今の会社で働き続けて大丈夫? 「成長できる職場環境」チェックリスト
毎日一生懸命働いているけど、このままこの会社にいても成長できないかも……そう感じたことがある女性も多いのでは。いくら個々人でがんばっていても、会社のビジョンと自分の価値観が合わなければそこでイキイキ活躍していくのは難しい。そこで若手女性が多数活躍するサイバーエーンジェントの取締役人事本部長、曽山哲人さんに「成長できる職場」の条件とは何か、話を伺った。
Yesが多いほど、成長できる環境といえます
● 今の担当業務に限らず、社内にやってみたいと思える仕事がある
● 新しいことをやりたいと手を挙げるチャンスがある
● 会社全体のビジョンや組織の目標やビジョンが社員に分かりやすく共有されている
● 上司や会社側と対話する機会が多くある
● 若手の成長や活躍を喜ぶ風土がある
● 仕事の成果に対する評価に男女差を感じることがない
● 若手にも大きな裁量権を持たせている
● 上司に期待されていると感じる
● 産休・育休から復職しやすい雰囲気がある
人材育成の基本理念は「才能を活かすこと」
男女問わず大きな裁量を持たせて成長させる

株式会社サイバーエージェント 取締役人事本部長 曽山哲人さん
974年生まれ。上智大学文学部卒。新卒で入社した伊勢丹を1年で退職し、99年にサイバーエージェントに転職。インターネット広告事業本部営業統括を経て、2005年に人事本部人事本部長に就任。08年より現職。著書に『最強のNo.2 ―会社と社会で突き抜ける最強のNo.2を極めろ!―』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など
多くの若手女性社員が活躍するサイバーエージェント。昨年11月から放映された『アメーバスマホ』のテレビCMには、アプリ開発チームを率いる「プロデューサー」の肩書を持つ女性たちが多数出演して注目を集めた。今年2月にスマートフォン向けオークション事業『パシャオク』を分社化した際には、当時31歳の女性を社長に抜擢するなど、「女性活用が進んでいる会社」というイメージは非常に強い。
「確かに女性の管理職は増えていますね。社内でマネジャークラス以上の役職に就いている女性は現在55人で、管理職全体の17%に当たります。2011年に新卒採用した入社3年目の社員の中からも、すでに6人の女性管理職が誕生しました」
こうした数字からも若手女性の躍進ぶりが伺えるが、「評価や昇進において、男性か女性かはまったく関係ないし、特に女性だけを意識した育成をしているわけでもありません」と話す。
では、男女問わず社員が活躍するために最も大事なこととは何なのだろう。
「私たちが基本理念としているのは『社員の才能を活かすこと』。そのために、若手にも大きな裁量権を持たせています。人材育成で大事なのは、決断経験の量と質を上げることです」
決断する機会をどんどん与えてもらった方が、社員も自らの成功体験を重ねることができ、成長スピードが上がるのも当然だ。たとえそこで失敗の経験をしたとしても、それも若いうちに経験できれば貴重な経験となり得る。
こうした会社の育成方針の結果として、女性社員も個々の才能を活かせるようになり、活躍する人も増えているのだという。
“挑戦できる環境”と“安心して働ける環境”
セットで提供するから仕事に打ち込める
だが、経験の少ない若手のころから大きな仕事を任されれば、失敗するリスクも当然伴うはずだ。「自分には無理かもしれない」と尻込みする気持ちや、「成果を出せなかったらどうしよう」という不安を抱く人もいるだろう。
だからこそ、会社側は社員がそのようなストレスを抱えず、大きな仕事に思いっきり挑戦できる仕組み作りも欠かせない。
「サイバーエージェントでは『実力主義型終身雇用』という人事方針を明確に打ち出しています。年功序列型の人事は一切行わず、実力のある者を引き上げて、若手の台頭を喜ぶ組織作りをする。一方で、サイバーエージェントに根付く価値観に共感してくれる人材であれば、経験の少なさから能力が発揮できなかった場合でも、雇用はきちんと守る。つまり、“挑戦できる環境”と“安心して働ける環境”をセットで提供するわけです」
大きな仕事に挑戦できないのもストレスが溜まるし、失敗したらすぐリストラされるような環境にいるのもストレスが溜まる。どちらか一方では安心して長く働き続けることはできない。ワンセットで提供することを社員に約束しているから、社員も会社を信頼して「この会社でがんばろう」と成果を出そうと懸命に仕事に取り組むことができるのだ。
となると、今度は「社員の実力を正当に評価すること」が必要になる。実力主義をうたう組織ほど、社員からは「自分は頑張っているのに認められない」という不満が生まれやすい。
企業によってさまざまな社員の評価制度があるが、サイバーエージェントでは、その一つに社員同士が多方面からお互いの実力を評価する仕組みを導入しているという。
「例えば半年に一度、360度評価を行っています。これはチームの仲間を、『成果・価値観・モチベーション』という3つの項目でレビューするというもの。評価の方法は非常にシンプルで、『晴れ』『雨』『曇り』のいずれかを選択すればいい。普通は晴れか雨か迷うことがほとんどだから、曇りが多くなるものです。でも、その中にも不思議と『晴れ』が集まる“快晴”の人がいるんですよ。こうした評価を受ける人は、周囲の誰から見ても輝いた人材ということです」

限られた時間しか接することがない上司や役員だけでは、一人一人の社員の日々の業務のすべてを評価することなど到底できない。こうした仕組みを取り入れることで、組織にとって良い影響を及ぼしてくれる存在がきちんと浮かび上がってくる体制を整えているという。
加えて、社員が自ら手を挙げて発信する場が会社に存在することも、成長できる職場の条件の一つ。サイバーエージェントでも社員による“意思表明”の機会を大事にしている。
「年に一度行われる新規事業プランコンテストの『ジギョつく』が代表的ですね。毎回300件から400件のプランが提出されて、そのうち書類審査を通過した30件ほどが、役員の前でプレゼンする権利を得られます」
いくら個人に実力があっても、会社側が存在を認識できなければ引き上げようがない。会社側は社員自身が名乗りを挙げる場を提供し、社員もそれを積極的に活用する。そんな形が理想的だ。
結婚・出産後も女性が活躍するには
会社との対話を積み重ねることが必要
女性が活躍する組織作りをするにあたって、最大のネックとなるのが結婚や出産だ。20代前半の間はバリバリと仕事に没頭していても、20代後半、30代になるとライフイベントを迎える女性たちも増えている。産休・育休の制度自体は存在しても、それだけで女性が活躍できる組織とは言えないのが現実だ。
若手主体で成長してきたサイバーエージェントも現在は30代の社員も増えている。子どもを持つママ社員も70人以上働いており、育休後の復職率は95%以上と非常に高い。その理由を曽山さんは「特に際立った制度があるわけではないが、復帰しやすい雰囲気があることが最大の要因」と分析する。
「当社では初のママ社員が人事本部から出たこともあって、今も女性社員たちが出産後の働き方について人事に相談しやすい空気があります。もともと現場の仲間意識が強いカルチャーということもプラスに働いていると思います」
仕事と家庭・育児の両立をどう上手くやるかは誰でも悩むもの。それ自体を解決する唯一絶対の方法など存在し得ないが、悩んでいることを認識してもらい、相談できる環境があるか否かで当事者の“働きやすさ”は格段に変わる。

職場の仲間の理解と会社側に当事者と対話をして、復職後の働き方をすり合わせる姿勢があることが大事だ。
「復職者の中には当然、産休前に責任あるポジションに就いているケースもあります。復職後も同じポジションでバリバリ働けるのであれば、もちろんその環境を用意しますが、人によっては一時的に職域のグレードを下げたほうがいい場合もある。責任ある立場での仕事と育児との両立に対して、本人がストレスを溜めてしまう可能性が高いようであれば、一度ポジションを変えたほうが才能を活かせる場合もあるはずです。どちらの働き方がベターなのか、本人の意志で選択できるよう、会社側としても対話の積み重ねを怠らないようにしています」
復帰後に何か悩んだ際、相談できる環境があれば解決の糸口を見つけることができる。すぐに「やはり続けられないのではないか」と仕事を諦めたり、モチベーションを保てなくなることもないはずだ。
今の職場でこの先もずっと働いていけるか、成長できるかを考える際に最も重要なのは、「会社の方向性と自分の考えを一致させることができるかどうか」だと曽山さんは指摘する。
「誰でも将来こうなりたいという夢や、こんな人生にしたいといったビジョンが、ぼんやりとではあってもきっとあるはずです。それが会社の方向性や価値観とまったく合わないのであれば、不幸な結果になってしまう可能性が高い。その時には別の職場を選ぶことも必要です」
ただし、悩んだときにはまず社内で3人の相手に相談してみるべきだという。
「悩んでいるとどうしても視野が狭くなってしまいます。かといって社外の友人等に相談すると、客観性が強すぎて極論に行き着いてしまいがち。その点、社内の人間なら自分の周囲の状況をある程度理解してくれ、会社のカルチャーも知っている。できれば年齢やレイヤーが自分より上で、別の部署の人が理想的です」
組織の中で成長を続けていくには、さまざまなハードルがある。それを乗り越えていくには、自分のスタンスを少し見つめ直すことも必要だ。曽山さんは最後にこう語る。
「女性の皆さんには、ぜひ素直さとしたたかさを持ってほしい。人の意見を受け止める素直さと、自分を取り巻く状況をポジティブに変えるだけのしたたかさがあれば、きっと活躍の場は開けてくるはずです。自分が自然体でいられる環境を作ることが、自分の大切な仕事だということを忘れないでください」
取材・文/塚田有香 撮影/Masaco(CROSSOVER)