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MAY/2017

「働く親はなめられている」矛盾に満ちた日本の保育をどう変える?――境治・治部れんげ・日経DUAL編集長『みんなの保育の日』トークセッションレポート

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国は女性に「働けよ産めよ」というけれど、無理なく両立ができるような環境はまだ整っていない。

働きたいけど保育園に入れない?
保育園に入れないから働けない……?

働く女性が抱えるこうしたモヤモヤは、どうしたら解消できるのだろうか。

2017年4月19日(水)、東京・六本木ニコファーレにて認定NPO法人フローレンスが主催する『みんなの保育の日』イベントが開催された。小池百合子都知事からのメッセージも寄せられたほか、「保育や子育て」に関わりながら、さまざまな分野で活躍する識者が多数登壇。

みんなの保育の日
・『日経DUAL』編集長 羽生祥子さん
1976年生まれ。京都大学総合人間学部卒業。株式会社編集工学研究所などを経て2005年、現日経BPに入社。共働きのママとパパに向けたノウハウ情報サイト『日経DUAL』を企画、13年11月にオープン

・コピーライター/メディアコンサルタント 境治さん

コピーライターとしてフリーランスで活動。その後、映像製作会社ロボット、広告代理店ビデオプロモーションを経て、13年7月から再びフリーランスに。CM・ポスターなどの広告制作からメディアコンサルティングまで幅広くこなす

・ジャーナリスト 治部れんげさん
昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。97年一橋大学法学部卒業後、日経BP社入社。経済誌の記者・編集者を務める。14年からフリーのジャーナリストに。著書『稼ぐ妻・育てる夫―夫婦の戦略的役割交換』(勁草書房)、『ふたりの子育てルール』(PHP研究所)。息子(小学生)と娘(幼稚園児)の母親。家事・育児を夫婦で半々に分担しながら、共働きで子育てを行う

トークセッション「今年も保育園落ちたけど・・・日本死んだら困るよね?」では、『日経DUAL』編集長の羽生祥子さん(モデレーター)、メディアコンサルタントの境治さん、ジャーナリストの治部れんげさんの3人が登壇し、国内の“矛盾に満ちた保育”にまつわる現状について、熱い議論が交わされた。今回はその一部をご紹介しよう。

働きたいから子どもを預けたいのに、働いていないと預かってもらえない

羽生さん(以下、羽生):安倍総理は以前「2017年度末までに待機児童ゼロを目指す」という公約を掲げてかなり注目を集めていましたが、その約束をあっさりと破ってくれました。今は「2019年度の末までに」と言っています。何年間約束破り続けるんでしょうか? 保活という言葉も浸透していますが、これはかなりひどい状況ですよね。

境さん(以下、境):そう思います。僕が保活について取材を重ねてきた中から1つ事例をお話しします。ある女性が、「これから働きたいから子どもを保育園に預けたい」と思って申請しに行ったらしいんですけど、そうしたら「今現在働いてますか?」って聞かれたらしいんですよ。で、「働いていない」と答えると、「じゃあ無理です」と門前払いされてしまった、と。これってちょっとおかしいですよね。「働きたい」から「子どもを預けたい」のに、働いていないと子どもを預かってもらえない。矛盾に満ちた保活に「日本死ね」って言葉が出てくる気持ちは分かるような気がします。

羽生:私の後輩も、「認可保育園に入りたい」って言ったら就業証明書が必要だと言われたそうです。境さんは以前、「赤ちゃんに厳しい国で赤ちゃんが増えるわけがない」とブログで書かれていて、何十万と言う人にシェアされていましたよね。

境:「70万いいね」くらいだったかな。

羽生:完全に「良くないね」ですけどね(苦笑)。日本って、少子化の国じゃなかったんでしたっけ? 労働人口少なくて困ってるんじゃなかったんでしたっけ? 働きながら育てたい人にとって、まるで罰ゲームのような状態が15年くらい続いています。治部さんはお子さんがいらっしゃいますが、いかがでしょうか?

治部さん(以下、治部):私は今子ども2人を育てているところなんですが、上の子が保育園には通っていたのは約10年前。当時は「都内に住んでいて、両親フルタイムの共働きで、おじいちゃんおばあちゃんが近くにいない」という条件だったら、ゼロ歳児ならだいたい保育園に入ることができていたと思います。1歳でも入れるとこが多かったような。でも、今だと、同じ条件でも保育園に入れない人は多いみたいですね。やっぱり、保活は年々厳しくなっていると感じます。

政治家には「働く親の問題」が可視化されていない

羽生:境さんは保育園の取材よくされていますよね。実際に、保育園は足りていないと感じますか?

境:都心の保育園は圧倒的に足りないですよね。都心で働く若い世代の親にとって、郊外に住んで子どもの送り迎えをしながら1日何時間もかけて都心に通勤するのはきついものです。すると、「自宅もなるべく都心に近いところで」となりますよね。

安倍総理が掲げていた「待機児童ゼロ公約」も、相当無理があるものだったんです。急激に若い夫婦が都心に増えていて、保育園のニーズが増えているから、作っても作っても数が足りない。保育園建設には反対する地域の人も出てくるから、作ろうとしても延期が重なってしまったりもしますし。

羽生:いつも保育系の事業って後回しにされてしまうことが多いと感じるんですが。

治部:こういう状況がずっと続いているのは、単純に「働く親」が政治家からなめられているからなんですよ。コケにされているんです。

羽生:というと?

治部:皆が払った税金を、どうやって使うか優先順位を決めるのが政治なんですよ。その中で、保育の優先順位は明らかに低いですよね。なぜ保育や働く女性の問題が後回しにされるかというと、当事者が「国会に来ない」から。結局のところ、政治家たちの頭にあるのは、自分達がよく接触する人たちのことなんです。当たり前ですけど、働く親は忙しいから、昼も夜も国会に顔を出す時間なんて持てない。政治家から見て、働く親の問題は可視化されている度合いが少ないので、働く親に対する政策が手薄になってしまうんです。

国が本気で「待機児童ゼロ」を目指すなら、ちょっと新しい施策打つくらいじゃダメ。さっき、保育園を作っても作っても待機児童問題が解消されないって話がありましたけど、近くに保育園が出来ると、働きたい専業主婦・主夫が掘り起こされます。いろいろな試算の方法がありますが、一説には潜在的な待機児童の数は80万人もいると言われていて、その背景には「保育園には入れれば、働きに出たい人」がたくさんいます。その人たちにも保育園を使ってもらうためには、ちょこちょこ増やしているくらいじゃ到底ニーズに追い付きません。

待機児童ゼロに向けて必要な予算は1.4兆円
消費税を1%上げて、全部子どものために投入すればいい

治部:京都大学の柴田悠先生によれば、待機児童全員を保育園に入れるなら、ざっくりですが1.4兆円の予算が必要だそうです。これは、年間の消費税1%分くらいに相当する額です。結論から言うと、もし本気で日本が待機児童問題を解決したいなら、消費税を1%上げて、全部子どものために投入すればいいんです。

羽生:なるほど。安倍総理が待機児童ゼロ公約の期限を変える発表をした時に行政側が言っていたのが、「女性の就労意識がこんなに高いとは思わなかった」みたいなことだったんですよ。あれ?「女性輝け」って言ってませんでしたっけ。うかうかと意欲高めてしまってごめんなさいね、という感じです(笑)! それで「受け皿足りませんでした」って言われても、そんなもの準備しといてよって思ってしまいます。

治部:子育て世代に限らず、一人一人がそういう現状や保育について関心を示していかないといけないですね。あと、子育て事業のためなら税金払うよって姿勢も見せた方がいい。

羽生:1.4兆円くらいの予算って介護とか、高齢者のための事業だとついている気がしますよね?

境:よく「世代間抗争」とか言われるけど、お年寄りの世代でも、「若い世代や子どものためにこれくらい予算が必要だ」って説明したら、分からない人ばかりじゃないと思うんです。ちゃんと政治家がプレゼンテーションしないで、逃げちゃってるだけなんじゃないかと。

「自主保育」に「共同保育」……保育のカタチは多種多様! 自分に合った方法を選択をしよう

羽生:境さんが以前書かれていた記事の中で、「認可保育園だけだと限界がある」って話がありましたよね。

境:今、「認可保育園至上主義」になってないかなあっていうのが疑問なんです。もちろん、数が足りていないんだから、もっと認可保育園が沢山あった方がいいとは思いますけど。実は、保育のやり方っていっぱいあるのに、それが周知されていない部分も大きいなと思っていて。例えば、自主保育とか、共同保育とか、いっぱいあるんです。特に、「共同保育」というやり方は、今まさに保活で困っている人に教えてあげたいですね。

羽生:具体的にどんな方法なんですか?

境:保活中の人たち十数人が集まって、一軒家を借りて、保育士を雇って皆で一つの保育園を運営しちゃうやり方なんです。大変そうに聞こえるかもしれないけど、実際やってる人を取材すると、とっても楽しそうなんですよ。自分たちで保育園を運営するわけだから、親同士も顔をちょくちょく合わせて、皆で酒盛りなんかしながら、「これからどうするか」話し合ったりして。支え合う仲間ができるんですよ。すると、子どもが共同保育園を卒業しても、子ども親も時間が出来た時にまた遊びに来たりすることもできて、ずっと繋がっていられるんです。まるで、ある種の「村」みたいだなと感じました。「認可保育園にはいらなきゃ」って頭になっている人は多いと思うんですけど、実は知らないだけで保育の方法は色々あります。自治体は、そういうことをもっと周知したり、サポートしたりできるといいですよね。

治部:私は今郊外に住んでいるのですが、下の子は私立の幼稚園に通わせていますよ。幼稚園から「お弁当持ってきてください」って言われた時は戦々恐々としましたけど(笑)、先生が「皆、うまく手を抜いてやってますよ」って励ましてくれたので、預かり保育を使いながら、なんとかやっています。園でイベントごとなどがある時は、お母さんもお父さんも結構協力するんですけど、そういうものに関与することによってコミュニティーの一員になれるので、親が孤立しないで済むのはいいなと思います。

男性上司を本気にさせるために働くパパは声を上げよ

羽生:親が保育に参加するためには、働き方も見直さなければいけませんね。

治部:保育の問題って未だに「ママが職場に復帰できない」問題とセットで語られがちです。でも、もっとパパたちにも保育を「僕の問題」として捉えてほしい。それが社会を大きく変えるカギになります。例えば、営業マンの男性が「子どもが保育園に入れなかったから、来月から会社に行けません。会議にも出られません」って言ったらどうでしょうか? そう部下に言われたら、男性上司や男性経営者たちは、もっと本気で「どうにかしなくては」と思うはず。ぜひ、パパたちには勇気を持って声を上げてほしい。

羽生:まさにそうですね。1人で言うのは難しくても、同じ境遇にいる人と一緒に声を上げてみるといいかも。

治部:そして、「都心一極集中」の問題を解消するには、「無駄な通勤」を無くすことが手っ取り早い。日本では、意味もないのにただオフィスにいるということが多過ぎます! 自宅勤務を増やしてもいいし、もっと働く時間や場所に縛られないよう、選択肢を広げていくべきです。

羽生:利便性のためだけに都心に住んでいる世帯だって多いわけですからね。都内でも、郊外なら保育園に空きがあるところもあるんですよ。でも、その地域から都心の会社に通勤するためには、1日3時間くらい電車に乗っている……みたいな状態になってしまったりするので。

治部:国全体で、会社員の働き方をもっと自由に変えていけるはずですよね。ただ、「自由」と「責任」は表裏一体。働き方の自由度を上げるのであれば、その分パフォーマンスに対する責任も厳しくなりますから、それを私たちは認識しておかなければいけませんね。

取材・文・撮影/栗原千明(編集部)

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