普通の会社員が未経験からの転職でアナウンサーになれたのはなぜ?―フリーアナウンサー日々野真理さん×藤井佐和子さん対談・前編


【今回のゲスト】フリーアナウンサー 日々野 真理さん
三重県出身。短大卒業後、アメリカに語学留学。帰国後、会社員を経てフリーアナウンサーに転身。1999年よりJリーグのレポーターとしてサッカー中継やサッカー関連番組に出演を続けている。2003年からは、女子サッカー「なでしこジャパン」の密着取材も続け、フジテレビのリポーターとしてワールドカップなどの試合中継や『すぽると!』に出演している。著書に『凛と咲く なでしこジャパン30年目の歓喜と挑戦』(ベストセラーズ)

英語を身につけるためアメリカへ留学
帰国後は語学力を生かして働くはずが……!?
藤井さん(以下、藤井):日々野さんと知り合ったのは昨年10月ですよね。知人たちが集まる食事会があって、そこで初めて顔を合わせて。
日々野さん(以下、日々野):そうでしたね。初対面ですぐに意気投合して。その上、今日はこうしてゲストに呼んでもらってありがとうございます(笑)
藤井:こちらこそ(笑)。では早速、日々野さんのこれまでのキャリアについて聞いていいですか。現在はなでしこジャパンなど、サッカー関連のレポーターのお仕事を中心にフリーアナウンサーとして活躍されていますが、どうしてこの仕事をすることに?
日々野:私は短大卒業後、就職せずアメリカに語学留学したんです。短大在学中にアメリカにホームステイした経験があって、すごく楽しかったんですね。それで「海外の人と英語でちゃんとコミュニケーションできるようになりたい」と思い、卒業後に2年間、ロサンゼルスへ留学したんです。せっかく来たからには、英語を絶対にものにするぞと決意していたので、他の日本人留学生とつるんで遊ぶこともなく、英語漬けになるよう自分を追い込みました。あの時が人生で一番勉強したと思う。
藤井:えらいなあ。じゃあ、日本に戻ってからは、英語を生かせる仕事を探したんですか。
日々野:ええ、就職活動をして流通関係の会社に入社しました。採用担当者から「英語が話せる女性の総合職が欲しい」と言われたのが決め手でした。でも結局、仕事で英語を使う機会はなかったんですけどね。
藤井:えっ、なかったの!?
日々野:うん(笑)。入社してしばらくして、この会社で英語を使うことはないと分かりつつも、3年間はここで頑張ろうと決めたんです。私は社会のことを何も知らないのだから、ここで会社勤めを経験して、学べることはきちんと学ぶべきだろう、と。それに仕事自体は面白かったですしね。生活雑貨や家具などを扱う会社だったのですが、ただ普通に商品を売りこむのではなく、例えば「ガーデニングのある暮らし」というライフスタイルそのものを提案して、その中の一つのアイテムとして自社のガーデニンググッズを使ってみるのはいかがですか、という提案をするスタイルの企画営業です。女性ならではの目線を生かせるし、お客さまと話すのも好きだったので、やりがいはありました。
偶然目にしたアナウンサー募集の広告
まったくの未経験なのになぜか面接を受けていた

藤井:それでも当初の予定通り、3年後には転職したんですね。
日々野:しました。仕事は楽しかったけれど、この会社でやるべきことはやり切ったという思いがあったので。それで転職活動を始めようと思った時に、たまたま「アナウンサー募集」というプロダクションのオーディション広告を目にしたんです。
藤井:それがアナウンサーになるきっかけに?
日々野:そうです。でもそれ、経験者募集の広告だったんですよ。ただ、その募集内容の一番下に小さく「英語が話せれば尚可」と書かれていたんですね。それで私は、アナウンサーの経験なんてまったくないのに、「英語ができる人がいいなら、受けてみようかな」と“尚可”を超拡大解釈して応募書類を送ったんです(笑)。そうしたら、なぜか書類選考に通ってしまって、面接を受けることになったんです。
藤井:未経験なのに、よく通りましたね!
日々野:やはり英語ができることに興味を持ってくれたんだと思います。そうはいっても、実際に面接で原稿を読ませると下手なわけですよね、未経験ですから。ところが、その事務所の社長さんが「所属は決定です。一緒に頑張りましょう。うちで一からアナウンスの技術は教えるから、レッスンを受けなさい」と言ってくださったんです。「ただし、きちんとアナウンス技術が身に付いてからでないと仕事はさせないよ。中途半端な状態では表に出さない」と。
藤井:つまり条件付きで採用になったということですよね。それですぐにレッスンを受けることに?
日々野:留学の時もそうでしたが、私って「これをやる」と決めたら、そのことにのめり込んでしまうタイプなんです。ですからこの時も、毎週欠かさずレッスンに通いました。レッスンがない日もほとんど毎日のように事務所へ行って、発声練習などの自主トレをしましたね。
藤井:レッスンを受けてみて、自分はアナウンサーに向いていると感じました?
日々野:いや、自分ではよく分からなかったです。一緒にレッスンを受けていた子たちはどんどん上達していくのに、私はなかなかうまくならなかったし……。ただ、レッスンをしてくれた先生が「あなたは器用なタイプではないけれど、人間的にアナウンサーに向いていると思う」と言ってくださったんです。それと、「アナウンサーの本質として大切なのは、ただ上手に話すことだけではなく、心を込めて人とコミュニケーションを取ることだ」というのは、何となく理解できたんですね。私は前職で人に何かを伝えるという点では多くの経験をしていたし、人と話すのは好きだったので、そこを生かせるのではないかという思いが支えでした。
芸歴が浅いだけでオーディションに受からない
フリーの世界の厳しさを知る

藤井:アナウンサーとしての初仕事は覚えていますか?
日々野:ケーブルテレビの番組で、地元のお店を紹介するレポーターの仕事でした。ただ、デビューからしばらくは、なかなか仕事をもらえない時期があったんです。局アナとは違い、フリーのアナウンサーは1つ1つの仕事がオーディションで決まることが多いのですが、まずは書類選考で「芸歴」を見られるんです。つまり、過去の実績ですね。ところが私は未経験でこの仕事に就いたので、書類に書けるほどの芸歴がない。それで書類の段階で落とされることが多くて。精神的にも結構きつかったですね。
藤井:今でこそ「なでしこといったら日々野」というポジションを確立していますが、その前には苦労した時期もあったんですね。
日々野:ただ、書類では落ちるんですが、直接会ってお話をさせてもらった場合は必ずといっていいほど採用されるんですよ。それで、「プロフィールでは不利でも、こうしてちゃんと話をすれば、一人の人間として私を選んでくださる方がいるんだ」と思えるようになりました。今でも印象に残っているのが、テレビ東京のある番組のレギュラーに採用された時のこと。私を選んでくれたプロデューサーが、「君は泥をかぶっても、画面の向こう側にその泥を感じさせない力を持っている。そのキャラクターを大事にしなさい」と言ってくださったんです。
藤井:それはどういう意味だったんですか?
日々野:アナウンサーは華やかな職業で、自分をきれいに見せることが第一のように思いがちだけど、それだけじゃないよと教えてくださったんですね。内面から伝わる大切なものを失ってはいけないと。それで私も「あか抜けなくても、他の人にはない私の良さがあるんだ」と自信を持てるようになったし、経験のなさを嘆いたり、他の人と自分を比べたりする必要はないのだと思うようになりました。
≫≫後編 11年前から取材し続けている「なでしこジャパン」選手たちとの絆
取材・文/塚田有香 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)


MERCER BRUNCH
東京ミッドタウンから六本木通りに抜ける通り沿いの落ち着いたロケーションに位置する、フレンチトーストのブランチ専門店。ニューヨークで流行の西海岸スタイルを取り入れたモダンな雰囲気で、感度の高い大人が集う空間。モーニングステーキが定番メニューとして並ぶ“しっかり”食べ応えのあるNYスタイルのブランチメニューは特別な時間を過ごさせてくれます。 【住所】 東京都港区六本木4-2-35 アーバンスタイル六本木三河台 1F 【TEL】 03-3470-6551 【営業時間】 月~金 10:00~15:30 月~日・祝 18:00~24:00(L.O.23:00) 土・日・祝 09:00~18:00 【URL】 http://tabelog.com/tokyo/A1307/A130701/13149710/