元鈴木さんが明かす「破れないだけじゃない」ストッキングづくりへの“譲れない”こだわり

10秒で着脱できるコルセットや600mlのボトルがすっぽり入るサイズのポケット付きワンピース……
女性たちの「あったらいいな」をこれでもかと詰め込んだアイデア商品を続々と生み出すアパレルメーカーAlyoを創業した元鈴木さん。
昨年からは、破れないストッキングづくりにも着手。SNSで論争を巻き起こすなど、注目を集めている。

破れないストッキングづくりについては、「注目度も高い分、SNSで誹謗中傷されることもある」と元鈴木さん。
それでも彼女が「女性の自立」に貢献する商品づくりをやめない理由、破れないストッキングづくりにかけるこだわりについて聞いた。

株式会社Alyo 代表取締役社長
元鈴木さん/大橋茉莉花さん
1988年生まれ。獨協大学外国語学部を卒業後、アルバイトなどしながら日銭を稼ぐ日々をへて、26歳でイベントコンパニオンに転身。ウェブの美容ライターとして書いたコルセットに関する記事をきっかけに29歳の時にAlyoを設立。ECサイト『Pinup Closet』でコルセットブランド『Enchanted Corset』、アパレルブランド『CINEMATIQ』などを運営
X/Instagram
「破れないストッキング」を、破れないだけの商品にはしたくない
前回のインタビューから約1年がたちました。引き続き、女性たちの「こんな服があれば」というニーズに応える商品を作り続けていますよね。
はい。定番商品化しているホリデーワンピは今夏の新作も特に好評いただいています。


このワンピースを開発したきっかけは、お客さまから「谷間を出したくない」という声をたくさんいただいたこと。
私自身は谷間を見せるファッションもしますが、出したくない気持ちもよく分かります。
胸が大きい方はどうしても谷間が目立ってしまい、人からジロジロ見られて嫌な思いをしたとおっしゃる方が多いんです。
Vネックは着たいけれど、谷間は見せたくない。でも、首元がつまっているデザインの服は息苦しい。多くの女性がそんなジレンマを抱えていました。
そこで、胸元の布が体にフィットしてリボンで調整できるものを作ったところ、「谷間が見えないのに、深いVネックですっきり見える」と大変好評。
肩幅が気になる、二の腕を隠したい、動きやすく電車で吊り革を掴みやすいデザインがいい……などなど。
女性たちの声を聞き、さまざまなニーズを満たす一着を作りました。
お手入れが楽なところも特徴ですよね。
くしゃくしゃと丸めてスーツケースに締まっておいてもしわになりにくい素材です。
アイロンがけの時間など、お洋服のケアにかける時間をもっと有意義なことに使って人生を楽しんでほしいなと思っています。
「破れないストッキング」の開発についても、度々XなどのSNSで話題になっていますよね。

これも、お客さまからご要望いただいて「ないなら作ってみよう」と思って始めました。
工場の関係で月に1回試作品ができるペースなのですが、「破れない」ことはもちろんのこと、手に取った皆さんに感動してもらえるものを作りたい。
例えば、1日履いていてもむれないこと、足が臭くならないこと、破れる手前の引きつれ(細かい傷)さえできないこと、履いていて見た目に美しく快適なこと、ハイヒールを履いてもすべりにくいこと……。
いまもお客さまからさまざまなご要望をいただいていて、一つでも多くの要素を満たす商品を作りたいと思っています。
ただ、試作品をいろいろ試す中で満足いくものはまだできていません。
既存の糸や編み方では納得いくものができそうにないため、繊維から開発する必要性を感じています。
どのくらいの期間での完成を目指していますか?
ストッキングの開発は時間がかかりそうで、完成までは早ければ1年、長く見て2年くらいだと思います。
普段、私たちの会社では商品開発から発売まで半年くらいのペースでやっているので、ストッキングに関しては少し長くお待たせしてしまうかもしれません。
それも、先ほどお話しした通り、「伝線しづらい」「破れない」だけのストッキングでは世に出せないと思っているから。
以前、防弾チョッキの素材で作られている2万円くらいする海外製の破れないストッキングを試したことがあります。
たしかに破れないのですが、引きつれがひどくてとにかく美しくない。破れないだけで「履きたい」とは思えなかったんです。
それに、市販の良い商品ともきちんと張り合える品質を目指したい。だから、いつもより時間をかけてでも、こだわり抜いたものをお客さまに届けたいと思っています。
難しい挑戦ですが、すごく楽しんで取り組んでいらっしゃるようですね。
はい、難しい方が挑みがいがありますね。
ただ、お客さまに喜んでいただける最高のものを絶対に届けるぞ! という目標があるからこそ、楽しいんです。
失礼な人への対処はAIで十分
SNSでは真っ当な意見だけでなく、挑戦する意欲を折ろうとするような悪意のあるコメントが目に入ることもありますよね。

はい。破れないストッキングについては、応援してくださる方がたくさんいる一方で、それはもう地獄みたいなコメントが一気に押し寄せて。
以前は失礼極まりないコメントに腹を立てて反論していたんですが、最近はXのAI(Grok)機能を活用して、自動返信で対応しています。
失礼な質問には少しの毒とユーモアでAIが言い返してくれるので、私自身のストレスは半減しました。
心無いコメントをする人は、結局、他人の不幸で自分を慰めるしかないのかもしれません。
しかも、女性を下に見ている男性であれば、女性が自分より成功したり意欲的にチャレンジしたりしていることを許せなく思うのでしょう。
そんなダサい人は、できるだけハードな道を通って地球の反対側まで行っちゃってください。
そういう相手に時間を使うのはもったいないので、AIにブラジルまでふっ飛ばしてもらえれば十分です。

自分たちの顧客かそうでないかを見極めて、はっきり対応を分ける姿勢を貫かれていますよね。
顧客じゃない人と言っても悪意のみ向けてくる人、人として失礼な人にはきっぱり「寄ってこないでね」と伝えますね。
約2年前からその意識は強くなりました。他社さんの事例で、女性向けブランドに嫌がらせをする人がいると聞き、われわれ本来のお客さまを守るためには線引きが必要だと感じたからです。
過去にうちにも嫌がらせが多少あった経験から、特に女性向けビジネスでは「あなたは顧客ではありません」と表明することも時には必要だと考えています。
食品などと違い、衣料品や下着はターゲットが明確なので、それが可能ですから。
お客さまには「うちの商品を安心して使ってほしい」「何かあれば会社として対処する」と常に表明したいし、そうすることでお客さまの安心につながると信じています。
実は以前、私たちがポップアップストアを開催した時に、怪しいおじさんが来てずっとジロジロとこっちを見ていたんですよ。
私も店頭にいたので、虎のようにストア内をうろうろ練り歩いてにらみをきかせて「お前を見てるぞ」ってオーラを出していたんですけど(笑)。すると、その怪しいおじさんはいそいそと姿を消しました。
リアル店舗ならそうやって追い返してお客さまを守るし、SNSでも毅然とした態度を示して治安を守りたい。
そのためのパフォーマンス的な意味合いも込めて、デマを流布したり悪意のある誹謗中傷をしたりする人は絶対に許さないスタンスを示しています。
泥試合か、実績で叩きのめすか、イケてない組織を見限るか
SNSだと名前も顔も分からないから、みんな言いたい放題なところがありますよね。ですが、女性へのねたみやひがみは意外と職場の中にもあると感じます。

ねたみやひがみって女性が女性に対して抱くものと思われがちですけど、意外とそんなことはないものですよね。
職場だと表に出さないだけで、男性が女性の活躍をよく思わないこともある。
既得権益を持つ男性からすると、そこそこの女性活躍は認めるけれど、自分たちの立場を脅かすほどの活躍は認めたくない……そんな気持ちもある気がします。
自分の前では「応援してるよ」なんて言ってたのに、裏で実は足を引っ張っていた……みたいなことを知ると、なんだか絶望しますよね。
私は会社員としていわゆるオフィスワークを経験したことはありませんが、組織の中でもし自分の足を引っ張るおじさんたちがいたら……同じ方法でやり返せないか、考えてしまうかも(笑)
足の引っ張り合い、まさに泥レスです。
それか、なんで女性だけスーパーウーマンでいなきゃいけないの? とは思うけど、徹底的に努力して仕事で成果出して、誰にも文句言わせない実績で叩きのめす。
これはまぁ、いまの会社に残りたい意思がある人のための正攻法ですが……一部のめちゃくちゃ強い女性しか活躍できない歪んだ構造になってしまう気もします。
足の引っ張り合いに参加するのも、足を引っ張る人を叩きのめすために努力するのも、なんか違うな……と思う女性も多そうですよね?
そうしたらもう、足を引っ張ろうとする人がたくさんいるようなイケてない職場なんてさっさと見切りをつけて転職するのも良い選択だと思います。
私自身も起業する前はいろいろな職場を転々としてきました。その度に、少しずつ待遇が改善されていったし、自分が仕事に求めるものがわかっていったんです。
我慢したまま同じ職場に居続けたら、たぶん「仕事ってこういうもの」「女性なんだからこのくらいでしょうがない」みたいな諦めの気持ちが大きくなっていたかもしれない。
でも、どんどん外の世界に出ていくほど、世の中にはいろいろな職場があり、一緒に働く人や環境が違えば過ごしやすさもまるで違うことを実感できるようになりました。
転職を繰り返す中で自分に必要なものが見えてくる、と。
そうです。時に年収が下がることがあっても、その分ストレスが減ることで得られるメリットは大きいです。
結局、心身の健康が一番大切ですし、それがあってこそ幸せでいられますから。
また、女性が健全に挑戦できる場所に自然と集まるようになれば、足の引っ張り合いなんかをしている企業が自然と淘汰されるようになります。
だから、女性たちが我慢したり、無理して変な会社に適応しようとしたりしないことは、結果として世直しにつながっていくはず。
自分が心地よく仕事を頑張れる場所を求め続けていきましょうね!
取材・文/栗原千明(編集部)撮影/赤松洋太