木村佳乃「育児で仕事のチャンスを逃しても焦らなくていい」女優賞W受賞の年に出産した彼女が、15年たった今思うこと
自分のキャリアは大切にしたい、でもいつかは子どもも欲しい。出産のタイムリミットとキャリア形成の狭間で、いつ、何を選べば後悔しないのか。自分らしい仕事人生を送るための“産みどき”のヒントを、さまざまな角度から考えていきます。
世界中の子どもたちから愛され続ける『きかんしゃトーマス』。そのミュージカルムービー『映画 きかんしゃトーマス いっしょに歌おう! ドレミファ♪ソドー島』が、3月27日に公開される。
主題歌を担当するのは、俳優の木村佳乃さん。2人の子どもを育てる母としての顔も持つ彼女は、トーマス作品に参加できることへの喜びをにじませる。
彼女が第一子を出産したのは2011年。日本アカデミー賞助演女優賞をはじめ、二つの女優賞を受賞し、まさに俳優として追い風が吹いていたタイミングだった。
最初の出産から15年。仕事と育児の両立に奔走した日々をへて、自身の“産みどき”をどう振り返るのだろうか。
木村佳乃さん
1976年4月10日生まれ。俳優。東京都出身。96年に俳優デビュー。以降、ドラマ・映画・舞台と幅広く活躍し、確かな演技力で存在感を発揮する。映画『告白』(2010年)で第54回ブルーリボン賞助演女優賞、第34回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。近年もドラマ・映画・ナレーションなど活動の幅を広げている。2児の母として子育てと仕事を両立しながら、第一線で活躍を続けている
子どもは一番シビアなお客さま
包み込むような温かい歌声に、母としての親しみやすさ。
世界中の子どもたちに支持される『きかんしゃトーマス』最新ミュージカルムービーの主題歌に、「この人しかいない」と満場一致で名前が挙がったのが木村佳乃さんだった。
そのオファーについて、「本当に光栄でした」と笑顔を見せる一方で、「子ども向け作品はハードルが高いので、プレッシャーもあった」と明かす。
子どもはとてもシビアなお客さまです。面白ければ夢中になって観てくれますし、つまらなければ観るのをやめてしまう。
「最後まで観てあげなきゃ」なんていう義理や忖度は一切なくて、本音しかありませんから。 そういう意味では、難易度の高いお仕事でした。
実は今回の楽曲は、木村さんにとって少しキーが高めだったという。
オファーをくれたスタッフ、そしてスクリーンの向こうにいる子どもたち。その期待に応えられるだろうか——そんな緊張もあった。
みなさんに喜んでもらえる歌にできるかな、と少し不安もありました。でも歌唱指導の先生がとても丁寧に導いてくださって。
繊細にディレクションしていただいたおかげで、レコーディングでは安心して、楽しみながら歌うことができました。
スタッフやディレクターを信頼し、その意図をまっすぐ受け取る。そして自分の中に落とし込み、表現へと昇華していく。
そうした姿勢があるからこそ、忖度のない子どもたちにも届く一曲が生まれたのだろう。
今回の映画のテーマは、「いっしょに歌おう!」です。 お子さんを連れて映画館に行くと、「周りに迷惑をかけないかな」と心配になる親御さんも多いと思います。
でもこの映画は、そんな心配はいりません。ぜひ映画館で、みなさんと一緒に大きな声で歌っていただけたらうれしいです。親子で、思いきり楽しんでほしいですね。
「育児中だから仕事のチャンスを逃した」と思ったことはない
今なお、仕事の幅を広げ続ける木村さん。
二児の母として子育てをしながらキャリアを築いてきた彼女だが、第一子を出産したのは、まさに俳優として追い風が吹いていたタイミングだった。
2011年、日本アカデミー賞優秀助演女優賞、ブルーリボン賞助演女優賞を受賞。評価を確かなものにし、さらなる飛躍が期待される中での出産。
流れが途絶えてしまうのではないか──。
そう不安に思っても不思議ではない。しかし、当の本人はあっけらかんとしている。
当時はタイミングだとか、キャリアへの影響だとか、本当に何も考えていませんでした。
子どもは授かりものですし、人生って、計画通りにいくものでもないですから。
そうはいっても、働き盛りに育児も背負うことで、本来チャレンジできたであろう仕事のチャンスを逃してしまうこともあるかもしれない。
そんな可能性に対しても、「それはそれで構わないと思っていた」と木村さんは明るく笑う。
確かに、やりたい仕事を家庭の事情で泣く泣くお断りすることもあります。でもそれも巡り合わせやご縁なんですよね。
私が逃した役が他の方に渡ることもあれば、逆に誰かが手放した役が私に巡ってくることもある。全部、タイミングだと思っています。
育児をしている“今の私”だからこそ出会える役柄や仕事もあるでしょうし、「育児があるから仕事のチャンスが逃げた」と感じたことはないです。
木村さんが仕事に復帰したのは、出産からわずか5カ月後のこと。まさに「ご縁」に引き寄せられての復帰だった。
脚本が面白かったんです。「やりたい」と思ったので、引き受けました。その後のことは、やってみてから考えよう、と。
私たちの仕事は需要と供給で成り立っています。その時の自分に「お願いしたい」と思ってくださる方がいて、自分も心が惹かれたのなら、難しく考えすぎずにチャレンジしたいですよね。
長い目で見れば、今焦らなくても、その時々に自分を求めてくれる仕事はきっとある。そんな彼女の言葉の裏には、働き盛りに出産した後も、キャリアの幅を広げ続けてきた実績がある。
私は短距離ランナーではなく、長距離ランナーでありたいと思っています。夢は「元気なおばあちゃん女優」。
80歳になったら、80歳の私でしか演じられないお仕事をいただけるかもしれません。長い目で見れば、きっとまたご縁は巡ってくると思います。
キャリアか、出産か。迷った時は、頭で難しく考えすぎずに、巡り合わせに身を委ねるのも一つの選択だ。
「どうにかなる」という心持ちでいいんじゃないかなと個人的には思います。
どんな選択をするにせよ、大切なのは「自分で決めること」。自分で決断すれば、たとえ困難に直面したり、チャンスを逃したりしても、納得感を持って頑張り抜けるはず。 人に決めてもらうと、後悔してしまうかもしれないから。
「マヌケ母さん」だから長距離を走り続けられる
では、働き盛りに出産しても、キャリアを途絶えさせずに走り続けるためにできることはあるのだろうか。
木村さんから返ってきた答えは、意外なほど肩の力が抜けたものだった。
私、“マヌケ母さん”なんです。本当に、しょっちゅう間違えますし、忘れ物も多くて。
子どもの保護者会に出席したはずが、まったく別の学年の教室に座っていたなんてこともあります(笑)
先生から「お母さん、ここじゃないですよ!」なんて言われちゃって。そんなことばっかりです(笑)
完璧とは程遠い。それでもいいのだと、木村さんは笑う。
完璧に両立しようなんて思ったこともありません。
元気においしいご飯を食べて、笑っていられればそれで十分。とにかく心身ともに健康で、元気でいれば合格です。
そのくらいの気持ちでいれば、長距離走を走り続けられると思います。
産みどきに正解があるかどうかよりも、好きな仕事を長く続けられる心身でいられるかどうか。
長いキャリアを築く上で、本当に大切なのはその土台なのかもしれない。
以前、大河ドラマで草笛光子さんとご一緒したことがあるんです。
当時80歳でいらっしゃったんですが、朝4時に現場入りするために午前2時出発という過酷なスケジュールでも、颯爽と現場にいらして。元気に楽しんでいらっしゃる姿が本当にかっこよくて、おしゃれで、すてきで。
私もあんなふうになりたいと強く思いました。
木村さんの目に映った草笛さんの姿は、まさに理想とする「長距離ランナー」そのものだった。
心身ともに健康なら大丈夫。自分らしく働き続けられると思います。
働き盛りに出産しながらも、キャリアの幅を広げ続けてきた先輩の、どこか力の抜けたアドバイス。
それは、つい正解を探して力んでしまう私たちの肩を、そっとゆるめてくれる。
難しく考えすぎず、ご縁や巡り合わせに身をゆだねてみる。
自分で選んだ道を信じて、長い目で人生を見渡しながら走ってみる。全速力じゃなくて、ジョギングくらいのペースで。
いつ産むかに、絶対の正解はない。けれど、このスタンスで向き合えたなら——その選択はきっと、後悔のない仕事人生へとつながっていくはずだ。
<衣装>
リング 34,100円 ピアス 57,530円 バングル 52,800円 ブランド:イヴェット
取材・文/光谷麻里(編集部) 撮影/笹井タカマサ ヘアメイク/平元敬一 スタイリスト/中井綾子
作品情報
『映画 きかんしゃトーマス いっしょに歌おう!ドレミファ♪ソドー島』3月27日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、全国のイオンシネマほかロードショー
原作:「汽車のえほん」ウィルバート・オードリー
声の出演:田中美海、越乃 奏、大久保瑠美、古賀英里奈、山藤桃子、山下七海、土師亜文、竹内恵美子、武内駿輔、内野孝聡、神本綾華、細谷カズヨシ、久遠エリサ、岡本幸輔
主題歌:木村佳乃「みんなでひとつになる!」/ゲスト声優:イモトアヤコ
2025年/アメリカ・カナダ/約 63 分/ヴィスタ/カラー/5.1ch/日本語/原題:Sodor SINGS Together
提供:ソニー・クリエイティブプロダクツ
配給:東京テアトル
配給協力:イオンエンターテイメント
© 2026 Gullane (Thomas) Limited.
『私らしい“産みどき”』の過去記事一覧はこちら
>> http://woman-type.jp/wt/feature/category/lifestyle/umidoki/をクリック


