「最近きれいになったね」取引先からの微妙なセクハラ、これってアリですか……?【弁護士監修】

セクハラ、パワハラ、不当な扱い。もしかしてコレって違法では……? 働く女性が抱える仕事・職場のモヤモヤを、弁護士が法律のプロの視点から徹底解説。長く心地よく働き続けるための知識を身に付けよう!
今回、読者から寄せられたお悩みに回答してくれたのは、ベリーベスト法律事務所の永濱佑一弁護士。
取引先の男性からの言動に違和感を覚える相談者のお悩みに答えながら、「これってセクハラ……?」と感じたときに女性が備えておきたい法律知識を教えてくれました。
取引先の男性から、会うたびに「最近きれいになったね、何かあった?」「今日の服、セクシー系だね」などと言われます。最初は冗談だと思って軽く受け流していましたが、だんだん不快に感じるようになりました。
しかし、強く拒否すると今後の関係に悪影響が出るかもしれませんし、私の勘違いで大げさに捉えすぎているだけかも…?と思い我慢してしまいます。法的な「セクハラ」のボーダーラインはどこにあるのでしょうか?

回答してくれた弁護士
ベリーベスト法律事務所
永濱佑一弁護士
北海道大学法科大学院修了。弁護士登録後、ベリーベスト法律事務所に入所。一般民事、刑事、企業法務等の幅広い分野を取り扱う。企業内におけるハラスメント事案調査の対応経験がある。
「セクハラ」の定義は明確ではない?
——今回のケースは、法律的な観点から見てセクハラに当たるのでしょうか?
セクハラの定義が明確になされている法律はありませんが、男女雇用機会均等法11条1項にセクハラを定義づけていると思われる記載があります。
それを要約すると、セクハラは、職場において行われる性的な言動によって、
1.労働者が不利益(解雇、降格、減給等)を受ける場合
2.労働者の就業環境が害される場合
の2種類に分類されます。
厚生労働省が指針(「セクハラ指針」と言われることもあります)を出していますので、セクハラに該当するかどうかの判断にあたっては、セクハラ指針を参考にすることになります。
今回のケースのポイントの一つ目は、会社の同僚ではなく取引先の男性からの発言であるという点です。
まさにこの部分について、セクハラ指針に記載があり、取引先の労働者からの性的な言動もセクハラになり得るとされています。
そうすると、ポイントの二つ目として、取引先の男性の発言が「性的な言動」に該当するかどうかが重要なところになってきます。
まず、「最近きれいになったね、何かあった?」という発言(「発言A」と言います)について考えてみると、単に女性をほめているという評価ができる場合もありますが、「きれいになった」という主観的言葉で男性から女性への好意を示しているとも捉えられますので、発言Aが「性的な言動」に該当する可能性はあります。
次に、「今日の服、セクシー系だね」という発言(「発言B」と言います)については、男性が女性の身体をいやらしい目で見ているのではないかと思わせる発言であり、「性的な言動」に該当すると評価できます。
そして、相談者は、取引先の男性の発言を不快に感じるようになっており、精神的な負担が生じていますので、就業環境が害されていると言えます。
つまり、少なくとも、発言Bはセクハラに該当するのではないかと考えられます。
——セクハラに当たる場合、法的責任が問われますか……?
セクハラの加害者は、不法行為(民法709条)に基づく慰謝料等の損害賠償責任を負うことがあります。
ただし、セクハラに該当すれば当然に不法行為になるというわけではなく、クハラの内容や回数等を考慮して社会的に見て許容される範囲を超えているかどうかが判断基準となってきます。
今回のケースでは、発言A、発言B以外にどのような発言があったのか、回数や頻度はどうだったか等を考慮して不法行為に該当するかを検討していくことになります。
また、セクハラが刑法上の犯罪に該当する場合、加害者は刑事責任を問われます。
——セクハラに当たらない場合、どのように対応すれば良いのでしょう。
セクハラに該当しないとしても、取引先の男性の発言は社会人のマナーとして問題があります。
こういった場合には、会社の上司等に相談し、会社から取引先に注意をしてもらう、取引先の男性と関係のある業務から外してもらうなどの対応をとってもらうことが望ましいでしょう。
また、セクハラの明確なボーダーラインというものは存在しません。事案ごとに様々な事情を考慮し、セクハラ指針や裁判例等も加味した上で判断していくほかないと思います。
我慢を続けるのは適切な対応ではない

——では、今回の相談者が取るべき行動、取るべきでなかった行動は…?
相談者は、取引先の男性からの発言を不快に思っていながらも我慢をしてしまっていました。
このままの状態を維持すると、相談者が精神的な負担を受け続けるという結果になってしまうため、我慢することは適切な対応ではなかったと言えます。
すぐに上司、会社のセクハラ相談窓口、弁護士等に相談をすべきです。そして、会社に対しては、取引先の男性と接する機会を無くすよう要望すべきでしょう。
「すぐに相談する」というのが重要です。その上で、再発防止も含めて会社に適切な対応をとってもらう必要があります。
——セクハラに関して知っておくといい法律や制度などの、役立つ情報も教えてください!
労働施策総合推進法は、全ての企業に対してハラスメント相談窓口の設置を義務付けています。
あなたの会社のハラスメント相談窓口の連絡先がどこになっているのかについては、把握しておいた方が良いと思います。
また、セクハラ防止に向けた会社の体制等について社内規程があれば、事前にそういった規程に目を通しておくことも有効です。
セクハラに該当するかどうかの判断にあたっては、証拠があるかという点も重要になってきます。というのも、セクハラ被害を訴えたときに、加害者からセクハラの事実を否定されることがあるからです。
例えば、セクハラと思われる発言が職場で日常的になされているというケースですと、職場での会話を録音して証拠を残しておくことも必要になってきます。
万一、セクハラ被害を会社に訴えても適切な対応を取ってもらえない場合は、労働基準監督署や労働局に相談して会社に対して助言・指導をしてもらったり、弁護士に依頼して適切な対応を取るように会社に申入れを行うといった対処法が考えられます。
「セクハラかな?」と思ったら、自分だけで抱え込まないようにしましょう。
「もしかしたらセクハラとは言えないかもしれない」、「会社にそんなこと相談してもいいんだろうか」などと悩んでいるうちにセクハラ被害が深刻化してしまうケースもあります。
上司、会社のハラスメント相談窓口、労働基準監督署、労働局、弁護士など、まずは誰かに相談することが重要です。
セクハラに該当するのかどうか、法的責任が生じるのかどうか、どう対応したらよいのかといった問題は、ケースバイケースの難しい判断となることが多いです。
最終的には、法律の専門家である弁護士にご相談いただくことが望ましいと思います。
労働事件に関するご相談はベリーベスト法律事務所へ

ベリーベスト法律事務所では、労働事件に関するご相談を承っております。お困りのことがございましたら、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。(※ご相談の時期によって、ご相談可能な内容が限定されている場合がございますのでご了承ください)