
面接で「妊活・妊娠予定」は伝えるべき? 人事・専門家が本音で語る、妊活中の転職のリアル
妊娠・出産は「いつまでに」が自分で決められないライフイベントだからこそ、「転職したいのに身動きがとれない」「転職してすぐ妊娠したら……?」と不安や悩みも尽きないもの。
そこでWoman typeでは、「妊活中の転職」をテーマにしたオンラインセミナーを2025年7月30日(水)に開催した。
ゲストにお迎えしたのは、妊活中のキャリア形成支援サービス『妊活キャリア』代表で、自身も不妊治療中に転職・起業を経験した田所ゆかりさんと、多くの女性社員が活躍するSHE株式会社で採用担当を務める吉田藍里さん。
当日の講演・Q&Aセッションで語られた、妊活中のキャリアプランニングの考え方や、転職活動の方法など、ライフステージの変化があっても自分らしく長く働き続けていくための秘訣をお伝えしよう。

ルポンコンサルティング代表/国家資格キャリアコンサルタント
田所ゆかりさん
日産自動車にて電気自動車の開発やベンチャー事業の立ち上げ等に従事した後、デロイト トーマツ コンサルティングに転職。その後、キャリアコンサルティング事業、企業の新規事業化支援などを手掛けるルポンコンサルティングを起業。会社員時代に不妊治療を経験して誰にも相談できず悩んだ経験から、キャリア形成支援の必要性を痛感し「妊活キャリア」事業を立ち上げる。不妊治療×キャリアをテーマに、個人相談、企業研修・制度構築支援を展開。著書「不妊治療でキャリア迷子」

SHE株式会社
HRユニット長
吉田 藍里さん
1993年、神奈川県生まれ。 慶應義塾大学卒業後、リンクアンドモチベーショングループにてキャリアをスタートし、人材業界にて営業・キャリアアドバイザーに従事。2019年から同社の企画室にて営業企画・マーケティングを担当、兼務で新卒採用責任者として採用・組織創りを担う。2021年11月にSHE株式会社にSHElikes人事教育担当としてジョイン。2025年より、SHEのHRユニット長として採用・組織開発全般を担っている。
「キャリア」と「妊活」の目標は切り離して考えて
「妊活を理由に、キャリアを諦めるしかないのか」。そんな多くの女性が抱える悩みに、登壇した田所さんはまず、「考え方を変えることで、道は開ける」と語りかける。
田所さん自身も不妊治療によって理想のキャリアプランが崩壊した経験を持つ一人。その経験から導き出したのが、「妊娠はコントロールできないが、キャリアはある程度コントロールできる」という視点だ。
多くの人が、いつ終わるか分からない妊活に合わせてキャリアの決断を先延ばしにしがちです。
しかし、それでは身動きが取れなくなってしまう。そこで私が提案したいのは、まず「キャリア」と「妊活」の目標を一度切り離して考えてみることです。
そうすることで漠然とした不安の正体が明確になり、「妊活がうまくいかないからキャリアも停滞する」という思考の悪循環から抜け出し、今できることに目を向けられるようになるという。
妊娠というコントロールできないことにキャリアを合わせるのではなく、まずは自分の意思で動かせるキャリアプランを立ててみる。そうすることで、精神的な安定も得やすくなります。
その上で田所さんが強調するのが、両立しやすい職場の見極め方だ。
妊活とキャリアを両立しようとした時、「労働時間が短い」「責任が軽い」仕事に移ろうとする人は多いですが、決してそれだけが正解ではありません。
むしろ、成果で評価され、個人の裁量で仕事を進められる環境の方が、急な通院などにも柔軟に対応しやすくなることもあります。
田所さんは「妊活や不妊治療の経験は、自分らしい働き方を見つめ直す転機になるはず」と力強く語る。
「こうしなきゃ」という思い込みを捨て、「どうしたいか」から考えることが、キャリアを止めないための一歩となるだろう。
「労働条件」のことばかり気にしすぎるのは悪印象
続いて登壇したのは、SHE株式会社でHRユニット長を務める吉田藍里さん。日々多くの候補者と向き合う採用のプロとして、「企業側の視点」を率直に語った。
SHEを含めた多くの企業では、妊活中であることを理由に選考でネガティブな印象を持つことはありません。
妊娠は誰にでも起こりうるライフイベントの一つ。親の介護や自身の病気など、予期せぬ出来事と同じです。それを特別視することはありません。
その上で、面接での伝え方について、具体的なアドバイスが送られた。
結論から言うと、面接で妊活のことをあえて伝える必要はないかもしれません。
選考の序盤で伝えてしまうと、まだお互いの人となりやスキルが分からない中で、どうしてもそちらに意識が向いてしまい、もったいない結果になる可能性があるからです。
もし伝えるのであれば、お互いの理解が深まった最終面接や、内定後のオファー面談の場が適切だと語る。
また、面接での「もったいない行動」として、「福利厚生や労働条件に関する質問ばかりになること」を挙げた。
もちろん働く条件は大切ですが、そればかりを気にしている姿は「条件だけで会社を選んでいるのかな?」という印象を与えかねません。
転職は企業とのマッチングですから、両立できる環境への希望と同じくらい、その会社で自分が何をしたいのか、仕事でどう貢献したいのかをセットで伝えることが大切です。
専門家と人事が本音で回答!「妊活と転職」Q&Aセッション
イベントの後半では、参加者から寄せられた質問に両名が答えるQ&Aセッションが行われた。特に盛り上がった5つの質問と回答を紹介しよう。
Q1. 面接で妊活について伝えずに入社し、すぐに妊娠が分かったら気まずくないですか?
全く気にする必要はありません。不妊治療をしていなくても、入社後すぐに妊娠される方はいます。それは単に「タイミングがその時だった」というだけのこと。
皆さんの人生ですし、産休・育休を経てまた戻ってきてくださればいいのです。まだ起きるか分からない未来のことを、あまり心配しすぎなくても大丈夫ですよ。
Q2. フルフレックスやフルリモートの求人は人気で、倍率が高くなりがちです。そうした求人以外で、両立しやすい仕事を探す上での「狙い目の条件」はありますか?
人気だからと諦める必要はありませんが、他の視点も持つと選択肢が広がります。例えば、同じフレックス制度でも「コアタイム」の有無で働きやすさは大きく変わります。
また会社によっては、不妊治療のための特別休暇などを設けている場合もあります。福利厚生の欄をよく見て、制度だけでなく実際に使われているかも含めて、面談で確認をしてみてくださいね。
Q3. 今の会社に10年以上勤めていますが、新しい挑戦もしてみたいです。でも、産休・育休のことを考えると、慣れた会社に留まるべきでしょうか?
「新しいチャレンジをしたい」という気持ちに蓋をしないであげてください。その気持ちがどこから来るのか、一度妊活のことを切り離して、キャリアの目標を明確にしてみましょう。
意外かもしれませんが、責任あるポジションに挑戦した方が、かえって裁量が増えて働きやすくなることもあります。 責任と裁量はセットです。キャリアアップすることで、自分の仕事をコントロールしやすくなる可能性も考えてみてください。
Q4. 求人票では働きやすそうに見えても、実際の現場は違うかも。入社前に、本当に妊活に理解のある社風か見極める方法はありますか?
これは非常に重要な視点ですよね。ぜひ、入社前に現場の社員の方と話す機会をもらえないか、人事担当者にお願いしてみてください。 「相互理解を深めたいので、現場の方とカジュアルにお話しできませんか?」と。
これは決してわがままなお願いではなく、企業側にもミスマッチを防ぐメリットがあります。もし難しければ、育休取得率や復帰率など、具体的なデータについて少しつっこんで聞いてみるのも一つの手です。遠慮せずに、自分から動いて情報をつかみにいきましょう。
Q5. もうすぐ40歳です。妊活しながらやりたい仕事に挑戦するなんて、無理なのではと思ってしまいます。両方を諦めないためのマインドを教えてください。
妊活中だからこそ、やりがいのある仕事に挑戦することをお勧めします。妊活は精神的にも大変ですが、仕事がコントロール可能な心の「柱」になるからです。
もちろん無理は禁物ですが、頑張りが成果に繋がりやすい仕事に没頭することで、「私には仕事がある」という自己肯定感が生まれ、不安定になりがちな心を支えてくれます。やりがいのある仕事は、妊活の辛さを乗り越えるための大きな支えになるのです。
妊活は予定通りに進まないことも多いもの。そんな不確実な時期だからこそ、「キャリアと妊活を切り離して考えて、キャリアも諦めない」ことが、長い目で見て自分の人生を支えてくれるはずだと、二人は口を揃えました。
悩みながらでも、「自分の人生をどう生きたいか」に目を向けること。それが、妊活とキャリア、どちらも諦めずに歩んでいくための第一歩になるのかもしれません。
文/大室倫子(編集部)