
資格や経験に頼れない時代? AI時代にキャリアが止まる女性、広がる女性の決定的な違い【キャリアアドバイザー監修】
生成AIの登場により、「自分の仕事が取って代わられるのではないか」という不安を抱く人が増えている。
中でもライフイベントによるキャリアへの影響を受けやすい女性は、市場価値を維持できずにキャリアが途絶えてしまうのではないかと、より強い懸念を抱きがちだ。
では、時代が移り変わっても求められる人材であり続けるには、今どのようなスキルを磨けば良いのだろうか。
これまで1万人以上の女性の転職・キャリアチェンジを支援してきたキャリアアドバイザー・えさきまりなさんに話を聞くとともに、「時代に左右されない人材」を育成し成長を続ける企業として注目される株式会社AGENTSMITH HOLDINGS(エージェントスミス ホールディングス)の経営企画室長・大日向 由衣さんにも、その答えを聞いた。

江﨑 麻里奈(えさき・まりな)さん
1986年生まれ。2007年短大卒業後、事務職、美容カウンセラーを経て株式会社キャリアデザインセンターへ入社。キャリアアドバイザーとして実績を残し、2020年退職。その後、HR、教育関連のスタートアップで女性向けキャリア支援を行いながら、個人でもキャリアアドバイザーとして転職支援を行う。23年よりアマゾンジャパン合同会社にて労働力調整や労務・採用・研修等HR関連業務を幅広く担当。プライベートでは二児の母

大日向 由衣(おおひなた・ゆい)さん
大手経営コンサルティングファームでコンサルティングに従事した後、2015年に株式会社エージェント・スミスに入社。PM、PMOおよびエンジニアとしてプロジェクトで経験を積み、23年に持株会社である株式会社AGENTSMITH HOLDINGSへ転籍、経営企画室長に就任
これからの時代を勝ち抜けるのは「Learn&Unlearn(ラーン・アンド・アンラーン)」できる人
将来、どんな仕事の需要が増え、どんな仕事がなくなるかを正確に見通すことは難しい。そんな中で長く働き続けたい女性が身に付けておくべきスキルについて、えさきさんは「自分の頭で考え、行動し、課題を解決していく力」だと語る。
机やパソコンに向かって一人で完結できる仕事がAIに代替されつつある今、転職市場で求められているのは、人を巻き込みながらプロジェクトを推進できる人です。
その過程では、想定外の壁にぶつかることもあります。そんな時に、自ら考え、行動し、突破口を見つけられるのか。リスクを取ってでも施策を実行していく力があるのか。
そんな“プロジェクト推進力”を備えた人物なのかを重視する企業が増えています。
実際に転職市場では、求人票に記載されている資格や経験を満たしていない人でも「会ってみたら活躍できるイメージが湧いた」と採用に至るケースも増えているという。
さらに、これからの時代に不可欠なのが「Learn&Unlearn(ラーン・アンド・アンラーン)」だ。過去の学びに固執せず、新しい知識や価値観を取り入れながら柔軟に自分をアップデートしていく姿勢である。
デジタル化が進み、新たなビジネスチャンスがどんどん生まれている今、過去に取得した資格や経験に縛られるとキャリアを広げるチャンスを逃してしまいます。
培ってきた知識や専門性を捨てる必要はありませんが、新しい学びを得る時には、一度「この知識、経験を活かさなきゃ」という考えを手放すことが大切です。
また、ラーン・アンド・アンラーンができるようになると、転職市場で重視される「プロジェクト推進力」を高めることにも繋がるとえさきさんは続ける。
一人でやる仕事が減り、人と関わりながらプロジェクトを推進していく仕事が増えていくと考えると、さまざまな人の価値観を受け入れながら、自らをアップデートしていくことが求められます。
「クライアントが望む成果を出す」「チームが目指すゴールに到達する」といった本質的な目的に向けて自らを進化させた上で、チームにとって最適なパフォーマンスを自分で考えて実行していく。
そんな力を持つ人は、これから時代がどう変化しても、必要とされ続けると思います。
もっとも、資格取得や専門性の積み上げに努力してきた人ほどアンラーンは容易ではない。アンラーンにハードルを感じたときのファーストステップとして有効なのは「日常に小さな変化を取り入れること」だ。
リスキリングをしてみる、プライベートで普段接しない人と交流してみる、などどんな小さなことでもいいので、環境を変化させることを意識してみてください。日常的に新しい価値観に触れることで、気付きや吸収できるものがたくさんあるはずです。
私の場合は子どもがいるので、ママ友のネットワークや、地域のコミュニティーに参加しています。 今までの人生で出会うことのなかったであろう、さまざまなジャンルの方たちがいてすごく刺激的ですよ。
もし転職を考えるなら、経営層が変化を大切にする価値観を持っている組織かどうかに注目するといいと思います。
課題を見据え、「業界を変えたい」「会社を変えたい」といった勢いがあるのはもちろん、「このまま現状維持ではいけない」「世の中の変化に伴い我々も変わろう」という柔軟性と意欲を持ち、実際に行動している会社に身を置くと、自然とアンラーンの価値観が染みついていくはずです。
社員たちの「自ら考え、行動する力」で業界の変革に挑むIT企業
自分で考え、行動し、アンラーンしながら課題を解決していく──。
まさにそんな力を重視した人材育成を行い、業界に新しい風を吹かせていることで話題のIT企業がある。株式会社AGENTSMITH HOLDINGS(エージェントスミス ホールディングス)とその傘下にある株式会社エージェント・スミスだ。

エージェント・スミスグループは、それぞれ専門性を持ったIT企業が強みを活かし合い、クライアントの情報システム業務をトータルでサポートしている。エージェントスミス ホールディングスは、グループ全体の戦略・統括を担う企業であり、株式会社エージェント・スミスはグループ全体のコンセプトを体現する中核企業だ。
「クライアントの利益を最大化すること」をゴールに、社員一人一人がとことん考え抜き、行動することを大切にする同グループ。部門のトップや管理職に就く女性をはじめ、プロジェクトを最前線で推進していく女性など、自らの力でキャリアを切り開く女性が多数活躍している。
自らも現場で経験を積んだ後に、現在は経営企画室長を担い、エージェント・スミス社のパーパスの浸透を推進している大日向 由衣さんに、同社の女性たちがキャリアの可能性を広げ続けられる理由について詳しく聞いてみた。
エージェントスミス ホールディングスは、IT業界の中でも新しいポジショニングであると注目されています。どんな特徴があるのでしょうか?
私たちは、企業の情報システム業務をサポートする事業を展開しているのですが、クライアントの情報システム部門に、当社社員がプロジェクトマネジメントなど、特定の役割を持って参画し、部門の活動をご支援している点が大きな特徴です。
部門の一員として入り込んでいるため、ときにはクライアントより先回りして課題を見つけて、解決策を提案し、要件をとりまとめ、システム開発、クライアントの業務に適用させながら運用、評価・改善……と、全局面を伴走しています。
コンサルティングファームのように上流の調査分析・企画・提案に特化するわけでもなく、SIerやシステム開発会社のようにシステム化要件が固まってから参画するわけでもないという点で、新しいポジショニングになっていると思います。
私自身、前職ではコンサルタントを経験しましたが、その時とはクライアントとの関わり方が全く異なります。コンサルタント時代にもどかしく感じていた「本当にクライアントの役に立っているかどうか」を実感できる、やりがいのある仕事です。

部門の一員として全工程に伴走するとなると、クライアントからしても心強い存在ですね。
クライアントからは「私たち以上に私たちのことをよく知ってるよね」なんて言葉をいただくこともよくあります。
ITにもクライアントの業務にも精通しているからこそできる提案があるのは、私たちの大きな強みです。
最適な提案ができるように、自社製品も持たないようにしているんです。中立的な立場でいないと、本当にクライアントにとってベストなシステムを導入できなくなってしまいますから。
クライアントファーストを徹底していますね……!
私たちの一番の目的は「クライアントの利益を最大化すること」なので、全社員がその目的を見失わず、最適な提案は何かを考え抜いて行動しています。
マニュアルや業務範囲にとらわれずに、クライアントの利益に繋がると判断したことであれば行動に移す。
このスタンスを貫いているからこそ、リピート率は9割以上に及んでいます。
システムを量産して導入していく方が、コスパよく売上に繋がりそうな気もするのですが、そこまでクライアントに寄り添うことにこだわるのはなぜなのでしょうか?
エージェント・スミス社が掲げる「ユーザー主導の世界にIT業界を変える」というパーパスを大切にしているからですね。
ユーザー主導の世界とは?
ITの世界は専門性が高く、技術変革のスピードも速いため、企業の情報システム部が新しい知識をキャッチアップし、業務に活かしていくのは、すごく難しいんです。
情報システム部の中にはIT業務のノウハウや経験がない方も多いので、どうしてもメーカーやベンダーの言われるがままになってしまい、結果的に自社に合わないシステムを導入してしまうことも多々あります。
だからこそ、私たちがクライアントの立場に立って、メーカーやベンダーの「盾」となり、クライアントの「頭脳」となり、さらに「手足」となり、クライアントの最適解を見つけていく。それが私たちの使命と考えています。
こういった、ユーザーである企業がメーカーやベンダーに“押し負けている”状態を無くさないと、システムの選定ミスや投資ロスは無くならず、グローバルな競争力の向上につながりません。「そんな業界の課題を変えたい」という思いがこのパーパスに込められているんです。
最終的には、私たちがいなくてもクライアントが自走できる状態になることが理想ですね。

「大手SIerに勤めていた代表が、クライアントとベンダーの間で相反する利害関係がITプロジェクトの炎上に発展するケースを目の当たりにしてきたことから生まれたのがこのパーパス。ITに精通した人がクライアント側に立ちコーディネートすることで、クライアントもメーカー・ベンダーもどちらも幸せになることを目指しています。また、IT業界特有の『二次請け』『三次請け』といった多重構造に一石を投じたいという想いも、『ユーザー主導の世界にIT業界を変える』のパーパスには込められています」(大日向さん)
「目的のために何をすべきか」を一人一人が考え、実行できる理由
エージェント・スミス社の社員たちが、クライアントにとってベストだと思うことを考えて、行動に移せるのはなぜなのでしょうか?
一つは、私たちの価値観を言語化した「Professional Statements」の存在ですね。私たちの大切にしている価値観をまとめて、人事評価制度に組み込むことで、社員一人一人が常に意識しながらクライアントと向き合えるようにしています。

株式会社エージェント・スミスが掲げる「Professional Statements」
これは全て自問自答の「問いかけ形式」になっているのがポイントです。
あえて「こうしなさい」という行動指針にせず、「これ、できているの?」と自分自身に問いかけてもらうことで、社員一人一人が自分で考えることを促しています。

価値観を浸透させるだけでなく、考える力を養うことも目的に含まれているんですね。
そうですね。一人一人がプロフェッショナルとしてクライアントと向き合えるように、「自ら考え、動く」ことを重視しています。
幸い、当社の社員たちはクライアントから直接フィードバックをもらえる環境にいるので、自分で考えて行動に移す力がより身に付きやすいと感じています。
例えば、クライアントとの日々のコミュニケーションの中で「この機能、ちょっと使いづらくて……」といった感想や意見をもらったら、「何が足りないんだろう?」とその場で考えることができますよね。
そしてすぐに軌道修正ができる。現場で新しい意見を取り入れながらアンラーンし、PDCAサイクルを自分で回していけるから、成長できるのだと思います。

「エージェント・スミスグループでは、資格取得補助や研修プラットフォームの導入など、成長をアシストする環境を提供。研修においても、『自身の成長につながりそう』『クライアントの役に立てそうだ』といった具合に、自ら必要なものを判断し選択してもらっています。また、さまざまな専門性を持つグループ会社を横断して、多様な視点を得られるのも当グループならではの成長環境ですね」(大日向さん)
IT業界は他業界と比べて女性比率や女性管理職比率も低いので、男性よりも市場価値を維持するハードルが高い傾向があると思います。大日向さん自身はどうでしたか?
エージェント・スミスグループが重視する「考えて、行動して、課題を解決していく」力は、仕事内容が変わっても、汎用性のあるスキルです。私自身も、現場で培った「プロジェクト推進力」は今でも役立っています。
「プロジェクト推進力」と一言で言っても、分解するとさまざまな力が必要で。例えば、計画立案力、スケジュール管理力、ステークホルダーとの調整力、マネジメント力、課題解決力、提案力……と、あらゆる能力が求められるので、入社当初は「スーパーマンだ……!」と思いました(笑)
今は経営企画室長として社内向けのプロジェクトを進めることが多いですが、現場で培った力は大いに役立っています。
女性はライフイベントを機にキャリアを中断せざるを得なくなるケースもありますが、そのようなベースの力があれば将来の不安も軽くなりそうですね。
そうですね。実際にエージェント・スミス社の事業部門には今女性部長が2名活躍しています。
大型案件を成功させたり、クライアントから長期にわたり指名され続けたり、二人に共通しているのは、クライアントが何を必要としているのかを察知して、先手を打つ力があること。多数のステークホルダーをコーディネートし、プロジェクトを円滑に推進していくノウハウを持っていることです。
「プロジェクト推進力」と言うと、何か特別なプロジェクトを成功させた経験に聞こえてしまうかもしれませんが、周囲の方々との関係を構築し、会社、部門、チームなどの状況がより良くなるように、その本質的な目的・目標に向かって自ら働きかけていくこと、あくまで日々の小さな行動の積み重ねなんです。
これはたとえ出産、育児などで一度キャリアを中断することになっても損なわれないスキルだと思います。若手のうちから磨いておけば、自分らしく働き続けていく上での“武器”となってくれるはずです。

取材・文/光谷麻里(編集部) 撮影/枝松則之