“愛される男”岡田将生の秘密「変わりたいけど、変われない。そんな自分は痛い男かも」
今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります。
チャーミングな笑顔と人をなごませるピュアなキャラクター。俳優・岡田将生は“愛され力”の塊のような人だ。そんな彼が正反対のクズ男を演じているのが、映画『伊藤くん A to E』だ。

岡田 将生(おかだ・まさき)
1989年8月15日生まれ。東京都出身。映画・テレビ・舞台と幅広く活躍。主な出演作に、映画『天然コケッコー』『雷桜』『ストレイヤーズ・クロニクル』『銀魂』『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない第一章』、テレビドラマ『ゆとりですがなにか』『小さな巨人』『名刺ゲーム』などがある
主演ドラマ『ゆとりですがなにか』に代表される通り、これまで等身大の役どころを演じる機会の多かった岡田さん。だが近年は、映画『何者』の他人を見下しがちなクリエイター志望の大学生や、ドラマ『小さな巨人』のしたたかなエリート刑事など、クセの強いキャラクターで新たな一面を開拓している。
28歳、とどまることを知らない躍進の裏側には、変化に対する強い渇望があった。
変化は苦手。でも、不安を乗り越えて“余裕”のある自分になりたい
岡田さん扮する伊藤くんは、イケメンだけど自己中で無神経なモンスター級の“痛男”。まさに女性の大敵と言えるような役どころだが、岡田さんは演じながら「ある種の憧れのようなものを感じた」と明かす。

「伊藤は、手を挙げて自ら積極的に発言するタイプ。僕はその逆で、すぐに内にこもるし、あんまり自分から発信するのも得意じゃない。本当はそれが嫌なのに、28年間、結局何も変えられないままここまで来てしまって、そんな自分がまた嫌になることがあります(笑)。変わらないといけないなと思いつつ、何も変えられない。そういう自分のことを“痛い”なと思うことはあります」
だからこそ、真逆の伊藤くんに惹かれるものがある。
「普通は物語の起承転結の中で、大なり小なり主人公が変化したり、成長したりしていくもの。だけど、伊藤は全く変わらない(笑)。何だかそれはそれで新しいですよね。ここまで変わらないと、いっそ清々しくて、ちょっと憧れます」
だが、俳優・岡田将生はキャリアの中で多彩にその表情を変え続けてきた。初主演映画『ホノカアボーイ』でイノセンスなまばゆさを放つと、映画『告白』では空回りしすぎる熱血教師を、さらに映画『悪人』では高慢な大学生を演じ、今回の伊藤くんに通じる片鱗を示した。以降も、ドラマ『ST 赤と白の捜査ファイル』で見せた振りまわされキャラや、ドラマ『掟上今日子の備忘録』の常に犯人と疑われる不運キャラといった十八番の役どころを軸に、実に幅広い役柄に挑戦し続けている。

「年齢とキャリアを重ねるとともに、いろんなことに挑戦させてもらえる機会が増えてきました。僕自身、以前と比べて人の見方も作品の見方も、少しずつ変化してきている。今は、ちょっと変わった役とか悪役のようなキャラクターも演じられるようになってきたし、むしろ最近はアクの強い役の方が純粋な役よりも演じていて楽しいですね」
求められるキャラクターやポジションが変わっていくことに喜びを感じている岡田さん。そこには、まだ見ぬ自分への期待が込められている。
「ずっと同じような仕事ばかりではつまらない。やったことがない仕事のオファーをしていただけたときは、もちろん嬉しいですね。一方で、試されているような気持ちとプレッシャーも感じます。でも、そんな不安を何とか乗り越えられたときに、今までの自分とはまたちょっと違う余裕みたいなものが生まれてくる。そういう自分の変化を感じられるのが、今はすごく楽しいんです。変化は苦手だけど、あえて自分に負荷をかけるようなチャレンジはしていかなきゃいけないな、と思ってます」
「100点をもらえる仕事なんてない」評価や自信より大事なのは、「好き」な気持ち
一方で、岡田さんはこれまでも数々のインタビューで仕事に対する自信のなさを語っている。
「今も全く自信なんてないですよ。多分、それはずっと変わらないと思います。未だに人前に立つのも、誰かに注目されるのも苦手。それなのに、何でこんな仕事してるんだろうってよく思います(笑)」
そう恥ずかしそうに笑顔を浮かべる。
「いろんなことにチャレンジできるのは楽しいですけど、やる前は不安の方がずっと大きい。『なんでできると思って手を挙げちゃったんだろう……』って後悔することもよくあります」
だが、それでも岡田さんはチャレンジをやめない。特に俳優業は評価がはっきり出る仕事だ。プレッシャーの大きい世界で、自分に自信がなくて内にこもりがちな岡田さんを支えているものは果たして何なのだろうか。

「僕の場合で言えば、その作品が好きか嫌いか、それだけなんじゃないかなという気がします。自分が好きだと思ったら、余計なことは考えず、ただ全力でやるだけ。たとえその結果がダメだって世間から言われたとしても、自分が好きだと思ってやったことなら、その気持ちは絶対に曲げちゃいけないと思っています」
それは、私たちだって同じなのかもしれない。自分に自信があるかどうかなんて関係ない。目の前のことを好きと思えるかどうか。本当に好きだと言えることなら、たとえ自信がなくたって踏み出す勇気は自然と湧いてくる。
「確実に100点をもらえる仕事なんてどこにもないと思います。だから大切なことは、自分の選択したものに関しては、絶対にベストを尽くすこと。ただそれだけです。今回で言えば、僕は廣木(隆一)監督と一緒にやりたいと思った。その自分の気持ちさえ信じていれば、何も迷うことはありませんでした」
内面的な部分では全く変われないという岡田さんが、こと仕事に関しては変化を恐れることがないのは、「好き」を信じる強い気持ちがあるから。それが、俳優・岡田将生のプロとしてのポリシーだ。
苦手なことほど一生懸命。カッコ悪くても全力で応え続けたい
岡田さんはちょっと天然なところが魅力の愛されキャラだ。バラエティー番組でも、周囲からの無茶ブリに一生懸命応えようとしている姿が、多くの女性たちの心をときめかせているに違いない。
「バラエティーはすごく苦手です。観るのは大好きなんですけど、できることなら観ているだけがいいですね(笑)」
そう本音をこぼしつつ、岡田さんは困ったような笑顔を浮かべた。
「だからバラエティーに出させていただくときは、とにかく芸人さんたちに迷惑がかからないように一生懸命やりたい。芸人さんって、頭の回転が速くて、繰り出す言葉がみんな面白いし、本当に尊敬します。とてもじゃないけど、僕にはついていけません。だからこそ、せめて自分にボールを投げられたときは、たとえカッコ悪くてもいいから、全力で返したいなっていう気持ちが強いんです」

決して得意分野ではないフィールド。でも、そこにいる人たちへのリスペクトがあるから、苦手であっても果敢に前に出る。そうした姿勢は、日々の私たちの仕事でも見習いたいポイントの1つだ。
「誰でも苦手なことはあると思います。でも、仕事の中では苦手なことに挑戦しなきゃいけない場面がある。そういうときは、すごく精神的な話になってしまいますが、気合いと根性しかないですね(笑)。『やらされている』じゃなく、『やらせてもらっている』ってマインドチェンジしたら、苦手な仕事も少しはポジティブにとらえられるんじゃないかなと思います」
そう言って「でもバラエティーが終わった後は、いつも傷ついて帰ってるんですけどね」とお茶目に笑った。
きっとこんな誠実さに、私たちは惹かれてやまないんだろう。自分がどう見えるかなんて気にしない。周りのためにとにかく一生懸命になれる。そんな人は、きっと仕事においても人生においても、人から求められる“愛され上手”になれるはずだ。

取材・文/横川良明 撮影/吉永和久
映画『伊藤くん A to E』2018 年1月12日(金)より全国ロードショー
出演:岡田将生 木村文乃 / 佐々木希 志田未来 池田エライザ 夏帆 / 田口トモロヲ・中村倫也 田中 圭
監督:廣木隆一
配給:ショウゲート ©「伊藤くん A to E」製作委員会
公式サイト:http://www.ito-kun.jp
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