「出た、ゆとり!」は厳禁! 後輩にイヤがられないスマートな仕事依頼術

入社してから数年経つと、上司や先輩に仕事を頼まれてばかりだった頃とは違い、そろそろ後輩に仕事をお願いする立場に変化する。「自分が頼まれるのはいいけれど、人には頼みづらい」「イヤな顔をされたらどうしよう……」と悩んでしまう人もきっと多いはず! そこで、後輩に気持ち良く仕事を引き受けてもらうためのコツについて『仕事の9割は「依頼術」で決まる』の著者、深澤真紀さんに伺った。

スマートな仕事依頼術 その1
“アネゴ”を目指さない

『仕事の9割は「依頼術」で決まる』深澤真紀・著(840円・税込/双葉新書)国内外から年間500件以上の仕事の依頼を受けている著者が社内・社外それぞれに向けて依頼の仕方を紹介。ダメな依頼術を良い依頼術に変える例を具体的に解説している

『仕事の9割は「依頼術」で決まる』深澤真紀・著(840円・税込/双葉新書)国内外から年間500件以上の仕事の依頼を受けている著者が社内・社外それぞれに向けて依頼の仕方を紹介。ダメな依頼術を良い依頼術に変える例を具体的に解説している

働く女性にとって、職場の人間関係を円満にすることは最重要事項とも言えるだろう。しかし、後輩に仕事をお願いする時には、これが最も足かせになってしまうのも事実だ。

「嫌われたらどうしよう」「負担に思われたくない」という気持ちから、仕事を頼みにくいと感じる人も多いはず。一体、どんな考え方をすればいいのだろうか?

「仕事を頼む際には、プライベートの欲望は一切持たないことが大事です。TVドラマなどの影響で、『好かれる先輩になりたい』『頼りになるアネゴになろう』と思い込むケースも多いですが、『恋バナも女子会も何でもこい! みんな来いよ〜!』と言ったところで、後輩からは『うわ、面倒なのが来たぞ〜』程度にしか思われていません。仕事においては、業務を粛々と進めることが第一。『これで仲良くなれるかも?』などという期待感を持つことは、むしろマイナスなのです。あくまで仕事は仕事であると考えれば、相手の顔色を窺う必要もなくなり、頼みやすくなるはずです」(深澤さん)

また、ゆとり世代の後輩に対して、「今時の若い子って」と思わないことも大事だという。後輩ができると、「自分はもう仕事がわかっている」「後輩はまだまだわかっていない」と感じている人もいるかもしれないが、それで自分自身の視野が狭くなることもあるのだ。

「いわゆる“ゆとり世代”の後輩に対して、『出た、ゆとり!』とばかりにミスすることを待ち構えるような人もいますが、どの世代であろうと優秀な人もいれば、無能な人もいるものです。たとえミスすることがあっても、世代の問題ではなく、個別の問題ととらえましょう。世代でイメージ切りをすれば、実は有能な後輩がいることに気付けない可能性もありますよ」(深澤さん)

スマートな仕事依頼術 その2
上司から“言質”を取る

スムーズに進めるためには、どうやって後輩に仕事を頼むかを考えるより、まずはこの案件をどう進めていくべきかを確認することが先決だ。上司などの責任者とすり合わせをして、全体像をつかもう。

「後輩と上司の間に立つことになったら、それは中間管理職的な立場といえます。まずは全体を整理し、問題を洗い出して、自分ではジャッジできないことを上に戻し、確認とやりとりをしてから落としどころを見つけましょう。例えば、上司から『この仕事は、あの後輩に振っておいて』と言われた場合。任せることに不安要素があるなら、『本当に彼女でいいのか』を確認し、その理由まで明確にしましょう。とにかく何でも曖昧にしないことです。納期のスケジュールなど、不安に思う要素はすべて潰しましょう」(深澤さん)

こうして上司に確認を取っておけば、後輩から「えーっ!どうして私なんですか?」と言われても「こういう理由があるから」と堂々と答えられるのだ。逆に「それなら君に采配を任せるよ」と上司が言った場合でも、「任されたから、自由に仕事を振れる」という権利をもらえるので、より安心な後輩に振ることもできるだろう。

「実は、上司というものはあまり深く考えず、目についた人や近くにいる人に仕事を振ることも多いのです。よくあるパターンとして、上司ではなく、他の後輩に『○○さんより、あなたの方が向いていると私は思うんだよね〜』とぶっちゃけるケースがありますが、それは上司に言うべきこと。ムダに人間関係を悪くしないためにも、上司からの言質をしっかり取っておきましょう」(深澤さん)

スマートな仕事依頼術 その3
つまらない仕事ほど、“慎重に”頼む

お茶出しやコピーなどの単純な仕事を頼む場合こそ、頼みやすい人を作らないことが重要だ。仲がいいから頼みやすい、ランチをおごったから頼めるなど、毎回同じ人に頼み続けると、かえって人間関係が悪くなってしまう可能性も。

「つまらない仕事だからこそ、みんなに平等に振り分けるべきなのです。こちらからは手が空いていそうに見えても忙しいかもしれないので『今いいかな?』と聞くことも忘れずに。実際に仕事を頼む時には、ただ作業の指示をするのではなく、『部長の大事なお客様である○○さんがいらしてるので、コーヒーを出してもらえるかな』『明日の〇〇のプレゼンに使う資料だから、しっかりコピーをお願いします』など、詳しい情報を伝えましょう。パーツとしての作業ではなく、仕事の一部を担当するという参加意識を持たせ、役割をはっきりとさせることが大事なのです」(深澤さん)

スマートな仕事依頼術 その4
ドキドキしながら見守らない

仕事を頼んだ後、「あれ?まだ上がってこない?」「大丈夫かな?ちゃんとできているのかな……?」などと不安に思うことはよくあるもの。しかし、心配だからと様子を聞きに行けば、イラッとされてしまうもの。かといって、「終わったら教えてね」と言えば、細かい進捗状況はつかめなくてやっぱり不安……。

「そんな時は、『進捗確認の声を掛けるね』と先に言ってしまいましょう。そして、様子を見に行った時に何か間違っていそうだったら『いや、まさかね。大丈夫だよね』と必死で思い込もうとせず、『あれ?ここ違う?私の言い方が悪かったかな?』とさりげなく伝えましょう。悪い予感ほど当たるものなので、ドキドキしながら見守らないことが大事です」(深澤さん)

スマートな仕事依頼術 その5
「言わなくていい小言」は言わない

マメにチェックをしていても、ミスする時はミスするもの。そんな時は、「ダメじゃないの!」と頭ごなしに叱ることなく、一緒に原因を考えよう。

「叱ったところでもう起きてしまったミスは取り戻せないもの。それよりも、二度とそのミスを起こさないためにも、なぜそのミスが起きたのかという原因を一緒に把握しましょう。結果にギョッとする気持ちをぐっと押さえ、『あれ?お願いしたことと違っているから、理由を探すためにさかのぼっていい?』と伝え、一緒に考えていきましょう。言わなくていい小言を言ったところで、何も解決しませんし、人間関係も悪くなってしまいます」(深澤さん)

逆に、良くできていた場合には、みんなに聞こえるように褒めることも大切。上司にも「○○さんはよくやってくれた」と伝えよう。過剰に褒める必要はなく、あくまで事実を褒めるだけでいい。そうすることで、褒められた側は「あの先輩はちゃんと認めてくれる」と感じるので、また仕事を頼みやすくなるもの。そして、上司からもちゃんと後輩を評価できる人間と思われ、あなた自身の評価もアップできて一石二鳥なのだ。

「よくあるパターンとして、後輩のミスを酒の肴にする人も多いですが、『またあの子、やってくれちゃったよ』などと言えば、自分自身の評判を落としてしまう可能性も。仲良くし過ぎる必要もなければ、わざわざ嫌われる必要もないものだと心得ましょう」(深澤さん)

スマートな仕事依頼術 その6
「一番ドキドキしているのは後輩」と心得る

実は仕事を頼んだ後、一番ドキドキしているのは、あなたではなく、後輩なのだ。結果を見て「ハア?」と思うようなことがあっても、その感情をあからさまに出さないように気を付けよう。

「どんなに図々しそうな後輩でも、自分のやった仕事が大丈夫かどうか、内心ではドキドキしているものです。先輩が『ハア? 何これ?』とビックリした感情をむき出しにした時、一番ビックリするのは後輩です。どんなに不思議なことが起きたとしても、野生のキツネを餌付けするくらいの感覚で、破裂音を出さないように気を付けましょう。『えーーーーっっ!』と叫びたくなる気持ちをぐっとこらえ、『あ、あれ……?』程度に抑えることが大事です」(深澤さん)

また、自分の頼み方に問題があってミスが起きている可能性もあるので、感情的になる前に、原因をしっかりと把握する冷静さを保つべき。どんな局面でも、仕事全体がスムーズに進むことを第一に考えることが重要なのだ。

「上手に仕事を頼める」ということは、仕事の全体像をしっかりと把握できているということでもある。「自分でできるから」と仕事を抱え込んでしまう人もいるが、仕事を人に振ることで、どれだけ自分がその仕事を理解しているかがわかり、キモをつかむことができる。

1人で仕事をこなせるようになると、ついついわかっているつもりになってしまうものだが、実は「何となく理解しているだけ」というケースがほとんどなのだ。

上手にお願いするコツをつかみ、自分自身のレベルアップに役立てていこう。

 コラムニスト・編集者 深澤真紀さん

コラムニスト・編集者 深澤真紀さん

タクト・プランニング代表取締役社長。複数の出版社で編集者を務めた後に会社を設立。さまざまな企画や作家のマネジメントなどを手掛け、「依頼する側」「依頼される側」のそれぞれの立場を数多く経験。2009年には「草食男子」を命名し、流行語大賞トップテンを受賞。テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。『ダメをみがく』(津村記久子との対談集、紀伊國屋書店)、『仕事の9割は「依頼術」で決まる』(双葉社)など、著書多数

取材・文/上野 真理子