東出昌大が守り続ける“地に足の着いた生き方”とは? 「勘違いしたら落ちるのは一瞬。等身大の自分を見失いたくない」

一流の仕事人には、譲れないこだわりがある!
プロフェッショナルのTheory

今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります。

東出昌大

東出 昌大(ひがしで・まさひろ)
1988年2月1日生まれ。埼玉県出身。モデルとして活躍した後、2012年、映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビュー。以降、朝の連続テレビ小説『ごちそうさん』や大河ドラマ『花燃ゆ』などに出演。14年、映画『クローズEXPLODE』で映画初主演。今後の公開待機作に映画『聖の青春』『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』などがある

189cmの長身は、その場にいるだけで視線を惹きつける引力がある。パリコレでも活躍した、日本人離れしたスタイルとは対照的に、まとう空気感は実直な日本男児の面影が漂う。

東出昌大さんは今、最も多くの映画監督から愛される若手俳優の1人として、活躍の場を広げている。その最新主演作が映画『デスノート Light up the NEW world』だ。

原作ファンの1人から、主演俳優へ
「デスノートを手にした瞬間は、禁忌を犯す想いがあった」

東出昌大

「僕自身、『デスノート』ファンの1人。だから、続編について不安視するファンの方の心理もよく分かるんです。でも映画って、単にビッグタイトルなら集客が見込めるとか、そういう甘い動機だけでつくられるものじゃない。完成した作品を見て、みなさんの不安も期待も乗り越えるものができたという手応えがありました。だからぜひ、楽しみにしていただけたら」

謙虚に、しかし力強い言葉で、そう東出さんは胸を張る。

共に熾烈なデスノート争奪戦を繰り広げたのは、Lの後継者・竜崎役の池松壮亮さんと、キラを崇拝するサイバーテロリスト・紫苑役の菅田将暉さん。本作では、20代を代表する実力派が勢揃いした。

「2人との共演はすごくうれしかったです。地方ロケの間は毎晩のようにみんなで食事に行って、いろんなことを話しましたが、先陣を切って現場のいい空気をつくってくれたのが池松くん。演技でも、トリッキーな役を完璧に自分のものにしながら、僕たちを引っ張ってくれました。菅田くんはものすごく美しくて、絵になる役者さん。トランプのジョーカーのように物語を引っかき回してくれました。彼らがいたからこそ、僕もすんなりと役に入っていけたんだと思います」

激しい銃撃戦や連日にわたる地方ロケなど、肉体的にも精神的にも過酷な撮影現場だったが、東出さんが最も極限を感じたのは、意外なワンシーンだった。

「初めてデスノートを手にした瞬間ですね。非常に静かなシーンではあるのですが、その分、緊張感はすさまじかった。もちろん役の感情を借りているんですけど、禁忌を犯すというか、そういう想いが沸いてきましたね」

「不安」は自分が勝手に作り上げる幻想
現実だけを見つめてプレッシャーを乗り越える

自らも原作ファンだっただけに、続編への出演は「プレッシャーを感じた」と本音を覗かせる。次々と話題作へのオファーが舞い込む毎日は、常にプレッシャーの連続だ。勢いに乗る28歳は、そんな不安や恐怖とどう戦い、乗り越えているのだろう。

東出昌大

「最近、草薙龍瞬さんの『反応しない練習』という本を読んだんですけど、その中に“不安や恐怖は幻想でしかない。そういうものに支配されそうになったら、朝食事したものを思い出せ”というようなことが書かれていたんです。緊張は妄想でしかない。でも、自分が食べたものは間違いなく現実です。だから、プレッシャーのような実体のないものに囚われそうになったら、現実を思い出すのが一番だって。それからはプレッシャーに潰されそうになったら、朝食べたものを思い出すようにしています(笑)」

ネガティブな感情を持ち続けている限り「自分は腐っていく」
この2年で変化した仕事への意識

俳優デビューは2012年のこと。以降、朝ドラや大河ドラマなど大作に次々と出演し、その名を広く知らしめた。だが、14年のあるインタビューで、本人は「演じる仕事を、今ははまだ楽しいとは思えない」と告白していた。あれから2年、今、東出さんにとっての仕事に対する意識は少しずつ変化している。

東出昌大

「楽しいともまたちょっと違うけれど、格段にあの頃より自分の仕事が好きになってきました。お芝居をやっていて良かったと思う瞬間も増えてきたと思います」

キャリアを重ねることで、少しずつ仕事が好きになってきた。それは、ちょうど東出さんが俳優デビューを果たした頃と同時期に就職をしたWoman type世代にもうなずける感覚だ。

「それこそ『桐島、部活やめるってよ』から始まって『クローズEXPLODE』の頃とかはプレッシャーがハンパなかった。あの頃に比べると頭でっかちに物事を考えなくなったし、あまり焦りも感じなくなったと思います。たぶん自分がつらいと思っている限り、どんどん腐っていくだけだということに気づいたんでしょうね。あの頃の僕は、ストレスを感じているふりをしていただけだったのかも。今はもう少し肩の力を抜いて仕事に臨めるようになった気がします」

そう言って、照れ臭そうに笑った。洗いざらしのシャツのような無垢な笑顔。この素朴さに、多くの人が心を奪われてしまうのだろう。

自分を過大評価したくない
「臆病な性格」が第一線で仕事を続ける強みになっている

だが、そんな人気商売でありながら、東出さん自身は浮き足立ったところがまるでない。むしろ俳優である前に、1人の人間であることを大事にしている。

「それはたぶん僕が臆病だから。この仕事は華やかだと思われがちですし、ちょっと人様に認知されるようになれば、単に仕事をしているだけなのに、いろいろな方が『すごいね』って悪気なく声を掛けてくれる。でも、そこで自分まですごいと思ったら落ちるのは一瞬。そうならないために、毎回ちゃんと選挙にいくとか、自分の買い物は自分でするとか、意識的に“生活者としての自分”を大事にしようとしているのかもしれません」

等身大の生活感覚を持ち続けていることが、芸能界という“特殊なフィールド”において東出さんの強みとなっている。

東出昌大

「初めて1人暮らしをしたとき、普通に生きてくのって大変だなあって痛感したんですよ。メシ作るのは大変だし、買い物に行けばソーセージは高いし(笑)。そういう感覚はずっと大事に持ち続けたい」

また、2016年6月に双子の父となった東出さん。子育てをしながら生活することの大変さも、身に染みているとのこと。

「親のすごさを再確認しています。僕自身、小さな子が亡くなるニュースをテレビで見ると、今まで以上に感じるものが増えたし、いろいろな心境の変化が生まれています。役者という職業は、私生活の変化が特に仕事に反映しやすいもの。きっと今、僕が感じているさまざまなことが、これからの仕事に活かされていくんだろうなと思います」

仕事へのプレッシャー。ライフステージの変化。いろいろなものに揺れ惑いながら、東出さんは一歩ずつ進んでいく。その葛藤は、働く世界は違えど、東出さんと同世代なら誰もが感じるものばかりだ。だからこそ、今、28歳の東出さんに聞いてみたい、「あなたにとっての仕事とは」の答えを。そう質問をぶつけると、実に20秒もの間、東出さんは熟考し、そして口を開いた。

「かけがえのないものですね。ずっと続けていきたいし、続けていくと思います」

それは、シンプルで、嘘のない言葉だった。直球の答えに東出さんは恐縮そうに頭を下げたが、きっとこの実直さこそが、東出さんが人を惹き付ける1番の理由に違いない。

東出昌大

俳優である前に、1人の人間であることにこだわる。そのプリミティブな生き方が、“俳優・東出昌大”をさらに濃く深く、熟成させていく。


映画『デスノート Light up the NEW world』
10月29日(土)より全国ロードショー
©大場つぐみ・小畑健/集英社  
©2016「DEATH NOTE」FILM PARTNERS
公式サイト:deathnote2016.com


取材・文/横川良明 撮影/赤松洋太


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