
町田啓太・鈴木伸之・白濱亜嵐ら『劇団EXILE』を人気集団へ。元LDH初の女性執行役員が役職を捨て、手に入れたもの
かつて鈴木伸之さんや白濱亜嵐さんが所属していた『劇団EXILE』をスター集団に育て、LDH初の女性執行役員へ。そんな輝かしいキャリアを築いた近藤奈緒さんは、その役職を自ら手放し独立の道を選びました。
現場を離れ、数字を追う日々に募った違和感……。彼女が手に入れたかった「本当に大切なもの」とは何だったのでしょうか。
新卒入社の会社を4カ月で辞めたという「失敗」から始まった彼女のキャリアから、回り道を恐れず自分らしい仕事人生を歩むヒントをもらいます。
※本記事は2025年11月に発売予定の雑誌『type就活』から先行公開をしています。

近藤奈緒さん
2002年、東宝芸能に入社。約300人のダンサーのマネジメント業務に携わる。10年、LDH JAPANに転職。立ち上げ間もない劇団EXILEのマネジメントを担当。18年、俳優部門の部長に昇格。22年に同社初の女性執行役員に就任する。25年、独立。現在は業務委託としてLDH所属俳優の営業窓口を担当しながら、水上恒司、齋藤潤、増子敦貴ら若手俳優のエージェント業務を行っている
入社4カ月で早期離職、就活に失敗したから言えること
私のキャリアをざっと振り返ると、東宝芸能で8年、LDHで14年、 タレントマネジメントの世界を歩み続けてきました。
その後、2025年に独立。自分で会社を立ち上げてからは、LDHに所属するメンバーだけでなく、水上恒司、齋藤 潤、増子敦貴など俳優たちのエージェント業務を担当しています。
足掛け23年、エンタメ業界一筋。はたからは、迷いの無いキャリアに見えるかもしれません。
ですが、実は全くそんなことはないのです。
私が新卒で入社したのは旅行会社でした。けれど、わずか4カ月で退職。早期離職してしまった点では、就職活動に「失敗」した側です。
就職先として旅行会社を選んだ理由は、帰国子女ということもあって英語が使える仕事がしたかったから。
恥ずかしながら、自己分析や業界研究はほとんどしていませんでした。その結果が早期離職。
そこで初めて働くことについて真剣に考えた末に、どうせなら好きなことを仕事にしたいと思い、エンタメ業界に転職しました。だから、皆さんにお話ができるような立派な人間ではないんです。

でも、そんな私だから言えることをお伝えできればと思います。
キャリア形成にあたって、「自分の軸を見つけよう」という話がよく出てきますよね。でも私は、20年以上働いた今も、自分のキャリアの軸が何かなんて、まだ胸を張って語れません。
ただ、これまでの決断を振り返ってみると、何かを辞めるときほど、自分が本当に大切にしたいものは何なのかが浮き彫りになったような気がしています。
東宝芸能を辞めた時もそうです。私は、東宝芸能では入社当初から一貫して、舞台のアンサンブルを務めるようなダンサーのマネジメントを担当してきました。その数、およそ300人。
稽古場に顔を出したり、時にはプライベートで飲みに行ったりしながら、一人一人の個性や強み、これからの展望を把握していきました。
そうした日々の中で気付いたのは、もともとエンタメが好きで入社したけれど、私が仕事で喜びを感じるのは、人との関わりなのだということ。
人と腹を割って話して、目の前にいる相手の夢を実現するためのサポートができることが楽しかったのです。
だからこそ、もっとマンツーマンでタレントと向き合い、二人三脚で歩んでいくようなマネジメントがしたいと思うようになりました。
そこで、東宝芸能からLDHに転職。当時のLDHはアーティスト色が強く、俳優部門はまだそれほど認知されていませんでした。
私が担当することになった『劇団EXILE』も売れっ子と呼べる俳優は一人もいない状態。テレビ局に営業に行っても、プロフィールすら見てもらえない時期もありました。
けれど、大変だった分、俳優たちとは真っ正面から向き合えた。これからどういう仕事をしていきたいのか。そのためには今何が必要か。彼らと真剣に話し合うたびに、自分がやりたかったのはこういうことだと感じました。
誰もが最初から「好き」を仕事にできるわけではない

そんな彼らの努力が実を結び、LDHからも多くの人気俳優が育っていきました。
その実績が評価され、私も社内で初の女性執行役員に。ただ、ここでまた新たな疑問が浮かぶのです。
執行役員になると、毎日のスケジュールが会議で埋まってしまい、現場に行く時間はなかなかとれません。
「どう売上をつくるか」という数字のことばかり考えるようになり、これが本当に私のしたかったことだろうかと思い悩むようになりました。
自分は決して立派な肩書きが欲しくて仕事をしているわけではない。もっと俳優一人一人と深く関わり、彼らの将来のビジョンを共有できるような仕事がしたい。
自分の気持ちに正直に向き合った結果、独立することを決めました。
こんな私の半生からも分かる通り、自分のキャリアの軸なんて、そう簡単に見つかるものではないんですよね。
いろいろな出会いと失敗を繰り返しながら、それぞれの人が自分の道を見つけていく。
だから、1社目で正解を見つける必要はないと思うのです。
ただ、一つ覚えておいてほしいことがあります。
好きなことを仕事にするのは確かに楽しいです。だけど、誰しもが最初から好きな仕事ができるわけではありません。
組織において挑戦権を得られるのは、それにふさわしい能力と実績がある人だけ。
最初の数年間は、先輩の下について勉強したり、雑用と呼ばれるような仕事ばかり任されることも珍しくありません。
大事なのは、そんな芽が出るまでの時期を楽しめるかどうか。
きらびやかな部分にばかりとらわれるのではなく、泥くさい部分にまで目を向けた上で、面白そうと思える環境を見つけること。
それこそが、本当の意味での「好きなことを仕事にする」ということではないかなと思います。
取材・文/横川良明 撮影/赤松洋太