73歳・普通のおばあちゃんが年収800万円!? 37年間トップセールスとして生きてきた女性が語る“仕事人生”の愉しみ方/株式会社くらしの友
定年まで勤めることが当たり前で、生涯仕事をし続けることが珍しくない男性に対し、同じようにずっと働き続けている女性はまだまだ少ない。「今後20年、30年と仕事を続けていくことが想像できない」「長く働きたいけど、『長く』って一体いつまで?」。周囲にロールモデルがいないからこそ、自分の将来の姿を思い描くのは難しいもの。そこでこの連載では、定年を超えてなおイキイキと活躍し続けている女性たちにインタビュー! 人生の大先輩の姿から、“生涯働き続ける”とはどのようなことなのかを探ってみよう。

株式会社くらしの友
神田 徳子(かんだ・とくこ)さん
二児の子育てと並行して、1979年に株式会社くらしの友に入社。パート勤務で同社会員の集金業務を始める。その後、営業職に転身し、契約社員に。現在、勤続年数は37年目。73歳になった今も、7000件以上の顧客を担当し、同社のトップセールスパーソンとして活躍している
専業主婦時代のお小遣い稼ぎが、一生モノの天職に!
私がくらしの友に入社したのは36歳の頃。きっかけは知人からの誘いで、結婚して以来11年間ずっと専業主婦だった私にとっては、久しぶりの仕事でした。
当時は、「女は結婚したら家に入る」というのが一般的だったし、私自身も「結婚したら専業主婦になる」のが当然だと思っていました。だから、結婚と同時にそれまでやっていた経理事務の仕事をスパッと辞めて。それからは2人の娘の成長を見守ることが自分の仕事だと思って生きてきたんです。
だから、「うちで働かないか」って声を掛けてもらったときは、全然乗り気じゃなかったの(笑)。でも、よく話を聞いてみたら、「1日1時間くらい近所を回って互助会(※)の会費を集めるだけだ」って言うじゃない? 下の子も小学校に入って主婦業も少し落ち着いていたのもあって、お小遣い稼ぎのつもりでやってみることにしました。
(※)「互助会」に加入すると、結婚や葬式などの冠婚葬祭の費用を事前に月掛金として払い込んでおくことができる
お葬式っていつ必要になるかは誰にも分からない。いざというときに困らないように、毎月わずかな掛金を積み立てて準備しておけるのが、互助会加入のメリットです。当時の私の仕事は、その毎月の掛金を集めにお客さまのお宅へ伺うことでした。
1日1時間、自転車で近所のお宅を回って、世間話をして、会費をもらって、それで月給が2万円くらい。当時の感覚で言うと、お小遣いとしてはもう十分な金額です。もらった給料は全部好きなように使っていました。自分の服を買ったり、子どもにほしいものを買ってあげたり。働き始めてみたらすごく楽しくなってきて、「これは天職かも」なんて思いながら、何だかんだと続けていくようになったのです。
“自然体”を強みに、気付けば年収1000万超えのトップセールスになっていた

仕事を始めて5~6年が過ぎた頃かしら。集金だけじゃなく営業まで任されるようになったのは。つまり、互助会の会員さんを増やす仕事です。
でも、私がやることは変わらなかった。相変わらずお客さんのおうちに行って、世間話をするだけ。お葬式の話なんて一切しない。長いときはお昼頃におうちにお邪魔して、その夜の0時がまわるくらいまでずっと喋っていた、なんてこともありました。
私にとって互助会の会員さんは、お客さまというより、お友達とか家族に近いものなんですよ。親しい人の家に行って、雑談をする毎日。それで、互助会の満期のタイミングが来たら、「じゃあ来年も」って加入コースの見直しなどをしてもらうんです。とにかく、自然体でいることが私の強みなんでしょうね。
営業になると受注件数に応じて成果給がもらえるようになりました。1番景気のいいときで年収は1000万円以上にもなったんですよ! おかげで年に3回ハワイに行ったことも。今の年収は800万円くらいですが、こんな歳になってもこれだけ稼がせてもらっているんだから、ありがたい限り。老後のお金のことを心配する若い世代が増えているようですが、ここで働いている限りはそんな不安とも無縁です。
何十年もかけて、お客さまと特別な関係を築ける仕事
お葬式って言ったら何だか暗いイメージを持つ人もいるかもしれませんね。もちろん死はとても悲しいこと。でもこの仕事は、それ以上にお客さま一人ひとりとの特別なつながりを与えてくれます。
ちょうど4年前。私が入院したときに、長いことお付き合いのあったお客さまが「お見舞いに来たい」って言ってくださって。でもその方もずっと自宅療養中の身だったんですよ。結局、私の方が先に退院して、すぐさまその方のお宅に顔を出しました。そうしたらね、丁寧なお見舞い袋を用意してくださっていて。ご自分の体も決して良くないのに、私のことを労わる気持ちをずっと持ってくださっていたんです。普通は、“営業の人”にこんなことはしないものでしょ? でも、友人のように思いやってくれていたことが本当にうれしかった。
結局、私が退院した1週間後に、その方は亡くなりました。その時も、ご親族から真っ先に私のところへ連絡がやってきて、見積もりからご葬儀まで全部立ち合いました。私はもう悲しくて悲しくて仕方なかった。そのお客さまから最期にもらった見舞い袋は、今も宝物として大事にしまってあります。
スクーターにまたがって行きたいところに行く。スケジュール帳も持たない。
どうにかなるなら、それでいいじゃない。

たくさんの人との出会いや別れ――。専業主婦としてずっと家にいたら、私の世界はこんなに広がることはありませんでした。担当しているお客さまはもう数え切れない。営業所がある東戸塚の駅を降りたら、そこら中顔見知りでいっぱいだもの。37年間お付き合いを続けているお客さまもいますよ。
「仕事を辞めたい」と思ったことが無いわけではないけれど、お客さまのことを考えると、まだまだ辞められないって気になるんです。
若い世代に向けて仕事を長続きさせる秘訣をアドバイスするとすれば、「深く考えすぎないこと」ですね。社内的には“トップセールス”なんて言われちゃうんだけど、難しいことは何もやってないの。今日どこのお宅を回るかだって、いつも全く決めていません。スクーターに乗って、行きたい方向を走って、ふと頭に浮かんだお客さまの家に顔を出すの。スケジュール帳すら持っていません(笑)。でも、それで何とかなるんだから、それでいいの。
人間関係もね、細かいことは気にしなくていい。嫌いな上司がいる? だったら嫌いでいいじゃない。無理に分かり合おうとすることなんてない。ウマが合わない人は当然いるものだから、放っておいて、あなたはあなたが好きな人と一緒にいればいいんですよ。
少なくとも私はこの歳まで仕事を続けてきて良かったと思っているし、今では仕事が生きがいだって自信を持って言えます。ボケ防止にもなっているかな(笑)。だから、皆さんもストレスをためずに、おいしいものを食べて、ぐっすり眠って、肩肘張らずに働けばいいの。それだけで、だいぶ人生が楽しくなりますよ。
取材・文/横川良明 撮影/洞澤佐智子(CROSSOVER)
『~Over60~私たちが仕事を続ける理由』の過去記事一覧はこちら
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