「社会貢献がしたい!」だけではNG! NPOで働くというキャリア

特に「子育て支援」、「教育」や「国際協力」などの分野では、自らの経験を糧に、強い想いを抱いて活動に取り組む女性スタッフが数多くいる
東日本大震災以降、社会貢献性の高い仕事をしたいと考える人が増えている。そんな想いをダイレクトに叶える職場として、注目を集めているのがNPO法人(特定非営利活動法人)だ。
これまではボランティアとして関わる人がほとんどだったNPOだが、ここ数年、規模の大きい団体も少しずつ増え、人材採用ニーズが出てきているという。
だがその一方で、「NPOで働きたいという想いだけが先行し、NPOで働くことについて十分理解しないまま就職して、イメージギャップから短期間でNPOを去ってしまう人もいて残念だ」とNPOの活動支援に取り組む、NPOサポートセンター事務局長代行の小堀悠さんは話す。
「NPOは困っている人や社会の問題解決に向き合い、活動していくことで、直接フィードバックを得られることが特徴です。だからこそ世の中に貢献したいという強い想いのある人にとってはとても魅力的な職場と言えるのではないでしょうか」
しかしながら、強い想いがあっても団体の目的や働く環境についてきちんと理解していなければ長く続けることは難しい。団体側も、働く側も気持ち良く活動するためには、事前に現実的な情報もきちんと知っておくことが大切だ。
小堀さんに、NPOでの仕事の実態について解説してもらった。
「非営利組織」も利益を上げている
スタッフは無償で働いているわけではない
一般の民間企業とNPO法人の最大の違いは「非営利組織」であること。しかし、「非営利」とは「利益を出してはいけない」という意味ではない。
NPOを運営していく活動資金を得るためには、事業を行って収益を上げることが必要だからだ。では、何が違うのかというと、「上げた利益をどう扱うか」という点になる。
「株式会社であれば、利益は株主に配分します。しかしNPOでは、利益が出ても出資者や会員に配分することはありません。利益が出た場合は、その団体が掲げる目的を達成するための事業に投資します。環境保護を目的とする団体なら、そのための活動のみに収益を回すことが許されるわけです」
ただし、「利益の分配」は認められないが、収益の中からスタッフに適正な給与を支払うことは認められている。人件費もその団体の目的を達成するために必要な資金だからだ。「非営利」と聞いて、無償で働くものと誤解している人は多いが、有給のスタッフとして働く人たちも多数存在することを知っておこう。
収益を上げる手段は団体に一任
民間企業と共に事業を行うことも
NPO法人が上げる収益には、大きく分けて「会費・寄付」「助成金」「受託事業」「自主事業」の4つがある。
助成金は国や自治体が出すものもあれば、民間企業が出すものもある。受託事業は、本来なら行政や民間企業が担うべき事業をNPOが請け負うもの。
例えば、地域の里山などの自然を保全する事業、ニート、フリーターなどの若者の就労支援事業、諸外国との文化交流事業などを手掛ける団体がある。
「自主事業は、団体によってさまざまです。セミナーを開催して、その参加費で収益を得るケースや、自分たちが持つ専門的なスキルや知識を提供して、企業へのコンサルティング事業を手掛ける団体もあります。例えば、子育て支援の団体が、民間企業に対して女性が働きやすい環境や仕組み作りをアドバイスするケースがあります」
ただし団体によっては、本来の目的を達成するための活動が事業化しにくい場合も。アフリカ支援が目的の団体であれば、たとえ現地で食料や教育を提供しても、子どもたちからお金をもらうことはできない。こうした団体の場合は、寄付やJICA(国際協力機構)からのODA(政府開発援助)予算などで活動資金をまかなうこともある。就・転職を考えるなら、その団体の事業構造や収益構造を知っておくことも重要だ。
働き方を例えるなら、ベンチャー企業
マルチタスクを担う
「民間企業からNPOへ転職を考える人に、よく『非営利だから営業はやらなくていいんですよね?』と聞かれるのですが、それは大きな誤解。業務レベルで言えば、民間企業と同じようなこともたくさんありますよ」と小堀さん。
先ほども説明した通り、「事業を行い、収益を上げ、また次の事業に投資する」というサイクルは、実は民間企業と変わりがない。当然、企業や個人を訪問して、協力や寄付を募るための営業活動を任されることだって充分にあり得る。
しかもNPOは少人数の団体が多いので、たいていは1人のスタッフがいろいろな役割をこなすことが期待される。「私は前職が企画職だったので、セミナーの企画しかやりません」というのでは困るのだ。
「設立からそれほど時間が経っていない団体では、業務プロセスや仕組みが確立していないことも多く、決まったルーティンをこなしていれば仕事が回るような環境ではありません。誰かが指示するのを待つのではなく、自ら主体的に動いて仕事を見つけ、工夫しながら、やり遂げるまでの過程を楽しめる人の方が向いているでしょう」
また、やれることが限定されるケースもあることを知っておこう。アフリカを支援する団体に入った人が、「現地で活動できると思っていたら、実は海外での業務は現地の団体に委託していて、日本国内のスタッフは寄付を集めるのが主な仕事だった……」といった話を聞くことも少なくない。こんなミスマッチをなくすためにも、事前に「この団体でできること」をきちんと調べることが重要だ。
給与条件や働く環境の整備はこれから
自らの手で作り出すチャンス
NPOで実際に働くことを検討するなら、やはり収入や労働条件も把握しておきたい。
「内閣府の調査によれば、NPOの正職員の平均年収は約230万円。東京都の調査では、月収15万円~30万円の人が約6割を占めています」と小堀さん。これを少ないと考えるか、妥当な額だと考えるかは人それぞれだろう。そもそも小さな団体では、民間企業のようにきちんとした賃金規定がなく、団体側と話し合って給与を決めるケースが大半だ。
「日本でNPO法が制定されたのが1998年。まだ15年の歴史しかないので、これまでは長いスパンでスタッフのキャリアやライフプランを考える機会がなかったともいえます。産休や育休などの制度も今は整っていません。でも裏を返せば、これからが自分たちにとって働きやすい環境を作り上げていけるチャンスとも言えますね」
収入や働き方についても、与えられるのを待つのではなく、団体の運営者と話し合いながら、自ら整えていく心構えが必要だ。
求人サイトやハローワークに出る求人情報は限られている
日ごろからボランティアやセミナーに参加して
求人サイトやハローワークで公開されているNPO法人の求人案件は年間100件程度だが、実際にはその何倍もの求人ニーズが存在するという。
「NPOへ転職した人に転職の経緯についてアンケートを取ると、『知人を通じて』『スタッフや会員を通じて』の2つが半数以上を占めています。もともと募集の人数が少ない上、人が辞めたなどの理由で急に人手が必要になることが多いので、結局はクチコミに頼ることになるのです」
NPOで働きたいと考えているなら、日ごろから関心のある団体の活動に積極的に参加し、関係性を作っておくことを小堀さんは勧める。
NPO法人が主宰するセミナーやイベントに参加したり、ボランティアとして活動に関わることで、団体のリーダーやスタッフとつながりを持てば、彼らが人を探す時に声が掛かる可能性も高まる。また、団体の人たちの生の声を聞くことで、実際に自分が働くことになった時のイメージもより具体的になるはずだ。
「団体のHPでも活動概要を知ることはできますが、どんなキャラクターの人たちが働いているのかは分かりませんよね。スタッフと直接触れ合うことで、『同じカンボジアを支援する団体でも、先月参加した団体とこことでは随分雰囲気が違うな』といった比較もできるでしょう。民間企業よりも表に出る情報が少ない分、足で情報を稼ぐつもりで積極的に動いてみてください」
さて、「NPO法人」の実像が少し見えてきただろうか。歴史が浅い分、働く場としての環境整備の課題は確かに存在するが、NPOだからこそ得られる充実感ややりがいも確実にある。
「NPOで働きたい」と考える、その理由をきちんと整理し、明確な目的意識を持って臨むのであれば、NPOという場所は社会貢献と自身の成長を実現する新たなキャリアをきっと約束してくれるはずだ。

特定非営利活動法人NPOサポートセンター 事務局長代行 小堀 悠さん
神戸大学大学院にて環境学を専攻。学生時代より、環境団体、まちづくり団体の設立や運営、資金調達などに携わる。卒業後、株式会社日立システムアンドサービスのSEとして約60のシステム設計・構築案件に従事後、2009年に特定非営利活動法人NPOサポートセンターに入職。主にNPOのマネジメントや資金調達をテーマとした研修・セミナーの企画および講師、NPO向け運営相談、企業との連携事業の企画などに取り組む。中小企業診断士
取材・文/塚田有香