意をもよおさない場合も脱水症状の可能性があります。トイレに3時間以上行っていない場合は要注意です。
なぜ女性は要注意?仕事と両立したい「生理期間」の熱中症対策

筋肉には水分や鉄分を貯蔵する働きがあり、もともと筋肉量が少ない女性は熱中症になりやすいと言われています。
ダイエット中の女性も要注意です。食事からは水分や塩分が摂れるので、夏場の無理なダイエットはしない方がいいでしょう。
また、女性には生理があり、体調不良が続く人も多いので、熱中症なのか見極めるのが難しい場合もあると思います。
暑い環境下で働いている方は特に、体調が悪くなったら生理痛ではなく、まず熱中症を疑ってください。
経血で血が失われているので脱水や鉄分不足になりやすく、こまめな水分補給と鉄分の多い食事を心掛けることが必要です。ただ、冷たい飲みものばかりを飲んでいると冷えの原因となるので、常温の飲みものや温かい飲み物がおすすめです。
生理中に冷えは禁物ですが、猛暑日にエアコンを使わないのは危険です。エアコンをつけた上で、靴下をはく、カーディガンを羽織るなどの冷え対策をしましょう。
【時間帯別】仕事のパフォーマンスを落とさない「かくれ熱中症」対策
朝から夜まで気温の高い夏場は、それぞれの時間帯によって注意が必要です。時間帯別の熱中症対策をご紹介します。
【朝・通勤時】
ぬるめのシャワーを浴びる:起き抜けにシャワーで体温を少し上げておくことで、日中汗をかきやすくなり、体温調節がスムーズになります。
朝食に一杯の味噌汁か甘酒を:味噌汁は水分と塩分、ミネラルを効率よく補給できます。「飲む点滴」と呼ばれる甘酒もおすすめです。
日傘と風通しの良い服装:日差しを直接浴びると体力を消耗します。日傘は必須。熱がこもらない服装を心がけ、髪が長い人はアップスタイルにして首元を涼しく保ちましょう。
駅まで・会社まではゆっくり歩く:急ぐと血圧が上がり、めまいや立ちくらみの原因に。時間に余裕を持った行動が大切です。
熱中症警戒アラートをチェック:外出前にその日の危険度を把握しておきましょう。曇りや雨の日でも湿度が高いと熱中症のリスクは高まります。
【昼・勤務中】
【リモートワーク】室温計で「28℃&湿度40~60%」を管理: エアコンの温度設定だけに頼らず、室温計で実際の環境を把握しましょう。特に湿度が65%を超えると危険信号です。扇風機やサーキュレーターを併用し、空気を循環させるのも効果的。
【オフィスワーク】エアコンの冷えすぎに注意: オフィスの冷房が効きすぎていると、体が冷えて汗をかきにくくなり、いざ暑い場所に出た時に体温調節がうまくできなくなります。羽織るものやひざ掛け、温かい飲み物で調整しましょう。
適度な運動で「汗をかける体」に: リモートワークで外出が少ないと、体が暑さに慣れません。ランチで少し歩く、15分程度のストレッチをするなど、軽く汗をかく習慣が予防に繋がります。
食欲がない時は薬味たっぷりの麺類を:しょうが、みょうが、ねぎなどの薬味は消化を助け、血行を促進します。そうめんやうどんなどで、塩分も一緒に補給しましょう。
【夜・帰宅後】
帰宅後すぐ、コップ一杯の水分補給:汗で失われた水分をまず補給しましょう。
居酒屋メニューは熱中症対策に有効:実は、枝豆や冷奴、もろきゅうなどは、ビタミンやミネラル、塩分が補給できる優れたメニュー。夏バテ気味の日の夕食におすすめです。
夏の熱中症の4割は就寝中に発生:寝ている間は水分補給ができません。エアコンはタイマーで切らず、就寝モードなどでつけっぱなしに。就寝前にコップ一杯の水を飲む習慣をつけましょう。
ビールやコーヒーは水分補給になる?

熱中症予防には適度な水分補給が大切ですが、ビールやコーヒーは利尿作用が高いため、水分補給には向きません。飲みすぎには注意ですが、1日に1~2杯くらいなら脱水症にはならないので、適度な摂取量を心掛けましょう。
ただ、お酒は眠りの質を悪くするため、体調に悪影響を及ぼすことも。たしなむ程度にして、ウイスキーや焼酎、テキーラ、ワイン、日本酒など、度数の強いお酒を飲むときは必ずチェイサーを飲むようにできるといいですね。
また、水分補給にはスポーツドリンクが良いのかといえばそうではありません。糖分が含まれているスポーツドリンクを飲み続けると、急激な血糖値の上昇を引き起こす「ペットボトル症候群」になる可能性があります。
三食食事がきちんとできているのであれば、食事から塩分も糖分も水分も取れています。外で働いている人や、運動をしている人など、たくさん汗をかいている人以外は、水かお茶などで良いでしょう。
朝の起床時や食事の時など、1日の中で何度か飲むタイミングはあると思うので、無理してたくさん飲む必要もありません。
「かくれ熱中症」になってしまったらどうすればいい?

【応急処置】
意識がある場合は日陰か室内に移動してください。服を緩めたら横になり、足を高くします。手のひらと足の裏から熱が逃げていくので、靴下も脱いでください。
保冷剤などがある場合は、首と脇の下、鼠径部をアイシングしてください。なければ霧吹きで水をかけたり、タオルを水で濡らして拭いたり、うちわのようなもので扇いだりして冷やします。
そして、糖分が入っている飲みものの方が吸収が早いので、スポーツドリンクや経口補水液を飲み、水分や塩分を補給します。しばらくして血圧が戻るようなら大丈夫ですが、熱中症が改善したかを自分で判断するのは難しいので、念のため病院に行くようにはしましょう。
自力で飲めないなど、症状の回復が見られないようであれば、救急車を呼ぶなどして病院に搬送してください。
【治療方法】
病院では、体を冷やして生理的食塩水とブドウ糖液を点滴をしてしばらく休みます。30分〜1時間ほどで良くなれば帰宅できますが、回復しなければ入院になってしまう場合も。
入院になる場合はかなり重症で、後遺症が残る場合もあるため、そうならないように日頃からしっかりと予防しましょう。
【翌日の過ごし方】
体調が回復している場合、ほとんど問題はありませんが、翌日はなるべく激しい運動などは控えて安静にしましょう。だるさが残っているのであれば、仕事は休みをもらってもいいと思います。
部屋で過ごす場合、再び熱中症にならないように、室温と湿度の管理をしっかりと行い、こまめに水分補給をして、ゆっくりと過ごしましょう。無理は禁物です。
「一度熱中症になるとまたなりやすい」と思っている方も多いようですが、熱中症はクセになるわけではなく、汗をかきにくい体質の方など、なりやすい体質の方は再びなりやすいです。一度なってしまったら、熱中症になってしまった環境に再び身を置かないように、環境を変えるように気を付けてみましょう。
熱中症が重症化したらどうなる?後遺症は?
熱中症は、体の中に熱がこもってしまい、体温調節ができなくなったことで体の中のタンパク質が変性してしまう症状です。つまり、体の中が煮えたぎって、生卵がゆで卵のような状態になってしまうのです。
中でも一番怖いのは、中枢神経障害などの脳へのダメージです。脳にダメージを受けると、めまいや頭痛が続く、記憶力が落ちる、感情を制御できない、歩行困難など、その後の生活をおびやかす様々な症状が出る可能性があります。
また、細かい血管に血栓ができることで血管が詰まって多臓器不全になってしまう、播種性血管内凝固症候群(DIC)も報告されています。
熱中症で亡くなる理由のほとんどが、この多臓器不全です。最悪のパターンにならないためにも、普段からの熱中症予防を心掛けましょう。
また、熱中症になった人の約2割には後遺症が見られます。だるい、めまい、頭痛、歩行障害、記憶障害、不眠などが主な症状です。内臓にダメージを受けた方は、新陳代謝が悪くなるなどの影響もあります。
中枢神経障害で脳にダメージを受けてしまった場合は、その後、何年も寝たきりになってしまう人もいます。
熱中症は、良い睡眠をとる、バランスの良い食事を三食食べる。毎日お風呂に入り、汗をかける体づくりをするなど、日頃から健康的な生活をしていれば予防できる症状です。
日頃から十分な睡眠とバランスの良い食事をとり、汗をかける体づくりをすることが、自分自身のキャリアと健康を守る一番の対策です。
まだまだ暑い日は続きます。仕事で忙しい時ほど、ご自身の体調の変化に気を配り、元気に夏を乗り切りましょう!
取材・文・編集/石本真樹(編集部) 人物写真/ご本人ご提供