イモトアヤコ「今産んだら、戻ってこれないかも」人気絶頂での出産がキャリアにプラスになったワケ
自分のキャリアは大切にしたい、でもいつかは子どもも欲しい。出産のタイムリミットとキャリア形成の狭間で、いつ、何を選べば後悔しないのか。自分らしい仕事人生を送るための“産みどき”のヒントを、さまざまな角度から考えていきます。
トレードマークは太眉にセーラー服。体を張って世界中を飛び回り、第一線を走り続けてきたイモトアヤコさん。
そんな彼女の人生が大きく動いたのは、35歳のときだった。休みなく動き続けてきたキャリアの半ばでの結婚、妊娠、そして出産。彼女は否応なく立ち止まることになった。
体を張る仕事ですし、海外ロケに行きまくっていた中で出産することに不安はありました。
でも今、仕事の面から見てもこのタイミングでの出産で良かったなと思っています。
働きどき真っ盛りでの出産は、彼女のキャリアにどんな影響をもたらしたのか。最新作の映画『木挽町のあだ討ち』で初めて時代劇にチャレンジしたイモトさんに聞いた。
イモトアヤコさん
1986年1月12日生まれ。タレント、俳優。バラエティー番組『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ)での「珍獣ハンター」企画をきっかけにブレイクし、体を張ったロケで幅広い世代から支持を集める。プライベートでは、2019年に結婚、21年に第1子を出産。俳優としても活動の幅を広げ、ドラマ『下町ロケット』(TBS/15年、18年)、『家売るオンナ』(日本テレビ/16年)、『家売るオンナの逆襲』(日本テレビ/19年)、『マイ・セカンド・アオハル』(TBS/23年)、『東京サラダボウル』(NHK/25年)などに出演。映画『木挽町のあだ討ち』(26年)で初の時代劇に挑戦したほか、ラジオパーソナリティとしても活躍■X
初めての時代劇で演じた「自分軸で生きる、太陽のような母」
2023年の文学賞をダブル受賞した時代小説『木挽町のあだ討ち』。話題作の映画化にあたり、初めて時代劇に抜擢されたイモトさんは、当時の心境をこう語る。
めっちゃくちゃ、「私でいいの!?」って思いましたよ!
他の共演者を見れば、そうそうたる実力派俳優の方々ばかりじゃないですか。とにかくせっかくチャンスをいただいたのだから、何としても食らいついて行くぞって気持ちでしたね。
江戸・木挽町で発生した見事な仇討ち事件。話を追っていくごとに、優しい嘘で包まれた真実が明かされていく。
現代人が忘れがちな「人の情け」が織りなす、心温まるストーリーだ。共演者には、柄本佑、渡辺謙、長尾謙杜、北村一輝など、実力派俳優がそろっている。
初めての時代劇でしたが、私って『平べったい顔族』じゃないですか。和の顔というか。だから、和装してメイクしたらすごくしっくりきたんですよ!
「あーこういう人、江戸時代にいるよな」って思えたので、現場にも居やすかったです。江戸の町にすごい馴染んでるので、観てみてほしいです(笑)
イモトさんが演じたのは、小道具職人・久蔵(正名僕蔵)の妻、お与根。仇討ちのために江戸にやってきた菊之助の寝食の世話をしながら彼の苦悩にも寄り添う、明るく温かい女性だ。
とにかく、『お与根さんの自宅』に動きをなじませることに集中しました。
毎日生活している場所なのにぎこちない動きが出てしまわないように、普段から家でも浴衣を着て家事をしたりして、動きに慣れることを意識してましたね。
日の差し込まない長屋を照らす、太陽のようなお与根さんだが、実は流行病で一人息子を亡くした母でもある。明るく包容力のある母親像・女性像は、どこかイモトさん自身とも重なる。
お与根さんは、自分よりも他人のために動ける女性。そこは私とは全然違う。
自分の子どもや菊之助のことを第一に考えて動くけれど、自分を犠牲にしているわけじゃなくて。自分がやりたいからやっているんですよね。ちゃんと自分軸で考えているんです。
女性が自分らしく生きられる時代ではなかったけれど、お与根さんの場合、他人のためにすることが自分のためにもなっているから、無理なく自然に生きられるんです。
いつの時代も、こういう女性って、すてきですよね。
「今産んで、戻ってこられるかな…」体を張る仕事だったからこその不安
プライベートでは、4歳の息子の母でもあるイモトさん。
妊娠が発覚した当時は、バラエティー番組の海外ロケに加え、ラジオパーソナリティーや俳優業にも活躍の場を広げていた。
まさに仕事に脂が乗っているタイミングでの出産だったが、不安や葛藤はなかったのだろうか。
妊娠はすごくうれしいことだったのですが、やはり体を張る仕事なので、「復帰できるのかな」っていう不安はありました。
家で夫に「戻れるかなぁ……」なんて、弱音を吐いたりもしてましたね。
不安をなかったことにはせず、ちゃんと認めてあげたいなとは思っていて。信頼してる人に吐き出すことで、一人で抱え込まないように意識していました。
最終的には「なるようになるだろう!」と楽観的に考えていたというイモトさん。彼女が明るい未来を信じられた背景には、先輩たちの姿もあった。
番組で共演している森三中の大島美幸さん、村上知子さんなど、妊娠・出産をへて復帰した女性芸人たちが、以前と何も変わらずに多くの人たちを楽しませている。そんなロールモデルがあったことが、イモトさんを勇気づけた。
それに、当時はコロナ禍もあり、世の中がみんなストップしている時期でもあったんですよね。
バンバン海外に行っている最中にピタッと休んだわけじゃなくて、たまたまみんなも自分も時間が止まっていたタイミングだった。
こんなふうに、動きたくても動けなくなることってあるんだなあと感じていた矢先だったので、妊娠・出産で立ち止まることも受け入れやすかったのかもしれません。
母になったことが仕事に与えた、意外な影響
2021年11月より産休に入り、元気な男の子を出産。その約2カ月後に、『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ)で復帰を果たし、半年後にはロケにも行ったイモトさんだが、気持ちに体が追いつかないもどかしさに直面した。
以前の自分と比べると、もう全然体が動かなくて!
「母になった珍獣ハンターって、こういう感じだよ」っていう姿を見せるのは、それはそれでリアルでいいかもとも思ったんですよね。
でも、自分のVTRを客観的に見たとき、「やっぱり私は、動ける珍獣ハンターでありたいな」と思って。だから、あがいてみようと、徐々にトレーニングを再開していきました。
以前のようにいかないもどかしさを感じながらも、意外にも「このタイミングで出産してよかった」というイモトさん。
そう思う背景には、妊娠・出産によって生まれた「立ち止まる時間」が、仕事に与えた好影響があった。
一定期間仕事から離れたことで、仕事へのモチベーションが上がったんです。
20代から30代前半のときは、月に2回くらいのペースで海外ロケに行っていて、一つ終わったら、「はい、次!」「はい、次!」といった感じで、とりあえずこなしていく感じになってしまっていて。
仕事は好きだし、楽しいし、全力でやっているんだけど、一つの仕事に対する熱量がどうしても持続しなくなっていたんですよね。
それが、一定期間休んだことで、「また頑張りたい」という気持ちが湧いてきたんですよ。
母になり、以前のようにたくさん海外ロケには行けなくなったが、その分、一つ一つの仕事の質を上げようと思えるようになったのはいい変化だったと、イモトさんは続ける。
一つのロケに対する熱量が上がって、「なんとしてもいいものを届けよう」と思うようになったんです。
そう思うと、仕事が波に乗っていたタイミングで出産をしたことは、仕事にとってもプラスだったなと思います。
自分で決めたことを正解にすればいい
働く女性にとって、妊活に適した時期は、責任ある仕事を任せられたり、仕事に面白味を見いだし始めたりする時期と重なることが多い。
妊娠のリミットを考えれば今だけど、キャリアを考えると今じゃない。そんな葛藤を抱える女性も多いだろう。
正解を求めて迷う女性たちに対して、「考えちゃいますよね」と共感しつつ、「どちらを選んでも、不正解ではないと思う」と続ける。
どっちが「正解」で、どっちが「不正解」なんだろうって、つい考えちゃいますよね。私もそういうタイプでした。
でも今は、「自分で決めたことが正解だ」「決めた方を正解にしちゃえばいい」って考えられるようになったことで、楽になった気がするんですよ。そう思えるようになったのは、出産がきっかけかもしれません。
イモトさんがそんな楽観的な考え方ができるようになった理由の一つが、仕事と育児の両立をする中で、人の優しさに触れられたことだ。
子どもを産んでみてわかったのは、「人って、思っている以上に優しい」ってこと。どうにもならなくなったとき、素直に「助けて!」って伝えれば、みんな当たり前のように助けてくれるんです。
息子のお友だちのお母さんだったり、番組のスタッフさんだったり。自分さえ心を開けば、みんな手を差しのべてくれるんだなって実感しました。助けてもらった分、自分も助けたいなとも思います。
正解を求めて考え抜くことも大切だけれど、自分が選択した道の先で壁にぶつかった時は、意外と他人が助けてくれるのかもしれない。そう思えるだけで、“産みどき”との向き合い方は少し気楽になる。
自分が友だちに「助けて」って頼られたら、悪い気持ちなんてしないでしょ?
人生の分岐点で迷ったとき、私は常に「自分は大丈夫、きっとすべてがうまくいく」って言い聞かせてます。それに、いざとなったらきっと周りの人たちが助けてくれるって。
今年40歳を迎えたイモトさんは、新たにどんなことに挑戦していくのだろうか。
私ね、これまでずーっとおさげ髪だったんですよ。イメージを大事にしなきゃと思っていて、切りたくても切れなかった。
育休を取った時に「今じゃん!」って思って、切ったんです。そしたらすっごくスッキリ!そこから洋服を選ぶのも、今までよりもずっと楽しくなりました。
今は、どこかのタイミングで1週間くらい金髪にしてみたいなって思ってます。私、この歳まで髪を染めたことがないんですよ。
すみません、仕事でこれに挑戦したい、みたいな大きなこと言えなくて。でも、そういう小さいチャレンジを続けていきたいんです。
40歳を機に、小さいことでも「やったことがないこと」をやりながら、自分の幅を少しずつ広げてみたい。背伸びしすぎず、常に自然体の彼女らしい答えだ。
イモトさんは、誰かを人生に巻き込みながら進み、巻き込んだ人たちの人生をも好転させていく。見ているだけで悩みを吹き飛ばしてくれるような、魅力的なパワーに満ちていた。
文/宮﨑まきこ 撮影/笹井タカマサ 取材・編集/光谷麻里(編集部)
作品情報
映画『木挽町のあだ討ち』2026年2月27日(金)全国公開
■原作:永井紗耶子『木挽町のあだ討ち』(新潮文庫刊)
■監督・脚本:源孝志
■出演:柄本佑
⻑尾謙杜 瀬戸康史、滝藤賢一
山口馬木也 愛希れいか イモトアヤコ 冨家ノリマサ 野村周平
高橋和也 正名僕蔵 本田博太郎 石橋蓮司
沢口靖子 北村一輝
渡辺謙
■主題歌:「人生は夢だらけ」椎名林檎(EMI Records / UNIVERSAL MUSIC)
Ⓒ2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会 Ⓒ2023永井紗耶子/新潮社
『私らしい“産みどき”』の過去記事一覧はこちら
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