21 JUL/2015

「結婚・出産後は辞めようと思っていた」――育児と仕事を両立する女性リーダーの“働く理由”とは

『長く働きたい女性のための転職イベント』Woman typeコラボセミナー『人気企業で輝く女性リーダーが語る「私たちが働く理由」』

7月4日に行われた『長く働きたい女性のための転職イベント』で、『女の転職@type』とWoman typeのコラボセミナー『人気企業で輝く女性リーダーが語る「私たちが働く理由」』が開催された。

登壇者は、株式会社STRIDEの代表取締役社長 石田裕子さんと、クックパッド株式会社で編集長を務める草深由有子さん。幼い子供を抱えながら責任あるポジションで仕事をしている彼女たちの、仕事観の変化や働く理由とは?

石田裕子さん

株式会社STRIDE(サイバーエージェント100%子会社)
代表取締役社長 石田裕子さん

2004年にサイバーエージェント入社後、実績を上げ広告代理事業部門にて初の女性統括に就任。職種転換や新規事業の立ち上げを経て、14年9月に女性の働き方を支援する子会社 STRIDEを設立、代表取締役社長に就任。同年11月には内閣官房「暮らしの質」向上検討会構成員に選出。私生活では2児の母
女性向けクラウドソーシングサービス『Woman&Crowd

草深由有子さん

クックパッド株式会社
クックパッド編集長 草深由有子さん

日之出出版、ベネッセコーポレーションでの雑誌編集・WEB開発を経て、2013年クックパッド株式会社に入社、15年1月にクックパッド編集長に就任。クックパッドニュースを始め、トップページのレシピ決定など、企画制作に携わっている。06年に出産し、長男は現在小学3年生
日本最大のレシピサービス『クックパッド

育児中であっても働くペースを「ゆるめない」理由

――お二人ともワーキングマザーとして、責任あるポジションに就かれています。大変なことも多いのではないでしょうか。

石田裕子さん(以下、石田):私は4歳と1歳の子供がいるのですが、手が掛かる時期ですし、間違いなく大変です。でも、大変なことが日常的に続いていくと、それが当たり前になってきて大変だと感じなくなります。それに私の場合、どちらもあるから成立しているというのが現状なんです。子供の笑っている顔や成長した姿を見て子育ての喜びを感じるからこそ仕事を頑張れるし、仕事で何か価値を生み出すことができれば、その嬉しい気持ちが原動力になって、育児や家事も頑張れる。「両立しなきゃ」と気負っているというよりは、両方あるからこそ、どちらも頑張れるというイメージです。

草深由有子さん(以下、草深):私は1年間の育児休暇の経験が、今働く時の大きな支えになっています。育休前は「しばらく仕事を休めるぞ」と思っていたのに、いざ休みに入ったら、社会とつながっていないという不安を思い切り味わってすごくつらかったんです(笑)。昼間はみんな働いているから話し相手がいないし、近所の児童館でママたちには会うけど、子供の年齢が一緒なだけの知らない人。会話はするけど、内容はお天気の話だったりする。

それにお給料がないので、缶ジュース1本買うのにすごく悩むんですよね。お金を稼ぐというのは、自分の人生をコントロールして生きることだと思いましたし、自分で収入を得ることは本当に大事なことだと痛感しました。働く中で大変なことはあるけど、あのときに比べたら仲間もいるし、今なら缶ジュースだって悩まず買えます。

――社会とつながりながら自分でお金を稼ごうと思ったら、パートに切り替えるなど、「ゆるく働く」という選択肢もあると思います。今の働き方を続けるのはなぜなのでしょうか?

草深:その選択肢は今もないわけではなくて、働き方にはいろいろあっていいと思っています。今も仕事をしていてしんどいことはあるけど、それ以上に、企画が形になっていったり、ユーザーの皆さんから反応があったり、メンバーが成長していったりと、仕事をする中で「楽しい」と思う瞬間がたくさんある。年々そういう瞬間が増えていくので、辞められなくなってきているんだと思います。

新卒、アラサー、出産後……仕事に対する考え方の変化

石田裕子さん

――新卒、アラサー、出産後、そして現在と、そのときどきで働き方はどのように変わっていきましたか?

石田:新卒のころは、朝から晩までずーっと仕事をしていました。長い時間働くことがかっこいいと思っていたんだと思います(笑)。働き方を見直したのは20代後半。今までと同じような働き方をしてしまうと「女性管理職ってこういう働き方をしなくちゃ生き残れないんだ」と、私の働き方を見ているメンバーに絶望感を与えてしまう。そう気付いてからは、自分で働き方をコントロールしながら、後輩たちが「こういう働き方もありかも。管理職を目指してみようかな」と思ってくれるような存在であることを意識しています。

草深:私の場合、アラサーのころはジタバタしまくっていました(笑)。仕事とこれからの人生をどうしたらいいのか分からない。編集の仕事は向いてないんじゃないかと思って転職活動をしてみたり、部署を異動させてもらったり、何もできなくて「戻してください」ってお願いしたり。私に向いてる仕事って何なんだろう、そもそも仕事を続けるのか、続けるなら働き方を変えないと子供は産めないんじゃないか……。いろいろなことを頭でっかちに考えて、どうやって30代を過ごしていいのかが分からず、ひたすら悩んでいました。

――同じような悩みを抱える女性は多いと思います。草深さんはどうやって解消したのでしょうか?

草深:ジタバタしていたら一つ一つ納得がいくようになりました。いろいろな人の話を聞く中で今の環境が恵まれていることに気付いたし、転職活動をしても行きたい会社には行けなかったりして、私がいるべき場所はここなのかなと思えた。

それに30歳のときに結婚して思っていたより早く子供ができたら、「私はお母さんだけやっていくのは無理だ」と気付いて、辞めてもいいかなと思っていた仕事に結局復帰しました。一歩ずつ進めば何となく見えてくるものがあると感じましたね。だから悩んだ経験は悪くなかったと思うし、皆さんにはいろいろ悩んでほしいな、と思います。

――働くことへの考え方の変化についてはいかがですか?

石田:20代半ばくらいまでは、「周りから認められたい」「クライアントから感謝されたい」「自分が目標達成したい」という、自分本位な理由で働いていたと、今振り返れば思います。今はどちらかというと、自分が手掛けている事業で世の中に価値を提供したい、市場価値の高いサービスや組織を作っていきたいという考え方に変わってきました。世の中や周りの環境に対してどんなインパクトを残せるのかという気持ちで働いているような気がします。

草深:子供を産んでからは、もう働く理由なんて考えられないほど、毎日をこなしていくことで精一杯。でも40歳目前になって人生の折り返し地点を迎えて、残り半分の人生をどう過ごすか考えた時に、当時の自分が仕事をすごく楽しんではいないと思ったんです。

そのころ、子育てに専念していた専業主婦の友達がみんな「仕事を持っていてうらやましい」「仕事を続けることに意味があるんだと思う」って言い始めたこともあって、働くことについて考えるようになりました。子供に無理させてでもやっている仕事なんだったら、ちゃんと楽しまないと子供に失礼。そう思って2年前にクックパッドに転職しました。私の場合は、40代を迎えて、もう一度自分本位に戻った感じですね。

「頑張った分が自分に戻ってくるのは仕事だけ」

草深由有子さん

――お二人が今思う、「働く理由」を教えてください。

石田:新しい価値を世の中に発信していきたいというのが、働く上での大きな理由の一つ。でも、実は仕事を辞めようと思ったことが今までに一度もないんです。

もちろんたくさん悩んでいますし、転職を考えたこともないわけではない。立場や働き方を変えたいと思ったことだってありますし、出産して職場復帰した直後、保育園に預けている間は子供の成長を自分の目で見られないことに罪悪感があったりもしました。子供が寝返りをうったり、立ち上がれるようになったことを、保育園の先生から知らされる。これでいいのかと悩んだことはありますが、それでも仕事を辞めるという選択肢は一度も浮かんでこなかった。私にとって働くことは当たり前で、仕事をすることは、自分らしく人生を歩んでいく中でなくてはならないもの。そう実感したから、働き続けているのかな、と思います。

――学生や新卒のころから「働くことは当たり前」と思っていたのでしょうか?

石田:いえ、どちらかと言うと、結婚したら辞めるものだと漠然と思っていました(笑)。母も専業主婦でしたし、社長になりたいなんて思ったこともなかったし、まさかこんな風になるとは思ってもみなかったです。20代のころにがむしゃらに仕事をする中でいろいろなチャンスをつかめて、あれこれやってみたら、難易度が高ければ高いほど面白いことに気付けた。挑戦することに対する面白さが根底にあるから、仕事をしているんだと思います。

草深:「仕事だけが、頑張ったら頑張った分だけ戻ってくるものなんだよ」っていう話をメンバーによくしているんです。恋愛も子育ても、頑張ったからといって上手くいくとは限らない。でも仕事は頑張った分、何かしらのリアクションがあって、結果が出る。すごく分かりやすくて誠実なものですし、それこそが仕事の醍醐味だと思っています。

そして仕事に誠実に向き合って、一生懸命頑張っていたら、絶対に人は見ていてくれるんです。誰も見てくれてないって思っていても、絶対に誰かが見ている。そんなに自分のことを見ていてくれる人がいる場所って、なかなかないものです。そういうことに気が付くと、働くことへの向き合い方は変わるのかなと思います。

取材・文/天野夏海(編集部) 画像提供/『女の転職@type 転職イベント』