「すぐ辞めるつもりだった」施工管理を60歳の今も続ける女性が見つけた“天職の正体”
女性が長く働き続けるために、環境が整備されていることは大切だ。
しかし、どんなに働きやすい職場でも、「この仕事をずっと続けたい」と思えなければ、結局は長く続かない。
では、「天職」と呼べる仕事には、どうすれば出会えるのだろうか。
「天職って、探して出会うものじゃないんですよ」
そう話すのは、日舗建設株式会社で10年以上にわたり、土木施工管理技士として働く手塚 由美子さんだ。
土木業が今よりももっと男社会だった頃に、施工管理の仕事に就いた手塚さん。当初は、「すぐに辞めたい」と思っていたという彼女だが、60歳を迎える今年、1級土木施工管理技士の資格を取得。「あと10年は現場で働きたい」と笑顔を見せる。
「辞めたかった仕事」は、なぜ「天職」へと変わったのか。
彼女のキャリアを振り返ると、仕事との向き合い方を変えるヒントが見えてきた。
日舗建設株式会社
手塚 由美子さん
不動産会社で事務職を担った後、家業である飲食店を営む。その後、土木業のアルバイトを経て、2011年に2級土木施工管理技士を取得。13年に日舗建設株式会社に入社後、施工管理業務に従事。25年に1級施工管理技士を取得
「ひと月で辞めよう」そんな気持ちで始めた施工管理の仕事
私が施工管理の仕事に就いたのは、13年ほど前のことです。
当時、母が営んでいた飲食店の手伝いをしていたんですが、お店の前の道を舗装していた工事業者の人たちが、よくうちに食べに来てくれていて。
ある日、その工事業者の社長さんから「ちょっと雑用を手伝ってくれない?」って頼まれたんです。
今は工事案件の入札はインターネットでできるようになりましたけど、当時は紙だったんですよね。封筒に書類を入れて持っていかなきゃいけないんだけど、社長さんは現場に出ていることが多いから、決められた時間に行けないことがあって。
「お小遣いあげるから」って言われて、軽い気持ちで手伝うようになったのが、土木業との最初の出会い。
そこから雑用を手伝うようになったんですが、今度は「学校に通わせてあげるから、資格取りなよ」なんて言われて、乗せられるがまま2級土木施工管理技士の資格を受けたら、一発で合格したんです。
資格を取ったら、「現場に出てみなよ」という話になり、何件か工事現場を担当するようになって。
こんな具合で、流されるようにこの世界に入ったわけですが、少しずつ慣れてきた頃、社長がガンを患って亡くなってしまったんです。
知り合いが土木業で転職先を探してくれましたが、私はきっぱり「もう土木は辞めます」って断ったんですね。
まだ経験が浅くてずっと続けていける自信もなかったし、女性が少ない業界だったこともあり、やっぱり大変だったから。私はその社長を信頼していたから続けていただけだったんですよね。
そんな時、日舗建設の総務の方から電話をいただきました。「ぜひうちで働いてほしい」と言われて、断っても何度も何度も電話が来るんです(笑)
見かねた母に、「直接断ってきなさい」と言われてオフィスに断りに行ったら、当時の社長が私の顔を見るなり「いつから来れる?」って聞くんですよ(笑)
「アルバイトならいいか……ひと月経ったら辞めよう」くらいの気持ちで働き始めました。それが13年前。まさか、還暦を迎えるまで働き続けることになるなんて、この頃は夢にも思っていませんでしたね。
「女に指示されるなんて」周囲との関係が変わったきっかけ
最初はやっぱり大変でした。鉄筋は重いし、夏は暑い。
何より、施工管理って現場の作業員たちに指示を出す立場だから、当時は女性から指示されることを快く思わない人も多くて。私が作業の指示を出すと露骨に反発する男性もいました。
あんまりにも不当なことを言われて、スコップを持って追いかけながら大喧嘩をしたこともあります(笑)
今はこんなことすっかりなくなりましたね。いい時代になったなと思います。
あの頃、それでも私が続けていられたのは、一緒に仕事をしていた上司の存在があったから。すごく尊敬できる人で、信頼していました。
しかしある時、その上司にもガンが見つかって。すでにステージ4でした。結局、数か月後に亡くなってしまったんだけれど、亡くなる前に彼からこう言われました。
「この仕事を辞めるな。1級土木施工管理技士の資格を取れ」って。この言葉を胸に、頑張ろうと腹をくくりましたね。
私はずっと、「この人がいるから」という理由で仕事を続けてきたけれど、他人に依存するんじゃなくて、目の前の仕事と向き合ってみようと思ったんです。
それからは、誰よりも朝早く会社に来て、トイレや台所を掃除するようになりました。その他も、雑用は率先してやりましたね。他の人がやりたくないことも全部やることで、仕事がやりやすくなると考えたんです。
施工管理の仕事は、コミュニケーションが肝。発注者がいて、元請けがいて、下請けがいて、材料を担う企業の人たちがいて……と、多くの人が関わります。
下請けの方々にお願いしなければいけないこともあれば、ハッキリとものを言わなければいけない場面もある。だからこそ、「この人の言うことなら聞いてあげたい」と思ってもらえるよう信頼を得られる行動の積み重ねが大切なんです。
人が嫌がる仕事を率先してやったほかに、現場の作業員からお客さまである経営者や弁護士、大学教授まで、どの立場の人とも会話を盛り上げられるよう、勉強もしましたね。
新聞も毎朝しっかり読むようになりました。おかげで今では、政治やビジネス、株から競馬、競艇まで、あらゆる話題に合わせられるようになりましたよ。
こんな風に、私自身が変わると周囲の人たちの接し方も変わっていきました。今では同じゴールに向かう仲間として、お互い尊敬し合える関係を築けています。
仕事を天職に変える一歩は「力」を付けること
この頃から、仕事にもやりがいを感じるようになりました。
発注者の監督員と相談しながら一つ一つの工程を決めて、進めていく。さまざまな関係者たちとやり取りしながら少しずつ信頼を深めていき、皆で一つの工事をやり切る。
そうして完成したものを目にした時の達成感は、何度経験しても良いものです。
さらに、地域の人たちから「道がキレイになってうれしい」といった言葉を掛けてもらえると、心から頑張って良かったと思えます。地域の子どもたちから「おばちゃん、おはよう!」なんて声を掛けてもらえるのもうれしい。自分たちの仕事が地域を良くしている実感を日々得られる仕事だなと思います。
今思うと、仕事を辞めたいと考えてばかりいた頃は、分からないことが多かったんですよね。知識も経験も浅かったから、自分で仕事の舵取りが出来ていなかった。心のどこかで「上司や同僚が何とかしてくれるだろう」と思っていたんです。
勉強して、現場をリードできるだけの知識を身に付ける。自分から周囲の人たちと信頼関係を築き、仕事をスムーズに進められる環境をつくる。そうして仕事を舵取りできるようになると、その仕事の本質的な面白さが見えてくるんですね。
自分が就いた仕事が「面白くないな」「自分には合わないな」と思う時は、まず自分で舵取りできるまで力を付けてみるといいと思います。その前に見切ってしまうのはもったいない。
自分で仕事を主導していく力が付いたら、きっと見える景色が変わって、仕事は面白くなっていくんじゃないかと思いますよ。どんな仕事も、「楽しめる自分」に変わることができたら、自然と天職になっていくのだと、私は思います。
70歳になっても現場に立ち続けたい
かれこれ10年以上この世界に身を置いていますが、働く環境もだいぶ変わりました。
以前は土曜日の稼働は当たり前だったし、20時頃まで働くこともありました。でも今は土日休みですし、17時までに撤収しなければならないので、16時半には片付けを始めます。
日舗建設は特に働き方の管理には気を配っているので、女性でも働きやすいと思いますよ。
この仕事は自分の仕事の成果が目に見えるので手応えもありますし、難しい資格を取得したら高い年収も実現できます。ぜひ若い女性にこそチャレンジしてほしいなと思います。
私は最近、1級施工管理技士の資格を取得しました。次はマンション管理士の資格を取得したいなと思っています。まだまだ学びたいことはたくさんあるし、少なくともあと10年は現場に立ちたいですね。
人生は一度きりだから、めいっぱい楽しみたい。私ね、昔、葬儀屋のお手伝いをしていたこともあるんですよ。人の死とたくさん向き合ってきたからこそ、人生を無駄にしたくない気持ちが強くて。
20代、30代でつまらなそうに働いている人を見ると、もったいないなと思うんです。自分が変われば仕事は楽しくなります。私ももっともっと力を付けて、仕事を楽しみ続けたいですね。
取材・文/光谷麻里(編集部) 撮影/笹井タカマサ


