「私には無理だと思ってた」雲の上の存在だった管理職が、自分ごとになった瞬間【ハーゲンダッツ ジャパン 田子薫さん】

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不安でも、強くなくてもいいんじゃない?
“等身大”の女性リーダーたち

女性管理職登用に注力する企業が増加する一方で、当の女性の中には「自分に管理職が務まるか自信がない、イメージが持てない」と不安を抱く人も。そこで、実際に管理職として働く女性たちへのインタビューを通して、“等身大のリーダー像”を考察。自分なりのリーダー像を見つけるヒントにしてみよう!

今回お話を伺ったのは、ハーゲンダッツ ジャパン株式会社 マーケティング本部の田子薫さん。

新卒で入社以来、数々のヒット商品を生み出し、現在はマネージャーとしてチームを率いながら、二児の母として仕事と家庭も両立している彼女。

そう聞くと、順調にキャリアアップしてきたパワフルな人に思えるが、彼女の言葉の端々からは、気負わない等身大のリーダーシップが垣間見える。

田子さんが「マネージャーとして大切にする三つのルール」から、私たちが自分らしいリーダー像を見つけるヒントを探った。

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ハーゲンダッツ ジャパン株式会社 マーケティング本部 マネージャー 田子 薫さん

2000年入社後、商品開発担当として『パルフェ』『ドルチェ』シリーズなど数々のヒット商品を生み出す。育児休暇を経て、営業推進部、経営戦略部を歴任し、マネージャーに昇格。現在はマーケティング本部マネージャーとして新商品開発に携わる。二児の母として仕事と家庭を両立しながら、チームを牽引しプロジェクトを推進している

リーダーは「雲の上の存在」そんなイメージが変わったワケ

編集部

ハーゲンダッツ ジャパンに入社されてから、これまでどんなお仕事に関わってきましたか?

田子さん

新卒でショップ(店頭)のメニュー開発を経て、商品開発を担当するマーケティング本部へ異動しました。

そこで、当時まだめずらしかった 層構造のアイスクリームで、パフェの世界観を表現した『パルフェ』シリーズや、ケーキのような贅沢な味わいの『ドルチェ』シリーズの開発を担当しました。

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ドルチェシリーズは、計画比3割増しの53億円もの売上高を記録。さらに「2007年日経優秀製品賞」の優秀賞を受賞するなど大ヒット商品に

編集部

『ドルチェ』シリーズ、懐かしいです! 当時大ヒット商品でしたよね。

田子さん

はい。その後もスーパーやコンビニで買える定番の『ミニカップ』などの主力商品の開発に携わることができ、20代で本当にいろいろな経験をさせてもらいました。

その後、30代で二度の育児休暇を経て復職し、営業推進や経営戦略などの部署を経験。経営戦略の部署にいた時にリーダー(マネージャー)に昇進しました。

編集部

マネージャーという立場については、以前から意識されていたのでしょうか?

田子さん

入社したての頃は、漠然と「どうせやるなら、いつかはマネージャーのような立場の方が面白そうだな」くらいに考えていました。

でも、社内で管理職として活躍している先輩たちの姿を見ていると「自分はこんなふうにはなれない」と萎縮してしまっていた部分もあって。

編集部

なぜでしょう?

田子さん

リーダーたちの働き方や考え方、視座の高さなど、20代だったころの私には途方もなくレベルが高いものに思えたんです。まさに「雲の上の存在」に見えていました。

さらに子どもが生まれてからは、仕事と家庭の両立生活がスタート。そんな中で管理職の立場を務められる自信がなくて、昇進の話は会社に数年待ってもらっていました。

編集部

その「管理職は雲の上の存在」というイメージが変わったきっかけは何でしたか?

田子さん

育休復帰後に経営戦略部で働いた経験が大きかったです。経営戦略部は、全社戦略を経営陣と共に考える部署で、それまでは遠い存在だった社長や経営層との距離が縮まりました。

彼らが話すことや考えていることに触れる中で、「意外と普通の人なんだな」とか「私もそう思うな」と感じることが増えたんです。

編集部

自分とかけ離れた存在ではなかったと。

田子さん

もちろん、その発想や視点に「やっぱりすごいな」と感銘を受けることはあります。

でも以前のように「管理職は雲の上の存在」という感覚ではなく、自分の仕事の延長線上でつながっているものだと自然にとらえられるようになったのかもしれません。

編集部

その経験が、「私にもできるかもしれない」という自信につながり、マネージャーへの道が開けたのですね。

現在は再びマーケティング本部でマネージャーとしてご活躍とのことですが、どのようなお仕事を担当されていますか?

田子さん

マーケティング本部は、商品やブランドの戦略を考えたり、広告宣伝をしたりする部署で、その中で私のチームは、5名のメンバーと共に『バー』や『クリスピーサンド』シリーズの商品開発とブランド戦略を担っています。

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現在は、バーやクリスピーサンドなどの片手で食べられる商品カテゴリー「ワンハンド」の開発・戦略を担っている

編集部

マネージャーとしてのやりがいは、どのような時に感じていますか?

田子さん

一人ではなかなか斬新なアイデアは生まれませんが、チームだからこそ多様な視点から意見が出て、それを磨き上げていくプロセスが面白いですね。

今も、クリスピーサンドやバーのまだ知られていない魅力をどう伝えていくか、チームでさまざまなアイデアを出し合っているところ。

お客さまが「こんな商品待ってた!」と喜んでくださる顔を思い浮かべながら、世の中に新しい価値を届けられることに、大きなやりがいを感じています。

メンバー時代に嫌だったことは、自分のチームではしない

編集部

「自分でもできるかも」という気持ちから始まったとのことですが、田子さんが現在リーダーとして大切にされていることは何ですか? 「三つのルール」を教えてください。

田子さん

メンバーの仕事の意味付けを意識したコミュニケーションを取ること、情報共有のタイミングと粒度を揃えて透明性を保つこと。そしてメンバー一人一人と丁寧に向き合ってサポートすることです。

田子さん流 マネージャーとして大切にする三つのルール
1.メンバーの仕事の意味付けを意識したコミュニケーションを取ること
2.情報共有のタイミングと粒度をそろえ、透明性を保つこと
3.メンバー一人一人と丁寧に向き合ってサポートすること
編集部

最初の「メンバーの仕事の意味付けを意識したコミュニケーション」とは?

田子さん

会社やブランドのビジョン、チームが目指すべきことって、現場レベルではなかなかつかみづらい部分がありますよね。

だからこそ、メンバーが今やっている仕事と、その上位にある目標をうまく結びつけられるように、意識して情報を共有したり、面談で対話したりすることがすごく大事だと考えています。

編集部

なぜ大切だと思ったのでしょうか?

田子さん

以前、部署の方針で、会議の内容が現場の社員には共有されないことがありました。

情報がない中で議論に参加しても目指すべきところが分からないし、私自身はつらく感じることがあったんです。その後、方針が変わり、会議への参加や情報共有が進むと、格段に仕事がしやすくなりました。

そうやってメンバー時代に自分が体験してやりづらいと感じたことは、自分のチームではなるべくしたくないと思っています。

編集部

なるほど。

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田子さん

二つ目の「情報共有のタイミングと粒度をそろえ、透明性を保つ」ことも、この経験から言えることです。このメンバーにはこの情報を伝えて、別のメンバーには違う情報を、ということはしないようにしています。

編集部

チーム内の情報格差をなくす、ということですね。

田子さん

もちろん、状況によって個別に伝えるべきこともありますが、皆が同じ情報をちゃんと持っている状態を目指していますね。

透明性の高い情報共有が、チームの一体感とメンバーの主体性を育むと考えているんです。

編集部

三つ目の「メンバー一人一人と丁寧に向き合ってサポートすること」とは?

田子さん

私自身は、メンバー時代、あまり上司のことを気にせず、ある意味勝手に仕事を進めるタイプだったんです(笑)でも、今のチームメンバーは、みんなちゃんと上司である私の意見を聞いてくれる。

だからこそ、きちんと褒めたり、モチベーションを保てるようにサポートしたりすることが、すごく大事だなと最近改めて感じています。

編集部

同じことを伝えても、メンバーによって感じ方や受け取り方はさまざまですもんね。メンバー時代の田子さんとは、違う受け取り方をする人もいるんだと。

田子さん

そうですね。以前、メンバーの一人から「田子さんは、今の仕事をやっていて本当に幸せなんですか? 前の部署の方がやりたかったのでは?」と心配されたことがあって。私自身は大好きな仕事をしていて、それを態度にも出していたつもりだったんですが、全然伝わっていなかったんだな、と。

やっぱり、ちゃんと言葉で伝えることって大事なんだなと痛感しましたね。この経験から、メンバーの個性や状況を丁寧に観察し、それぞれの力を最大限に引き出せるような関わり方を模索し続けています。

「こうあらねばいけない」に縛られ過ぎないで

編集部

マネージャーとして、そして二児の母としても多忙な日々を送っているかと思いますが、長く仕事を続けるためのワークライフバランスを保つ秘訣は何でしょうか?

田子さん

今でもまだまだなのですが、あえて言うなら「こうあるべき、にとらわれないこと」ですかね。

家事も育児も仕事も、「もっとちゃんとやらなきゃ」と思い始めると、際限なく大変になってしまう。自分の体力や時間は限られているので、優先順位をつけて、時には諦めることも大切にしています。

一番大事なのは、自分が楽しく、ご機嫌でいられること。そうすれば、大抵のことは乗り越えられる気がします。

編集部

ご自身も無理をして、つらくなった経験があるのでしょうか?

田子さん

え。かつては「土日も仕事をしないと回らない」という状況に陥り、メンタル的につらくなった経験があります。

ただ、その経験を経て自分が我慢したり、何かを犠牲にしたりする働き方は長続きしないと実感しました。無理のない範囲で、どうすればサステナブルに仕事も育児も続けられるのかを考えるようになりましたね。

結果として、平日の食事は週末に作り置きをするなど、工夫を凝らしながら、仕事にも家庭にも向き合うようになりました。

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編集部

お子さんが成長するにつれて、ご自身に使える時間も増えたかと思います。今後のキャリアについては、どのように考えていますか?

田子さん

あまり昇進に強いこだわりはないんです。それよりも、「あの人がいたらいいね」と周りから思われるような存在でありたい。目の前の仕事一つ一つを楽しみながら、結果を出していきたいですね。

編集部

素敵な目標ですね。

田子さん

ありがとうございます。
私も管理職になりたての頃は、あれもこれもやらなきゃと思って悩んだ時期がありましたが、いろいろ試行錯誤を重ねながら、今では自然体で仕事をしながら「自分ができること」に目を向けられるようになりました

結局悩んでも、仕事って自分ができることしかできないんですよね。だから、あまり考えすぎずに、今できることを一生懸命やってみるのが一番。「誰かみたいにやらなきゃ」と思ったところで、簡単にはなれないものです。

だから、「こうあらねばいけない」とか「管理職たるもの、これができていないといけない」という固定観念に縛られずにやっていくことが大切なんでしょうね。

私も引き続き、人と自分を比べ過ぎず、今の自分にできることをやっていきたいです。

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「モヤモヤしたとき、疲れたときは、甘いものを食べて! 『クリスピーサンド』がおすすめですよ!(笑)」と田子さん

取材・文/大室倫子 写真/先方提供