誰も教えてくれなかった「一生懸命残業しても出世できない」事実

一生懸命残業しても出世できない事実

内閣府が今年発表した『ワーク・ライフ・バランスに関する個人・企業調査』の中におもしろい結果があります。

残業が多い社員ほど「頑張っている」「責任感が強い」と上司から思われている、というセルフイメージをもっているのですが、実際のところ、会社側は残業や休日出勤をほとんどしない人について「人事評価で考慮しない」が70%以上を占め、かえってマイナス評価よりもプラス評価の割合のほうが高いのです。つまり会社は残業しているからといってその人を評価しないばかりか、残業せずに時間内で仕事を終えられる人をより高く評価しているとも言えるでしょう。

日本で女性が子育てと仕事を両立できない理由、男性が家事に積極的にかかわれない理由の一番にあげられるのが「労働時間の長さ」ですが、この調査からわかるように、実際には大多数のまともな会社は社員に長時間働いてもらいたいとは考えていません。それはなぜでしょうか?

人間が集中できる時間は決まっている

まず、人間には集中して仕事をこなせる時間というものがあります。小学校の授業時間が45分、中学・高校では50分、大学で90分と決まっているのは、年齢によって集中できる時間の長さが違うからです。社会人でももちろん、7時間や8時間の勤務時間を休みなしに集中はできませんから、昔は午前と午後に1回ずつおやつタイムがある会社も多かったですし、今も工場などでは仕事の合間にラジオ体操などをしている会社もあります。また、授業時間が多い日に疲れてしまうのと同じように、仕事時間も長くなればなるほど効率は落ちてきます。このように人間の集中力は長時間持続しないものであり、たとえ休息をとったとしても長時間労働になればなるほど集中力が落ち、時間あたりの仕事の質が落ちていくのです。

しかし、質の悪い働き方しかできないにもかかわらず、会社は時間外労働になれば割増の残業代を払わなければならないですし、そんな状態が恒常化すれば労働監督署の指導が入り、ひどい場合には行政処分を受けます。また社員に万が一のことがあって過労死ということになってしまったら、社会的にも大きなダメージを受けます。まして昨今はすぐに「ブラック企業」と非難を受けかねないのですから、社員に長時間労働させても会社は何もメリットがないどころか、デメリットのほうが大きくなってしまいます。会社としては、社員が集中して効率よく仕事をし、勤務時間内にきちっと仕事を終了させてくれるのが理想なのです。

残業しなくてもどんどん出世していく人たち

東レで同期トップを切って取締役となり、その後東レ経営研究所の社長となった佐々木常夫さんは時間管理のプロとして現在も活躍されていますが、サラリーマン時代には肝臓病とうつ病を患い入退院を繰り返す妻の代わりに家事一切を引き受け、自閉症の長男を含む子供3人の世話をしながら責任ある仕事を任され、仕事にも家事・育児にも全力で関わった方です。

毎日会社を出るのは6時。妻と子供たちの世話をするため同僚が仕事をしていても帰らなければならず、朝は早出をしたくても子供たちのお弁当を作ってからの出社ですから8時になってしまいます。休みの日はたまった家事を片付けたり、入退院を繰り返す妻の見舞いや看病で終わってしまったといいます。

佐々木さんの働き方は朝から晩まで自分の時間を仕事に捧げるモーレツ社員とはほど遠いものでしたが、仕事時間中の集中力はすさまじく、次々と結果を出していきました。そしてその業績により取締役に抜擢されたのです。

私は個人的に大企業の重役を経験された方々を何人も知っていますが、本業の仕事以外にボランティアや趣味の世界をもっていらっしゃった方がほとんどで、佐々木さんほどではないにしろ、家族との時間もとても大切にされていました。そんな彼らの日常は大企業で出世する社員は家庭も顧みず仕事ばかりしている、というイメージとはまったくかけ離れていました。逆にモーレツ社員の部下の話をされるときなどは「あまり評価していないんだな」ということがはっきりわかりました。

シンガポールでも同じで、企業や政治のリーダーたちは忙しい中、実にワークライフバランスを重視した生活を送っています。若い人でも保育園の送り迎えを父親がしているケースは珍しくありませんし、男女ともによほどの緊急事態でもないかぎり深夜までの残業などありえません。

逆に『課長 島耕作』のように仕事に全精力を傾けて猛烈に働いて家庭を顧みず、しかも浮気までしてしまう、というようなストーリーは生理的に受けつけないようで「日本人はなぜこんな主人公が好きなのか理解に苦しむ」という感想を聞いたことがあります。また毎日、早朝から深夜まで必死に働いて出世をめざす同僚にセブン・イレブンというあだ名をつけて揶揄するのを聞いたこともありました。彼らにとって「仕事は時間内に終わらせる」が当たり前なのです。

低い日本人の労働生産性

ひと昔前には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と世界で絶賛された日本ですが、GDPを頭割りした2012年の労働者一人あたりの生産性はOECD加盟国34か国中21位と決してほめられた水準ではなく、1時間あたりの労働生産性となると4位のアメリカの3分の2程度と先進国の中では最低レベルの結果になっています。

原因は円安や付加価値の高い商品・サービスへの転換の遅れという指摘もありますが、それよりもまず、長時間労働を根本的に見直さない限り、現在のような低い時間当たり生産性では国際競争にも乗り遅れてしまいます。特に少子高齢化で働き手が急激に減少している中、企業経営者はとにかく社員一人あたりの労働生産性を上げようと必死なのです。

だらだら残業をしない段取りと仕事を断る勇気

もし自分が長時間残業を当たり前にこなし、効率の悪い働き方をしてと感じているようだったら、人手不足が声高に叫ばれるようになった今こそ逆にチャンスと思い、ぜひ自分の働き方を見直してみましょう。

だらだら残業が恒常化している職場では、朝からずっと緊張感がなく効率の悪い仕事の仕方が当たり前になっていて生産性が上がらないことが多いです。また、たまに仕事が早く片付いても周りがだらだら残業をしているために一人だけ先に帰りづらく、いっしょに居残りをしてしまったりという人もよく見受けられます。まず、頭が冴えている午前中にできるだけ効率よく仕事を片付けてしまえるよう段取りを考えてから仕事に取りかかり、終業後は周囲を気にせず退社する習慣をつけましょう(冒頭の調査では残業時間が多い人ほど残業をしないで帰りにくいと感じる、という結果がでています)。また、朝は始業ぎりぎりではなく、できるだけ早く出社する努力も必要です。多くの人が来る前に出社していれば、邪魔されることなく仕事の段取りが組めるからです。

それでも終わらない量の仕事を与えられそうになったり、当たり前になってしまっている勤務時間外の会議や打ち合わせなどがある場合は、はっきりと断る勇気をもちましょう。若い社員にとにかく大量の仕事を与えてこなさせるのは最近の大企業に多くなってきている風潮だそうですが、もしもそれを断って左遷や降格されるようだったら転職したほうがずっといいです。人生は長いのです。いつまでもそんな働き方ができるわけではありませんし、過労死してしまったら元も子もありません。また、現場レベルではわかってもらえなくても、上のレベルではわかってもらえる可能性もありますので直訴するという手がありますし、労働組合があれば組合に、なければ労働監督署に相談してみる方法もあるでしょう。

男性も女性も、一生、そして50年以上も働くことが当たり前になってくる時代に私たちは生きています。労働の質と量についても、これまでとはまったく違う価値観の働き方を模索して実践していく必要があると思います。

文/経営者・後藤百合子

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後藤百合子さん

著者プロフィール
後藤百合子

早稲田大学卒業後、公益法人、マーケテイング会社を経て独立。マーケティングリサーチ、翻訳、広告制作・販促プランニング、書籍編集等を行う。1994年香港にわたり、日系商社に入社。営業・生産管理業務に従事。1998年後藤製紐株式会社入社。2000年代表取締役就任。同年中国工場を中国浙江省に設立。2009年東京営業所開設。2010年シンガポールに移住。2012年現地法人(Cordon Singapore Pte. Ltd.)設立、日本の若手デザイナーの製品をシンガポールを始め香港、マレーシアなどアジア市場に紹介・販売するディストリビュータ業を開始。

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