「不思議なくらい生きるのが楽しい」つづ井さんに、ありのままの自分の生き方を肯定する秘訣を聞いてみた

「推しの情報が少なすぎて、想像で作ったエピソードトークを友人に延々と語り聞かせる」
「クリスマスには『(架空の)彼氏からもらったプレゼント選手権』を開催」
思わず「なんて?」と聞き返したくなるような、でもなぜか心くすぐられるような遊びを“前世からの友”と呼ぶほど仲のいい友人たちと全力で楽しむ。
そんな日々をつづった絵日記で多くの人の心をつかんでいる、つづ井さん。

©つづ井「裸一貫! つづ井さん」(文藝春秋)
「推し」「●●沼」という言葉が一般的になり、自分の趣味や好きなことに没頭する人生がポジティブに受け止められるようになってきたものの、ふとした瞬間に「こんなことにお金を使って……」「もしかして私、婚期逃してる?」と不安を覚える人もいるかもしれない。
そんな中、つづ井さんはなぜ、年齢や世間体にとらわれずに、好きなもの・好きなことに素直に生きることができるのだろう。どうしてこんなにもハッピーな毎日を送れるのだろう。
いくつになっても「生きるのが楽しい〜!!!」つづ井さんに、ありのままの自分を肯定して生きるための秘訣を聞いた。

つづ井
2014年10月からTwitter(現・X)で公開を始めた絵日記が話題を集める。17年、デビュー作『腐女子のつづ井さん』(KADOKAWA)が「第20回文化庁メディア芸術祭」推薦作品に選出。19年、『裸一貫! つづ井さん』(文藝春秋)が「第3回マンガ新聞大賞」大賞受賞。24年10月10日より、自身の絵日記を原作としたドラマ『つづ井さん』(読売テレビ・ドラマDiVE)が放送中■X
違う世界線の自分から「うらやましい~」って言われる人生にしたい
今日はありのままの自分の人生を肯定できるヒントをつづ井さんに聞きたくてやってきました。
ありがとうございます。ためになるお話ができるか分かりませんが、よろしくお願いします。
つづ井さんの絵日記を拝見していると、デビュー作の『腐女子のつづ井さん』(KADOKAWA)の頃はオタクとしての毎日を楽しみつつ、まだどこかオタクの生き方に自虐的なニュアンスがあったと思うんですね。
それが次作の『裸一貫! つづ井さん』(文藝春秋)のあたりから、そういう描写がなくなったように感じました。
そうですね。『腐女子のつづ井さん』を描いていたのはまだ大学生の時で。当時はあれが面白いと思っていたし、今読み返しても面白いんですけど。
自分でこんなに面白いと思って描いているのに、どうしてわざわざ「こんなことしちゃってる自分たち、彼氏いないですけど、へへ☆」みたいな方向にオチをつけなきゃいけないんだろうって違和感を抱くようになったんです。
数年前に「自虐をしない」と宣言をしたnoteも大きな反響を呼びましたよね。
変な自虐だったり、「どうもオタクでやんす」みたいな卑屈さをオチにしなくても、自分が楽しいと思ったことを楽しいこととして描けるんじゃないかなって。
そう意識して描いたのが、『裸一貫! つづ井さん』でした。

推しの情報が少なすぎて、想像で作ったエピソードトークを友人に延々と語るつづ井さん
©つづ井「裸一貫! つづ井さん」(文藝春秋)

推しの情報が少なすぎて、想像で作ったエピソードトークを友人に延々と語るつづ井さん
©つづ井「裸一貫! つづ井さん」(文藝春秋)
つづ井さん自身は、プライベートでのオタバレ(オタクであることがバレること)についてどう考えていたんですか。
社会人の初期くらいまでは、そこまでオープンにする気持ちはなかったですね。
隠しているわけではないので、聞かれたらアニメや漫画が好きだと明かしてはいましたけど、自分からグイグイ言うことはしてこなかったです。
『腐女子のつづ井さん』でも、オタクじゃない友達が家に遊びに来たときに、趣味のBL本を目隠し布で隠したりする描写がありましたね。
ありましたね。全部隠したつもりだったけど、ヤバい形跡が残っていたみたいな(笑)
オタクというより、二次創作やBLに関しては隠す意識は今もあるかもしれないです。すごく内面的な部分ではあるので。

©つづ井「まるごと 腐女子のつづ井さん」(文春文庫)
たしかに趣味の内容によっては、ちょっと肩身の狭い思いをすることがありますよね。
実は私、今も『つづ井さん』のことを家族には話していなくて。
と言うのも、うちの家族は私以外みんなオタク文化から遠いので、なかなか言えないんですよ。
世の中のオタクに対する視線はかなり優しくなったと思うけど、実際のところはうちの家族みたいな人もまだ多い。
そこに温度差を感じるというか、まだまだ堂々とできない部分は私の中にもあります。
つづ井さん自身も、自分の生き方はこれでいいのだろうかと迷うこともあるんですか。
ありますね。ただ、迷ったときに指針にしている考え方があって。
「違う世界線を生きている自分」にうらやましがってもらえるような楽しい人生にできる選択はどれかなって考えるようにしています。
違う世界線を生きている自分?
はい。今私が生きているルートは想定外すぎるというか、自分で予想していた人生から外れすぎていて。
友人たちとオタクな毎日を楽しんでいて、そんな日々を絵日記に残していただけなのに、気付いたらその絵日記がドラマになって、こうやって取材もしてもらえるなんて、全く予想していませんでしたから。
だから、「今の私はゲームで言うところのバグのルートに迷い込んだだけ」って思うようにしています。
バグのルート(笑)
せっかくバグのルートにまぎれ込んだんだから、このルートでやれることは全部やろう、みたいな。
いわゆる正規ルートを歩んでいたとしても、きっと人生を楽しんでいただろうなと思うんです。
だから、そっちの世界線にいる自分から見たときに、「面白いことやってるじゃん」と言ってもらえるような人生を送ろうと、ある時に決心しました。
最新シリーズの『とびだせ! つづ井さん』(文藝春秋)では東京でひとり暮らしを始めた姿が描かれていますが、そんな自分も、昔はまったく想像していなかったですもんね。

©つづ井「とびだせ! つづ井さん」(文藝春秋)
今回のドラマ化もそうですけど、新しいお仕事をいただくとき、昔は「私なんて……」という気持ちが強かったんですね。
でも今は、「正規ルートにいた自分なら絶対経験できなかっただろうしな」と思って、やれることは何でもやってやろうと考えられるようになりました。せっかくこのルートに来たんだし、このトロフィー取っておくかみたいな感覚で。
いつも「生きるのが楽しい~!!!」と思えるのは、自分をメタ的に見ているからかもしれないです。
“前世からの友”たちが「やろう」と即答したドラマ化
「私なんて……」という後ろ向きな考え方をどうやって手放せるようになったのか知りたいです。
今でも「調子に乗りたくない」とは思っています。
だから、常に謙虚でいたいと心掛けているんですけど、昔の私が持っていたのは、むだな謙虚さというか、卑屈さだったなと思うんです。そういうのはいらないなと。
私も俳優さんだったり、アニメのキャラだったり誰かを応援する側だからよく分かるんですけど、自分が応援している人が卑屈すぎると、ちょっと悲しいじゃないですか。
分かります。
「私はこんなにあなたのことが好きなのに、どうしてあなたは自分のことを否定するの?」と悲しくなります。
やっぱり応援している人には堂々としていてほしいし、愛されていることに自信を持っていてほしい。
私自身も絵日記を通じて応援してくださる人たちができて。その人たちのことを考えると、いつまでも卑屈でいちゃいけないなと気付いたんです。
つづ井さんにはたくさんのファンの方がいますが、どんな人でも周りを見渡せばきっと応援してくれている誰かがいますよね。
そう考えると、誰であっても応用できる考え方だなと思いました。
そうだとうれしいです。身近な人から大切にされていることをちゃんと自分で受け止めるだけで、「私なんて……」という卑屈さは少しは和らぐ気がします。
今回のドラマ化も「私なんて……」の思考を捨てたからこそ実現したのかなと思いますが、オファーをもらったとき、率直にどう感じたんですか。
実は今までもメディアミックスのお話はいただいていて。でも私にとってこの絵日記は、自分の日常で実際に起きたことを描いてきたもの。
そこに他の人の解釈が加わることで、実際の記憶とギャップが生まれるかもしれない。それに対して正気を保てる自信がなくて、ずっとお断りしていたんです。
特にこの絵日記はお友達のことも描いているから、それが自分でコントロールできないところに展開するのは、ちょっと怖いですよね。
でも、今回ドラマ化の話をいただいたときに、それこそ「私の絵日記なんて……」という卑屈さが減って、他の人の手が加わった絵日記も見てみたいという好奇心の方が上回ったんです。
それは、どういう心の変化なんでしょうか。
一つは、自信なんだと思います。
自分の描いてきた絵日記をたくさんの人が受け入れてくださって、それを長年続けてこられたことに対して、過大評価はしたくないですけど、自分なりに認められるようになった。
ちょっと自信ができたことで、不安より面白そうという気持ちを強く持てるようになりました。
絵日記に登場する“前世からの友”の皆さんのリアクションはどうでしたか。
友人たちには「私たち全員の思い出だから、もし無理だったら遠慮せずに言ってね」と前置きを入れて報告したんですけど、「絶対やろう」って即答でした(笑)
さすが即答に定評のあるみなさん!

©つづ井「裸一貫! つづ井さん」(文藝春秋)
普段私がこういうことをやろうって呼びかけたときと同じ感じで「絶対やろう」ってスタンプがポンポン飛んできて(笑)
「この人たちと友達でよかった〜」と改めて実感しました。
「絵日記」があるから、自分の人生を肯定できる
ありのままの自分をなかなか肯定してあげられない人が、「生きるのが楽しい~!!!」と思えるようになるには、まずどんなことから始めてみるといいと思いますか。
私もその時期が長かったので、気持ちはよく分かります。
アドバイスみたいなことはうまく言えないんですけど、代わりに自分自身の経験をお話しさせてもらうと、私はすごく絵日記に助けられたんですね。
どういうことでしょうか。
友人たちに「こんなことをしよう」って提案して。それを友人たちが「やろう」と即決してくれて。
企画を準備するのも、当日やってみるのも、全部楽しくて、それだけで十分なんですけど、それを絵日記にすることでさらに楽しくなるんです。
絵日記を描いてる時間も楽しいし、それを読んでもらってリアクションをもらうのも楽しいし、自分で読み返すのも楽しい。
絵日記に描くことで、一つの出来事が何度でも楽しくなるんです。
いいですね。永遠に味が消えないガムみたい。
そうなんです。だから、ずっと噛み続けてる(笑)。それってすごくコスパがいいなと思うんです。
友人たちは、私の絵日記のことをアルバムみたいだと言ってくれて。私も同じ気持ちで、絵日記を読み返すたびに、こんなことに付き合ってくれる友人がいる私は本当に幸せだなって感じられるんですよね。

©つづ井「まるごと 腐女子のつづ井さん」(文藝春秋)
日々の出来事を書き留めておくって大事ですよね。そういうことを怠っていると、自分の日常を雑に扱ってしまいそうになります。
確かに。だから、描いてて良かったなと思います。
大学生の時に楽しかったことなんて、もうこの歳になったら忘れてしまいがちじゃないですか。でも絵日記に残していると、ざっくりと「楽しかった」ではなく、「この時のこの会話が面白かった」って高い解像度で思い出せる。
この絵日記は私の人生の財産だと思うので、これからも大事にしたいし、商業にならなくても続けていきたい私のライフワークになっています。
つづ井さんの絵日記を読んでいると、つづ井さんの日常にはなんでこんな面白いことでいっぱいなんだろうってたまにうらやましくなります。
でも、もしかしたら自分の人生にも近いことは起きているのに、忘れちゃってるだけなんじゃないかという気がしてきました。
ありがとうございます。うれしいです。どうしよう、私が録音しておけばよかった。こんなうれしいことを言ってもらったって記録したかったです(笑)
いきなり絵日記はハードルは高いかもしれないけど、何かしら形にして残しておくだけで、人生の慈しみ方は変わるのかもしれません。
私も絵日記に関しては、読み返したときに楽しい部分だけを残しておきたい気持ちが強くて。
初期はちょっとトホホな部分を強調していて、それはそれで今も面白いし、その時の自分は否定したくないんですけど、その時の絵日記より今の絵日記の方が楽しいなって思うんです。
だから、このまま絵日記を続けていったら、80歳の時はどうなってるんだろうって。大学生の時から数えたら、60年分くらいの絵日記がたまっていて。
そのどれもが楽しい思い出で、描いてても楽しいし、読み返しても楽しい。
そんなアルバムが60年分もある私の人生はなんて幸せ者なんだろうって想像したら、ますます「生きるのが楽しい~!!!」と心から思えますね。
取材・文/横川良明 編集/光谷麻里(編集部)
>>推し活しやすい!残業ほぼナシ×月給25万円以上×休日120日以上の求人特集の転職・求人情報
作品情報
『つづ井さん』読売テレビ・ドラマDiVEほか(関西)毎週木曜深夜 0 時 59 分〜

毎日不思議なくらい 生きるのが楽しい~!
シリーズ累計90万部突破!
全てが実話!見る人を笑顔にさせる驚きのエピソードが盛りだくさん!
大人気エッセイコミック「つづ井さん」シリーズが、
テレビドラマ初主演の藤間爽子を迎え、ついにドラマ化!
キャスト:藤間爽子 桜井玲香 谷まりあ 北村優衣 木竜麻生
脚本:竹村武司
監督:高橋名月 のむらなお 安村栄美
音楽:桶狭間ありさ
チーフプロデューサー:福田浩之 中村優子(murmur)
プロデューサー:田渕草人 佐藤慎太朗(murmur) 菊地陽介(レプロエンタテインメント) 本田七海(レプロエンタテインメント) 中山喬詞 吉田卓麻 尾形直樹
制作プロダクション:murmur
制作協力:レプロエンタテインメント
HP/公式X/公式Instagram/公式TikTok
放送時間:2024 年 10 月 10 日(木)より毎週木曜深夜 0 時 59 分〜
放送局:読売テレビ「ドラマ DiVE」ほか
放送終了直後より、 TVerにて無料見逃し配信あり
©つづ井/文藝春秋/「つづ井さん」製作委員会