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APR/2017

【古市憲寿×田中俊之対談:後編】「3歳児神話なんて真っ赤なウソ」働く女性たちが“昭和の価値観”にまどわされてはいけない理由

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長い目で見れば、日本社会も仕事と育児を両立しやすい環境へと変わっていくだろう。今はその「過渡期」だと古市憲寿さんと田中俊之さんは言う。けれども、まさに今からこの問題にぶつかろうとしている女性たちからすれば、「過渡期」の一言では済まされないのも事実。目の前の困難を乗り切るために、女性たち自身ができることは何だろうか。

【古市憲寿×田中俊之対談:後編】
【写真左】古市憲寿さん
1985年東京都生まれ。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示した

【写真右】田中俊之さん
1975年生まれ。大正大学心理社会学部准教授。社会学の「男性学」研究を専門とする。著書に『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社+α新書)がある

女性たち自身も昭和的価値観から抜け出せていない

――女性が仕事と育児を両立しづらい背景には、制度や仕組みの問題以外にも、世の中の価値観の変化が追いついていかないことも1つの原因としてありますよね。

古市:僕のまわりにも、出産後の仕事復帰に苦しんでいる人がいます。保育園が見つかったとしても、小さな子どもを持つ「お母さん」が働くことに、祖父母世代がいい顔をしない。彼女たちからすれば、これまでもずっと働いてきたんだから、子供を保育園に預けて働き始めるというのは当たり前のこと。でも、その上の世代には「女性は家にいるもの」という昭和的な価値観がいまだに残っていることが珍しくありませんよね。ちょうど今の60代は、専業主婦が一番多かった世代でもあります。

田中:思っている以上に、まだまだ昭和から地続きなんですよね。例えば寿退社という言葉はすごく古い概念のように感じますけど、結婚して会社を辞める人の割合というのは、昭和の終わりに約40%だったものが、だいぶ減ってきてはいるものの、2014年になっても17%はいるんです。さらに、出産ということになれば、半分以上の人が一度会社を辞めている。働く女性本人の意識という意味でも、昭和はまだ続いている気がします。

【古市憲寿×田中俊之対談:後編】

古市:一方で、働き続けるという道を選んだとしても問題はあります。先日、エンジン01というイベントで「人生125年時代の人生論」をテーマにしたシンポジウムに出てきました。「人生100年」ではなく「人生125年」としたところに、生への執念とガッツを感じますが、そこで話題になったのが、リタイア後の男性の生き方です。昭和的にがむしゃらに働いてきた彼らが、定年後にさらに半世紀も生きることに耐えられるだろうかということ。多分無理なんじゃないか、という結論になりました(笑)。

田中:そうでしょうね。彼らにはこれといった趣味も友達もいないでしょうから。

古市:20歳前後から定年までずっと会社が居場所だった男性が、いきなり家庭や地域に放り出されるわけですもんね。でもそれって、若い世代の男女にも同じことが言えるわけですよね。キャリアのために家庭を犠牲にするような昭和的な働き方をし続けたら、結局は彼らと同じ問題を抱えてしまうことになる。

田中:そうですね。だから、働くにしても、結婚・育児をするにしても、「こうあらねばならない」という思い込みは捨てていかないと。そういう理想を強く持ってしまえばしまうほど、そうはならなかった時にすごくつらくなりますから。

古市:結婚したから幸せ、できなかったから不幸せということではないですしね。離婚率も高まっています。平均寿命が延びていけば、1つの結婚が一生続く確率も減っていくでしょうし。

【古市憲寿×田中俊之対談:後編】

田中:子育てに関してもそうで、不安が多い分、本やネットを見て「何かを断定するような情報」に飛びつきたくなるんですよ。でもそのほとんどはまやかしで、結果としてあっちではこう言っていた、でもこっちではこう書いてあったと迷走して、無限に検索し続けることになる。不安になればなるほど損な気がします。

古市:自分の経験に基づいて語られた子育て論は多いですが、サンプル数でいえば1か2しかないわけです。そんなもの、研究で言ったら全く信ぴょう性がない。子どもが3歳になるまでは母親が育てるべきという「三歳児神話」もデタラメです。今では文部科学省までが「合理的な根拠はない」と否定しています。1961年に始まった3歳児検診が起源と言われていて、たかだか半世紀前のこと。日本の伝統でも何でもないんです。

田中:女性がネットの情報を見て余計に不安になってしまったりするのは、彼女たちの悩みを夫が解消できていないからだと思います。そういう意味でも、僕たちは昭和的価値観から脱却しなければなりませんよね。

“結婚向き”なパートナーを見極める方法は、お金のかからないデートを重ねること

――世の中の価値観や、国や企業の状況が変わっていくスピードは決して速くはないと思います。「社会が変わるまで」と、結婚や出産のタイミングを伸ばすわけにもいかないものですが、女性たち自身ができることはあるのでしょうか?

田中:即効性のあるアクションというのはなかなか難しいですが、これから結婚をする女性にできることは、育児に積極的な姿勢を持つパートナーを選ぶことではないでしょうか。

【古市憲寿×田中俊之対談:後編】

古市:パートナー選びに関して、何かアドバイスはありますか?

田中:ポイントは、恋人選びと配偶者選びは違うと認識しておくこと。スポーツができたり面白かったり仕事がバリバリできたりという、いわゆる男性っぽい人は確かに恋人としては魅力的かもしれません。でも、バリバリ働くということは、育児には協力的ではないということかもしれない。だから、そういう男性的な魅力とは違う、配偶者としての魅力で選ぶべきだと思います。

古市:とはいえ、多くの人は恋愛結婚をするわけですから、その切り替えが難しいですよね? どうやって見極めたらいいですか?

田中:オススメしたいのは、お金をかけないデートを重ねてみることですね。例えば、テーマパークに行ったら楽しいけど、「その人と行ったから楽しいのか」というとそうとは限らない。映画デートも面白い映画を見たら楽しいけど、それって誰と行ったかとは関係ないじゃないですか。たくさんお金をかけたら確かに楽しいデートになるかもしれないけれど、相手がどんな人でも楽しめてしまうので、パートナーの見極めになりませんよね。一方で、公園でただ2時間話すだけのデートだったら? スタバの飲み物代しか掛けなくても延々と楽しめるような相手とだったら、いい家庭を築けるんじゃないかなって思います。

【古市憲寿×田中俊之対談:後編】

古市:「この男性と一生一緒にいたいか」ということは考えても、「この人と10年以上、育児を一緒にできるのか」までは思い至らないことも多いかもしれませんね。

田中:あとは同棲するのもいいですよね。相手が家事をする人間なのかがすぐ分かるから。

古市:最近似たような話を聞きました。知り合いのカップルが同棲をし始めたんですが、2人で家にいた時に、インターホンが鳴った。その時インターホンのすぐ近くに座っていた彼氏が「インターホン鳴ってるよ」と言ってきたそうなんです。自分ではインターホンさえも取ろうともしない姿を見て彼女の方は「ああ、この男とずっと暮らしていくのか」とげんなりしたそうです。

田中:その人は子供が生まれた後も絶対に「ねえ、赤ちゃん泣いてるよ」と言ってきますね(笑)。大人の価値観はそう簡単には変わりません。「私のことが好きなんだから彼はきっと変わってくれるはず」なんて女性の方も期待せず、最初から家庭的な男性を選んだ方がいいでしょう。一人の大人の価値観を変え、行動まで変えさせるとなれば本当に一大プロジェクトですよ!?

【古市憲寿×田中俊之対談:後編】

古市:中には「俺は稼ぐから問題ない」と主張する男性もいるかもしれないですけど、ベビーシッターを使うのに何万円もかかるって現実を考えれば、年収4000万、5000万は稼がないと完全に育児を外注するなんてことは成立しない。それだけ稼げないなら、男性の側も家庭的になるしかないってことですね。

田中:男は女性にモテたい生き物ですから、女性たちが家庭的な男性を積極的に選ぶようになれば、男性側の変化も速いと思いますよ。

古市:確かにそうかもしれませんね(笑)

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取材・文/鈴木陸夫 撮影/赤松洋太

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